昇格試験ダンジョン(その2)
第1階層
入り口を入ると、向かって右方向にゆるくカーブしたなだらかな下り坂がある。坂を下りきった先は、大きな転送陣があり、私とマツリは第1階層のどこかに転移されてしまった。
これはあれだね。
いわゆる『転移型迷路ダンジョン』というやつだ。
まずは、現在地を割り出さないとお話にならない。マツリもそのことは気づいているみたいで、事前に用意したダンジョンの地図を見ながら現在地を探っている。
私はふと、『万能空間把握』でダンジョンを検索してみた。すると、このダンジョンの詳細が、正確な地図とともに現れてきた。現在地とともに。また、何処に魔物やモンスターがいるのかも正確に表示されている。
名前の通り、いい仕事してますね。このスキル様は。
今の私は、マツリのお目付け役なため、マツリから何か乞われれば教えたりも使用が、何も言わなければ空気に徹している。
マツリは、とりあえず現在地を探るために動くみたいだ。まずは右へ行くか、左へ行くか。
マツリは左に進路をとった。いくつかの分かれ道を通りしばらく歩くと、目の前にゴブリンが3匹待ち構えていた。
「ギャーーーー!!」
気色悪い声を出して、マツリに向かってくるゴブリン。マツリは、冷静にゴブリンの持つ棍棒を受け止めて薙ぎ払い、返す剣で袈裟懸けに3匹を順に斬り裂く。
その後、10回ほどゴブリンの襲撃があり、2階層続く転送陣へとたどり着きました。ここまで来るのに、マツリはレベルが5つ上がり、スキルポイントも25Pゲットしています。
「マツリ、第2階層に行く前に、少しスキルをいじろうか。」
「スキル?どういじるの?」
私は、マツリのスキルを見ながら考えます。
「マツリの今のスキルポイントは、125Pだから。
…獲得経験値上昇をLv4まで所得して残り50P。あとは、体力回復力上昇・体力使用量減少・魔力回復力上昇・魔力使用量減少をそれぞれLv2まで上げようか。これで残りは10Pだから、幸運度上昇とパーティ編成を新たに取得して使い果たすな。とりあえずこれでいこう」
「…お兄ちゃん。私スキルをオープンにしていないよね。どうしてわかるの?」
「…ああ、そのことか、私が持っている特殊スキルスキル操作は、Lv10まで上げてあるからな。このスキルは、Lv6以上になると相手のスキルを見ることができるんだ。
それよりも、さっき言ったものを、マツリの持つスキル操作でサクッと取得・変更しようか。」
「うん、わかった。」
マツリは、私の言ったとおりにスキルをとっていく。
「マツリ、第2階層も同じように進んでいこうか。スキルの取得は、とりあえず《基礎ステータス補完スキル》をすべて取得してLv10まで上げてしまおう。ほかのスキルはそれからだ。」
「わかった。」
第2階層
第2階層に転送されると、いきなりゴブリンとコボルトの群れが周りを囲んでいた。その数合計30匹。いきなりの戦闘だが、マツリは冷静に対処して殲滅した。この戦闘でレベルが5つ上がりポイントも25P増える。
第2階層もサクサク進んでいき、第3階層へと向かう転送陣の前までやってきた。
第1階層を攻略するのにかかっていた時間は約6時間。第2階層は約5時間なので、なかなかのタイムなのではないだろうか。
「迷宮に潜って、大体12時間くらい経過してるね。お兄ちゃん、キリがいいから今日はここで野営しようか。」
「そうだな。じゃあ、野営の準備をしようか。」
食事の後は、マツリのスキル取得である。
視力上昇Lv1・聴力上昇Lv1・筋力上昇Lv1・脚力上昇Lv1・腕力上昇Lv1・記憶力上昇Lv1・跳躍力上昇Lv1を取得して残りのポイントは100P。視力上昇・聴力上昇・筋力上昇・脚力上昇・腕力上昇・記憶力上昇・跳躍力上昇・幸運度上昇・パーティ編成をLv2まで上げて残りポイントは10Pなので今日はここまでにする。
「そういえばマツリ、生活系の職業はこのままでいいのか?根にか別のモノに変更するか?職人の王者Lv10を持っているから、どんな職人にもなることができるぞ。」
「ん~~~、そうだねえ~~。せっかくだから…。」
マツリが選んだ職業は、…錬金薬剤師だった。
食事の準備をしながらそんなことを話していると、転送陣の前の新たなパーティが3組現れる。
「先客がいたか。俺たちもここいいか?」
「別に構わないよ。これから夕食だけど、そちらさんはどうする?何なら一緒に作るけど?」
マツリがそんなことを提案してくる。まだ材料や調理器具を出しただけなのでなんとでもなるが、…まあ、マツリがいいと思えば別にいいか。私は、ただの傍観者だ。向こうの高ランク冒険者も、相方の意見に従うみたいだな。
「料理なんてしたことはないから、僕はお願いしようかな。材料は出すよ。」
「俺も頼めるか?俺の分はこれで頼む。」
「じゃあ、2人が持ってきている食材を出してみて。」
