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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
15/63

『「神」になり得る者』

公安局の局内ネットをハッキングして行われ始めた、一瀬信樹(いちのせのぶき)を名乗る男の放送。

彼が単刀直入に告げた『真実』を、迅も御園も半信半疑で聞いていた。

環境管理課では椎名が、タイピングしていた手を止め、スピーカーをギロリと睨み、小さく唸った。


「…アイツ………」


場所は食堂に戻り、迅と御園は耳に飛び込んでくる、にわかには信じられない一瀬信樹の言葉に耳を傾ける。


「"実験台"…?」


「東京が?東京に住む人たちが、ってこと?」


もし本当なら、東京全域に混乱を引き起こす事になる。

話の内容と信憑性によっては、公安局はこのハッキング事件の公表を控えるだろう。


『"ポストヒューマン"という言葉を知っているかな?』


想定外のワードの登場に、迅は一瀬信樹の目的を掴めずにいた。

"ポストヒューマン"という言葉を、迅はもちろん知っている。


『"ポストヒューマン"。基本的身体能力は人間以上、もはや人間と呼ぶ事のできない存在の事をそう呼ぶ』


人間と呼ぶ事ができない存在。

一体それがどうしたというのだろうか。


『日本語では"人間進化"と書かれる事が多く、あくまで仮説的な種ではあるが、"ポストヒューマン"に関する説はいろいろあり、中には、現在の人間の立場から見て、"ポストヒューマン"は「神」のような存在だ、という考え方がある』


「…神?」


『この場合の「神」とは、存在する形態が高位になる、という意味ではなく、知識や技術が高位過ぎる故に、人間が理解できないという意味らしいのだが、我々は本来の意味の"ポストヒューマン"に興味はない』


「…何言ってんだ…コイツ」


『何言ってんだコイツ、と思った諸君、答えは簡単だ。形態が高位過ぎる存在こそ、この世界を統べるに相応しい「神」だと、私は諸君らに理解してもらいたい』


「…まさか」


『勘のいい者は気付いただろう。我々の目的は、新型細胞異常発達ウイルス【GW-01】を使って、「神」の座に着くに相応しい"ポストヒューマン"を完成させる事だ』


その(おぞ)ましい計画を聞き、迅の背筋に寒気が走る。


『いや、欲を言えば、「神」になり得る者たちのみのための世界を創り上げる、それが我々の最終目的なのだよ』


「"神になり得る者たちのみのための世界"って………」


そう。それはウイルスに対抗できない者、則ち感染すれば〔フェーズ3〕となってしまう者たちは不要な世界、ということだ。


つまり"実験"で生き残った者がその「神」の器であり、死んでいった者はそれまでの者だと、一瀬信樹は軽々と口にした。


『我々にとって、君たち公安局に〔フェーズ3〕と呼ばれる者たちは無用の長物だ。そんな者たちは「神」が誕生した世界のゴミ。ゴミなら、早急に廃除して問題ない上に、ゴミを消していけば自然と「神」の器に相応しい者は現れる。適任者の分別、これが我々の"実験"の目的だ』


「…ふざけるなよ……!!」


迅は拳を握りしめ、歯をギリギリと鳴らした。


無用の長物だと…?


まるで、今まで死んでいった人間たちは"奴ら"にゴミとして判別され、"奴ら"の思うままに処理されたとでも言っているようだ。


迅の親友、殿町優斗も。


「人の命を…なんだと思ってやがる……!!」


「…種原君………」


怒りを露わにする迅に、御園が声をかける。


『今、我々に対して敵対心しか抱いていない者たちよ、それは違うぞ。この"実験"を行っているのは、我々だけではないのだからな』


迅の眉がピクリと動く。


こちらの様子など知らない一瀬信樹は、マイペースに事を進める。


『定期的に検査を受けさせている〔フェーズ5〕…ウイルス感染しても自我を失わない者たちは、公安局が行っている"実験"の対象だ』


「……なん、だと……?」


迅は立ち上がり、そのまま立ち尽くす。その姿を、御園が両手で口を覆い隠しながら見つめる。


「姉ちゃんが…実験対象?」


迅の思考の中で、公安局という存在が揺らぎ始めた。


公安局は、街の均衡を保つための機関なのか。

それとも、ただ人体実験を行いたいだけの偽善者が集う機関なのか。


このふたつが振り子のように揺れる中、一瀬信樹はこちらの心情を読んでいるかのように笑った。


『フフ…鵜呑みにしてしまったかな?公安局が"実験"を行っているか否かは、私の憶測に過ぎなかったのだが』


「なんだ…憶測か……」


御園がホッと息を吐く。


『説明もほぼ済んだところで、もうひとつだけ教えてやろう』


余裕の声色で、一瀬信樹は続ける。


『公安には、「神」に相応しい者がいる。我々はその適任者の回収を行う。環境管理課の新人君、邪魔はしないでくれたまえよ?』


環境管理課の新人君といえば、迅しかいない。


「…まさか……」


迅は何かを悟ったようだが、御園はさっぱりわからなかった。


『ではそろそろ失礼するぞ、公安局局員の諸君。また、近いうちに』


一瀬信樹の声は消え、食堂に静寂が訪れた。

迅は立ち尽くしたまま、ぼんやりと何処かを見つめ続けている。

迅の頭は今、あるふたつの事でいっぱいだった。

ひとつは、姉の(かがみ)が、公安局の"実験"対象であるかもしれないという可能性。


そして、もうひとつは…………



「良いのか信樹。最後のアレは余計だったんじゃないのか」


東京、とあるビルのとある一室。

薄暗い一室に、数人の人影があった。


「そうよ、一瀬さん。荒浜(あらはま)さんの言うとおり、私も最後のアレはいらなかったと思うわ」


天童五海(てんどういつみ)は、荒浜鉄二(あらはまてつじ)の意見に同調した。


「そんな事はない。私は彼にも興味を抱いているのだよ」


二人の意見を、一瀬信樹はあっさりと、理由も込みで否定した。


「でも〜あーやって喋っちゃうと公安局(むこう)も警戒しちまうんじゃねーの?」


四谷雷杜(よつやらいと)が、ソファにドガっと座りながらチャラチャラとした口調で問う。


「警戒してくれて結構、敵の戦力の底を知るには、それが売ってつけだろう」


「ふ〜ん、ナルホドね」


ふむふむと納得する雷杜。

そんな雷杜を目の片隅で捉えつつ、信樹は壁に寄りかかって立つ少女に問い掛けた。


「改めて訊くが三郷(みさと)。私は"彼女"を神へと導く。異論はないな?」


「はい。ありません」


短い黒髪、藍色に近い瞳の少女、篠宮三郷(しのみやみさと)は、一寸たりとも考えずに頷いた。





To be continued……

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