冒険者になろう!!
マツリを奴隷から解放した翌日、私たち4人は、バルモアスにある冒険者ギルドに来ていた。今日の予定は、まずはじめにマツリの冒険者登録をするのだ。
ギルドの建物は、周りにある建物に合わせているのか、ルネサンス調の石造りの5階建ての大きな建物だ。中に入ると、喫茶コーナー左手にあり、右手には武器や謀議などが置かれた販売所があり、その奥にカウンターらしきものが見て取れる。私たちは、とりあえず奥のカウンターに向かう。20前後のカウンターが並ぶ反対側の壁には、依頼が貼られている長い掲示板がある。依頼は、各ランクごとに分かれ、さらに討伐系と採取系、護衛系に分けられていた。
とりあえずその依頼板は無視して、入口から一番手前にある『初心者登録』と書かれた窓口へと行く。
「おはようございます。冒険者ギルド『バーランチア王国バルモアス本部』へようこそ。冒険者に登録する方はどなたですか?」
受け受けに座っていたのは、兎の耳をはやした獣人さんだった。
「この子だ。後、魔物の素材は、どうやったら売れるんだ?」
私は、マツリの肩をつかんで2歩ほど前に出すと、折角なので空間保管庫内に塑像してある魔物を売りさばこうと考えた。
「君は、前の椅子に座ってください。魔物の素材は、討伐依頼の中から該当する依頼表とともに、一番奥のカウンターまで持っていってください。討伐した場所はどこでも構いませんが、その際は、依頼表の備考欄に、『討伐場所不問』と書かれているモノとともに出してください。」
「解った。私は、素材を売ってくるから、マツリはその間に登録をしておけな。」
「は~~い。」
マツリの返事を聞くと、私は該当する依頼表を探し出してから、一番奥のカウンターに向かった。
カウンターには、厳ついおっさんが座っており、大量の依頼料を手にしている私を少し睨んでいる。
「ここにある依頼表の魔物の素材と、討伐報酬を貰いたいんですが、いいでしょうか?」
受付のおっさんは、私が抱える依頼表の束を見て、少し顔が引きつっている。
「やけに大量にあるな。…ゴブリンにオーク、ポイズンウルフ…。それから天竜に地竜,水竜まであるのか!!
ここで出されるのは無理だな。俺と一緒に裏の倉庫までついて来い。」
おっさんはそう言うと、私を連れて裏口へと消えていった。
私がおっさんとともに、ギルドの裏で魔物の素材と格闘しているころ、マツリは冒険者ギルドの規則を受付のお姉さんに聞いていた。ミヤビは、門のところでついでに登録したため、ギルドの規則は詳しくは知らないため、マツリと一緒に聞いている。
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冒険者ギルド規則一覧
ギルドランクについて
(1)ランクは下から、G・GG・F・FF・E・EE・D・DD・C・CC・B・BB・A・AA・S・SSの14階級に分かれており、初回登録の際に行われる登録試験において、G~FFランクの間で初回のみ飛び級する。ランクの基準は次の通り。
《Gランク》駆け出し冒険者。町中の雑用依頼の見受けることができる。
《GGランク》駆け出し冒険者。町周辺の採取依頼のみ受けることができる。
《Fランク》見習い冒険者。町からある程度離れた場所までの採取依頼のみ受けることができる。
《FFランク》見習い冒険者。町からある程度離れた場所までの討伐依頼も受けることができる。ギルド所有の昇格試験ダンジョンに潜ることができる。
Eランクに上がるには、雑用依頼・採取依頼・討伐依頼を、それぞれ10件連続で成功し、尚且つギルド所有の昇格試験ダンジョンの10階層のボスを討伐すること。
《Eランク》半人前冒険者。1人で森の中(入り口付近)に入る事を許される。護衛依頼を受けることができる。
《EEランク》半人前冒険者。
Dランクに上がるには、所有の昇格試験ダンジョンの20階層のボスを討伐すること。
《Dランク》一人前冒険者。
《DDランク》一人前冒険者。
Cランクに上がるには、所有の昇格試験ダンジョンの30階層のボスを討伐すること。
《Cランク》一人前冒険者。
《CCランク》一人前冒険者。
Bランクに上がるには、所有の昇格試験ダンジョンの40階層のボスを討伐すること
《Bランク》一流冒険者。
《BBランク》一流冒険者。
Aランクに上がるには、所有の昇格試験ダンジョンの50階層のボスを討伐すること
《Aランク》ベテラン冒険者。
《AAランク》ベテラン冒険者。
Sランクに上がるには、所有の昇格試験ダンジョンの60階層のボスを討伐すること
《Sランク》化け物冒険者。
《SSランク》化け物冒険者。
(2)討伐依頼を受ける場合は、自分のランクよりも上のランクの依頼を受けることはできない。(自己責任においては受けることは可能)。上位ランクの者とパーティを組んでいる場合は、パーティメンバーの平均ランクの依頼まで受けることができる。
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つらつらと30分くらいかけて説明された後、マツリは最初の飛び級試験を受けた。その結果、マツリのランクは、Fランクに決まった。旅商人との旅で、戦闘経験があったのがよかったみたいだ。
ちなみにミヤビのランクがFFランクなのは、門での登録の際に、門番との模擬戦で5人抜きをしたからだ。
魔物の素材や討伐報酬、モンスターから出てきた魔石を売り払った金額は、なんと100億レシア(白昌貨10枚)になり、また無駄な金が増えてしまった。もう小さな国ならば、1国丸ごと購入できるのではないだろうか。いろいろな意味で…。
