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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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40-出発前にやっとくこと

 ウーデンに到着して、俺達は早速これからの予定をランド男爵に報告する。だが、ランド男爵から帰ってきたのは想像してなかった返答だった。


「そうか、わかった。ただアーレス、お前はここに残れ」


「…………えええええええええええ!?」


 皆が集まっている男爵邸に、アリサの叫び声場響く。……鼓膜破れるかと思った。ココアが声にビックリして眼を回している。


「何でよ! お父様!!」


 今にも飛びかからんばかりの勢いでアリサが男爵に詰め寄る。おぉ怖。

 男爵の話によると、『貴族の娘としての最後のお仕事』が残っているらしい。冒険者として活動するのを認めたが、それはいままでの『失踪した』から『貴族の娘が冒険者になる』ということに変わることになるとのこと。

 それに伴い、失踪していた期間の状況説明。それと冒険者として活動する旨を他貴族達に説明しなければならないとのこと。

 ぶっちゃけ今までやってきたことの尻拭いだな。

 これでも男爵が働きかけて軽くした結果なのだ。本当なら王城でキラキラの服を着て夜会で説明しなければならなかったらしい。それを聞いたアリサがブルブルと震えていたのでよほど恐ろしいのだろう。

 そういったこともあり、アリサは今回お留守番となった。さて、それなら今回送り届けに行くメンバーだが……。


「私はリュウイチに着いて行くわ。帝国の近くにいる仲間たちのことも気になるしねぇ」


 最初にエルミアがそう声を上げた。それというのも、エミリが住んでいたのはラスト帝国近くの村だからだ。

 どうせ近くに行くのなら、住み別れたダークエルフの村を訪問したいらしい。これでエルミアは決まった。


「私も……行きたい、です……」


 次に声を上げたのはリリだ。正直この申し出はありがたい。送り届ける旅とはいえ、同じ種族であるリリがいたほうがエミリも安心だろう。

 気になるのは帝国の近くへ行くことになるため、亜人差別がひどくなるということだ。

 とはいえリリは長い前髪で赤い瞳を隠しているし、ぱっと見では魔人族だとわからない。それにエミリと二人で行動していれば、何かあっても俺が気づくのも早いだろう。

 その点エルミアは心配ないだろう。ダークエルフが好戦的で魔法を使うことは知られているし、この性格だ。一人二人手篭めにしていてもおかしくない。……しない、よね?

 問題なのはココアだ。純粋な亜人だし、これまでの経緯もある。人の敵意に敏感なのだ。出来る事ならアリサとお留守番をしてもらいたいが……。


「ココアは……ココアは……。う~ん、なの」


 一緒に着いていくか、アリサの元に残るか迷っているようだ。

 着いて行きたいけど、そうなったら一人で残るアリサが寂しいかもしれないと思ってくれているのだろう。俺とアリサの顔を交互に見ながら悩んでいる。この娘、えぇ娘や!


「ココアはアリサが寂しくないように、一緒にお留守番してくれるかい?」


 助け舟を出す意味でも、ココアの頭を撫でながらそうお願いする。

 俺の言葉に『寂しくって……』とアリサが呟いているが気にしない方向で。うん、俺睨まれてない。睨まれたことがない!

 ココアは頭を撫でられながら、くりっとした眼で俺の方を見つめてくる。そして少し考えた後、明るい声で答えてくる。


「はい、なの!! アリサと一緒にお留守番して、アリサを守るの!!」


 キラキラした笑顔で返してくれる。か……可愛いっ!!


「ありがと~! ココアは私と一緒よね!!」


 心のままにココアを抱きしめようとしたが、それは感極まったアリサに先を越された。さっきまで落ち込んでいたのが嘘のような喜びようだ。腕の中のココアが『む~、くるしいの~』とイヤイヤしてる。……後で説教だな。

