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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
16/63

『超速演算-アクセルブレイン-』

「種原君、いつまでもそうしてても仕方ないよ。今は"延長能力(オーバーアビリティ)認定"に集中しよ?」


注文していたカレーを完食し、コーヒーを飲みながら苛立ちを見せていた迅に、御園が優しく声をかける。

迅は何も答えない。

御園の言い分はもっともだと思う。だが、一瀬信樹(いちのせのぶき)が提示した二つの可能性を、迅は放置できなくなっているのだ。

でも、切り替えは必要だ。今、可能性について真剣に考えたとして、その後何かできるわけでもなし。


「そうだな…悪い」


「うん」


迅は、御園に悪い事をしたな、と思った。気を遣わせてしまっていたからだ。ひとまず、心を落ち着けて椅子に腰掛ける。


「"延長能力(オーバーアビリティ)認定"って、何時からなの?」


「ああ、十七時って言われてるよ」


「…なら、まだ時間あるね」


御園の頬が、急に赤らみ始めた。

迅は疑問符を頭上に浮かべながら、首を傾げる。


「あ…あのね、種原君」


「う、うん」


「もし…も、もし、種原君さえ良かったら………」


御園はその先を、口ごもって中々言おうとしない。


「…なんだ?」


「そ、その…時間まで…い、い……」


「ん?」


直後、御園は勢いよく立ち上がり、


「やっぱりなんでもな〜〜い!!!」


と、叫んで食堂を飛び出して行ってしまった。

その御園の姿を、迅はあんぐりと口を開けて見ていた。


「なんだったんだ?御園のヤツ」


と、迅。


「ラブコメだねぇ…」


と、食堂のおばちゃん。


「はい?」


意味がわからないまま出した声は、思いきり裏返っていた。



十七時。

"延長能力(オーバーアビリティ)認定"の時間となった。

迅の特殊能力の特徴として、「突飛した思考速度」と、それによって導き出される「答えの正確さ」が挙げられる。

迅の能力が本物かどうかを調べる方法は、御園が予想した通り、ナンプレだった。

だが、ただのナンプレではなく、「十二連ナンプレ」だ。通常、九×九のナンプレを、一部分だけ重ね合わせていき、それを十二枚重ねたナンプレだ。しかもヒントが少ないという、おまけ付き。


「準備はイイかなー?ジンジン」


救護医療課に配属されている那須静(なすしずか)が、迅を愛称で呼びつつ確認する。

救護医療課の最奥部、『延長能力研究室』と書かれた部屋の中で、迅の延長能力(オーバーアビリティ)が丸裸にされる。


「はい。いつでもOKです」


「じゃ、いっくよ〜。よーーい、スタート!!」


静の合図と共に、迅のナンプレによる"延長能力(オーバーアビリティ)認定"が始まった。

ちなみに静は二十九歳、独身。服装は白のブラウスに黒のミニスカート、そして白衣。明らかに誘惑している格好だ。ちなみに、絶賛彼氏募集中らしい。

迅と初めて会った時の第一声が、「好きです。結婚して」だったのは、静の初対面の男性へのご挨拶なのだと信じたい。静は、結婚への欲望が強い女なのだ。

迅のナンプレ回答時間が始まって二分ほど経過し、静が迅が解いてる真っ最中のナンプレを覗いてみる。


「え?早っ!!?」


静が驚くのも無理はない。まだ開始から、今ちょうど三分経過した頃だ。それなのに、迅はもう半分の回答を終えていた。静が合っているのかどうかを解答を見ながら確認しているが、そうしている間に迅はどんどん数字を埋めていく。答え合わせよりも、解く方が速いのだ。

その数十秒後、迅の回答は終わった。


「じゃ、じゃあ、採点と認定するね〜」


驚きの表情が未だ直らぬまま、静は迅の答えを採点する。とは言っても、実際に採点するのはソフトウェアで、静はそれを見ているだけなのだが。

認定試験を始め、高校入試や大学入試では、カンニングが行われないよう、意志のままに操作できる"ブレイナー"の着用したままの受験は禁止されている。そのため、試験では試験用のタブレット端末が用いられる。

