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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第3章-王都周辺にて-
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41-バカ貴族

お待たせいたしました

遅い更新ではありますが、読んでいただけると幸いです

 ウーデンの街を出発して、2日ほど経っている。

 領主様やミリル嬢には出発前にお別れをしておいた。それと、俺のふくろに入れておいた皆の洋服などは全部出して、ライド男爵の家に置かせてもらった。

 別に入れておいても容量的に問題は全くないんだが、ココアやアリサが着たい服を俺が持っていく事もないし。それに送り届けて帰ってくるだけなのでエルミアやリリの余所行きの洋服を持っていく必要もないしね。

 馬車の御者は基本ムゥさんにお願いすることにした。得意ということで自ら志願してくれた。エミリも御者を覚えようと、時たまムゥさんの隣に座って勉強している。

 それにしてもエミリには驚かされた。ここまでの道すがら、3度ほど獣に襲われた。リリとエルミアの魔法で気にすることもなく撃退したのだが、それを見ていたエミリがこんなことを言い出した。


「私も戦えるように強くなりたい。少しでもいいから教えて欲しい」


 エミリ本人に聞いた話だと、住んでいた村では母親と2人で住んでいたそうだ。家庭菜園の手伝いと母親のやっていた内職の手伝いをしていたくらいで、魔物や獣と戦ったことはないらしい。

 そんな彼女が何故急にそんなことを言い出したのか。気になったので聞いてみたんだが。


「その、私も変われるかなって。……あ、貴男に言われたからって訳じゃないわ! 今回のことがあって自分で……。そう、自分で考えたの! それで、迷惑なのはわかってるんだけど、貴男だったら頼れるし……! ち、ちがっ。今頼れるのは貴男しかいないって意味で! だからそのぅ……ぅぅぅ」


 何やら自爆しながら捲し立てられた。最後の方は言葉になってないし。なんだ、この……頬が勝手に緩む感じ。

 因みに返答は2つ返事でOKだ。可愛い少女の必死なお願いを断れるほど、俺の男は腐っちゃいない。

 それに何がきっかけかは分からないけど、変わりたいと思う、思える気持ちを無下にしたくないしね。

 そういえばエミリの蛇達も俺に慣れてきたらしい。最近は頭を撫でても甘咬みくらいで済むことが多くなっている。噛まれて痕がつかなくなっただけ進歩と呼べるだろう。

 ん? 頭を撫でない可能性? 何言ってんの、それ(頭を撫でる)を捨てるなんてとんでもない! あれはいいものだ。


「リュウイチさん、そろそろドールの村が近づいてきますよ」


 御者台からムゥさんの声がする。どうやら目的の村が近づいてきたか。

 ドールの村というのは、出発する前に依頼を受けた『バカ貴族が無茶してる村』だ。ウーデンの街から寄り道をせず馬車を結構飛ばしたので、これだけ早くつけたというわけだ。

 実はここまでの間、途中にいくつか村があった。安全に旅をするならばそれらに寄りながら、補給をして次の街へ向かうのがいいんだそうだ。

 まぁ『お風呂』があり、馬の疲労も魔法で回復できる。更にはふくろに大量に入れている食材と、結界で安全に美味しく野営ができる俺達には関係ないことだね。これを利用して輸送業者にでもなってしまおうか、はっはっは! ……なんか虚しくなってきたな。