 思いがけない事もあったが、これからの予定が決まった。ムゥさんとエミリが泊まる宿に金を払い、俺達は旅の準備の為街に繰り出した。












「んで、どうしてこうなった……」


 街の服屋で、俺の呟きが響く。


「これよこれ! この娘の紫にはこの色が合うのよ!」


「ベージュよりも黒のほうが合うと思うわぁ」


「この青のも……合います!」


「ちょっ……あんたたち……わぷっ。それくらいで……」


 俺の前ではキャイキャイと騒ぎながら色んな服をエミリに着せている女子達がいた。

 本当は王都までの旅に必要なものを買いに来たはずだった。そこでココアが爆弾を投げ込んだのだ。


「ムゥもエミリも服がボロボロなの~。新しい服を買うの!」


 もちろん俺もその予定だった。きちんとした服を着てもらう予定だったのだが、それに頷いた俺にアリサとエルミアが食いついた。


「「エミリの服を買って(着せ替え人形にして)いいの!?」」


 それからあれよあれよという間にこの状態である。早々に簡単な服を決めたムゥさんは俺の隣で苦笑いしているし。


「まぁ……、女性の買い物は長いといいますし」


 最初は二人の服を買うと言った俺達の言葉に遠慮していたが、嬉々として服を選ぶ彼女たちを見て色々と境地に至ったらしい。

 そんなムゥさんに皆を任せ、俺とココアは冒険者ギルドで素材の換金と、王都までの道のりの確認をする。

 ギルドの受付さん(今回もメガネを外している……クッ)からお金の入ったふくろを受け取りながら、王都までの地図を見る。

 図書館で確認した時も思ったが、ここウーデンの街はアリストア王国では辺境の街だ。王都までの間に大きな街が2つ。小さな村まで含めると10ほども村を通過することになりそうだ。


「おや、どうしたんだ? 地図を睨んで。どっかに遠出でもするのかい?」


 地図とにらめっこしている俺に、ギルドマスターのウィッツェさんが話しかけてきた。


「えぇ、王都までちょっと」


「なんだ、正解だったか。……ここで活躍して、評判を上げてくれるのを狙っていたんだけどね」


 俺の返答に笑いながら軽口を返してくる。表情から本気で言ってないのがわかる。いいおっさん的な感じだな。


「はははっ、そいつは帰ってきてからにしてください」


「それもそうだな。……そうだ、王都まで行くのであればこの依頼を受けてくれないか?」


 笑いながら1枚の依頼書を取り出してくる。依頼内容は……村の確認?


「これは?」


「あぁ、ここからショウキの街の途中にある村なんだがな。なんでもその村に貴族を名乗る男が住み着いたらしいんだ。名前を聞いても知らない名前なので名誉貴族だとは思うんだが、住人への態度が横柄でな。その調査と可能ならば排除……移り住むのをお薦めしてもらいたいんだ」


 簡単に言うと村に変な貴族が来たので追っ払って欲しいということだろうか。それにしても冒険者ギルドにこんな依頼を出されるほどの貴族って……どないよ。

 そう思い聞いてみると、ウィッツェさんも困っていたようだ。いくら名誉貴族とはいえ貴族は貴族。おいそれと手を出してバックに睨まれでもすれば大変だ。

 本当は領主の子爵様にお願いしようとしていたらしいが、そこに名誉爵位をもった俺が登場したというわけだ。ふむ、偉そうな貴族を追い出すとかなんとも俺らしい。


「わかりました、その依頼受けさせてもらいます」


「おぉ、受けてくれるか! 報告は他の街でも出来るように通達しておこう。報酬は金貨20枚と依頼中手に入れたものでいいか?」


 金貨20枚とか破格の報酬じゃないか? それに依頼中手に入れたものということは……追い出した貴族の持ち物なども含まれるのだろう。

 まぁ、その貴族が噂通りじゃないちゃんとした人ならそんなことは起こらないだろうけど。望み薄だろうなぁ。

 依頼を受け、手続きをして服屋へ戻る。もちろん道すがらはココアと手を繋いでいる。

 変態……? 何を言うか! 返ってくるまでココアと会えないんだぞ!? ここにいる間にココア分を補充するのは当然というものだ!!

 誰にかは分からないが言い訳をしつつ、服屋のドアを開けた。


「ヒラヒラのスカートにスパッツは外せないわよね!」


「あらあら、スパッツの上は短いパンツの方が動きやすいわよねぇ」


「紫の、スパッツを見つけました!」


「「それよ、リリ!!」」


「スパッツは決定なのね……」


 そこには、出る前と同じ光景が広がっていた。心なしかエミリの蛇達が元気なさそうだ。


「あ、あはは……。女性の買い物は……」


 一つ変わっていたのは、それまで苦笑いだったムゥさんの笑顔が引きつった表情になっていたことだった……。




 「「「かんぱ~い!!」」」


 買い物も終わり、明日にはウーデンを出発するのでその前に皆で宴会を開いた。送り届けるまでとはいえ、アリサとココアの二人とは離れることになるしね。


「うぅぅ……なんで留守番なのよぉ」


「あらあら、私に言われてもねぇ」


「はい、申し訳ないです」


「ココアも! ココアも留守番なの!!」


「アリサを……よろしく」


 4人とムゥさんは楽しんでいるようだ。……っていうかアリサ酔ってない? ムゥさんに絡んでるように見えるんだが。

 運ばれてきた料理を摘みながらその光景を微笑ましく見る。こういうのって、いいよなぁ。


「ちょっと、いい?」


 皆を眺めていると、エミリが近づいてきて喧騒に紛れるように声を掛けてきた。なんだろう?


