閑話SS-その時アリサは
今回投稿させていただいたのは、先日投稿させて頂いたものと同じものとなります。
前回お読み頂いた方は、11時に2つめを更新しますので、そちらを少しだけお待ちください。
私は混乱していた。
それも仕方がないと思う。だって4日のヴァル(メイド長)からのシゴキに耐えて、ようやくリュウイチと会えると思ったら、会場の私の近くに王女様が座っているんだもの。
本当は「なんで? 王女様? 何なの!?」って叫びたかったけど、それをやっちゃうとまたヴァルからのシゴキに耐えないといけなくなる。我慢よ、我慢。
王女様に挨拶をして観客席につくと、久しぶり……と言っても4日ぶりなんだけど。ココアとリリに会えた。抱きしめてモフモフしてると「アリサ変わらないの~」と言ってくれた。
王女様が羨ましそうにこっちを見ていたので、ココアに断って、頭を撫でさせてあげた。ココアも王女様も嬉しそうだったから良かった。
ただこの方には気をつけないといけない。アリストア王国第2王女、ルスト王女といえば、15歳の気品あふれる女性、と言われているのだけど、正確には違う。
本当は武術が大好きな戦闘狂なのを私は知っている。もしこの方がリュウイチの戦いを見たら、絶対に婿にとか言うに違いない。
そしてもう一つ、気をつけないといけない一番の理由。それは
「おーじょ様、すごいの~!」
「すごく、大きい……です」
2人から羨望の眼差しを向けられるほどのサイズの胸を持っている事。
この凶器とも言える胸。若干15歳にしてこの胸なんて、卑怯にも程があると思う。大して私は……ペッタンコではないけど、やっぱり小ぶりだ。
リュウイチは、私を見て度々「美乳」って言ってくれるけど……。思い出したら顔が赤くなってきた。何考えているんだろう。
でもリュウイチはなんで分かるのかな。形に自身が無いわけじゃないけど、見せたこともないのに……。まぁ考えてもわかんないからいいや。
心のなかで絶対に渡さないと決意をしながら、外に出さないようにして観戦を続ける。……外に出てないよね?
リュウイチが出ているから試合を見ているけど、見ていても全然おもしろくない。
だって皆動きは遅いし、魔法も止まって撃っている。撃って防いで又撃って、なんていうダラダラした試合が続いている。
まぁ、私もリュウイチと一緒じゃなかったら、そんな風になっていたのかもしれないけど。
でも、リュウイチの試合は反則だと思う。アッという間に近づいて一発打ち込んで終わりなんて。もうちょっと遊んであげてもいいと思うんだけど。
思わず私も溜息をついちゃった。
そして試合は進んで準決勝。ココアは飽きたのか、私の膝の上で眠っちゃってる。頭を撫でると、モフモフで気持ちいい。
次のリュウイチの相手は7剣士の一人。確か『戦冴の諸刃剣』と呼ばれているノーアという人だったと思う。
……うん? どこかで聞いたことがあるような。……気のせいかな?
試合が始まってるっていうのに、リュウイチはキョロキョロとあたりを見回してる。ほら、相手が怒っちゃった。
相手が何かを唱えると、持っている剣の刃が消えて、周りに丸い刃が浮かび上がった。あれは、確か王家が認めたものに貸与してるっていう『チャクラム』!
宝具とまで呼ばれる魔剣の一つを見れるなんて思ってなかったけど、リュウイチはそんなこと気にも留めてないみたい。
結局、リュウイチが刃を弾き落として、一発で試合を決めちゃった。
「な、なんじゃあの男は! アーネス子爵の推薦じゃったな。あの男は何なのじゃ?」
「え、あ、あははは。あの男はですねぇ……」
隣りに座ってるルスト王女が子爵様に詰め寄っている。頑張って、子爵様!
それにしても、リュウイチは強い。お父様と戦ったら、どっちが強いんだろう。
聞いてみたくて周りを見渡した。あれ? さっきまで近くに座っていたのに……。どうしたのかな?