この認定試験も、あらかじめナンプレの入ったタブレット端末が用意されていて、迅はそれを使って回答した形になった。


「あ、判定出るまで時間かかるから、管理課の部屋に戻ってもいいよ?」


この場で待機してても暇なだけなので、迅はブレイナーを着けると立ち上がり、


「ありがとうございました」


と、救護医療課の部屋を出た。

環境管理課の部屋に向かう途中、迅は掲示板に表示された、「救護医療課 人員募集」の掲示を見た。「医療課、人手不足なんだな」と思いながら、迅は足を進めた。


「お疲れ様でーす」


数分歩き、環境管理課の部屋の自動ドアを通り抜けた迅は、既に持ち場についている同僚に、挨拶をする。


「ご苦労」


「おつかれ、種原君」


「お疲れ様です、迅さん」


順番に、椎名、蒼夜(そうや)輝夜(かぐや)が挨拶を迅に返す。


「おう種原。今日は"延長能力(オーバーアビリティ)認定"だったんだろ?どうだった?」


海斗がニコニコしながら問いかけてくる。


「まだ結果出てないよ。慌てんなって」


「なんだ〜そうなのか」


せっかちだなぁ、と二人で笑いながら、迅は自分の席へ足を運ぶ。その途中、朝陽(あさひ)と目が合った。


「よう、おつかれ」


「……………」


無視。

先輩を無視とはいい度胸だ、と、迅は密かに心を燃やした。

迅はコホン、と、小さく咳き込んで、迅が出せる最高に低い声で、


「朝陽さん...お疲れさま」


と、朝陽の耳元で囁いてみた。

すると、


「はひゃあぁぁあッッ!!!?」


え、何その反応。まるでお化けとかUMAを見たような顔をしている。


…もしかして、朝陽は……


迅は自分の鞄をあさりながら、

「今日さ、『本当にあったかもしれない怖い話』って本、買ってみたんだけど、読むか?」


と、言ってみた。勿論、嘘である。

すると朝陽は、肩をブルブル!と震わせ、顔を激しく横に振った。


「はは〜ん?朝陽、お化けとか怖い話とか無理な感じなんだ〜?」


ニヤニヤと、自分がもしされたらイラつく顔で、朝陽を煽る迅。


「は、はぁ!?何言ってんですか先輩?お化け?そ、そんなものいるわけないんだから、読むひちゅようなんかないんですよ⁉わかります!!?」


必死に、顔を真っ赤にして全否定する朝陽。

朝陽がお化け嫌いだということに確信を持った迅は、さらにニヤニヤしてさらに煽る。


「読むひちゅようないんでしゅか。そうでしゅか」


「ムカーーーーーッッッッ!!!!!!」


大声を挙げる朝陽だが、その顔はトマトのように真っ赤っか。そんな朝陽を見て笑っていると、


「種原君、大人気(おとなげ)ない」


「種原が年下を虐めてるぞー」


蒼夜がため息混じりに、海斗は楽しそうにそう放った。


「…………(じーーっ)」


ジトッと視線を察し、迅は辺りを見渡す。そして気づく。視線の主は、迅の席の正面に座る御園のものだということに。

迅はそそくさと席につき、とりあえず伏せて御園から顔が見えないようにする。

それぞれのデスクはプラスチック製の柵で仕切られていて、簡単には隣や正面のデスクを覗くことができないようになっている。

その柵があっても、とても感じる御園の冷たい視線。迅はそのまま、机に突っ伏しているしかなかった。



「種原くーん、延長能力(オーバーアビリティ)判定出たよ〜〜」


迅の予期せぬ修羅場タイムは、ルンルン気分で管理課の部屋に入ってきた静によって終わりを告げた。こればかりは、終わるに越したことはないが。

迅はムクッと起き上がり、静から転送されてきた判定結果に目を通した。


「で?なんだったんですか、先輩の延長能力(オーバーアビリティ)


「んーとね………」


既に結果を知っている静と、おそらくほとんどの延長能力(オーバーアビリティ)について把握しているであろう椎名を除くメンバーが、迅の次の言葉を待っている。


「『常人の数十倍の思考速度により、瞬間的に正確な推理・推測が可能な能力』って書いてありますね」


目の前に広がるウィンドウに記された文字を音読する迅は、解説に続いて能力の呼称を読み上げる。


「通称【超速演算(アクセルブレイン)】だそうです」


これが、迅の延長能力(オーバーアビリティ)だ。

ようやく知れた自分の特技に、ただただ感嘆する迅。


「ほう。瞬間的に正確な推理推測が可能か。わかってはいたが、やはり即戦力になるな、君は」


にこやかな優しい笑顔で、椎名は事務的に反応する。


「まぁ、俺は普段無意識に使ってるんで、あまり特別感ないんですけどね」


苦笑いを浮かべ、迅は後頭部をポリポリ掻く。


「それでも、延長能力(オーバーアビリティ)は持つだけで貴重なんだ。もっと誇ってもいいと思うよ?」


「そうですよ。おめでとうございます」


猪狩兄妹も、迅を祝福する。


「おめでとう迅。あとでなんか奢ってやるよ」


このテキトーな感じがする発言者は海斗。でも、奢ってくれるみたいなので、お言葉に甘えて頷いておく迅。

ふと、隣の朝陽と目が合った。

朝陽から送られてきたのは、よくわからないジェスチャーだったが、ペンを持ったような手を字を書くように動かしている動作から、勉強に関する事なんだろうと察した。


「勉強は教えないぞ。自分でやれ」


迅の「察し」は正しかったようで、朝陽はガーーン!と、肩を落とす。


「ハハハ、冗談だよ冗談。教えてやるって」


「……先輩…女の子をからかいましたね……最低です」


朝陽の目から、膨大な殺気が感じ取れる。怒らせたら面倒な女の子だとはわかっているが、迅は屈する事なく、


「最低な男から勉強教わりたくないだろ?てことでさっきの話はナシってことで」


「あー!ごめんなさいごめんなさい!最低じゃないです‼」


立ち上がって何度も頭を下げ始めた朝陽を見て、さすがにやり過ぎたと思った迅は、朝陽の肩にポンと手を置いた。


「わかったから。負けず嫌いのお前がそんな簡単に頭下げるなよ」


「…………」


二人はそのまま、自分の席についた。

自分の延長能力(オーバーアビリティ)についてもようやくわかり、問題はまだあるが、とりあえずひと段落ついたと、大きく息を吐き出す。


「……種原君、仲良いんだね、朝陽ちゃんと」


正面の席から、不機嫌そうな声が聞こえてくる。なんとなく、迅は再び机に伏せる。


「み…御園さん……?」


「なにかな?種原君」


そう笑って返す御園の双眸から、不穏なオーラが盛大に漏れ出していた。

結局その日、迅は帰宅の時間になるまで、御園と目を合わせることはできなかった。





To be continued……

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