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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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閑話SS-テムテム氏

「全く、どうしたら良いのでしょうね」


「ふむ……。突然の変化で儂等も考えが思いつかんな」


「そうじゃな。しかしテムテムよ、長はその不安を皆に見せないようにしなければならぬぞ?」


「はい、わかっております。……はぁ」


 私はため息を付いた。

 私の小屋に、かつて長として村を収めていた老師たちをお呼びして話し合っていたのは、現在の状況のことだ。

 ドルイド様の一人が移動した為、前にいた森から離れてこの『黒森』に村を作ったのが3年前の事。それから立て続けに変わったことが起き続いている。

 魔物が増え、村を結界に隠さざるを得なくなったり。近隣の街の人間族を撃退したり。つい最近には森の1部が災害に遭い、謎の魔力によって修復されていたり。

 そして、一番私達を悩ませる問題。それは……。


「それにしても、ルンル……エルミアはいつになったら伴侶を得るのかのう」


「「「はぁ~……」」」


 老師の一人、コンコン様の声に、私達3人の溜息が重なる。

 そう、一番の問題は『『森精霊ドルイドの御子』』であるルンルンが伴侶を得ていないという事なのだ。

 御子にとって、伴侶というのは大事なものだ。御子本人の魔力は勿論だが、その伴侶の魔力もドルイド様の糧となる。

 成人も超えているし、御子ほどの魔力量は無いかもしれないが、単純に2倍の魔力が糧となる為、我々としては伴侶を一刻も早く決めて欲しい。それを知ってか知らずか、ルンルンは伴侶を決めようとしない。

 それに名前だ。我々の掟で、成人と共に自分の意志で名前を変えることが出来るが、親から貰った名前を変える者はほとんど居なかった。例外として帝国の勇者の元へ行った者は名前を変えていたが。

 それをいともあっさり変えてしまった。魔力量といい、その考えといい、傑物は理解出来ないものなのか……。


「長ー、いるー?」


 そんな事を考えていると、森の見回りに行っているはずの当人の声が聞こえた。気の抜けてしまいそうな声だ。

 確かに私とルン……エルミアは幼い頃から隣同士で育ったが、今は長と御子の立場。それを考えろと常に言っているのにあいつときたら。

 声のした方向を見ると、エルミアが小屋に入ってきていた。


「戻ったか、リーリーの子エルミア。して、その人間族は何だ?」


 黒髪黒目の人間族の男を連れて。老師達なんて驚いて固まってしまっているではないか。

 エルミアに確認した所、なんでも見回り中に捕らえたとのこと。しかも驚く事にこの者と闘婚の儀を行うというではないか。しかもこの男、エルミアに依婚を行ったらしい。

 最初は訝しんだが、他の村の有力なダークエルフに依婚をされた時も、同じように儀式を行い相手を倒したエルミアの事だ。掟に従って連れてきたが、今回もまた倒して無かった事にするのだろう

