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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
17/63

『俺たちだって』

迅の延長能力(オーバーアビリティ)の詳細が判明した翌日、通常通り学校の登校日だ。

迅は御園と、まだ慣れない「いつも通り」の生活を過ごそうとしていた。が……

御園が一言も話しかけてくれないのだ。迅から話しかければ返事はしてくれるのだが、なんだかその声には棘がある気がしてならないのだ。


「あの…御園…?」


「……何?」


「その…怒っていらっしゃる?」


「ううん、怒ってないよ」


怒ってるじゃないですか!

心の中でそう叫ぶ迅。

御園に何かしてしまっていたのだろうか。自覚はないが無意識に、という事もある。

必死に考えていると、御園がため息を大きく、それもわざとらしく吐いた。


「【超速演算(アクセルブレイン)】があっても、わからない事ってあるんだね……」


その声は呆れていた。

そんな事言われても、迅にはさっぱりわからない。疑問符ばかりが頭上を漂う。


「……鈍感」


御園は歩く速度を速めて通学路を歩く。


「あ、待てよ御園‼」


その後を、迅が慌てて追いかけた。


何かまずい事したのかな…


鈍感迅君はそんな事を考え、とりあえず澄まない空気を良くしようと、話題を反らす。


「そ、そういえば御園さ、なんか変わったよな」


「…へ?」


「ああ、いや、まだ二、三日前は御園、俺の事みたら逃げたり隠れたりしてたじゃん?それが最近ないなーと思って」


御園の顔が、みるみる赤くなっていく。そして顔が爆発しそうなくらい熱そうだ。

が、どういうわけかその顔は直ぐに治まり、


「…頑張ってたのにな……」


と、御園は呟いた。御園は思う。

超速演算(アクセルブレイン)】などという大層な延長能力(オーバーアビリティ)を持つくせに、なぜ私の気持ちはわからないのだろう、と。

迅の延長能力(オーバーアビリティ)は情報があってはじめて使えるようになるらしいのだが、迅には「恋愛」に関する情報が皆無だという事なのだろうか。恋愛経験がない、という事なのだろうか。

