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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
19/63

『新人君』


「またね、種原君」


「おう、また明日な」


蒸し暑い夜、迅は御園と別れ、姉・(かがみ)の待つ家に足を進めていた。

今日の夕飯は何かな〜?

なんて子供染みた事を考えながら、迅は家路を辿っていく。

殿町優斗が死んでから三日ほど経過し、学校のクラスもだんだんと調子を取り戻してきている。

近辺で異常患者(グローバー)の出現もなく、このまま何もなければと、心からそう思う迅。


「種原迅………」


が、そんなことを思ってしまう日ほど、何か良くないことが起きてしまうものだ。

迅は唐突に名を呼ぶ声を耳で捕らえ、辺りを見回す。だが、今、迅がいる周辺には街灯ひとつしかなく、ほとんどが暗闇に呑まれていてまったくモノの識別ができない。


「誰だ!!?」


背負ったケースを開け、中から〈デュランダル〉を取り出そうとしたその時、迅の頬を、何かが掠めた。


「……邪魔者は…消すのみ」


謎の敵は、いつの間にか目の前まで来ていた。迅に向けて伸ばされた手に握られているのは、真剣だった。その剣は、迅の頬に一筋の血の線を生み出している。

だが、今の迅にとって頬の傷などどうでもよかった。今の迅が目を見開いて見ているのは、剣先を迅に向ける敵の顔だ。


白雪(しらゆき)………?」


確認の意を込めた迅の呼びかけには応じず、絵怜奈は無言で迅に剣を奮う。

迅は迫る刃を回避し、剣の(つか)を握る絵怜奈の手を抑える。

「やめろ絵怜奈!!こんなことしたら……」


間近で絵怜奈の顔を見た迅は、絵怜奈の目に覇気がないのに気付いた。

昼間は闘争心に満ちた目をしていたのに、昼夜が一転しただけで、精神状態まで反転してしまうのだろうか。

いや、そんなことはあり得ない。

殿町優斗の件で、絵怜奈は迅の事を敵視しているはず。その敵視している相手とやり合うなら、当然闘争心は必要だ。だが、今の絵怜奈には、それが見受けられない。


「まさか………」


迅の【超速演算(アクセルブレイン)】が、ある可能性を見出した。

迅は絵怜奈の攻撃をあしらいながら、周囲の気配に注意を向ける。そして数秒後、微かにだが、人影を確認した。数は二人。

迅は絵怜奈の剣技を白刃取りで受け止め、問い掛けた。


「お前…誰かに操られてるだろ」


絵怜奈は口を開かない。だが、迅はそれで確信を持った。絵怜奈は誰かに操られている。


「クソッ…ふざけやがって…‼」


このまま絵怜奈を操られたままにしておくわけには、当然いかない。


だが、さすがの迅でも素手で真剣相手は困難を極めるので、迅は肩にかけた、〈デュランダル〉の入ったケースに手を掛ける。

だが、その直後、


「ぐッッ……!!?」


絵怜奈ではない新手による、脇腹への強烈な蹴りが、迅を死角から襲った。迅は、路肩のブロック塀に叩きつけられ、それによって崩れたブロックの下敷きになる。


「ゴメンねぇ〜後ろから蹴るとか卑怯なマネしちゃって〜。君が噂の新人君だよね?」


人をバカにしてるのか、それとも本当にチャラ男キャラなのかわからない男の声が、迅の耳に届く。


「あ、でも挨拶してる暇ないんだっけ。早く終わらせないと通報されちゃうしね」


「そうか…俺としては通報してもらった方がありがたいんだけどな」


「ま、そうだろうね〜」


会話を交わしている間に、迅はケースから〈デュランダル〉を取り出し、起動させる。


「〈デュランダル〉起動」


【ユーザー音声認証。種原迅(たねはらじん)の音声データと一致。種原迅を確認しました。〈デュランダル〉起動完了】


起動音声が、迅の鼓膜のみを震わせる。


【〈デュランダル〉-『アタッカーモード』スタンバイ】


〈デュランダル〉を起動した迅だったが、その顔は強張っている。

〈デュランダル〉を起動させたところで、迅が絵怜奈とチャラ男の二人とまともに戦い合えるかわからない。

絵怜奈は自分を過信しているが、何も弱いというわけではない。むしろ強い。偉そうな口を叩くだけの実力は持っている。

そしてチャラ男。先ほどの蹴りの威力から考えて、このチャラ男もただ者ではない。

"エクスカリバー"を使えば勝てるかもしれないが、ここは住宅街。周囲の人間に危害が及ぶ可能性がある。