 そう理解し、儀式を行うことを承諾した。

 エルミアがリュウイチと呼んだ男を、もう一人の老師トントン様に牢屋に連れて行って貰い、広場で舞台を設置する。

 闘婚の儀とは、舞台の上で婚約を希望する者とその相手が実力を出しあい、皆の前で勝者を決める。依婚者が勝った場合は婚約を、相手が勝った場合は、その希望の通りにする。

 この儀式も、最近は愛しあう者同士が婚約するため廃れていたが、5年ほど前に婚約を嫌がるエルミアが行った。

 村の者に指示し、舞台と客席を作り上げる。簡単な森魔法ならダークエルフは誰でも使えるため、作業は捗っていった。


「長! 今回の儀式、俺も参加させて下さい!」


 一旦休憩にして昼食を取っていると、ヘムヘムがそう懇願してきた。

 ヘムヘムは、2年ほど前からエルミアに気があった。エルミアに少しでも近づくために修行をしており、最近は村の筆頭と戦ってもいい勝負をするようになっていた者だ。

 おそらく人間族が依婚をしたと聞いて、居てもたっても居られなくなったのだろう。ありえないだろうが、目の前で好いている者を奪われるのは辛いだろう。

 そう考えて、私はヘムヘムの参加を承諾した。人間族が闘婚の儀に参加するという例外を通したのだ、これくらいの例外も許容範囲だろう。


「長……よろしいでしょうか」


 昼食を終わらせて、舞台作りの最後の詰めに取り掛かっていた所、リュウイチに食事を持たせたソンソンが声を掛けてきた。


「ソンソンか。して、リュウイチとやらはどんな様子だった」


「はい、慌てるでもなく、食事を持ってきた私に丁寧に礼を言ってきました」


「ふむ、人間族にしては殊勝な心がけだな。他に何もなかったのか?」


「はい、実は……」


 言葉を選んで話すソンソンの言葉に、私は少し動揺した。

 なんとあの男、魔力阻害の結界が掛かっていた牢屋で魔法を使っていたというのだ。中級魔法程度なら、魔力を拡散させて発動さえできないくらいの結界の中で、だ。

 エルミアの言っていた「私よりも強い……かもね」という言葉。冗談かと思っていたが、少しは出来る男らしい。

 ソンソンに周りを警戒しておくように伝え、私は舞台作りに戻った。


「あの男、この村にとって良い影響を与えてくれれば良いがのう」


 舞台作りが終わって、後片付けをしている時に、コンコン様がそう呟いてきた。コンコン様からそんな言葉が出るとは……。私は表に出さないように驚いていた。

 元々我々は人間族を嫌ってはいなかった。ただ帝国に居た時に、護っていた森を焼かれ、村人を攫われた。その経験から、意図的に人間族を遠ざけてはいたが。

 その過去を覚えている老師様から出た言葉だから、驚いたのだ。


「どうなるかは分かりませんが、明日決まることでしょう」


「……それもそうじゃな」


 少しだけ期待を込めた言葉に気づいたのか、コンコン様は少し微笑んでいた。

 明日、明日すべてが決まる。さてはてあいつは敵となるか味方となるか。はたまた何も出来ず死んでしまうか。楽しみなところだ。


 そういえば、話は変わるが夕食後にソンソンにリュウイチの状況について聞いてみたが、よくわからない返答が返ってきた。あの後は魔力も感じれなかったらしいが、少し笑いながら「問題なさそうです」と言っていたのだ。

 不思議に思って聞いてみたが、「なんか、反応が可愛いんです」とよくわからないことを言っていた。



 朝になり、闘婚の儀が始まった。

 この場所に村を移して初めての儀式ということもあり、今回は門番や見回りも休みにした。儀式をこう呼ぶのは本来であれば叱責ものであるが、参加しない者にとっては娯楽である。娯楽は大事だ。

 まずはヘムヘムとリュウイチの試合だ。これは予想通り、リュウイチの勝ちで終わった。

 最初は攻撃を避けるだけだったが、ヘムヘムが集中を乱して水の上級魔法を発動した所で、カウンターで魔法を喰らって負けた。

 言葉にしてはこれくらいだが、リュウイチの実力は想像以上だった。

 上級魔法を無詠唱で発動させる魔力。そして3つの属性魔法を操る。属性の多様化ができる者は居るが、それをあの速さで発動させるなど普通の人間族では不可能なことだ。

 試合を見ていた村の者も驚いている。ヘムヘムに賭けていた数人が肩を落としている。賭け事か……。まぁ、今回は目を瞑ろう。

 ヘムヘムが退場して、エルミアが舞台に上がった。ようやく本番だな。


「それでは、始め!」


 なにやら軽口を言い合っている二人を尻目に、私は号令を掛けた。

 それから先の戦いは、信じられないことの連続だった。

 エルミアの力も信じられなかった。魔力を練る速度、そして練度。それに並行詠唱まで。前に見た時とはまるでレベルの違う魔法操作だ。

 それに対して、リュウイチの力も信じられない。魔法に対して魔力を流して発動を止めたり、次々と襲ってくる魔法に冷静に対処する実力。そして森魔法の天敵とも言える火属性魔法。これでこの男は4つもの属性をあの高威力で使えることになる。

 常識をはるかに超えた戦い、私はそう考えていた。次の場面を見るまでは。


「な、なんだあの弾は」


 リュウイチの周りに魔力でできた弾が浮かび上がった。ビックリするほどの高濃度の魔力が圧縮されている弾。それが数えきれないほど浮かんでいるのだ。

 あれは一つ一つが上級魔法の威力があるだろう。そんなものをいともたやすく発動させる実力。こいつは何だ!?


