『やるしかないよ』
前回のHappyHallowe'enは1日遅れでしたねwww
日にちの感覚がマヒしてたのかもww
校庭に現れた、場違いなタコ。しかもそのタコはウイルスによって巨大化して暴走、無差別に生徒を襲い始めた。
その巨大タコと相対する迅と御園。それぞれが得物を構え、戦闘体制を整える。
「あれ?種原と篠宮じゃね?」
「あの二人、公安だったの?」
そんな周囲の話し声を聴いていられるほど、二人に余裕はなかった。
「どうする?椎名さんの指示を待つか?」
「そんなことしてたら、皆が襲われちゃう」
「なら……」
迅は、〈デュランダル〉をさらにギュッと握りしめる。
御園はコクリと頷いて、
「やるしかないよ」
「…了解」
迅と御園の意見の一致と同時に、巨大タコが標的を迅と御園に変えて襲いかかってくる。
ニョロニョロと動き回る八本の脚を、迅はひょいひょいと避わし、隣に立っていた御園はすばやく退き、少し離れたところからの射撃を狙う。
「椎名さん、こちら種原。東京第三高校にて異常患者化したタコと遭遇、みそ…篠宮と戦闘を開始しました」
巨大タコの脚をあしらい、迅は耳にインカムを装着して、直ちに通信を開始する。
インカムの向こう側からは、眠そうな椎名の声が聴こえてくる。
『ファ〜…了解だ。目撃者の一早い通報のおかげで、状況も大体把握している。今、朝陽と猪狩兄妹がそちらに向かっている。時期に潟上も着くはずだ。種原と篠宮は守りに徹してくれ。可能なら、討伐しても構わん。くれぐれも、無理はするな』
「「了解!」」
迅と御園の返事の直後、椎名とは別の声がインカムから耳に響き渡る。
『潟上海斗現着!遅くなってワリぃ‼』
声の主は海斗。彼も、迅や御園と同じ東京第三高校の生徒だ。引きこもりやサボリ魔でなければ、この時間は学校周辺にいてもおかしくない。
『潟上、種原と篠宮の援護だ。いいな?』
「オッケーです」
いつの間にかそばまで来ていた海斗の声が、インカムからの音声と重なりながら聴こえてくる。
「初陣だな。種原」
「のん気な事言ってる場合じゃないぞ」
「はいはい」
迅と海斗に、巨大タコの脚がガトリング銃のように襲ってくる。海斗は飛び退いて回避し、迅は延長能力と思われる思考能力を駆使して回避する。
「"エクスカリバー"」
迅は〈デュランダル〉に命じた。
命令に呼応し、〈デュランダル〉の刃は神光を帯びる。迅はその光で刃を延長はせず、刀身に纏わせる。これにより今の〈デュランダル〉は、最高の斬れ味と威力を引き出す事が可能だ。
迅は、巨大タコの脚を避け、〈デュランダル〉を一振りする。直後、巨大タコの脚が一本、根元から切り離されて地面へと落下する。
巨大タコは悲痛の叫びを挙げ、残り七本の脚で、迅を殺そうと攻撃の構えを取る。
「〈ウコンバサラ〉-"オプレッション"」
巨大タコの背後から、大きなハンマー型の"リジェクター"を振りかざした海斗が、ハンマーを巨大タコの脳天に叩きつける。
すると、巨大タコは痙攣を始めた。
これは海斗のハンマー型"リジェクター"〈ウコンバサラ〉の形態のひとつ、"オプレッション"によるものである。
"オプレッション"の効果は麻痺、ハンマーを叩き付けた対象を麻痺状態にする効果がある。
これにより、巨大タコは麻痺状態に陥ったのだ。
「御園!!」
「了解!そこから離れて!!」
迅と海斗は御園の指示に従い、周囲の生徒たちと共に巨大タコから離れた。
「〈シムナ〉-『フォトンシェル』モード」
命じられた〈シムナ〉の銃口は大きく拡大され、中に光の砲弾が装填される。
【〈シムナ〉-『フォトンシェルモード』。異常患者の完全排除を行います。周囲の安全を確認してください】
〈シムナ〉の電子音が、御園の耳に響く。
御園は、巨大タコに銃口を向け、トリガーを引く。
【発射します。爆発にご注意ください】
刹那、空間に一筋の光線が迸る。
その光線は巨大タコを突き抜け、地面に着弾して爆発を引き起こす。
爆煙によって、視界は最悪となり、生徒たちの悲鳴があちこちから聴こえる。
「『殲滅完了』」
