奴隷な妹の解放作戦
4人で今現在泊まっている宿、『金匙の黄昏亭』に戻った。これからはこの4人で行動することになるし、お互い見知った関係なので、部屋を1つに纏めた。そのため、今の部屋は、この宿の最上級の部屋に移動している。この部屋には、リビングを中心に寝室が4つあるからだ。ちなみに、奴隷だったマツリの分の宿賃は、しっかりと徴収された。
まあいいんだが。
奴隷だからと言って、モノとしてカウントされていないだけ、この宿は良心的だと、私を始め3人は宿に対しての好感度を上げていた。場所によっては、奴隷に食べさせる食事はないと言わんがばかりに、ほかの客が残したものを寄せ集めて出したり、そもそも敷居さえ跨がせてもらえず、裏庭に造られた檻の中に入れられることもあると、宿屋の女将が言っていた。そんな劣悪な環境下でも、しっかりと宿賃をとるらしい。
私たちは、初見で、いい宿に入ることができたのだ。
閑話休題
私は、鑑定眼で改めてマツリのステータスを見てみる。
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【名前】マツリ(奴隷落ちの際苗字を剥奪)
【種族】混血亜人種(エルフと人間とのハーフ)
【年齢】122歳【性別】女
【戦闘系職業】戦闘奴隷(レベル1)【生活系職業】奉仕奴隷(レベル1)
【奴隷契約】《契約主人》アスカ=ラングレイ=ヨシオカ《契約期間》購入金額を返済するまで(0/2,000,000)
【ギルドランク】《冒険者ギルド》《職人ギルド》《商人ギルド》
【称号】異世界転生者・借金奴隷・アスカ=ラングレイ=ヨシオカの奴隷
【加護】世界神の加護・創造神の加護・転生神の加護
【基礎ステータス】
《体力》2,100
《武力》2,000
《魔力》10,000
《知力》5,000
《俊敏力》5,000
《忍耐力》3,000
【所持スキル】
《スキルポイント》10P
《基礎ステータス補完スキル》
体力上昇Lv1・知力上昇Lv1・俊敏力上昇Lv1・忍耐力上昇Lv1
体力回復力上昇Lv1・体力使用量減少Lv1・魔力回復力上昇Lv1・魔力使用量減少Lv1
《生活系スキル》
ラグナレシア共通言語Lv10・異世界言語(第1,409,987世界地球内言語)Lv1・ラグナレシア種族言語(エルフ語)Lv10・空間把握Lv2・家事全般Lv10
算術Lv10・物理学Lv1・化学Lv1・奴隷の掟Lv4
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まず、スキルの名前を見ただけで、想像できないスキルがあるな。『奴隷の掟』というスキルだ。いったいどんな効果があるんだろうか。そんな事を思っていると、勝手に鑑定眼が、スキルの説明画面を出した。
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【スキル名】奴隷の掟
【初期取得ポイント】10P
【スキルの説明】奴隷になった時に奴隷商人の持つスキル『隷属の首輪』の能力で取得を強制させられるスキル。
奴隷商館や奴隷市で商品として陳列されているときは、特殊スキル以外、全ステータスが強制開示されている。
このスキルを持つ者は、主人の命令には絶対服従となり、取得しているすべてのスキルの使用が、主人の許可制となる。スキルレベルが上がるほど強制力が増加していく(Lv10の時は、所持しているスキルを主人に譲渡させることができる)ため、スキルレベルを上げる時は、主人のスキルポイントを使用することになる。
奴隷から解放されるときは、『スキル操作』もしくは、『隷属の首輪』の能力でないと抹消することができない。
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どうもこのスキルが、奴隷に落ちた時に対象者を縛るスキルのようだ。今のマツリのレベルは4だ。『スキル操作』でも変更や消去ができるみたいだし、サクッとやってしまおうか。そう思い私は、スキル操作を使って奴隷の掟のスキルをいじってみる。
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スキル操作からのメッセージ
スキル名『奴隷の掟』のスキルレベルを変更もしくは、スキルを消去しますか?
