集結
この世界にも美しい景観は存在する。シルフ領とサラマンダー領の国境をまたぐくらいの場所に、結構有名な場所がある。
カルト渓谷。
高く急峻な山々が連なり、その深いV字谷には深く流れの速い川が流れる。所々傾斜の緩やかになった土地には、小さな村が細々と生活している。
川底や、山には豊富な鉱山資源が眠る。
緑と灰色と白の美しいコントラストがセイトとクロハを出迎える。
「なんだ、やっぱりシュエじゃんか。帰ってこれたんか」
俺とクロハが「誰ですか、貴方は」という視線で男を見つめるが、男もシュエも気にも留めず、
「あ、リュザ。うふふ、帰ってこれたよ」
リュザと呼ばれた赤髪の少年は、シュエの知り合いか。
「あー、シュエ?知り合い?」
「うん。リュザっていうの」
説明が少なすぎるだろ。だが、リュザはこちらをようやく認めると、
「なるほど。シュエ、この人たちに連れて来てもらったんだな」
「うん。そーだよ」
シュエとリュザが話をしながら進み始める。俺とクロハは呆然として後ろ姿を追った。
見たところリュザはレイヤーのようだ。右腕には、大型盾が、がっちり填っており背中には、長槍が装備されている。
防具も、金属装備をカチャカチャ言わせて歩いているし、固定パーティーもしくはチーム、ギルドの壁戦士か、ズブの初心レイヤーかどちらかだが、領外をリラックスして歩いているところを見ると、初心レイヤーではない気がする。とすれば、仲間の一人や二人が出てきそうな流れだが…。
「あれ、チスタは?」
「ん?チスタなら村にいるぞ」
どうやらいるらしい。
足を滑らせると、遥か下の川にダイブして、そのまま帰らぬ人になりそうな道を歩くと、村に入る。
カルト渓谷と呼ばれる地域に入れば、好戦的モンスターはいない。だから、特別モンスター対策で柵をするなどは無く、人々も穏やかだ。
俺とクロハはリュザの案内で宅配業務をこなすと、そのチスタというレイヤーがいる宿を訪れた。
結構ボロボロな宿のある扉の向こうから、
「金がない。金がない。金がない。金がない…」
呪文が聞こえる。何を呪うつもりなのか。
またも顔を見合わせた俺とクロハに、リュザは肩をすくめて見せた。
そして、ノックすると
「おい、チスタ。入るぞ」
今だにブツブツ聞こえるのを無視して合鍵で部屋に入る。
部屋の一番奥で、傍らに酒瓶を数本転がして、手には中身のまだ入った瓶を持ちながら、呪文を唱える少女。
シュールだ。つか、金がないなら酒をやめればいいのに。
チラッと確認すると机にぶっちらけた装備は、皮防具に短剣。聞くところによれば、シュエ、リュザ、そしてこのチスタでチームを組んでやっているらしい。だが、装備を考えると、攻撃特化戦士がいないのは明らかだ。シュエはウンディーネ族らしく、回復魔法を得意にした白魔導師で、あとはタンク、遊撃戦士では、大型種はおろか中型種の中でも対応できないモンスターがいるのではないか。
だが、この話を聞いたときに俺は、彼らに俺たちと組んで欲しいと思った。俺とクロハでは、クロハが多少回復魔法を使えるだけで、基本的には二人ともダメージディーラーで、大型種を超える超大型種(例えば、バルキュリアドラゴン)に対して、瞬間火力では勝てるが持久力の無さが問題だった。
うーむ。まさに利害の一致。
俺には、五つのピースがカチリと嵌るイメージが見えた。
こんなにゲームチックになる予定ではなかったのに…。
シーフやタンク等の漢字の当て字は作中での設定です。厳密な定義で使用していませんので、もし、「こうの方がいいんじゃないの?」と思われた方はコメント欄もしくは、Twitterにてお知らせください。