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「で、時空ハンターってなんなん?」
期待した異世界への転生じゃないって言われて少しムッとした口調が思わず出てしまう。まあいわゆる過去へのタイムスリップ?うーん、ビミョい……。
俺の趣味はオンラインゲームと異世界転生もののラノベを読む事だった。
現実世界が楽しくなかった訳ではないけど、オンゲーのそれもファンタジー系のMMOで剣と魔法でオラオラするのが超好きだった。そこに気の合う仲間なんかがいたら最高に楽しい冒険だった。
同じように異世界転生もののチート授かってオラオラ世界を冒険するなんて男の子だったら誰でも憧れる世界でしょ?
俺の質問に若干苦笑いを浮かべた少女が口を開く。
「レンジ、今あなたの生まれ育った世界の歴史が変わろうとしています。過去の歴史を変えようとする悪い神が再び動き出したのです」
俺はうんざりした顔で少女の言葉に耳を傾ける。
「歴史を変えようと動く悪い神の手先を倒し、本来の歴史通りに導く事。それが時空ハンターに選ばれたレンジ、あなたの仕事なのです」
キラン、なんて効果音が聞こえそうな笑顔で少女が誇らしげに宣言した。
「断る!」
「はぅっ」
はぅっだってさ、ちょっと可愛いなコノヤロー、思わず口元が緩むのをこらえる。
まあこれ以上からかってもあれだし話だけ聞いてみるか。
「で、まずあんた誰なの?そして悪い神ってなんなん?」
「口を慎みなさいレンジ」
ちょっと怒った顔で俺の言葉使いを嗜める少女。見た目が完全に年下の可愛いらしい顔だから迫力に欠ける。
「私は女神アクア様に使える天使、エリーと言います。悪い神とはデモンのことです」
あーはいはい、テンプレだねえ。
「で、天使エリーさんよ、そのデモンって神はどんな歴史を変えようとしてんの?」
俺が興味を持ち始めたと感じたのかエリーは若干安心した表情で続ける。
「織田信長を本能寺の変後も生かし、日本を制服させようとしています。レンジ、あなたはデモンの行動を妨害し、本来の歴史通り本能寺の変で信長を殺すのです」
さらっとすごいこと言うねえ、信長を殺すだってさ。
「信長を生かし続けることは世界にとって非常に危険です。本能寺で討たれる前の信長の所業を知っていますか?」
「まあひどかったんでしょ?比叡山焼き討ちしたり一向一揆を皆殺しにしたりだっけか?」
俺は歴史の本で多少頭に入っている信長に関する知識を思いだし口にする。
エリーは小さく頷くと付け加える。
「あなたの祖先が暮らす土地も滅ぼされました。それも女子供も全て、生きているものは全て殺すという悪魔の所業です」
祖先と聞いて一瞬俺の体がピクっと止まる。
「どこなんだそれは?」
「忍びの里、伊賀の国です。」
ほう、俺の祖先は忍者だったのか……。
「信長が本能寺の変後も生きながらえたら日本は殺戮と怨念の渦巻く地獄絵図へとなるでしょう。あなたのにはそれを止めていただきたいのです」
こえーな、俺でどう止めろっていうのかねこの天使さん。
「で、チートはあるんだろうな?」
いきなり話が飛んでエリーが理解できず口をぽかんと開けた表情を見せる。まるで子供だな、そう思いふっと笑いがこみ上げる。そんな俺の表情を見て苦笑いでエリーは答える。
「ふぅ、レンジあなたにはかないませんね。もちろんありますよチート」
よしよしそうこなくっちゃね、転生物なら当然の流れだよね。
「この世界の誰よりも優れた身体能力を授けましょう、いわゆるブースト(身体強化)です」
「ふむ、まあそれはいいが魔法はないのか?」
あきれたような顔で俺を見ながらエリーが続ける。
「あのね、ブーストってほんとにすごいチートなのですよ?まあいいでしょう、これをご覧なさい」
白いワンピースの胸の部分におもむろに手を突っ込み、取り出したのは四つの指輪。
てか顔に似合わずでかい胸持ってる。思わず視線がそちらへいったのをエリーは感じたのか咳き払いを一つ。
「コホン。これは魔力の源、火、水、風、土四つの属性で出来た指輪です。四つ全てというわけにはいきませんがこの中から好きな属性の指輪を一つ選びなさい」
ひとつか…。
うむ、海に溺れて死んだ俺が水の指輪を選ぶのも癪だし、その他3つの中からか…。
まあなんでもいっか。
「どれにしましょうか天の神様の言うとおり」
子供の頃に迷ったら使うオマジナイで三つの中から一つを選ぶ。
「風の魔力の指輪ですね。これを填めて念じれば風の魔法が使えます。うまく使えるように精進するのですよ」
「ああ、分かった。それともう一つ。俺はどの年代のどこに転生するんだ?」
エリーの声がエコーのように頭に響く。
「1581年、信長によって滅ぼされた土地、伊賀国の郷士、あなたの祖先である星川蓮司として転生します。転生する祖先の記憶はあなたの頭に移植されるのでそれほど混乱なく現地に馴染めるでしょう」
ほう、器用なことだな…。
「本能寺の変は翌年1582年。デモンの手先となった悪の魔王信長を、必ず討ち果たしてください。それともう一つ。転生したあなたの存在を知ったデモンの使徒があなたを攻撃してくるはずです。くれぐれも気をつけるのですよ」
ん?ちょっと待て今気になること言ったな。
使徒ってなんだ、使徒って??遠のいていく意識に抵抗して必死に声を絞る。
「使徒ってのは一体なんだ?」
「レンジ、あなたが時空ハンターに選ばれたのと同じようにデモンも転生者を使ってきます」
「おいおいマジかよ…」
「大丈夫、お互い転生者は一人。頑張るのですよ」
いあいあ頑張るのですよってあーた。
意識が遠のいていく、もう声もでねーわ。
エリーの声が頭の中でコダマする中俺の意識は落ちていった。