薪を挟んで、新人は新人、ベテランはベテランで分かれている。向こうはマツリに任せておけばいいだろう。何かあったら、私の所に来るだろうから。こちらは、親交でも深めますか。
「お久しぶりです。メザイヤさん、カラリスさん。お2人もこの依頼をしていたとは驚きました。」
「俺もだ。ここでアスカちゃんに会えたのは行幸だったな。」
「そうそう。これでまずい食事だけで過ごすことがなくなるよ。どうしても普通の食材はかさばるからね。」
メザイヤさんの相槌に、カラリスさんが追撃をかけて答える。よっぽどまずいんだな、固形食糧。私も一度食べたことがあるけれど、固形食糧は食べ物ではない。しいて言うならば、サプリメントだ。マツリのほうをちらりと見れば、2人が出してきた固形食糧に、表情が固まってしまっている。マツリも、1回は食べてみろと今日の昼に食べさせたからな。
そして、私のほうを見て、目で何かを訴えかけている。マツリが持っている食料では、この人数は持ちませんね。メザイヤさんとカラリスさんのほうを見れば、なんか目がキラキラしていらっしゃる。2人の新人君は、私たちの反応に少し困った顔を浮かべている。
「マツリ。今日のところは、私の空間保管庫の中の食材を使うから、作るのを手伝ってちょうだい。メザイヤさんとカラリスさん、あとそこの新人2人は、今日の夜寝番を願いします。」
「おいしい食事にありつけるのならば、そのくらいなら任せておけ。」
メザイヤさんが軽く返事をします。
「じゃあ、マツリ。ちゃっちゃと作ってしまおうか。」
「はい、おにい…じゃなかった。お姉ちゃん。」
そして私は、空間保管庫の中から、即席で考えた本日のメニューに使う食材を取り出す。
メインは、たっぷりとストックしてある麺類の中からスパゲティを選んだ。そして作る物は、ミートスパゲティだ。付け合わせに、大量に作って空間保管庫の中で寝かせてあるスープ類の中から、コーンポタージュを取り出す。後は、適当に選んだ野菜を千切って、ドレッシングで絡めれば終了だ。食後のデザートに、冷たく冷やしたアイスクリームとコーヒーかな。口直しのお茶は、今回はサービスしておこう。
「マツリは、スパゲティを茹でるのとサラダをお願い。私は、ミートソースを作るから。」
「うん、わかった。」
ダンジョン内では、ありえない量の水を使い、料理をする私とマツリ。
薪は焚いているが、その火は一切使用していない。なぜならば、私とマツリが使っている調理器具は、私特製の魔道具だからだ。魔力を込めれば、水を一瞬で熱湯にする寸胴鍋や、温度調節もできるフライパンなどだ。隠れた名店(私が開いているお店の名前)で売っている魔道具の中でも、大人気の商品でもある。
そして、15分ほどですべての準備を終え、今晩の夕食が完成する。
「やっぱりアスカちゃんがいると、食事のグレードが格段に上がるな。
それはそうと、これから先は、一緒に行動しないか?」
突然のカラリスさんの発言に、新人3人がきょとんとした顔になる。
「…ああ~~。ここに入るルールには、『1人で討伐しろ』とあったからね。」
私が、合点がいったとばかりに発言する。それに、メザイヤさんが追随した。
「お前たち。ここでいう『1人』とは、俺たち高ランク冒険者の力を借りずに討伐しろということだ。たまたま出会って、意気投合した新人たちがパーティを組むのは許されている。第5階層から先は、そもそも1人ではきつくなるからな。
パーティを組むのならば、役割分担はしっかりを決めておけよ。」
「あとは、…。さっきは、時間も時間だから、私がすべて食料を準備したけれど。本来ならば、自分たちで準備をしないといけないことだよ。固形食糧しか食べ物がないのならば、現地で調達するくらいのことはしなくちゃね。
荷物が嵩張るのが嫌ならば、アイテムボックスくらい覚えないと馬目よ。アイテムボックスは、魔法じゃなくてスキルだから覚えるのは簡単よ。…だけど、レベルが低いと中のモノが傷んでくるからね。」
「俺もそのことは初耳だ。アイテムボックスは、空間魔法の1つじゃなかったのか?」
ここでカラリスさんが食いついてくる。メザイヤさんを含め、このことは知らなかったようだ。なので私は、カラリスさんのステータスを使って説明した。
そうこうして、カラリスさんのステータスは、スキルポイントを使って大きくレベルアップすることになった。新人2人は、そもそも弄れるだけのスキルポイントが少なく、頑張ってポイントを貯めるらしい。
もっとも、《特殊スキル》の中の『スキル操作』というスキルがないと、ポイントを使ってのスキル取得はできないのだが。そのことはしっかりと説明してある。
ちなみに、メザイヤさんとカラリスさんには、私の持つ《特殊スキル》スキル譲渡Lv10を使って、スキル操作Lv1をプレゼントしてある。
メザイヤさんとカラリスさんは、さっそく自身のスキルポイントを使って、ステータスをいろいろと弄ったみたいだ。