「くっ……! 『深緑の守護(バオム・シュッツ)』! ……『押し潰せ(ドリュッケン)』!!」


 リュウイチが魔力弾をエルミアに向けて放つ。対するエルミアは、森魔法の、それも秘術と呼ばれる魔法で消そうとしている。

 魔力弾を、秘術が押しつぶしていく。だが、秘術クラスでも消しきれなかったのか、通過した弾が、エルミアの肩を掠る。

 エルミアの肩から血が出ている。掠っただけであの威力、結界を張っていなければこの森も無事だったかどうか……。

 村の者で、声を出しているものは一人も居ない。それはそうだろう、侮っていた人間族が御子を圧倒していることに、理解が追いついていかないのだ。

 事前に冗談めかして話を伝えられていた私ですら、驚きで声を挙げられないのだ。この場で知った他の者が理解できるはずがない。


「“悲しき森の木々達よ、怒れる森の木々達よ、今こそ顕現さすらん”」


 エルミアの詠唱が始まった。秘術すら詠唱無しで発動できるエルミアが詠唱をしている。なるほど、禁術を使うつもりか。


「“その強靭な躰で、かの者共を蹂躙し、我らの恐怖を植え付けん”」


 さきほどの秘術。そして連続で使われるこの禁術。……エルミアはこれで終わらせるつもりだろう。

 だが、先ほどの魔力弾を見ると……。もしも、これを退けるほどの力をリュウイチが持っていたとするならば……。


「“森の怒りを知り、森の怒りをその身に受けよ。森の奇跡を、此処に”……『無秩序なる緑群ウン・オルドヌング・ミリテーア』!!」


 エルミアの詠唱が終わり、森魔法が発動する。

 別名を『怒れる森の化身』と言われるこの魔法は、魔力で木の軍勢を作り出すという禁術。

 その威力は見るものを圧倒し、恐怖に陥れ、悪夢をまき散らす。我らが守護する森の、秘められた悪意を顕現させる魔法だ。

 恐らくだが、これを発動させたのはエルミアを含めて数人しか居ないだろう。創世の時代を生きていたハイエルフ様なら見たことがあるかもしれないが、それ以外では見た者すら居ないだろう。

 それほどの魔法を見れるという事実に、私は感動していた。

 と、突然寒気が襲ってきた。……この森で寒気?

 まさかと思いリュウイチを見ると、何やら詠唱を始めている。あれに対向する手立てがあるのか……。


「皆、少し引け! 巻き込まれる可能性があるぞ!!」


 村の者に指示を出す。恐らく、私が感じている予感が本物であれば……。

 遠巻きに下がらせた所、リュウイチの詠唱が完了した。さて、何が出る?


「禁術、『凍界の刻フリーレン・アルタートゥーム』」


 リュウイチが呪文を唱えた瞬間に、目の前が青の世界に変わる。

 いや、コレは氷だ。木の軍勢が、落ちる木の葉が、空気が。全てが氷に飲み込まれている。1発の魔法で作られた世界。それが空間全てを青に染めている。

 ありえない、ありえないが、これは現実だ。目の前で起こっている事実と、私の常識が反している。

 ループする私の思考を止めてくれたのは、エルミアの言葉であった。


「まいったわ、私の負け」


 全く予想していなかった事柄、御子の敗北を告げる一言だった。



 トントン様にリュウイチを小屋に連れて行って頂いた後、皆と共に舞台を片付け、宴会の用意をしていた。

 皆気の抜けたような顔をしながらも、撤収作業に取り掛かっている。自分たちよりも飛び抜けた実力を持つ御子が、人間族に、それも魔法で負けたのだ、無理はない。

 私としても内心では驚いているのだが、皆の手前毅然に振る舞わなければならない。長という立場の辛いところだ。

 エルミアは気丈に振舞っていたが、魔力を使いすぎたようだった。村人に言って小屋で休ませている。恐らく魔力の回復を助けるお茶を飲んでいるところだろう。


『長……。長、聞こえますかの』


 考え事をしている内に、そんな声が聞こえた。森魔法の『念話』だろう。これは離れていても声が届けられるのだが、森の木々の力を貸してもらうために近くに木々がないと使えない。


