39-超兵器
「皆、大丈夫だったか?」
3人の男達を縛り上げ、残りの4人と戦っていた皆を見る。
「勝ちなの!」
「無事……です」
俺の言葉にココアとリリが答える。アリサとエルミアは倒した男達を縛り上げているようだ。怪我もなさそうだし、よかった。今更これくらいの連中相手に負けるとは思っていないが、心配なのは心配なんだ。
盗賊(仮) との戦いはすぐに終わった。
俺の方は3人の足元を凍らせて、動けない所をチョップで気絶させて終わり。ぶっちゃけ1分もかからなかった。
「わ、私の護衛たちがこんなに早くやられるなんて!」
後ろから男の声が聞こえた。そうだった。この豚がまだいたんだった。
やれやれと思いながら声の方へ視線を向けた所、豚が驚いた表情でこちらを見ていた。
「…………」
「…………」
視線が交差する……。ウェッ。
「かかれー!」
「うわわわわわ!!」
俺の号令と共にココアが豚に飛びかかる。慌てて逃げようとした豚はバランスを崩して馬から落ちた。
そこをココアが手際よく縄でグルグルにする。はい、簀巻きの一丁上がり。
誇らしそうに戻ってきたココアの頭を撫でて、縄から抜けだそうともがく豚に近づいていく。
「ヒッ。……た、頼む! 見逃してくれ!! そいつらを奴隷として攫ってきたことは謝る。
……か、金もある! 欲しいならいくらでも払おう!!
そうだ! 貴様を高名な冒険者として扱うようギルドに言ってやろう! 攫ってきた奴らも責任をもって街に返す。だから、だから助けてくれ!!」
俺が近づくとあれよこれよと自供してくれる。それを無視して更に近づいていると色んな条件を言ってきた。……こいつ。
「……救えねぇな」
「は……え?」
ぼそりと呟いた俺の言葉に気の抜けた声を返す豚。よく見ると股から液体が染み出している。
それを見た俺は、豚から離れて気絶している盗賊達の元へ歩いていく。
「よっと」
武器や縄から抜けれるような道具を外し、気絶している盗賊たちを豚の周りに投げる。
アリサとココア、それと攫われた二人は俺を呆然と見つめている。
リリはそんな俺を見て、近くに倒れる盗賊から武器等を外して馬車に積み込む。
エルミアは気にも留めず馬を撫でていた。
「な、何を……?」
最後の男を投げ終わった所で豚が声をかけてくる。
「……そうだな、見逃してやるよ」
「「「!!」」」
俺の言葉に豚と攫われてきた二人が驚きの表情を見せる。
「お、おぉ……それでは「ただし! 」……」
続けて嬉しそうに話そうとした豚の言葉を遮る。
「それは『俺達は殺さない』というだけだ。お前たちはここに置いていく。」
そう続けた俺の言葉に、豚の表情が青ざめる。
「縄で縛られて動けない、更に血の匂いをさせている。だけど運が良ければ魔物や獣に襲われる前になんとか逃げれるかもな」
そう言い放ち、皆と攫われた二人を馬車に乗せる。狂ったように『助けてくれ』と叫ぶ豚を無視して俺は馬車を走らせた。
街道をしばらく走らせて、エルミアと従者を交代した。
「あ、あの……。ありがとうございました、助けて頂いて。それで、その……」
座ってリリの入れてくれたお茶を飲み終わったところで、攫われた男性が話しかけてきた。……そういえば助けたはいいけど詳しい話とかなんにも聞いてなかった。というか名前も知らないし。
「いえ、いいんですよ。ただ私があの男を許せなかっただけですから。言い方は悪いですけど、運が良かったと思っていただければ。……申し遅れました、冒険者をしていますリュウイチです。よろしく」
「あっ……。す、すみません! 私は王都で学院の講師をしていますムゥといいます。」
俺がそう言って手を差し出すと、攫われた男性改めムゥさんは慌てたようにそれを握り名乗ってくれた。……もしかして、俺怖い人だと思われてる?
「それにしてもその……、大丈夫なのですか? あの男を放置しておいて」
自己紹介も終わったムゥさんはそんな事を聞いてくる。何のことか分からなかったので聞いてみると、あの男は奴隷商人としてそこそこ有名な男で、更に執念深い。もし助かった時は必ず復讐をしてくるだろうとのことだった。
「あぁ……、大丈夫ですよ。もし来ても何度でも返り討ちにしてやります」
そういって笑ってやると、安心したのか強張っていた表情が安堵に変わった。
心配してくれたムゥさんはありがたいが、あの豚が生きて帰ることはほぼないだろう。
あの時、俺達が戦った場所の近辺には大型の獣の巣が2つあった。俺のしようとしていることがわかったのか、馬を撫でていたエルミアが、風を操作して男の血の匂いを獣の巣へ流していたのを確認している。
つまり、俺達が立ち去ってからすぐにでも盗賊たちが目覚めない限り助かることはないだろう。人を人とも思わないようなやつには当然の報いだ。
「あぁ、それとこの娘は……ほら、エミリ」
俺が盗賊たちのことを考えていたのを違う意味で捉えたのか、ムゥさんが紫髪の少女の背中を押した。
「…………エミリ、です」
背中を押された少女は、言葉少なに俺を睨みながらそう名乗った。
声につられて少女を見る。魔人族特有の赤い瞳。そして一番特徴的だったのは、紫色のパーマがかった髪だと思っていたもの。それはなんと、紫色の蛇だった。
「魔物娘だったのか……」
エミリと名乗る少女を見て、そんな言葉が出てしまっていた。
ウーデンの街で呼んだ書物で見たことがある。今は絶滅した魔物『ゴルゴン』の特徴である蛇の髪。それを覚えていた俺が呟いてしまったのも仕方がないと思う。
俺の呟きが聞こえたのか、エミリの視線がキツくなる。
「そうよ? 私は魔物娘だわ! これだから人間族なんて信用出来ないの! どうせ気持ち悪いとか思ったんでしょ!!」
俺の言葉に不快感を露わにしたエミリがそう言い放ち、そっぽを向く。頭の蛇達は『シャ~』と俺を威嚇してくる。
そういえば『魔物娘』という名称には差別の意味も含まれていると言っていたな。……悪いことを言った。
「いや、そんなつもりはなかったんだ。気を悪くしたのならゴメンよ」
「フンっ! どうだか」
よほど人間族から酷いことをされてきたのか、謝罪の言葉も通用しないようだ。……やれやれ。
そう考えていると、リリがエミリに寄って行く。
「ご主人様は……大丈夫。」
「え、何あな……。貴女も魔物娘ね? 大丈夫? この男にエッチな事や酷い事されてるんじゃないの!?」
「ご主人様は、そんなこと……してくれな……。しないから、大丈夫」
それから二人は馬車の端でヒソヒソと話し始めた。同じ魔人族同士仲良くなってくれればいいんだが。……っていうかリリは今なんて言おうとした!? 恐ろしくてたまらないぞ!?
