妹を探そう!(その4)
カレンドラ大陸のほぼ中央、北にヤークリア山脈の山々が聳え並び、南にはチュートリア大海洋が、南にあるアマリアス大陸とを隔てている。その山脈と海洋を挟むように、東西に延びたインカディア大平原のほぼ中央付近にある国家、バーランチア王国。今、俺とミヤビは、このバーランチア王国の王都バルモアスの西門の入場待ちの列に並んでいる。
あの日、勇者の召喚に巻き込まれ、ラグナレシアに転生した私こと、アスカ=ラングレイ=ヨシオカ。転生前は男だったが、いま現在、ピチピチの?1012歳の女の子。今の私の種族から見て、1012歳は子供なのか?それとも大人なのか?同じ種族にまだ出会っていないので、そこのところは解らないが。
まあ、いい。いずれ解るだろう。
それから、1人目の妹であるミヤビとは、比較的早く出会う事が出来たけれど、もう1人の妹、マツリとは、なかなか出会えずに2年間いた。まあ、この2年間は、主にミヤビのレベルアップのために、森の中を彷徨い続けていたのだけども。
私の持つスキルを駆使して手に入れた新たな特殊スキル万能空間把握。これを使って、マツリのいる場所の周囲に来たのがつい2時間ほど前だ。ミヤビと同じように、マツリのすぐ近くに飛んでもよかったのだが、マツリのいる場所が、先ほど示したバーランチア王国の王都バルモアスだったのだ。ミヤビの場合は、森の中だったので、近くに飛べただけだ。
こちらの常識は知らないが、こう言うファンタジーな世界では、町の門を潜って中に入っておかないと、いろいろとまずい事になりかねない。そのため、わざわざ、町から少し離れた森の中に転移して歩いてきたわけだ。
「ようこそ、バーランチア王国の王都バルモアスへ。身分証がある方は、身分証をお見せください。ない方は、入門税として100レシアを頂いております。」
「私は、身分証を持っているのですが、私の連れは、先の動乱で、身分証を紛失してしまい今は所持していません。どうしましょうか?」
私は、何故か持っている4枚の身分証のうち、『ライマール王国国民カード』を見せる。森で修行していた2年間の間、たまたま出会い、大親友となった精霊族から教えてもらったことを利用したのだ。
「ライマール王国の身分証ですか。大変でしたね。連れの方も、ライマール王国の出身ですか?」
「ハイ、いまだ続く動乱からここまで逃げてきたのです。これで大丈夫でしょうか?」
「そうですね。では、あちらの詰所まで一緒に来てください。新しくバーランチア王国の身分証を発行しましょう。アスカさんも、この身分証を破棄して、この国の身分証に書き換えますか?」
「そうですね。お願いします。」
ライマール王国は、いま私たちがいるバーランチア王国から見て、西に約3000キロ、3つほど国を挟んだところにあった国だ。"あった"といったのは、現在、ライマール王国という国はすでになく、その国土だった土地は、群雄割拠が跋扈する戦乱の土地に成り下がってしまっている。ちなみに私たちがいた森は、このライマール王国の北に広がる大森林地帯だった。
門兵の後ろをついていきながら、詰所の中に入っていく私たち。詰所の中は、いくつかのカウンターに分かれ、いろいろな理由で身分証のない者たちが列をなしていた。
「では、こちらにお座りください。」
担当の兵士が示したカウンターの椅子に、2人して座る。
「ライマール王国国民カード以外に、身分証があったらすべて出してください。」
担当の言葉に、私は、残り3枚のカードも出した。
「冒険者ギルドカード・職人ギルドカード・商人ギルドカードの3枚ですね。ではこちらもすべてこの国の名義に変更してもよろしいですか?後、お連れ様は、国民カード以外のカードをお作りのなりますか?何ならここで一括してお作りできますが。少々手数料はお高くつきますが、各ギルドに出向く手間は省けますよ。」
「はい。そうですね。ではミヤビには冒険者カードを作ってください。」
何かと腰の低い担当に好感が持て、ここですべての手続きを終えることにした。
「それでは、それぞれ1000レシアづつお出しください。」
私は、2人分の手数料として、銀貨20枚をカウンターに出す。そして、私が出した3枚のカードを見て、担当者は驚きの顔を隠すことができなかった。
約1時間後。
私たちは、王都バルモアスに中に入る事に成功した。ミヤビは、この世界での身分を手に入れてホクホク顔だ。
「ミヤビ、作ってもらったカードは、失くさない様に、空間保管庫の中に入れておけ。」
「は~~い。」
「もう日も大分傾いてきているから、さっき聞いたおすすめの宿屋に行こう。」
「そうだね。お兄ちゃん。街に繰り出したり、マツリを探すのは、明日にしよう。」
王都バルモアスは、王城を中心に放射状に整備された所謂城郭都市である。小高い丘に造られているのか、王城を中心に段々畑のように各区画を分ける塀を見ることができる。