 ムゥさんに分かりましたと声をかけて、村の状況について考える。

 貴族バカが無茶してる。そう言えば簡単だが、問題はどんな内容の無茶をしてるかだ。

 よほど酷い無茶ならギルドではなく近辺をまとめている貴族や、もっと言えば王族に話が行っているだろう。

 だが、もしこの村を纏めている貴族までもが巻き込まれていれば……。バカとバカの演奏会デュエットだ、考えるだけで頭が痛くなってくる。

 まぁ考えた所で実際の状況を見てみなければ分からないんだけど。


「止まれ! この村に何の用だ、身分証を提示してもらおう!」


 考え事をしている間にどうやら村の門まで辿り着いたみたいだ。門番が声をかけてくる。

 ……それにしても、これくらいの村の門番がここまで高圧的にしてくるだろうか。

 ドール村の大きさは、俺が知っている街で比べるとザンドウ以下レイゲンス村以上だ。まぁ比べる物が少ないのでなんとも言えないが。


「あぁ、ご苦労。これでいいか?」


 馬車から出て、アーネス子爵から貰った名誉貴族証を提示する。もちろん尊大な態度も忘れない。


「ふん、どれ……。き、貴族様でございましたか! この度の無礼な振る舞い、平にご容赦を!」


 俺の手から身分証を引っ手繰った後、大量の汗を掻きながら謝ってくる。こいつもここに住み着いているという貴族を怖がっているのだろうか。


「問題ない。貴殿は門番の勤めを果たそうとしたにすぎないからな。この調子で、村の安全を守ってくれ」


「ははっ! お言葉、有り難く頂戴いたします!」


 俺の言葉に自分の胸を叩き、敬礼をしてくれる。なんだ、そんなに悪い人じゃなさそうだ。

 門を通り、体を休めるべく近くの宿に入る。寂れた感じの宿だったが、中に入ると隅々まで掃除が行き届いており、清潔感のある宿だった。


「……おや、お客かい? 珍しい事もあったもんだ」


 受付で誰かいないかと辺りを見回していると、奥から肝っ玉母さんといった風体の女性が現れた。


「えぇ、5人と馬車なんですが、泊まれますか?」


「もちろんだ。ここんとこあのバカのせいで村を訪れる奴なんていやしなかったからね。……おっと、今のは外に漏らさないどくれよ。バレたら潰されちまう」


 カラカラと笑いながら宿の説明をしてくれる。とりあえず3日の契約を交わし皆に荷物を部屋まで運んでもらう。

 その間俺は女将から情報を聞き出すことにした。


「ところで、さっき言っていたバカってのは噂に聞く無茶ばっかりする貴族の事かい?」


「おやまぁ、色んな所に話が回っているんだねぇ」


 ウーデンの街から旅をして居ることを告げた後、何の気なしに聞いてみると驚いたような呆れたような、どっちともつかない口調で話し始めた。

 30日ほど前から、村の領主 (男爵位)の屋敷に名誉貴族が住み着いた。それからというもの、村の娘を屋敷に呼んで乱暴を働いたり。住んでいる亜人に言いがかりをつけたり。屋台の売り物に対してケチを付けては値切って、応じないようであれば魔法を使って脅したりという行為を働いている。

 領主に苦言を呈してみたが、何を考えているのか『貴族に歯向かうな!』と一蹴されてしまい、それ以降村では被害に遭いながらも泣き寝入りをするしかない状況にあるらしい。

 挙句の果てには旅の途中に立ち寄った商人や冒険者にも同様の行為を働いているらしく、最近では村に訪れる者も少なくなってしまったとのこと。

 聞けば聞くほど反吐が出るような話だ。領民を守る貴族のやる事は思えない。

 話をしている内に荷物を運び終わったみたいなので、女将にお礼を言って部屋へと移動した。


「あらあら、よっぽど性根が腐ってるのね。それで、どうするの?」


 女将から聞いた話を伝えると、エルミアがそう溢した。聞いていた皆も苦虫を潰したような表情になっている。


「とりあえず今日は普通に村の中を観光するつもりだよ。皆は部屋で休んでもいいし、俺と一緒に行動してもいいけど。どうする?」


 そう聞くと、エルミアとムゥさんは宿に残るらしい。ダークエルフが扱う魔法について、ムゥさんがエルミアに教えてもらうらしい。学院の講師として興味があるそうだ。

 そしてリリとエミリは俺と一緒に村を見て回ると言ってきた。二人の言葉によると


「ご主人さま、居るところに、私有り……です」


「別にやることもないし、どっか行くって言うなら付いて行ってもいいけど?」


 とのこと。いやあ二人共わかりやすい。……片方はわかりにくいな。

 まぁ気にしてても仕方ないので、3人で村を歩いてみることにした。



 宿を出て、ひとつ気づいたことがある。この村には亜人 (獣人に限るが)が多い。半分くらいが獣人である。普通に歩いていたり、お店をやっていたりと様々で、奴隷などは殆ど見かけない。