内緒話をしている二人を尻目に、ムゥさんから経緯を聞いた。
ムゥさんは、王都の学院で講師をしている獣人らしい。とある日講義が終わり自宅へ返っている途中に裏通りで盗賊たちに襲われ、気絶している所を攫われてしまったらしい。
最近街では獣人の奴隷が人気らしい。それも学院で講師が出来るほどの者は、想像も絶するほどの高額で売れるため、狙われてしまったのではないかということだ。
いくら獣人とはいえ、普通に生活をしている人が攫われて問題は起きないのかと聞いてみたが、ムゥさんは独り身で届けを出してくれる人もいない。学院側も講師とはいえ獣人一人にはそれほど動いてくれないらしい。ここでも亜人差別か……。
エミリは先に捕まっていたらしい。他の人間族は途中の村で売られたりしていたが、ムゥさんとエミリの二人だけは買い手がつかずウーデンの街で奴隷商に引き渡される予定だったとのこと。
捕まったとはいえ、学院で子供に物事を教えていたムゥさんに逃げれなかったのかと聞いたが、ムゥさんは座学の講師で実戦は不得手とのこと。
「……なぁ」
話を聴き終わって、黙って聞いていたアリサに声をかける。
「いいと思うわ、私もあの男がやったことは許せないしね。今日は帰って、お父様に話をつければ明日には出発出来るんじゃないかしら」
間髪入れずそんな言葉が返ってきた。驚いてアリサの顔をマジマジと見てしまう。
「……なによ。どうせ貴男の事だから『送り届けたい』って言うんでしょ? 私もそう思っていたし、いいと思うわ」
俺の視線に気づいたアリサがそう返してくる。俺の考えを読み取っていたのか……。恐ろしい子っ!
アリサの頭をガシガシと撫でる。乱れた髪を直しながら赤い顔で俺をジト目で見つめているが、それについては気にしない方向で行こう。俺の喜びを表現するほうが大事だよね! うん!
「助けて頂いただけでなく、そこまでして頂いて良いのでしょうか……」
そんな俺達を微笑ましく見ながらも、遠慮がちな表情で聞いてくるムゥさん。
「俺達がやりたいだけですので、気にしないでください。それでももし気になるようなら、学院に保管されている書物を見させてください。そういう護衛依頼ということでどうでしょう?」
「わかりました。王都に戻れたらどれでも読めるように手はずを整えましょう。」
遠慮するムゥさんに条件を付けてあげると、役に立てることが嬉しいのかすぐに返答が返ってきた。よし、これでもっと成長できるぞ!
話が纏まった所でリリとエミリが近づいてきた。心なしかエミリが疲れているような気がするが……。リリは何を話したんだ?
「貴男が安全な男だってのは分かったわ……。村まで連れて行ってくれるっていうならその話に乗ってあげるわ! ちゃんと届けなさいよね!!」
疲れた表情をしながらも、そう強がっている。……なんというか、器用だな。
ヤレヤレと思いながら、これからウーデンで皆への説明を考える。と、腕が引かれる感じがした。不思議に思い目を向けると、エミリが俺の腕を掴んでいた。
「で、でも感謝くらいはしてあげるわ。……助けてくれて、有難う」
赤い顔をしながら上目遣いでそう言ってくる。しかも片手で俺の腕を掴みながら。
メーデーメーデー!! 超級殲滅兵器の襲撃!!
赤い顔+上目遣い+そっと腕を掴む+ペタンコ+ツンデレ+モンスターっ娘というありえない組み合わせの兵器が俺のハートをブロークンにかかってます!!
至急救援を! 救援を!! アパーム! 弾もってこーい!!
そんな阿鼻叫喚の心の声を押さえつけ、エミリに声を返す。
「うん、どういたしまして」
そういいながら、俺はいつもココアにするように頭を撫でるために手を置く。
「「「「「あ」」」」」
それを見ていた全員から声が上がる。
そう、俺は蛇が沢山いる頭に手を置いたんだ。
ボンッと効果音が付きそうなくらいに赤くなるエミリ。
そして俺の手の下では、蛇達の目がキラリと光った。……そんな気がした。
「いででででででで!!!」
馬車の中に、俺の悲痛な叫びがこだましたのは言うまでもないだろう。
お読み頂き有難うございます
余裕があるうちに投稿させていただきました
次回更新は未定です
よろしくお願いします