無事にマツリの登録も終わったことなので、これからは、マツリのレベル上げでもしましょうか。ついでにミヤビとともにギルドランクもサクッと上げてしまいましょう。私は、皆とともにギルド併設の喫茶室に入り、軽くお菓子をつまみながらこれからの予定を確認する。
「まずは、私たち4人をパーティとしての役割を考えようか。
ステータスやスキルふりを見るに、私は【戦闘系職業】が魔導師だから、後衛の攻撃支援で決まりだと思う。ミヤビとナオミの【戦闘系職業】は魔導剣士だから、前衛の攻撃役で決定だ。後マツリだが、【戦闘系職業】がただの戦士だからな。私たちのパーティには盾役がいないから、マツリをこれから盾役として鍛えていこうと思う。とりあえずは、マツリのステータス強化から始めるが、最終的には今話した通りにしようと思うが、マツリはそれでいいか?」
俺はマツリに確認をとる。
「ん~~。今のボクなら、どんな職業にでもなれるからね。今からその方面に向けて鍛えていってくれるのなら、ボクはこのパーティの盾役になってもいいよ。」
マツリの許可も取ったところで、早速行動に移る。
「では、ミヤビとマツリは、Eランクの昇格条件をクリアーするため、どんどん依頼を受けていこうか。…そうだな。マツリの特訓は、訓練2日、依頼1日、休日1日のローテーションでしばらくは行こうと思う。ある程度力がついてきたら、討伐依頼を中心にスキルの習得をしていこう。私の持つ特殊スキルで、スキルポイントやスキルを譲渡することはできるが…。今はマツリ自身が、討伐によってスキルポイントを習得していったほうが後のことを考えるといいような気がする。
だからマツリは、しっかりと訓練に励めな。
今日のところは、町中の雑用依頼を2人で受けて来い。その間に私とナオミで、拠点となる家を見繕ってくる。集合は日没前にここで。じゃあ、行っておいで。」
「は~~~い。」
ミヤビとマツリを送り出した私とナオミは、拠点となる家の間取りを検討する。
「私としては、建て売りの新築や中古の家を購入するよりも、広めの土地を購入してイチから家を建てたほうがきっといい家を建てることができると思うの。」
私がこう提案すると、ナオミが少し考えて意見を言う。
「家を建てるって言っても、どうやって建てるの?どこかで大工さんでも雇うの?」
「ああ、そのことか。私の職業系スキル『職人の王者』については話してなかったね。」
「ええ、確か聞いてはいないね。『職人の王者』って、どんなスキルなの?」
「このスキルはね。すべての生産活動系のスキルを最大レベル(Lv10)まで習得すると生えてくる上位互換のスキルなの。だから当然、建築関係のスキルも、ばっちり使うことができる。ぶっちゃけた話、土地と家を建てる材料さえあれば、私1人で建設することも可能なの。」
「そうなんだ。じゃあ、まずは、この町の中でそれなりに広い土地探しからだね。後、どうせなら、何か商売でもしてみない?」
「店か。それもいいな。」
方針が決まると、ギルドの受付で不動産屋を聞く。不動産は、道を挟んだ向かいに立つ商業ギルドで扱っているということなので、2人でそちらに移動した。
建物の中に入ると、目の前に受付カウンターがあり、そこに座っていたお姉さんに話しかける。
「ようこそ、商業ギルド『バーランチア王国バルモアス本部』へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「この町で土地を探しているのだが。」
「では、この番号札を持って奥のベンチでお待ちください。」
お姉さんはそういうと、『20』と数字が書かれた紫色の番号札を手渡してきた。私とナオミは、番号札を受け取るとカウンターが並ぶ前に設置されているベンチへと腰掛ける。
「紫色の番号札20番の方、5番の窓口へお越しください。」
しばらくすると窓口から呼ばれ、私とナオミは5番窓口の前にある椅子に座る。
「どのような土地をお探しでしょうか?ご予算に応じてご紹介いたします。」
受付に座っている髭のおやじが聞いてくる。
「今はまだ開くつもりはないが、何か商売を始めようと思っている。大通りに面してなくてもいいから、広めの土地が欲しいな。別に建物が建っていても構わない。予算は、とりあえず5千万レシアほどだ。」
おやじが私の回答を聞くと、王都の地図とともに数枚の紙をカウンターに出してきた。
「お客様の条件ですと、現在こちらの6件をご紹介できます。」
おやじは、1件ずつ地図上に位置を示しながら説明をしてくれた。
紹介してくれた物件は、広範囲に散らばっていたため、明日1日かけて現地を視察した後に決めてもいいと言われたので、お言葉に甘えてすべての土地を視察することにした。
そして、その中で私とナオミが選んだのは、商業施設が軒を連ねる第4区画の南端で、南門へと続く大通りから東に1本中に入った場所にある土地だ。
第4区画と第5区画を隔てる門からも近く、立地条件としてはとてもいい場所だ。土地の南側と西側、東側の南半分が第4区画の城壁となっている。城壁といっても、土地側から見れば2mほどの高さしかない。ここに建てれる建物の高さは、3階建てまではいいそうなので景観も良好である。
土地の形は、通りに面した部分が約5mほど、両隣の建物を挟んで20mほどの小道が続き、その先には、東西約50m、南北約20mほどの空き地になっている。場所的には1等地にあたるのだが、土地の形状と通りに広く面していないため、今まで買い手がなかったらしい。私とナオミは、小ぢんまりした隠れた名店的なお店を目指しているため、この土地に形状は理想的に見えたため即決で購入した。ちなみに土地のお値段は1500万レシアと、場所にしては結構安く購入することができた。
あと、この土地で何か商売をするために、商業権(1千万レシア)もついでに購入しておく。
さあ、明日から建物の設計に入ろうかな。