探そうと思ったけど、続けて決勝戦が始まるみたいだし、ココアも寝ているから動かずにいよう。
そして、次は決勝戦のはずだったんだけど、対戦相手が逃げちゃったみたい。あれくらい実力の差を見せつけられたらしかたないか。うん、仕方ないんだけど。
「んにぃ……。あれ? ねぇ、なんでアリサのおとーさんが立ってるの~?」
お父様が舞台に立っているのは何故? 私が聞きたいくらいなんだけど。
子爵様の話では、最初から特別試合ということで決まっていたんだって。
嘘を言われた気分だったけど、お父様とリュウイチの試合なんて、さっきまで私が気にしてた事が目の前で始まるんだもの。ちゃんと見ないとダメよね。
そんな私の考えは、試合が始まってすぐ打ち砕かれた。
お父様が強いのは知ってた。『鈍色の宝剣』と呼ばれていたディグさんでも相手にならなかったし、『剣王』様から「交代してくれ」なんてお願いが来ていたのを見たことがあったから。
そして、リュウイチが強いのも知ってる。下級魔族を傷一つなく倒したり、いつも戦闘中は何かを試しながら戦ってるのも知ってる。
けど、その二人がこんなに人外な戦いをするなんて思ってもなかった。
動きは早すぎて見えないし、威力は高すぎて感知できない。リュウイチに至っては魔法すら使ってないのにこの強さ。信じられない。
難しいことはよくわからないけど、一つだけ、この戦いが凄いことは分かってる。私は興奮を抑えきれなくて前のめりになってた。
そんな私の腕を、チョイチョイと引いてる娘がいた。リリだ。
どうしたの? と聞いてみると、身体を震えさせながらポツリと呟いた。
「何か、怖いのが……来ます」
怖いのがくる? ……何のことだろう。
そんな私の疑問は、リリに尋ねる必要もなく、すぐに判明した。
『ドッガァァァン!』
大きな爆発音と、そこから現れた魔族を見れば誰でも分かると思う。
「皆! コッチの出口に向かって走って!」
私は急いで臨戦態勢を取る。そうしながら観戦してる人々に声をかける。
この街は私達の街。私達が守らないと!
「こんなトコに居るとは、探したゼぇ、王女」
魔族の声が聞こえた。こいつ、王女を狙っているの!?
王女の周りに居た衛兵は瓦礫が当たって昏倒している。んもう! 役に立たないんだから!
リリとココアと私の3人で王女の前に立ちふさがる。私達の街で、私達の目の前で王女様を死なせるわけにはいかない。
さっきのココアを撫でていた時の嬉しそうな表情を思い出す。いや、死なせたくなんて無い。守ってみせる!
「クカカカカ! 女同士の友情カぁ? くだらねぇ。俺の目的は王女だけだ、さっさとどっかにいけ。」
魔族の腕から赤い魔法が飛んで来る。火魔法だと思う。3人で連携して、それを消すことが出来た。
魔法を使ってくる相手と戦うことは少ないけど、これでも迷宮で連携してたんだもの。これくらいは出来ると思ってた。
でも、次の一撃は違った。感知できないくらいの魔力が込められた魔法。リリも、ココアも震えている。
私も怖かった。足がガタガタ震えてくる。
でも、だめ。逃げない。結界さえ解除されれば、きっとリュウイチが何とかしてくれる。その時のために、私達は出来るだけのことを、やるんだ。
リュウイチからの声が聞こえる。大丈夫だよ。私達、頑張るから。
魔族の口から魔法が放たれた。リリが最大まで溜めた魔力で闇魔法を放つ。少し威力は弱まったみたい。私はさっきと同じ火弾を撃つ。ココアが全力でそれを蹴って、火球にぶつける。だめだ、方向を逸らすことも出来ない。
リリとココア、それと王女様を背中にして、私は光魔法を全力で展開する。少しでも威力を抑えないと……。
火球が当たる瞬間、リュウイチの声と、暖かい魔力を感じた。リュウイチ、やっぱり間に合ってくれたんだ。
爆発で、私は目を瞑った。リュウイチの魔力で防ぎきれなかったのだろうか、強い風が体へ当たり、服が破ける感触がする。
