遠い出会い
前回の更新は失礼しました。
今回から、三日更新の通常運転です。
「はうぅぅ…」
頭を押さえてうずくまった少女は、やがてがばりと体を起こすと、
「痛かったですぅ」
と口調と素振りがマッチしていない様子で怒った。
「いや、ごめん」
なんか向こうのテンションが異様に高いのは気のせいか。
「責任とってください」
「はあ?」
ちなみに、クロハはとうに領主館へ行った。ビミョーにピンチな俺を残して。俺の分まで報酬を受け取ってくれると信じたい。あ、でもネコババされるとなあ…。
「きいてますかぁー?」
「うわっ!」
耳元で喋られるとビックリするのは人の性。やめていただきたい。
だが、聞いてなかったのは事実なので批判もできない。
「ごめん、で何?」
「反省が見えないよ?」
何故疑問系なのか。
「だーかーらー、カルット村まで連れて行って」
カルット村…。シルフ領の北端に位置する小さな村だ。なかなかに遠い。
「なんでそんなとこに行かなきゃいかん?」
「ん〜とね、帰りたいから」
「はあ?一人で帰れ」
「道がわかんないの!」
迷子か。
「連れはいないのか?」
「んー、2人とも迷子になっちゃった」
お前が迷子で間違いないだろう。
しかし、仕方が無いか。このままここにうろつかれたらたまったものじゃない。
「わかったよ。だったらすぐ行くぞ」
青髪の少女は笑顔で頷いた。
準備を整えた俺は、ブツブツ文句を垂れるクロハを引きずって、カルット村まで進み始めた。
彼女は、シュエという名らしい。見た目でだいたいわかってはいたが、ウンディーネ族らしい。ウンディーネ族とシルフ族は、かなり仲がいいから、シルフ領にウンディーネ族が住んでいることはザラにある。
それなりの荷物を抱えて歩く俺とクロハを尻目にシュエはのんびりと歩く。鼻歌と共に。
だいたい3日くらいの旅路だが、ただ行って帰ってくるだけでは勿体無いので、2つの同じような依頼を受けた。
この荷物の半分以上がその依頼の大事なところになる。
言ってしまえば宅配だ。
街の外ではモンスターによる被害を受けるため、モンスターに対抗できるレイヤーに荷物の宅配や、この間クロハとやったクエストのように収集をやったりもする。だが、基本的に一般市民からの依頼であることと、極論すればモンスターとの戦闘は発生しないことから、報酬は決して良いとは言えない。が、今回のように何かのついでだったり、レイヤーになり立ての新人がこなすクエストだ。
「はあ〜、カルットは遠いなぁ〜」
遠い辺境の村は、山々の向こうに霞んで未だ姿を現さなかった。