反攻作戦を考えよう!(その2)
「では、次の議題『反攻作戦』の概要についてお話します。。」
兵站の問題を解決した私は、次なる議題、である反攻作戦について話す。
現在会議を行っている部屋は、急遽公爵家の地下に私が造った地下構造体だ。地下構造物自体は2重構造になっている。外側の構造体は、地面を掘った穴に石材で床と壁を造ってあり、内側の構造物が、作戦本部の本体となっている。
内側の構造物は、大きく4つの部屋とそれらをつなぐ廊下に分かれている。4階建ての公爵家本館にある表玄関にある大階段の脇の物置部屋を改造して地下に降りる階段を造り、そこを降りた場所に廊下を接続してある。長さが10mほどの廊下を囲むように、3つの部屋を配置してあり、正面の扉が現在会議を行っている『中央作戦室』と呼んでいる20m四方の部屋だ。中央作戦室の左手は、侍女たちが控えている部屋で、右手にはトイレと、指定した人物が、区分けされた戦場に設置する予定の転送門とを行き来するための魔法陣が設置されている部屋となる。王都を囲むように広がる広大な戦場と、作戦本部間を瞬時に行き来するためには、どうしても必要なシステムだからだ。
この地下室は、戦場が大きく移動すれば部屋ごと移動できる仕掛けになっている。その際、跡地には大きな地下空間ができてしまうが、公爵家ではその跡地利用についても、いろいろと考えているようだ。作戦室が移動した際には、数m間隔で柱を配置する予定である。壁については、公爵家が設置することで了解を取ってある。現在は、作戦本部自体が丈夫なため、地上にある屋敷の重さを支えているため柱は配置していない。
中央作戦室内の配置は、20m四方ほどの大部屋の真ん中に大きな机が置かれ、正面となる上座の壁には、詳細なラグナレシアの世界地図と、バーランチア王国の地図が掲げられており、地図上の陸地は大きく白色と赤色に塗り分けられている。白色が魔族軍に支配されていない土地を示し、赤色が支配されている土地を示している。地図の下には、リアルタイムで戦場の情報を遣り取り通信兵が座っている。
通信兵は、ここで決まったことを即座に末端の兵士まで、『空間保管機能付き腕輪』を使用して通信しており、現在もその真っ最中である。まだ戦場の一部しか運用できていないが、この会議が終われば、すぐにでも戦場全体が解るようになるだろう。
この世界地図は、議題を移るまでは、モノトーンの大きなカーテンで壁ごと隠れていたが、今はそのカーテンが開けられている。
左右の壁には、殺風景な部屋を彩るために、色彩豊かな風景画が飾られ、壁琵琶には、リラックス効果のある植物が置かれてる。
中央部に置かれた大きな机の周りに配置された椅子に私たちは座っている。上座である世界地図の前の中央部にエリザが座り、エリザの右に私が座っている。エリザの左側には、今回の作戦指揮にあたり、領館を貸してもらったマルダス=カトレシア=タイマン=バーランチア公爵が座り、その隣には、兵站の管理一切を任しているワトス=ポインテール=サレアレド伯爵が座っている。私の隣には、勇者であるキョウスケが座り、その隣には、王国軍の将軍の面々が座っている。
上座にある席はあと6個空いているが、その席には、これから任命する各方面軍の総指揮官が座る予定だ。もちろん、ここタイマン公爵領を中心と据えるため、中央方面軍の総指揮官はタイマン公爵となる。後の貴族たちは、爵位順に座っている状態だ。
机の構造は、中央部に5m四方ほどの座卓くらいの低さの場所があり、その周りに椅子の高さに合わせた長机がくるりと囲んでいる。中央部の低い段には、現在はバーランチア王国の立体地図があり、正面の地図同様赤色と白色、それに青色に塗り分けられている。赤色と白色は、正面の世界地図同様、魔王軍によって支配されているかどうかを表しており、青色の場所は、先ほど私の指示に従わないと、この部屋を出て行った貴族たちが担当している戦場を表している。
また、長机には、各椅子ごとに目の前の地図と連動している小さな地図があり、その地図に印をつけることによって、大きな地図に書き込めるようになっている。これらはすべて、この日のために用意した特注の魔道具であり、将来的にはバーランチア王国に寄付する方向で動いている。今回は、その運用実験も兼ねているのだ。
「では、今回の作戦指揮にあたり、目の前に用意したこの地図を使用して説明します。この地図の情報は、前日までに私が戦場となっている最前線の場所を詳細にマッピングして作られています。地図上の白色の部分が魔族軍に支配されていない土地を示し、赤色の部分が支配されている土地を示しています。青色の場所は、先ほど私の指示に従わないと、この部屋を出て行った貴族たちが担当している戦場となります。
また、このマッピング情報は、約10分ごとに順次自動更新されています。
なお、この部屋で使用している地図の作成には、私が準備期間中に用意した魔道具、『偵察人工衛星』から受信したデータに基づいています。
ここまでで、何か質問はありますか?」
一度ここで話を区切り、全体を見渡す私。あまりに詳細な地図を前に意識が何処かに飛んでしまっている貴族たち。あらかじめ、この部屋の事を知っていたエリザをはじめとした上座に座っている人は、その光景を見ながら優雅にお茶を啜っていたりする。何処かに旅立っていた貴族たちが再起動したところで、話を進める私。