インカムから聴こえたのか、それとも直接聴こえたのかはわからないが、御園の声が煙幕で閉ざされたこの場所の状況を、簡潔に皆に知らせた。
しばらくして視界が明け、ようやく肉眼で状況把握が可能になる。
煙幕が取り巻いていた場所に、巨大タコの姿はなく、巨大タコの体が飛び散った跡が、生々しく残されていた。
これがもし人間のだったら、気分を悪くする人もいただろうが、幸いにもタコであったためか、気分を悪くしたという人はいなかった。
「椎名さん、こちら潟上。巨大タコの排除が完了しました。死者はゼロ、負傷者は二十三名で……」
潟上が、椎名に事後報告をしている。
事が収まったのを見た教師達は、生徒達に指示を出している。が、こんな騒ぎの後なので、まともに聞いている生徒は少ないが。
「おい迅!お前、公安に入ったのか?」
迅は背後から聴こえた声に反応し、振り返る。そこには、一人の男子生徒が立っていた。
「おお、殿町か。ああ、昨日管理課の一係に配属になったんだ」
「スゲぇじゃん!やっぱ先読み術持ってる奴はどこでも即戦力になるんだな」
殿町が羨ましそうに頷いている。
この男子生徒、殿町優斗は、迅と同学年の高校二年で、部活も迅と同じ剣術部。基本誰とでも話せるような性格で友達も多いが、優斗は迅に積極的に声をかけてくれるのだ。
迅にとっては、かけがえのない友達である。
「おまけに、あの『ミス三高』グランプリ最有力候補と言われる篠宮御園まで公安の人間とは…迅、お前は幸せ者だな」
優斗が、今度は嫉妬深く言う。
「なんの話だ……」
「いや?わからねぇならいいや」
「………」
「それよりも、お前部活はどうすん……うっ…⁉」
突然、優斗が苦しそうに呻き声を上げ始めた。暴れまわる優斗を、迅が必死に抑える。
「殿町!?どうした!?」
「ぐああああぁぁぁぁッッッ!!!!!」
もう、迅の質問に答えられるような状態ではなかった。迅は優斗の体をなんとか制止させるが、一人ではとても困難を極める。
優斗を押さえつけながら、迅は見てしまった。
優斗の両眼の白目と黒目が、逆転しているのを。
迅は、登校中の御園の言葉を思い出す。
--特徴として、白目と黒目の色が逆転して、自我を失っちゃうの。
「〔フェーズ3〕……」
迅が漏らしたその声には、絶望以外の感情は一切ない。
絶望の淵に立つ迅に、異常患者と化した優斗が殴りかかる。迅はそれを全て回避しているが、〈デュランダル〉で攻撃する素振りは見せない。
「種原君!!」
「種原!!」
御園と海斗が、援護のために駆け寄ってくる。
その途中、御園の超視力【万里双眼】は、視界の端に映る、ビルの屋上からこちらを見ている人間の姿を捉えた。その人間の手には、弓。
「〈シムナ〉!『フォトンバレット』」
御園はその人間に〈シムナ〉を向けて即座に発砲、槍のような光の弾丸が、謎の人間目掛けて伸びていく。
が、謎の人間はそれを避け、逃走を始めた。
「御園‼潟上!!ヤツを追え!」
優斗と相対しながら、迅が叫ぶ。息を荒げながら襲いかかってくる優斗の猛攻を、迅は今凌いでいる。
「御園の視力でも見えない所まで逃げられる前に!!早く!!」
御園と海斗は顔を見合わせてからコクリと頷いて、
「わかった!気をつけて、種原君」
「死ぬなよ!」
と、言葉を残し、脚力増強シューズ〈ラビット〉を用いて、大きく飛躍した。
迅は、フゥー、と息を吐き、暴走する優斗に、素手で立ち向かう。
「殿町!!目を覚ませ!!!」
優斗の攻撃を止め、優斗の両腕を抑えながら、迅は叫ぶ。
だが優斗は、驚異的なスピードで迅の束縛から脱出し、迅の腹部に強烈な回し蹴りを繰り出した。
「グハッッ……!!!」
一気に校舎の壁まで蹴り飛ばされた迅は、起き上がりながら血反吐を吐く。
「…殿町!!」
名を呼んでも、返事はない。
もう、殿町優斗は…いない。
それを知らしめるかのように、インカムから椎名の声が、迅を絶望の谷へと突き落とす。
『種原。その異常患者の男子生徒を抹殺しろ。もう、回復の余地はない』
迅は、腰に携えた剣〈デュランダル〉を一瞥し、ありったけの力で歯を食いしばった。
To be continued……