閑話SS-3人の会話
ウーデン市に帰ってきて、いきなりアーネス子爵様のお屋敷に通された。
まさかそのまま屋敷に入るなんて思ってもいなかったから驚いたけど、それよりもシュピーツが私を知っていた事の方が驚いた。
しかも私がこの街を出て行った理由まで知っているなんて。……まさか有名なのかな?
驚いた私は、リュウイチに聞かれる前に急いでシュピーツの口を塞いだ。「ちょっ……」なんて言っていたけど聞こえない聞こえない!
そのままシュピーツが静かになるまで抑えた頭を振り続ける。貴女がッ! 黙るまで! 振るのを! 止めないっ!
少し経つとようやく静かになった。……もう大丈夫かな? そーっと頭から手を離す。
「あんた……。限度ってもんが……ウプッ」
恨めしそうな眼で見上げられる。……やり過ぎちゃった?
「ご、ごめんなさい。だって、貴女が突然あのことを話し始めるんだもの」
「それにしたってねぇ……」
謝る私に気分悪そうに答えてくる。申し訳ない気持ちが無いわけじゃないけど、もう一度同じことになったら、私は多分頭を振ると思う。それくらいビックリした。
「まぁ、誰にも秘密にしたい事の一つや二つあるわね。でも……」
シュピーツが気を取り直して話しだす。と思ったら私とリュウイチを交互に見て言葉を止める。……なんだろ?
「多分だけど、リュウイチはこの事知ってるさね」
「…………」
あっけらかんと言われて絶句する。いや、迷宮でのミリル様との会話もあるし、もしかしたら……と思ったこともあるけれど。まさかほんとに?
「けど、リュウイチは一言も……」
「そりゃぁそうさね。仲間が嫌がることを、率先して話したがるような男でもないだろうさ。」
「…………」
シュピーツの言葉に返す言葉が無い。優しくて変な所で空気を読むリュウイチなら、そんな事を言ってくるはずがない。自分の事に焦って、そこまで考えが回らなかった事を恥ずかしく感じる。
それと同時に、軽い嫉妬のような感情が浮かび上がったことに驚く。私……シュピーツに嫉妬しちゃってる。
それほど長い間一緒だった訳ではないのに、リュウイチの優しさに気づける事に、私は嫉妬してしまっていた。
それもこれも、全部余裕のなかった私が悪いのに……。
「ごめんなさい」
私はシュピーツに対して失礼なことを考えていた。それを考えるより先にシュピーツへの謝罪が口をついて出る。
「?? 何を謝ってるのか分からないけど、気にすること無いさね」
それを受けて、疑問に思いながらも私に笑いかけてくれる。……この人は強いんだなぁ。
「それはそれとして……リュウイチとアンタはどこまで進んでいるんさね?」
かと思えば、ニヤリと笑ってそんな事を聞いてきた。進んでって……!!
「な、何を急に!」
「シーーー!!」
驚いて大きな声を出しそうになった私をシュピーツが静める。
「大きな声を出しなさんなって。リュウイチに聞かれたらコトさね」
その言葉にハッとなってリュウイチの方を見る。リュウイチはココアを撫でながらお茶を飲んでいた。私たちのことには気づいていないみたい。
「それで……っていっても、さっきの感じじゃあ全く進んでないみたいだねぇ」
落ち着いた私にそんな事を言ってくる。そ、そういうのもひと目で分かるものなの?
「……分かっちゃう?」
「当たり前さね。……よし、悩める女の子に私が知恵を貸してあげようかね」
え? 知恵? もしかしてそれを聞けば、リュウイチに私を意識してもらえるようになるのかな。
「私も……聞きたい、です」
そう言いながら、私の隣にリリが座る。き、聞いてたの!?
「ほほぉん、あんたもかね。……まかせときな。私がアイツを振り向かせる秘策を伝授してあげるさね」
笑みを一層深くしたシュピーツが自信満々にそう言い放つ。この自信……信じてもいいかもしれない!