勇気を出して「好きです」アピールをしていた自分が、恥ずかしくなってくる。



「どうした?御園」


「何もわかってませーん」という顔で、迅が御園の顔を覗き込む。

いつもの御園なら真っ赤っかになっているところだが、不思議と今はそうはならず、御園は半ば迅を無視して、


「……鈍感」


と、再び呟いた。


そうこうしているうちに、二人は東京第三高校へと到着した。校門に吸い込まれていく生徒たちに混じり、迅と御園も校庭へと入った。

いつも通り、玄関で靴を履き替え、教室へと向かう。その途中、二人は背後から掛けられた声に止められる。


「ちょっと待ちなさい。公安の二人」


二人が振り返ると、そこには一人の金髪女子生徒が立っていた。その女子生徒は竹刀を持ち、肩を竹刀でポンポン叩きながら二人を睨みつけている。


「何か用かな?」


相手の目付きからして、平和的な用ではないのはわかっているが、迅はそれを隠しつつ問い掛ける。


「種原は知ってるだろうけど、そっちの女は私の事知らなそうだから一応名乗っとくわ。私は白雪絵怜奈(しらゆきえれな)、種原のクラスメイトよ」


絵怜奈は一呼吸置いて、


「つまり、優斗(ゆうと)と同じクラスだった」


絵怜奈のその言葉に、御園は身震いさせる。

優斗とは、殿町優斗のことだ。先日、異常患者(グローバー)の〔フェーズ3〕となり、抹消された。


「あんたらのせいよ……」


「…………」


「あんたらがタラタラしてるから、優斗はバケモノになっちゃったのよ‼」


また、このパターン。

御園はつくづく思う。これが、公安に勤めていていちばん嫌なことだ、と。


「私なら、直ぐに終わらせられた。あんな巨大タコ一瞬で仕留めて、優斗も手遅れにならない内になんとかできた」


「「……………」」


「なのに…なのにあんたらは、できなかった。無能役立たず弱者ノロマ税金泥棒公安局員よ、あんたらと、もう一人加えた三人は」


絵怜奈は、迅と御園をありったけ罵る。

正論を述べられていると思ってしまった御園は、何も言い返せずに立ち尽くしてしまった。そんな中、迅が口を開いて絵怜奈に問い掛けた。


「えーっと、白雪さん?訊くけどさ、殿町の件で文句があるなら、なんでこの前の暴行事件に絡まなかったの?」


迅はそう問い返す。

すると絵怜奈は、一瞬「何質問し返してんのよ」と言いたげな目をしたが、その後に答えた。


「暴行なんて、ホント一般的な庶民がやる事よ。あんたも訊けば良かったじゃない」


「なんて?」


「『じゃあ、お前らが戦ってたら優斗を百パーセント救えたのか?』ってね」


絵怜奈のこの言葉を訊いた途端、迅は大きくため息を吐き、絵怜奈に背を向けた。


「行こうぜ御園。もう、こいつと話しても意味がない。時間の無駄だ」


突然の迅の行動に、御園と絵怜奈が驚きの表情を見せる。


「え!?種原君!??」


「ちょっとあんた!!まだ話は終わってないわよ!!?」


去ろうとする迅は足を止め、振り返って絵怜奈をギロリと睨んだ。


「じゃあお前、今度異常患者(グローバー)が現れたら、救って見せろ」


「……え?」


「今度誰かが、犬が、猫が、何かが異常患者(グローバー)になってしまったら、お前がそうなる前の状態に戻して見せろ」


絵怜奈は、何も言えずに立ち尽くしている。


「『私なら直ぐに終わらせられる』んだろ?公安局もまだ成功していない事を、やって見せろ」


迅は、怒っていた。御園も初めて見るくらいに、激昂していた。

暴れたり、わめき散らしたりしない、冷静な激昂だ。


「さっき…お前は訊いたな。『お前らが戦ってたら優斗を百パーセント救えたのか』という質問をなぜしなかったのか、って」


「……したけど」


「じゃあお前にこの質問をしてやる。お前が戦ってたら優斗を百パーセント救えたのか?」


「救えたわよ」


「理由は?根拠は?その訳のわからない自信はどこから湧いてくる?」


絵怜奈は、今度は即答できずにいた。即答できなかったということは、理由も根拠も、自信の出処(でどころ)も、わからないということ。


「…なんで暴行された時、その質問をしなかったか。それは、あいつらの言ってることが正論だったからだ」


頬に残る痣を摩りながら、迅は重く口を開いた。


「もっと早く巨大タコを倒していれば、もっと早く敵の存在に気づいていれば、優斗は死なずに済んだかもしれない。これは、友人を失ったあいつらの願望ではなく、正論だ。もっと早く巨大タコを倒して、優斗にウイルスを撃ち込まれる前に敵を見つけていれば、優斗の死は防ぐ事ができた。俺たちが力不足だったから、それができなかった。それは認める」


「……ふん」


絵怜奈が、勝ち誇ったように鼻で笑う。


「でもあいつらは、お前と違って根拠のない事は言わなかった。だから反抗できなかった。だから殴られても抵抗できなかった。あいつらの気持ちは…よくわかるから。同情できるから」


絵怜奈の笑みが、消えていく。


「お前が俺たちと同じ立場に立ったとしても、俺たちより上手くやれる保証はないし、はっきり言って無理だ」


「なッ………!!?」


「バカにしないで」と言いたげに、絵怜奈が詰め寄ってくる。だが迅は怖気づかずに続ける。


「考えろよ。完全に異常患者(グローバー)化したヤツを健常な状態に戻す事ができるなら、公安はこんな物騒な武器を作ったりしない」


迅は、肩に背負うケースの中にある〈デュランダル〉を指差す。


異常患者(グローバー)が出たら、麻酔銃かなんかで眠らせて捕らえれば一件落着なワケで、環境管理課なんてのも要らないかもしれない」


絵怜奈はとうとう俯いてしまう。

それでも迅は、お構いなしに続けた。


「それでもこの武器が必要ってことは、それができないってことなんだ。全ての異常患者(グローバー)を救うことは、まだできないんだ」


迅は、ほんの少しだけ間を開けて、


「…俺たちだって、優斗を救いたかったさ」


と言って、絵怜奈に背を向けて去って行った。その後ろを、御園が絵怜奈を気にしながらついて行く。

その後ろ姿を、絵怜奈はただ黙って見つめていることしか、できなかった。



「種原君…言い過ぎだよ」


絵怜奈の元を離れた後、御園は迅に言った。


「かもな。でも、本当に腹が立ってさ」


迅の声は、少し小さかった。


「あいつも、優斗の事を大切に思っていた。それは俺も同情できる。でも、軽々しく『救えた』とか言われるのは、俺は嫌だ」


「でも、白雪さんって、剣道部の主将(キャプテン)だし……」


「ああ。もしかしたら、異常患者(グローバー)を俺よりも速く倒す事ができるかもしれない。でも、それと『救える』かどうかは、別の話だろ」


御園は黙って迅の言葉を待つ。


「これは『強い』とか、そういう問題じゃない。医療とか化学の進歩の問題だ。そこを、履き違えて欲しくなかったんだ」


その言葉を聞いて、御園は思った。


いや、前から知っていた。今、再確認したのだ。


迅は、思っていた通りの……


「種原君って、優しいね」


御園は迅に、小さな笑顔を浮かべて笑顔でそう言った。





To be continued……

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