 気になる点といえば、獣人に限って言えば怪我が多い点だが。もしかしてほとんど貴族バカのせいなのであろうか。


「それで……どう、しましょう」


 一つの雑貨店に入った所で、リリが話しかけてきた。


「んー? 何が?」


「貴族の……依頼、です」


 ウーデンの街で受けた依頼をどうするのかということらしい。まぁ急ぎめでこの村に来たのも、この街で泊まるのもこの依頼のためだからそうなるか。


「まぁ、2,3日は様子見だね。この間に色々と情報を見つけて、何もなかったら直接領主に聞きにくし。もしその間に何かあればそれを抑える方が楽だしね。」


 これは道すがら考えていた事だ。あまりに村の状況が酷いようであれば動いたけど、ドールの村は旅人が少なくなっているが、村人の不満が噴出する程じゃない。

 そして女将から聞いた話や、村人の立ち話なんかを聞いてても『住み着いた貴族バカ』への不満はあっても、『領主』への不満は少なかった。

 普通ならこの状況を生み出した領主に対しても不満が出てくるはずだが、精々『何をお考えなのかねぇ』くらいしか聞いていない。

 今回の件に関しては、今のところ情報が圧倒的に少ないのだ。

 ここで貴族バカに喧嘩を売った所で、アーネス子爵の子飼いは血の気早いとか悪い噂が立ちそうだしね。

 さて、情報収集ついでに折角他の村に来たんだし、観光と洒落込もうじゃないか。……いや、ついでは情報収集のほうか?


「………! ……………っ!!」


 そんな事を考えながらリリと一緒に商品を見ていたが、何やら外が騒がしいことに気づいた。……何だ?

 気になってリリを連れて店を出る。


「汚らわしい! 貴様ごとき魔人族がこの私の前を歩くとは!!」


 汚らわしい銀髪のガマガエルが、エミリに対して怒鳴っていた。言葉に怯えているのか、商人の元に居た時を思い出したのか服の裾を掴んで下を向いている。

 周りの雰囲気からして、あのガマガエルが住み着いた貴族(バカ)なのだろう。整った服を着ているし、高そうな装飾品を身につけている。

 ……っていうか最近あの手の奴と縁があり過ぎないか、俺。


「えぇい! 邪魔だ!!」


 白熱したのだろう、ガマガエルが手を振り上げる。


「………っ!」


 打たれることを覚悟したのか、エミリが目をつぶり掴んだ裾を力強く握る。それを見ていた村人達がヒッと短い悲鳴を漏らす。


 バキィ!!


「………? ……あっ」


 何時までたっても打ち付けられない衝撃を不思議に思ったのか、エミリが顔を上げ声を漏らす。

 エミリの目の前では、手を振り上げていたガマガエルが顔面に足跡を付けて後ろに倒れこんでいるところだ。彼女を守ったヒーローが現れたのだ。


「うちの娘に何してやがりますのん? この薄ら頭頂てっぺんハゲ! 135回ぶっ転がすぞ!?」


 うん、もちろん俺だ。カッとなりすぎて口調がメチャクチャになってしまった。

 とはいえ俺もきちんと抑えている。ここでのポイントは『殺す』ではなく『転がす』にした所だな。なんか意味合いがマイルドになるじゃない?