『トントン様、いかがなされました?』


 声色からトントン様と判断してそう返す。慌てているようだが、何かあったのだろうか。


『村の入口に、オーガが出たのじゃ!』


『オ、オーガが!? 直ちに精鋭を連れてそちらに向かいます!』


 帰ってきたのは、村の存亡に関わる言葉だった。

 オーガは我々と違い気力に特化した魔物で、しかも魔力に対して強い耐性を持っている。5体もいれば村も無事では済まないだろう。

 ドルイド様は休眠されているし、ドリアード様も魔力の消費が激しくて休んでいらっしゃる。しかもエルミアは魔力を消費して休んでいる。何故よりによって今なのか……。

 作業を中断させ、村人の中から精鋭を集める。集まった20人ほどを連れてトントン様の救出に向かう。

 

「こ、これはっ!」


 門に近づいた私は、信じられないものを見る。今日は何度信じられない物を目撃すれば良いのだろう。

 リュウイチが6体のオーガと戦っている。その中には赤色の肌をした、変異種がいるのも見て取れた。それだけではない、リュウイチの後ろには、5体のオーガの遺体が倒れているのだ。

 精鋭を集めてやっと戦えるほど強力なオーガを、単身で倒した?

 呆然として見ていると、残りのオーガとリュウイチが戦い始めた。砂煙を上げたと思えば、上空に浮かび上がり白銀の大鎌を手にしている。それを使い、4体のオーガを安々と倒している。

 その後、残ったオーガが手に持つ何かを掲げてみせた。あれはドリアード様!?

 駆け出そうとしたが、その前に戦いは終わっていた。リュウイチがドリアード様を保護し、オーガを叩きのめしたのだ。『拳銃マグナム・アーツ』と言っていたか、見たこともない技だ。

 リュウイチがドリアード様に近づいたと思うと、弱っていたドリアード様がみるみる力を取り戻していく。まさか魔力を吸わせている?

 その内ドリアード様の周りから木々や花が再生している。ドリアード様の限界量を超えたのだろう。それにしてはまだ吸い続けているが……。

 御子でもない者が魔力を渡そうとすれば、膨大な魔力が必要となるはずだ。先の儀式で巨大な魔法を発動した後だとは思えない魔力量だ。


「貰った魔力のお陰で結界を強固に構えることが出来るよ! 100年くらいなら任せて!」


 元気になったドリアード様は、そう言って満足そうに森の奥へ還っていった。

 村の危機を救ってくれただけでなく、ドリアード様まで助けてくれた。リュウイチはこの村と森の恩人だ!

 その後は、村を上げての宴会を行った。門であったことを皆に話した事もあり、皆リュウイチに感謝の言葉をかけていた。


「長、いいかしら?」


 宴会が終わり、リュウイチを客人の小屋に連れて行った後しばらくして、エルミアが私の小屋に入ってきた。


「エルミアか、どうしたんだ?」


「えぇ、単刀直入に言うわ。明日の朝、リュウイチは村を出て行く。私もそれに着いて行くわ」


「…………」


 その口から出てきた言葉は、予想していたものだった。予想はしていたが、村の長としては素直に頷けない言葉だ。

 御子という立場は、村にとっても重要なもの。それにエルミアほどの実力者が村から離れる事に一抹の不安を感じるのは、仕方ないことだと思う。


「わかった、行って来い」


「……あら、もうちょっと引き止められると思ったのだけれど。あっさりね。」


 それでも私は許可を出していた。想定外だったのか、びっくりしながらもそんな軽口を言ってくる。


「言っても聞かんだろうしな、それに……」


 そう言って、少し言い淀む。コレを言うのは恥ずかしいんだがな。


「幼なじみの幸せを祈るのは、当然のことだろう?」


「あらあら、それはそれは。嬉しいわ、ありがとう」


 ちょっと赤くなる私を見て苦笑しながら、エルミアは小屋を出て行った。ふむ、慣れない事はするものではないな。

 エルミアが村を出ることについて、簡単に許可を出したわけではない。ただ、リュウイチによってドリアード様は回復しているし、村の者も育って来ている。

 我々が外と友好を図るいい機会だとも思ったのだ。村を守る長としては、あまり褒められた事ではないかもしれないがな。

 それにしても、リュウイチは何者なんだろうか。宴会の時に話してみたが、普通の若者としてしか感じられなかった。

 まぁ少しの期間だけだが、リュウイチは村に多大な恩恵を与えてくれた。老師様達と話していたことではないが、村に良い影響を与えてくれた男。

 もしかしたら、これから先村にも変革が訪れるのかもしれない。いつか来るであろうその時が楽しみだ。

読んで頂き、有難うございます

次回更新は23日予定です

よろしくお願いします

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