王城がある区画を、第1区画とし、その周囲には、貴族街となる第2区画。第3区画は、騎士団の訓練場や宿舎、役所や学校、図書館といった公共施設が立ち並んでいる。その外側が第4区画で、宿屋や商店各種工房が軒を連ね、第5区画に住民街がある。ここまでが『内郭』と呼ばれている区画で、その外側に『外郭』と呼ばれる農地と放牧地が広がっている。
各区画は、幅20mほどの濠と、高さ3mほどの塀で区分けされており、それぞれがいくつかの橋で結ばれている。それぞれの区画に入るには、濠に渡された橋を渡り、枡型をした虎口を通っる形になっており、防衛面はすごく進んでいる町だ。
私たちがさっきまでいた場所は、内閣を囲む高さ10m幅5mほどの外壁に造られた8つある門のうちの1つだ。
おすすめの宿屋は、『金匙の黄昏亭』と呼ばれる宿屋と食堂が1つになっているファンタジー世界王道の宿屋だ。私たちが街に入場した西門からまっすぐに伸びる西大通り沿いにある宿屋である。第4区画に入り最初に目につく大きな建物だ。
「いらっしゃい!泊りかい?それとも食事かい?」
「泊りで。一泊いくらだ?」
「1泊朝晩の食事付き。1人当たり、Bタイプの1人部屋が3000レシア、Bタイプの2人部屋が2500レシア、素泊まりの大部屋なら1000レシアだ。AタイプはBタイプの3割増し、Sタイプはさらに3割増しだ。」
「Aタイプ・Bタイプ・Sタイプの部屋は、何が違うんだ?」
「大きな違いは、部屋の広さとベッドの硬さだね。後、使用できる施設かな。Bタイプ・Sタイプは、大浴場が利用可能だ。で、どうする?」
「そうだな。Bタイプのツインの2人部屋を1か月頼む。」
1か月の日数の確認を含めてそう答えた。こちらに来てからの2年間は、森の中にいたため、別に1年が何日あるかとか、1日何時間だとかいう所謂カレンダー的なことはあまり関係がなかったので、詳しく知らないのだ。ちなみに私が言っている2年とは、地球での2年であって、この世界の2年ではない。
「Bタイプのツインの2人部屋を1か月だね。1人130,000レシアだから、2人分で260,000レシアだ。」
私は、金貨13枚を出す。2500×1.3×40=130,000だから、1か月は40日だな。
「確かに。これは鍵。部屋は、南棟の2階210号室だ。南棟にある施設はすべて使用可能だからゆっくりしていきな。食事は、この隣の食堂に、この鍵を見せれば出してくれるよ。朝晩とも、5時から9時の間に食べに来てね。晩飯はどうする?今から食べていくかい?」
「そうだな。食べてから部屋に行こう。」
少し早めの夕飯を食べた後、部屋に行き装備をすべて空間保管庫の中に放り込んでおく。その後は、大浴場に行き体を洗った後、再び部屋の中。
私とミヤビは、2つ並んだベッドの上に腰掛け、明日からの予定を話していた。
「お兄ちゃん、明日からはどう行動するの?」
「そうだな。まずは、この町のどこかにいるマツリを探し出して合流するのが先かな。そのあとは、ミヤビの冒険者ランク上げと、できるならばマツリのレベル上げだな。しばらくはこの町を拠点にしようと思っている。」
「マツリの居場所って、お兄ちゃんの持っているスキルで、すでに割れているんじゃないの?」
「いや、それがな。どうも名前が変わっているらしくて、『マツリ=ヨシオカ』で検索してみたが、引っかからなかったんだよ。それで『マツリ』で検索すると、この町には、『マツリ』という名前を持つ者が、50人ほどいるんだ。」
「ふ~~~ん、そうだったんだ。お兄ちゃんのスキルも、結構アラがあるんだね。」
「まあ、このくらいアラがあったほうが、ちょうどいいんじゃないか?すべて検索できたら、折角の異世界観光が半減してしまう。」
「お兄ちゃん、異世界観光って何?」
「折角異世界に転生したんだ。この世界をのんびりと観光しよう。マツリはどうか知らないが、幸いにも私とミヤビは長命種だから、時間はたっぷりとある。
…あとは、…そうだな。
観光がてら俺の彼女?今は男か女か、種族すらどうなっているのかは知らないが、ナオミを探さないとな。あの時、私たち同様人型になっていたから、この世界のどこかにいるはずだ。
あとは、勇者だというあいつら4人には、しっかりと制裁をしたいから探してみようか。」
「そうだね。ナオミさんのことは、…そうだね。あたしとお兄ちゃんのことを考えると、…種族として混血種で、性別は男のなっている確率が高いよね。マツリもそうだけど、どうせならエルフ族と何かの混血種がいいな。
あと、その制裁とやらには、あたしも参加してもいい?」
「…、まあ、いいだろう。」
こうして、異世界に来て初めての町での1日が終了した。明日は、マツリを探して合流しないといけないな。