先ほどチャラ男が警戒していた通り、既にこちらの戦いに気づいた住民が騒ぎ始めている。もう通報もされているだろう。

つまりチャラ男と絵怜奈は、二人で一斉攻撃の短期決戦で仕掛けてくるはず。

迅はしっかりと身構え、〈デュランダル〉の柄を握りしめる。どちらの攻撃にも即座に対応できるよう、邪念を捨てて目の前の二人に集中する。

チャラ男の足が僅かに沈んだ。

来る、と瞬時に悟った迅は、回避体制を整える。

が、チャラ男は、迅の予想を遥かに上回る速度で迅に接近、殆どその速度を殺さないまま、迅の鳩尾に拳を叩き込む。迅は血反吐を吐きながらふっ飛ばされ、アスファルトの上を何度かバウンドしてそのまま倒れる。でも、〈デュランダル〉は離していない。

地面に倒れる迅に追い討ちをかけるかのように、絵怜奈が剣を振り下ろしてくる。

迅はその刃を〈デュランダル〉で受け止めるが、仰向けの状態では力が思うように入らないため、不利な状況だ。


「これで終わりだよ。新人君」


身動きの取れない迅の顔面を、チャラ男が蹴り飛ばそうとしていた。

迅は足を使って器用に回転し、頭の向きを変えた。が、脇腹を再び蹴られ、地面を転がる迅。

同じ方の脇腹を二度と蹴られ、苦痛に顔を顰める迅。だが、地面を転がったことで絵怜奈とチャラ男から距離を少しだけだが取ることができたので、迅としては好都合だ。

迅の理想としては、先に絵怜奈を峰打ちで気絶させてから、チャラ男の相手をするというのがベストなのだが、二人で同時に攻撃してくるとなると、それを凌ぐので精一杯になってしまう。

それに、先ほどの迅が確認した人影は二つ。一つはチャラ男の影だったとしても、もう一人、敵がいる。そしてその人物が絵怜奈を操っている張本人だろう。

そして戦いに出てこないということは戦闘員ではない、もしくは白兵戦は得意ではないのではないかという推測ができる。


なら…先に倒すべきは………


「中々頑張るね〜新人君」


迅は目の前に立つ絵怜奈とチャラ男の背後に、その人影を目視する。


「〈ラビット〉-トリプル」


迅は脚力増強シューズ〈ラビット〉で脚力を強化し飛躍、まだ崩れていないブロック塀に横向きに着地し、直ぐにまた飛躍し、二人の背後の人影に迫り、迅は〈デュランダル〉を振りかざした。

だが、


「ざ〜んね〜ん!まだまだ甘いよ新人君」


目標(ターゲット)の前にチャラ男が立ち塞がる。


「どけぇ!!」


迅は容赦なく、振りかざした〈デュランダル〉を振り抜く。


しかし、いつの間にかチャラ男が両手に握っていたナイフが、〈デュランダル〉を容易く止める。


「俺を、素手で戦う格闘家だと思ってた?違うんだな〜素手で戦うのは鉄二(てつじ)っちだし」


「…素手で戦う専門が誰かはどうでもいいけど、確かに武器は使わないと思ってたよ」


「残念だったね〜俺は狙撃手も白兵もできるんだよ。オールラウンダーってヤツ?」


余裕の表情で、ケラケラと笑っているチャラ男。

チャラ男は迅の〈デュランダル〉を押し返すと、迅に痛烈な回し蹴りをお見舞いする。そして再び、ブロック塀に叩きつけられてしまう。

苦悶に顔を歪めている迅の目の前に、絵怜奈が剣先を迅に向けて立っていた。


このままでは、殺されてしまう。


と、思った直後、暗闇の中から、赤いランプが浮かび上がってくるのが見えた。

警察のパトランプだ。この騒ぎに慌てた周囲の住民が、焦って通報したのが警察の110番だったのだろう。


雷杜(らいと)。撤退するわよ。顔がバレたらマズイわ」


暗闇に隠れていた人影の主が、初めて口を開いた。同時に、絵怜奈は剣先を地面に下ろし、その後、鞘に納刀して、雷杜(らいと)と呼ばれていたチャラ男や、人影の方へと歩いていく。


「顔がバレそうになったら逃げろって信樹(のぶき)っちに言われてるし、仕方ないね〜〜」


去ろうとする三人を、迅はヨロヨロと立ち上がりながら呼び止める。


「待て……!!」


「またね〜新人君」


三人は止まるはずもなく、暗闇の中へと消えていった。

迅は追いかけようと足を動かすが、傷が痛み、苦痛のあまり倒れてしまう。

再び立ち上がろうとした頃には、もう三人の影は完全に暗闇の中に溶け込んでしまっていた。





To be continued……

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