 因みにだが135回っていうのも理由がある。『汚らわしい』『貴様』『ごとき魔人族』『この私』『邪魔』というムカつく言葉に対して、俺とエミリとリリが受けた屈辱と怒りと悲しみをかければ5☓3☓3☓3で計135だ。

 情報なんて目の前の大事に比べれば小さい小さい。事件は現場で起こっているって昔なんかの映画で言ってたし。

 え、さっき言ってたのは何だったのかって? 諸君、人というものは常に前に進むものなのだよ。


「大丈夫だった?」


「え……あ……、うん。」


 倒れたガマガエルを無視してエミリを抱えて少し下がる。声をかけたら怖かったのか声が震えていた。


「アブラハム様! 大丈夫ですか!!」


 声がしたのでガマガエルの方を向く。ガマガエルは2人の従者に支えられて腰を上げていた。そうか、あいつアブラハムっていうのか……名は体を、いや、ハムと油に失礼だな。ごめんなさい。


「ぐぐぐ。貴様ぁ、この私がスート・アブラハム名誉准男爵と知っての狼藉か!」


 身体を起こしたカエルが顔を真赤にしながらゲコゲコ鳴いている。スート・アブラハムねぇ……。


「悪いが聞いたこと無いな。どっかの無名な貴族から拝命した名誉職なんだろう。」


 ライド男爵の屋敷で鬼教官 (ライド邸のメイド長ヴァルさん)に教えてもらった貴族リストには載ってなかったしね。

 思ったことを素直に言ってやると、顔だけでなく首や手など体中を真っ赤にしながら怒り狂っている。……病気じゃね?


「き、貴様ぁ!」


「あぁそれと、爵位を持ち出すならお前程度が俺に対して使っていい様な言葉遣いじゃないな。」


 更に怒りをぶつけようとしているカエルに、子爵から受け取った貴族証を見せてやる。

 訝しみながらもそれを見て、さっきまでの赤い顔が嘘のように青くなる。だから、それは病気だって。

 そういえばこの世界の爵位だが、国王を除いて公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、准男爵、士爵となっている。正確には男爵までを貴族と呼びそれ以下を准貴族と呼ぶらしい。

 男爵以上の各爵位には、自分の爵位以下の名誉貴族職を与えることができるらいい。まぁ、数は少ないけどね。

 そういう意味で考えてみると、目の前のカエルを貴族と呼んでいいのか疑問に思うが。名誉職でしかも准男爵だぞ? ホストクラブの主任のようなものだ。無駄に役職名だけついてるっていうアレ。


「身の程が解ったようだな。お前はこの村の領主の元に身を寄せていると聞いた。私の連れを侮辱した挙句手を出そうとし、更に私に対しての暴言。……明日にでも詳しい事を領主の家に聞きに行こう。屋敷で待っているが良い。 そこの従士、そいつを屋敷へ連れて帰れ!」


 口を挟めないように続けて言い放つと、カエルは大量の汗を流しながら従士に連れられて屋敷へ引き上げていった。

 因みにだが、有言実行するためにカエルの頭頂部に持続的な風魔法を撃っておいた。これであいつの頭頂部は河童のようになるだろう。


「ご主人様……おつかれ、様です」


「え、えっと。その……。」


 2人が近寄ってねぎらいの言葉を掛けてくれる。うん、嬉しいけどそれどころじゃないんだ。

 近寄ってきた二人を両脇に抱え上げる。エミリが『キャッ……。ちょっ』と言っていたが気にしない。いや、気にしていられない。


「宿まで逃げるぞ!!」


「「え、えぇっ!!」」


 そして俺はその場から逃げ出すように走りだした。そう、野次馬に囲まれた場から逃げ出した。

 拍手喝采の中を美少女二人に労われながら偉そうにしているなんて俺には無理だ!

 宿に帰って赤い顔をしたエミリに怒られたのは言うまでもないだろうが、リリにまで怒られたのは計算外だった。なんでもエミリを抱えている時の手の位置がダメだったらしい。……なんのこっちゃ。

呼んでいただいて、有難うございました

更新頻度が遅くなる一方で、読んで頂いている皆様には、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

これにこりず、また呼んでいただけると幸いです

次回更新は未定です。

よろしくお願いします

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