クエスト開始前
ところ変わって村の小さな酒場。
村や小規模の街にはよく見られるが、酒場がレイヤーの管理を行うところがある。それは、レイヤーが酒場に集まる習性があるからで、何もなくても溜まり場になるところが、付加価値が付いてさらに界隈と化す。
カルットの酒場も、昼間から酒を浴びるように飲むレイヤーたちでごった返していた。
南向きの入り口から左右にオープンテラスが伸びて、日差しの下で酒を喰らっている。
俺たちはその酒場の一番奥のレイヤー管理官(領主館から派遣)の目の前に陣取って、俺から少し話すことにした。無論、クロハの了承も得た上でだ。
しかし、その前に無言でこちらを見るチスタ。
「いいよ、俺が持つから飲みなよ」
めんどくさいので、酒を与えて黙らせる。
「今ある依頼で、一番の報酬のクエストはなんですか?」
これで、超大型種討伐とか言われると困るが…。
レイヤー管理官は手元の書類をパラパラしながら、
「えー、ヴィガウルファ討伐になります」
「じゃあそれ受けます」
長い切れ目の管理官は、その眼鏡の向こう片眉をあげて見せ、ハンコを押してくれた。
「ヴィガウルファってどんなの?」
「大型の狼種だよ。多分、今は繁殖期に入ってるから毛が黒くなってるだろう」
「二人で大丈夫なの?」
クロハの意味ありげな質問にその他の三人がグラスから顔を上げた。
「十分倒せると思うよ。ただ--」
そこで俺は一度言葉を止めて、
「シュエたちにも手伝って欲しいんだ」
「え〜」
シュエはぐずると、
「いいよ!」
どっちなんだ。
「ちょうど金に困ってたし、あたしはいいよ」
「俺も問題ないぜ」
チスタもリュザも了承して、俺は一安心した。
ヴィガウルファくらいなら、二人でも問題はないだろうが、どうしても俺は彼らを仲間に取り込みたかったから、断られたらどうしようかと思って肝を冷やしたが、杞憂に済んで良かった。
「行くならすぐ行こうぜ」
リュザは乗り気だ。
「そうね」
チスタも、グラスを一気に煽ると席を立った。
「わかった。すぐ出よう」
俺の言葉に全員が頷いた。