38-新しい出会い
大変長らくお待たせいたしました
パチッ、パチパチッ。
夜、『黒森』と呼ばれる森にある迷宮にて、俺が起こした火が弾ける音がする。
「突然だけど、食料がそろそろ尽きます。」
野営の為に結界を張ったテントの周り。食事をする為に集まっていた4人の視線が、突然喋りだした俺に集まる。
「というか、野菜が足りません。」
「あらあら、おいしい食事が食べれないのは嫌ね。」
「野菜が無ければお肉を食べればいいの!」
「野菜、重要……です」
俺の言葉にエルミア、ココア、リリが返してくれる。……ココアはいつ16世の奥様に? まぁ、あれはデマだという話だけど。
「だから明日はウーデンに帰ろうと思う」
「いいんじゃない? 私達も結構レベルが上ったし。そろそろ街で一息つきましょうよ」
アリサから賛成の言葉が出る。
アリサの言うとおり、俺達が迷宮に入ってから12日が経っており、疲れが出ているのも本当だ。その間に皆のレベルはアリサが48、ココアが46、リリが43になっている。
エルミアはそろそろ60になるらしい。やっぱり自分よりレベルの低い魔物と戦っても、経験が入る量が少ないみたいだ。
「みんな、それでいいかい?」
「リュウイチのご飯が食べれないのは寂しいけれど、野菜がない食事っていうのもね。私は賛成よ。」
「大丈夫なの! リュー様は街でもご飯を作ってくれるって言ってたの!!」
「あらあら、それは楽しみねぇ」
「大丈夫、です」
皆それぞれ賛成してくれる。ココアは前に言ってたことを覚えていたんだな。うん、覚えの良い娘は大好きだ。それが文字を覚えるのにも使えればなぁ。
因みにだが、野営時の食事は俺とリリが二人で作っている。初めて食べた時、エルミアは「私の専属シェフにならない?」なんて言っていた。「この洗いを作ったのは誰だ!」じゃなくてよかった。着々と料理の腕は上がっているようだ。
これからの方針も決め、洗い物をアリサに任せて俺は次の仕事にとりかかる。
『岩壁』を地面に敷き、周りも囲う。岩と岩の隙間を無くすイメージが大切だ。次に『削風』で囲った内部を丸く削る。最後にそこに『温水』で温度調節したお湯を波々と入れればできあがり。簡易お風呂の完成だ。
これはこの迷宮に籠り始めた初日に試してみた。前々から野営の時にも風呂に入りたいと思っていたのだが、やってみたらなんとも簡単に出来た。そのうちこの一連の魔法を『お風呂』っていう魔法で簡単に出来るように調整するつもりだ。
この簡易お風呂は皆にも好評だった。特にお風呂が大好きなリリに喜ばれた。いつもはポツポツと話すリリが「大好きです、一生ついていきます」と眼をキラキラさせて言ってきた時にはビックリした。まぁ、手放すつもりなんてないけどね。
準備が出来たことを皆に告げて一緒に入る。……違うよ? 最初は男女別に浴槽を作ったんだけど、エルミアが何を考えたか俺の入っている方に入ってきてから、話し合いの結果こうなったんだ。
あの時のリリとアリサのジト眼は、思い出すだけで背筋が凍りそうだ。ココアは羨ましそうに見ているだけだったけど。
「お風呂~、楽しいな~、なの~」
岩に寄りかかりながら、ココアが鼻歌を歌う。ココアは酒場でエルミアが歌った日から時折鼻歌を歌う。あの時は寝ていたはずだが、睡眠学習なのか楽しそうに歌っている。この娘、天才かもしれない!!
「ふぅ……。お風呂っていいわよねぇ。旅先で入れるなんて考えても無かったわぁ」
「普通結界で守りながらお風呂なんて考えもしないわよ。気持ちいいからいいんだけどね」
ちょっと離れた所から、二人の話し声が聞こえる。俺が目を向けない理由は簡単だ、ダイナマイツな魔物による俺の荒ぶる魔獣の目覚めを抑えるためだ。というか、俺はどっちかといえば
「ご主人様……。視線が、エッチになって、ます」
隣に座っているリリが俺のほっぺたを抓る。だけど力が弱すぎて抓るというより擦られているように感じる。
ゴメンゴメンと言いながらリリの方を向く。けしからん貧乳がドアップになり、慌てて上を向く。さっきのよりこっちのが危険なんだよ!!
突然上を向いた俺を見て、「ムゥ~」と唸りながら抓る場所をほっぺたから腕に変えてくる。なんという……至福の拷問!