「アンタは……どうしてこんなに良くしてくれるの? ムゥさんはまだいいわ、王都でお返しができるんだもの。でも、返せるものもない、魔人族でしかも魔物娘の私なんかに。」


 後半は消え入りそうな声量で、最後に『……同情?』と呟いていた。


「……そうだね、同情っていうのもあるかもしれない。でも……」


 そこで言葉を止めて、騒いでる皆へ視線を向ける。俺の言葉に少し悲しそうな顔をしたエミリも、俺の視線に釣られて皆を見る。


「エミリは、この光景をどう思う?」


「この光景……?」


「そう、人間族がいて、獣人族がいて、ダークエルフがいて、魔人族がいて。……皆、笑ってる。」


 その言葉を聞いて、不思議そうにしていたエミリがもう一度皆を見る。


「……信じられない、わね」


 悲しそうな、羨ましそうな、そんな表情を浮かべている。でも、そんな表情の瞳の奥にキラキラした希望の光が少しだけ浮かんでいる。


「ココアはね、前まで他の人間族の奴隷だったんだ」


「……え?」


 唐突に話を変えた俺に、エミリが怪訝な表情を浮かべる。


「その主人ってのが最低な奴でね、ココアに名前も与えず、虐める。挙句の果てに魔物の前に置いて逃げ出したんだ。思惑が外れて死んでしまったけどね」


「…………」


「リリはね、親を無くした後、同じ魔人族に売られて奴隷になったんだ。奴隷になってからも能力を上手く使うことが出来ずに主人に苛められていた。まぁそいつには俺が恐怖を植えつけてやったんだけど」


「……そう、なの」


 アリサを弄ったり、ご飯を食べて嬉しそうにしている二人の過去を知って絶句するエミリ。

 今の二人を見て、そんな過去を持っているとは思えないだろう。


「そんな悲しい過去のある二人だけど、今はこうして楽しく笑ってる。本人の気持ちの切り替えもあるけど、それはとても尊いものだと俺は思うんだ」


 そこでもう一度言葉を区切り、エミリを見る。

 自分と二人の違いを見て、辛くなったのか視線を下げている。羨ましいと思ってしまった自分を恥じているのか、唇を噛み締める。

 そんなエミリの手を取り、話しかける。


「エミリも、辛いことがあったと思う。けど、これから二人のように笑顔になれれば。その笑顔を見れれば、俺は嬉しいな」


「なっ……そっ………」


 そう言うと、俺の行動に不思議なものを見る顔をしていたエミリの顔が真っ赤に染まった。頭の蛇達も慌てたように視線を彷徨わせている。

 言いたいことが口から出てこないのか、「あわ、あわわ」と唇が震えている。うん、これもこれでかわいいな。


「わっ、私は貴男の奴隷になんてならないわよ!」


 俺の手を解いてそう叫ぶ。ありゃ、そういった意味で捉えたのか? 元気づけられればと思ったんだが、失敗失敗。


「エミリもリュー様の奴隷なの?」


「だからならないってば!」


「ライバル……登場」


「何言ってんの!?」


「あらあら、熱い告白ねぇ」


「だ・か・ら!」


「着せ替えし放題!?」


「何言ってんのー!?」


 叫んだことで、俺達が話していたことに気づいたのかエミリに寄ってくる皆。エミリも皆にもみくちゃにされながら全部に突っ込んでいる。


「あはははは、楽しいですねぇ」


 それを見て笑いながらムゥさんが俺の横へ来る。


「あの娘の元気な表情が見れてよかったですよ。私が連れられた時から、落ち込んだ表情しか見てなかったですからねぇ」


 嬉しそうにそう呟いている。そうだよね、子供 (特に女の子)は楽しそうに笑ってほしいよね! あの笑顔だけで2食分の価値はあるよね!


「あ ん た も ! 何を言ってんのよ!!」


 皆で笑いながらも俺に突っ込んでくるエミリ。ありゃ、また漏れてたか? まぁ、楽しいからいいや。



 その宴会の帰り、疲れて寝てしまったココアを俺がおぶり、酔っ払ったアリサにムゥさんが肩をかして、リリとエルミアは手をつないでいる。

 俺はといえば、あの答えはエミリの質問の答えになってなかったなぁなんて思いながら歩いていた。

 そろそろ男爵邸に着くという時、俺の隣を歩いていたエミリが俺の手を握った。


「さっき……励まそうとしてくれたのは分かったから。……その、ありがとう。」


 下を向いて最後の方は消え入りそうな声で呟く。なんという……破壊力や。

 あまりの破壊力に声も出ない俺は、どうにかしてこの気持を伝えようとエミリの頭に手を乗せる。


「「「あ」」」


 成り行きを見ていたムゥさんにエルミア。そして俺の言葉が綺麗にハモる。

 この……この流れは。






「いででででででっ!!」


「わぅっ!? なになに?? なんなの~!?」






 俺の叫びとココアの驚いた声が、街の夜空に響き渡ったのだった。


 ……っていうかムゥさんにエルミア! 見てたんなら一声掛けてくれてもいいじゃないかっ!!

呼んで頂き、有難うございます。

又次回、よろしくお願いします。

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