開戦!
本来なら、どんなクエストだろうときちんと準備をして出発するべきだ。
しかし、今回の5人組はどいつもこいつも馬鹿ばっかだ。
リュザとチスタは酒がまわって、上機嫌に鼻歌を歌って歩いている。
一応は陣形を確認したのだが、果たして聞いていたのか。
この5人では、大型種相手ではリュザが前衛で耐える。その間に俺とチスタがチマチマとダメージを稼ぎ、クロハはガツーンと魔法を使う。後ろはシュエが回復魔法を装備して待機。
陣形の確認の時知ったが、シュエは攻撃魔法を全く使えないらしい。つまり、シュエは何かない限り暇なのだ。とは言っても、後ろにヒーラーがいるだけで安心感が違う。まあ、回復魔法も限度があるが。
カルト渓谷を抜けて、鬱蒼と茂る草木が続く地域に入る。この辺りは雨が多く、晴れていても地面がぬかるんでいるところもある。
カルト渓谷にはモンスターが棲息していないが、この辺りには少ないが棲息している。そして、この辺りの生態系の頂点に君臨するのが、狼種だ。その狼種の群れのリーダーがヴィガウルファだ。この時期、彼らは繁殖期に入っており、体毛が紺色から黒へと変化する。そして、当然の如く攻撃性が高くなり、隊商がたびたび被害を受けている。今回の依頼主もシルフ領内ではそれなりに大きな商人だ。ちなみにカルト渓谷の天然水は結構人気がある。しかし、川の水を汲んで沸かしただけのものが高く売れるってのは変な話だ。
「おっと、あったぜ」
リュザがめざとくヴィガウルファの足跡を見つけた。まだ水が染み出てないから、近くにいるだろう。
「ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ」
リュザは足跡を辿って歩き始めた。
「当然だろ」
俺も続く。この5人がどれだけの力を発揮できるのか楽しみだ。
「あら、近いとこにいるじゃない」
チスタがラッキーとばかりに呟く。その声を聞きつけたのか、ヴィガウルファはグルリと振り向くとグルルルル、と喉を鳴らした。
ヴィガウルファは、グッと脚を使って跳んだ。一直線に俺たちのところへやってくるが、
「探したんだぜ、お客さん」
馬鹿でかいタワーシールドをどっしり構えたリュザが不敵な笑みとともに立ち塞がる。
ヴィガウルファの前脚の爪が慣性の力と一緒にシールドにぶつかるが、空気を震わせる大きな音を響かせて、リュザは防いで見せた。
「おお…」
俺が感心している間に、チスタは既に回り込んでいた。この展開の素早さに2人の信頼が感じられた。
ヴィガウルファは四本脚で立っていても俺たちの1.5倍くらい高い。喉を掻っ捌いてしまえば楽なんだが、位置が高いので、セオリーとしては、脚の腱を切ってから、トドメの流れが一般的だ。
俺はチスタとの遅れを取り戻すべく走り出した。