風呂を上がる頃には、別の意味で顔が火照っている俺が出来上がる。野営の度に風呂には入っているが、毎回こうなってしまう。頑張れ……俺っ。
□
朝を迎えて、いつもどおり朝食を食べ終えた後に迷宮を抜ける。篭っていた時が嘘のように魔物が襲ってこない。比較的簡単に抜けることが出来た。
迷宮を出て黒森を抜ければ、ウーデンの街まで3時間位かな。皆が疲れて居ないことを確認して、街へ向かって歩き出した。
「……! …………!!」
街に向かっている途中に、何か言い争う声が聞こえた。どうやら聞こえたのは俺だけらしく、皆が気にしている様子はない。
争う声だが、なにか切迫していたものを感じた。急いで向かってみよう。
「皆、ちょっと先で争い事があるみたいだ。先に行って確認するから、皆はこのまま歩いてきて」
「え? ……ちょっ」
言葉が返ってくる前に走りだす。『瞬動』も使ってなるべく早く声のした方向に向かう。近づくにつれ、争う声が大きくなってきた。男の声、それに時折女の子の声も聞こえる。
開けた場所に出ると、そこには馬車が止まっていた。馬車の周りには、剣で武装した男たちが8人内一人は腕を怪我している。身なりの良さそうな者 (太っている)が1人だけ混じっている。
その集団と相対しているのは2人。眼鏡を掛けたひ弱そうな狐耳の男性と、パーマがかった暗い紫髪の少女だ。男性は剣を持っており、血が滴っていることからこの人が相手を傷つけたのだと推測する。
「チッ……。おぉ、君は冒険者か! 報酬は弾むから、手を貸してくれないか? この二人の盗賊に襲われているんだ」
「な、何を言ってるんだっ!」
太った男が俺を見つけた。相対している男性は、太った男の言葉に驚いたのかそんな事を言っている。ふむ……。
「……そうだな、手を貸そう」
「おぉ! 助かる。ではこいつらを倒してくれ、殺しはしないでくれよ」
俺の返答に表情が喜びの色に変わる。相対している方は絶望の色に変わった。
「……何を喜んでいるんだ?」
俺はその笑顔を消してやることにする。
「……なに?」
俺の言葉に怪訝そうな目を向けてくる。俺はゆっくりと歩いて近づいていく。途中眼鏡の男性が「こ、こないでくれ!」と叫び、少女は俺に敵意を顕にしているが気にせず2人と集団の間に入る。
そして俺は左半身になり、集団に相対する。
「俺が手を貸すのはこっちの方だ、諦めて逃げるなら殺しはしないが。……どうする?」
俺の行動にその場に居た全員が唖然としている。一番最初に我に返ったのは太った男だった。
「な、何故そっちに付く! そいつらは亜人だぞ!? お前も人間族なら俺達に付くべきだろうがっ!!」
俺の行動に怒っているのか、赤い顔で唾を飛ばしながら怒鳴っている。おぉ怖い怖い。
「残念ながら無差別主義でね。それにさっき言ってた内容、嘘だろ」
「な……何を言っている? 見たら分かるだろう、襲われて怪我をしている者だって居るんだ。それ以外に何が……」
一瞬震えた声を出したが、それ以降は動揺した素振りも見せずそう言ってくる。バレていないとでも思っているんだろうか。これが亜人差別を知らなかった俺ならお互いを収めて……とか考えたかもしれないけどね。
「はい、ダウト。盗賊が2人で8人もいる馬車を襲うか? しかもこの2人の武器は男が持っている剣だけ。それに対してお前たちはガチガチに武器を固めた男たちばかり」
「そ、それは……。あ、あの女が魔法使いかもしれないではないかっ! 魔人族だぞ、そいつはっ!」
男の言うとおり、少女の瞳は魔人族の特徴の赤。魔法操作に長ける魔人族なら魔法使いの可能性もある。だけどなぁ……。うん、『かもしれない』とか語るに落ちたりって感じだよね。
「発動体も持たずに? このくらいの女の子が? ふーん、エリートなんだなぁ」
「…………」
俺が嫌味たっぷりに言ってやると、悔しいけど言い返せないのか黙って歯ぎしりをしている。
「そうだなぁ。奴隷として攫ってきた2人を移送中に、不注意で武器を手にした2人に逃げられて、逃げる2人を襲っている途中……って所じゃないか?」
俺の言葉を聞いて眼を見開く集団。後ろの2人も驚いているのかビックリしている雰囲気が伝わってくる。
「あ、貴男は、私達を助けてくれるのですか?」
「まぁ、詳しくは後で聞くよ」
後ろにいる男性が尋ねてきたが、そう簡単に返しておいた。長々と話をしてる暇もなさそうだしね。
「……もういい、お前たち! その男を殺せ!! 報酬は倍額出すぞ!!」
太っちょが周りの男達に号令をかける。俺の質問に答えないって事は正解って事でいいんだよね。
周りの男達が武器を構え、俺へ向かってくる。
「『岩盤隆起!』」
そんな声が聞こえたかと思うと、集団の足元が陥没し、隆起する。男たちは足を取られてすっ転んでいる。この魔法は……。
「ご主人、様!」
「あらあら、ギスギスした空気ねぇ」
「全く、リュウイチといると退屈しないわ」
「助けるの!」
俺の向かってきた方向から、4人の姿が見える。丁度いいタイミングで間に合ったなぁ。
「クッ……。仲間がいたのか! とは言え所詮5人だ、やっちまえ!!」
男たちが二手に別れて襲いかかってきた。俺の方に3人、アリサ達へ4人。
迷宮から出て久しぶりに人と会ったかと思えば戦闘か。なんだかさみしいね。
読んでいただいで、有難うございます。
私事が大変忙しく、中々更新ができない拙作を読んで頂いた方々に感謝が尽きません。
この先も更新頻度が上がるとは言えませんが、そういえばこんな作品もあったなぁ……と思って読んでいただければ幸いです。
では、また更新できる時に