風が収まった所で動こうとすると、肩に痛みが走る。さっきの風で肩に瓦礫がぶつかったのだろうか、肩が痛い。
それに魔力を使いすぎたのか、身体に力が入らない。耐え切れずに片膝をついてしまった。
煙が晴れて、肩を確認する。深く刺さったのか、血が結構出てる。
「ああああああああ!」
リュウイチの声が聞こえて、ゾッとする違和感に襲われた。
ハッとして前を向くと、リュウイチが空を飛んで、魔族と対峙している。
空を飛んでいることにも驚いたけれど、それどころじゃない。
リュウイチから、感情が見えない。
いつも笑顔で、バカな事をして私達に怒られて、でもやっぱり優しくて、この娘達を守ってくれる。
そんな、側に居るだけで暖かくなるリュウイチから……。冷たい何かが飛んでくる。
他の人達はわからないかもしれない。けど、リュウイチと一緒に居た私には分かる。
あれは、いけない。
「リュウイ……!」
叫ぼうとして、私が何かに包まれていることに気づいた。これは、結界?
叩いてみても、ビクともしない。周りを見ると、逃げ遅れた人全員にかかっているみたい。……これもリュウイチが?
後ろにいる王女様と、ココアとリリを確認する。……よかった、皆息はあるみたい。
「死ねぇぇぇぇ!!」
魔族の叫び声に、今の状況を思い出した。ハッとして上を見上げる。
「う、嘘……。」
リュウイチに向かって、さっきの火球が飛んでいた。それも20個も。
さっき私は、一つだけでも殺されると思った。それが20個も……。あんなのと、どうやって戦えっていうの?
「え……?」
でも私の絶望は、すぐに塗り替えられていった。
リュウイチが右腕を上げたと思ったら、次には大きな掌が現れていた。
そしてその掌は、事も無げに火球を握りつぶして掻き消えた。あれだけの大魔法と一緒に。
「信じ、られない……」
それからはの光景は、言葉にならなかった。
逃げようとした魔族を、リュウイチが出した鎖が捕まえて、すごい数の剣を魔族に向けて撃った。
言葉にすればそれだけなんだけど、リュウイチが出した剣は形や色は違っても、全て白銀に光っていて。
まるでお伽話に出てくる、創世の勇者様の使っていた聖剣みたいだった。
勇者様の聖剣は、一振りしか無かったっていう話だから、よくわからないけど。
魔族が消滅して、リュウイチが客席に降り立った。
その時には、私達を守っていた結界は消えて、自由に動けるようになっていた。
だけど皆、呆然として動かない。そりゃぁそうよね、あんな光景を見せられたら。
リュウイチが膝を着いて下を向いている。
私はリュウイチに向かって、駆け出していた。
私が近くに来ても、リュウイチは何の反応も見せない。ただ、体から立ち上る冷たい何かだけが見える。
どうすればいいのかわからない。私はリュウイチの頭を正面から抱きしめた。
この暗くて冷たい何かが、少しでも消えてくれることを願って、抱きしめていた。
「アリ、サ……」
ポツリと、リュウイチの声が聞こえる。
「うん、うん。……大丈夫。私はここにいるよ」
子供をあやすように声をかけ続ける。リュウイチの身体から力が抜けて、私を抱きしめ返してくれた。
「アリサ……よかった。……よがっだよぉ。う゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁ」
涙を流しながら、私の胸に顔を埋めて抱きしめてくれる。
その時には、リュウイチを包んでいた冷たい何かは消え去っていた。その事にホッとして涙が出てくる。
いつもの、リュウイチだ。
リュウイチが泣き疲れて眠るまで、私は彼の頭を撫でながら抱きしめていた。
読んで頂き有難うございます。
本日2話更新です。
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