(1)スキルレベルを変更(YES/NO)
(2)スキルを消去(YES/NO)
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私は、(2)スキルを消去(YES/NO)にカーソルを持っていき、YESを選択する。すると、『奴隷の掟』が、マツリのスキル欄から消去され、それに合わせて填められていた首輪が取れた。いきなり首輪が取れ、体の自由が戻ったマツリは、何が起こったのか分からずにおどおどしている。私は、そんなマツリをとりあえずは放置しておいて、私とマツリのステータスを確認してみる。
私のステータスにあった『【奴隷契約】《契約奴隷》マツリ(借金奴隷)《契約期間》購入金額が返済されるまで(0/2,000,000)』という項目がなくなっており、マツリのステータスも、奴隷関係の項目がすべてなくなっていた。職業は、『戦士(レベル15)』と、『村人(レベル10)』の変更されている。どうも、奴隷に落ちる前の最終の職業とそのレベルに戻るみたいだ。しかし、剥奪された苗字も元に戻っている。
さてと。
マツリも落ち着いたところで、お互いの自己紹介をしようか。
「まずマツリ、君はもう奴隷ではない。何時まで床で正座をしていないで、空いている椅子に座れ。」
私は、何時までも床で正座をしているマツリを、椅子に座るように諭す。マツリが、空いている椅子に座ったのを見計らってから、改めて自己紹介を始める。
「まずは私から自己紹介をするぞ。
私の名前は、アスカ=ラングレイ=ヨシオカという。こんななりなんだけれども、マツリ。私は、お前の実の兄だ。マツリを私の奴隷にしたのは、手っ取り早くマツリを確保するためだったんだ。すまなかったな。」
「えっ!お兄ちゃんなの?ボクを奴隷にした事は、そんな理由ならば仕方がなかった事だったからいいんだけど…。」
「ああ、お前の兄だ。そういってもらえると、こちらの荷も下りる。私のことは好きに呼べばいい。ミヤビなんかはお兄ちゃんと呼んでいるからな。」
「ミヤビ…。」
「この流れだと、次はあたしだね、お兄ちゃん。
私がミヤビ。ミヤビ=ヨシオカだよ。2年ぶりかな?久しぶり、マツリ。」
「最後は私かな。私の名前は、ナオミ=カワスミ。あなたの兄の彼女だった女だよ。今は私が彼氏で、アスカが彼女になってしまったけれどね。男女が入れ替わっただけで、関係は今まで通りだから。」
「えっ!えっ!ナオミさんが男でお兄ちゃんが女…。わけわかんない。」
「まだ私たちですら、わけが解っていないんだ。まあ、じきに慣れていくだろう。
それはそうとマツリ。おまえの荷物は今着ているその貫頭衣1枚だけですべてなのか?」
私は、疑問に思っていることを聞いた。十中八九間違いないだろう。
「はい。お兄ちゃんが言ったとおり、今のボクの私物は、貫頭衣以外ありません。
空間保管庫内にあったものは、すべて借金のかたにとられてしまいましたから…。
その借金も、ボクがこしらえたものではなく、ボクとともに旅をしていた旅商人のモノだったんですが。その人は、この町に入った途端、ボクを奴隷商に売ってしまい、今はどこで何をしているのかは知りません。」
「…そうか、あれだけに借金。どうやって作ったのか、疑問に思っていたんだが。他人の借金を背負わされてしまったんか。」
「…でもお兄ちゃん。」
「なんだ?」
「あれだけの大金。どぶに捨てるような真似をしたけれど、本当によかったの?」
マツリが、申し訳なさそうに訪ねてくる。
「ああ、そのことか。それなら心配はいらない。今の私は、あれくらいの金ははした金なんだ。あの程度の金で、マツリを取り戻れたんだから別にいい。」
「えっ!はした金って。ちなみにお兄ちゃん。今どのくらい現金を持っているの?見ての通りボクは、無一文なんだけども。」
マツリが恐る恐る聞いてくる。そこで、私たち3人の現在の持ち金と空間保管庫内に保管してあるアイテムを確認することにする。その前に。私は、マツリの今の格好を上から下目で見る。2週間ほど風呂も入っていなかったらしく、少し煤けた感じで全身が汚い。銀色の長い髪も、麻紐で1つに纏められてはいるが、手入れもされてなくぼさぼさである。着ているモノは、貫頭衣1枚のみ。靴は履いてなく裸足だ。ついさっきまで奴隷だったのだから、当然といえば当然の格好なんだが。
「私たちの全財産の確認お前に、マツリ。何時までもそんな格好していないで、何か別なものに着替えようか。とりあえずミヤビ。」
「何?お兄ちゃん。」
「マツリと大体同じ背格好だから、ミヤビの服を下着込みでマツリにいくつか与えてやれ。私やナオミでは、背格好があわないからな。」
「わかった。もう奴隷じゃないのに恰好じゃあれだね。マツリ、それじゃあこれに着替えて。」
マツリはその場で、ミヤビからもらった服に着替える。着替える前に浄化の魔法で汚れを落としてやる。風呂はこの後皆で入りに行くから、とりあえず小奇麗にしただけだ。
「明日、マツリを冒険者ギルドに登録する。ギルドで登録し終わった後お金を渡すから、マツリの好きな服を買っておいで。」
私はそう言うと、着替えたマツリは、話を元に戻してきた。
「ミヤビちゃん、服ありがとう。話は戻るけど、お兄ちゃんたちの全財産を知りたいな。」
「あたしは、お兄ちゃんが持っている現金の額やその他諸々を知っているけれど…。お兄ちゃんから発表すると、世の中の理不尽さに怒りたくなるから、…一番最後ね。」
「…ああ、解った。ちょっと待った。3人には、私から1つスキルをプレゼントしよう。こう言う事には便利なスキルだ。」
「そんなこと、できるの?」
「ああ、ミヤビは知っていると思うが、私の特殊スキルに『収集家』というスキルがあってな。このスキルを使って指定したアイテムをコンプリートすると、スキルを1つ貰えるんだ。今回、ミヤビとマツリをコンプリートした時に、『スキル譲渡』という特殊スキルを貰えてな。このスキルを使って、『目録作成LV10』を3人に与えることにした。これでいちいち発表しなくても、紙に印刷することができる。」
私はこういって、サクッと3人に『目録作成LV10』を与える。このスキルを使用して印刷した4人のステータスと持ち物。
「お兄ちゃんだけ、ずるい…。」
マツリが呟いたこの一言が、世の中の理不尽さを端的に伝えていた。
「これからの予定なんだが、まずはマツリ、お前を冒険者ギルドの登録してから、マツリのレベル上げだな。ミヤビもそうだが、まずはランクを最低でもBランクまで上げてもらう。ミヤビはすぐだとは思うが、マツリは、スキルを見た感じ時間がかかるだろうからな。」
「そうだよね。私のステータスで、…FFランクって、詐欺だよね。」
「そうだな。でだ。マツリのレベルが上がり次第、当初の予定通り、ここ世界を観光していこう。私たちは全員長命種の血を引いているから、時間はそれこそ腐って売るほどあるからな。ゆっくり観光できるぞ。」
これからの予定を、さっくっと決めて今日1日が終了していった。