「では話を続けていきたいと思います。
まずこの地図の使い方から説明します。
皆さんが座っている椅子の前にある、この机を含めたこの作戦司令室全体が、大きな魔道具となっています。」
この部屋の説明をし終えた後、いよいよ作戦の概要へと移っていく。
「…これで作戦の概要の説明です。
王都奪還作戦は、大きく分けて4つの工程を踏んでいます。
1つ目の工程は、兵站の確保及び移動手段の確保。これについては、既に終了しております。
2つ目の工程は、戦線の共同展開と指揮系統の統合。現在は、この工程の最中と理解しておいてください。
3つ目の工程は、支配されている土地の奪還と、奪還後にそこに住んでいる人たちの生活支援。
4つ目の工程で、王都の奪還となります。
では、現在進行している『戦線の共同展開と指揮系統の統合』についてお話いたします。
現在は、貴族族がここで魔王軍と対峙していますが、それでは、何処かの戦線が崩されたときに、其処から崩壊していく危険性があります。なぜならば、兵站から作戦立案まで、すべての事を1つの貴族が行っていかないといけないからです。特に大量消費していく兵站は、個々に集めていては時間の無駄ですし、輸送の面でも問題があります。」
私は、ここで魔王軍と対峙している現状の問題点を、1つ1つ洗い出していく。今ここに集まっている貴族たちは、私が列挙している問題点には気が付いていたが、なかなかと横の連携が取れずにいてもどかしく感じていたそうだ。一番の問題は、『誰を旗頭』に据えるのか、『誰の命令』で軍を動かすのか。この2点を決めれなかったらしい。
其処に、私からの召集令状がかけられたのを、これ幸いに集まってきたのだ。私とエリザは、この国の国王から直々に総対象と軍師に任命されていたのだから。
また、エリザを旗頭に据えることも、すでに個々にいるメンバーの暗黙の了解事項となっていたりする。王族の中で唯一現在位置が明確なのが、エリザただ1人だったからだ。また普段のエリザの行動が、国民すべてに受け入れられており、『バーランチア王国の至宝』・『バーランチア王国の象徴』・『慈愛の王女』といった二つ名が、今回の動乱においては国を纏めていくためには都合がいいからだ。
この部屋を出ていった貴族たちも、これらの事柄については十分理解していたはずだが、『貴族は平民の上』というくだらないプライドのためにエリザという最高の旗頭を失ってしまったのだ。
「工程の確認が済んだところで、エリザを旗頭に据えて魔王軍を殲滅していきましょう。
そのためには、『敵を知る』ところから始めていきましょう。
現状解っている魔王軍の編成ですが、占領された王都に駐屯している部隊、この部隊については、現状どんな構成の軍なのかはわかっていませんので割愛させていただきます。地方に展開している軍の構成ですが、各地にはなった斥候の調査によって、王都を中心として放射状に大きく分けて10個の塊で展開しています。その展開を示したのが、地図上の紫色の塊です。」
そう言って私は、中央にある大きな地図に、紫色の塊を落とし込んだ。その塊は、王都から放射状に延びている10本の街道に沿って展開している。そして街道を起点に、1つの塊が10数個に分かれているのが地図上では確認できている。
「1つ1つの小さな塊の構成ですが、塊ごとに1人の将と10人程度の副官、そして500匹前後の魔物で構成されています。そして各塊の中心には、支配されている土地の領主町や、地方の中心となっている町がある場所と合致しています。
そして、ここが一番大事な部分ですが、各部隊間の連携は今のところ皆無であり、そのため兵站の輸送部隊はありません。ならば、兵站をどうやって維持しているのかという疑問が湧いてきます。
その答えは、先日公爵軍が解放した土地で見つけることができました。」
私はここで話を区切り、部屋全体を見渡す。誰かの唾を飲み込む音がこだまする。
「魔王軍の兵站の維持方法ですが、支配した土地で逃げ遅れた住民たちに、闇属性の魔法である『隷属の首輪』によって奴隷化されていました。そして、奴隷になった住民たちを家畜のように使い、兵站を維持していました。」
私の言葉に、貴族たちが下を向く。私もそうだが、もっと早く行動を起こしていれば…と思ってしまう。末端の町や村でこうなのだ。真っ先に支配された王都では、もっとひどい状態になっているだろう。まあ、住民の6割は、私が王都の地下に構築した亜空間に避難しているため無事なのだが、このことは、個々にいる一部の者しか知らないことだ。このことについては話してもいいのだが、公爵様が、軍の士気を維持するために話さないでほしいと懇願されている。このことに対する非難は、全て公爵様が請け負ってくれるため、私とエリザは公爵様の懇願を受け入れている。
「それでアスカ殿。解放された住民は、どうなったのですか?」
最悪を想定しているのか、聞いてきた貴族は震えていた。
「解放された土地に住む住民すべては、私とエリザの力で奴隷からすでに開放してあります。衰弱した体力を回復するために、現在はこの町に造られた野戦病院で治療を受けています。」
私の言葉に、この場に居合わせたすべての者が、安堵のため息を吐いた。