「「よろしくお願いします!(……です)」」
私とリリに、恋愛の師匠が出来上がった。
「男を落とす一番イイ方法。それは……色仕掛けさね」
色仕掛け……。手を握ったり、その……む、胸とかを押し付けたりするのかな。
「女の体を見て興奮しない男なんていないさね。それさえやれば「あの……」……どうしたさね? リリ」
シュピーツの言葉をリリが遮る。いつも大人しいリリが……。リリも本気ってことね。
「以前……裸で、ご主人様の前に、立ったのですが。「服を着て」と言われただけ、でした……」
思い出したのか、少し恥ずかしそうに顔を赤くしながら話してる。……って、は、裸っ!?
「…………もしかして不能とか?」
それを聞いてシュピーツが聞いてる。不能って、男の人の……あぅ。考えただけで顔が赤くなってしまう。
「……いえ、焦っていた……様子でした。多分……出来ないとかでは……ないと、思います」
「なるほどねぇ。……自制心が強いんだねぇ。それならそれで……」
リリの言葉を聞いたシュピーツが楽しそうに笑ってる。……なんか、ちょっと怖い。
「いいかい、それじゃあ今度は下着が見えるか見えないかのギリギリの洋服で迫ってみな。上目遣いで「ご主人様」とか言ってやれば一撃さね」
リリにそう説明してる。ギリギリの服装って……。でも、裸でもダメだったのに、服を着てても大丈夫なのかな?
「裸より……服を着たほうが、いいのですか?」
リリも同じことを思ったのか、そう聞いてる。シュピーツは、待ってましたと言わんばかりに続きを話し始めた。
「分かってないねぇ、分かってないよ。いいかい、男ってもんは身体もそうだけど、お膳立てされたシュチュエーションに弱いもんさ。『ギリギリの服を恥ずかしそうに隠しながら』ってのがキモさね」
なるほど、話を聞いてればシュピーツの言う事もわかる。例えば私が男で『そういう』リリに迫られたら……。も、もしかしてシュピーツってば魔性の女なの!?
リリも想像したのか、さっきより顔を赤くしながらも嬉しそうに頷いてる。
「シュ、シュピーツ……。わ、私は?」
リリは仲間だけど、負けてられない。リュウイチにもっと私を意識してもらえるように……。悔しいけれど、私の知らない事を教えてもらいたい。
私の言葉を聞いて、シュピーツの笑みが大きくなる。心底楽しそうな笑顔になってる。
「そうさねぇ、アンタが意識するのは“女性らしさ”だね」
「女性……らしさ?」
「これまでに聞いてた話だと、アンタ達の間には“意識”が足りない。アンタは“男をモノにする意識”が。リュウイチには“アンタを女と思う意識”が、ね。最終的にはリュウイチがアンタを野獣みたいに襲いたくなるくらいまでさせないとね」
シュピーツの言葉を一つ一つ噛みしめる。男を……リュウイチをモノに…………。
淑女 (リュウイチには色々とバレてしまっているが)として思うところはあるけれど、確かに私自身が意識する事は大事かもしれない。私の時々の行動でリュウイチに意識してもらう……なんだかとても難しそう。
それと、最後に言っていた言葉……。や、野獣のようにって。私と、リュウイチが……その……夫婦の営あぁぁぁぁぁぁぁぁ。
考えようとしたけれど、少し情景を思い浮かべるだけで顔が真っ赤になってきちゃう。恥ずかし過ぎてお茶を飲んでいるリュウイチの顔をチラチラと見てしまう。気づいて……ないよね?
私とリリが悶えている姿を、シュピーツが楽しそうに見てくる。くっ、人事だと思って!
「その顔を見てると、アンタ達には種は蒔き終わったみたいだねぇ。後はアンタ達の頑張り次第さ」
一頻りニヤニヤしていたかと思うと、そんな事を言ってくれる。……うん、ありがとう。
直接言うのは恥ずかしいし、私達の姿を見て笑っていたし、本人に伝えるつもりはない。けれど、私はこの意地悪な師匠に感謝する。あくまで心の中でね。
それから色々と考えていると、メイドさんが面会の準備ができたと呼びに来てくれた。部屋に案内される時に、考えていたことがバレていないかとリュウイチを見ていたけど、私の気の回しすぎだったみたい。
因みにだけど、リリもリュウイチを見ていた。でもそんなに睨みつけるように見ていると、逆にリュウイチが怖がっちゃうんじゃないかな?
そんな事を思いながら、私達はアーネス子爵様が待つ部屋へと向かっていったのだった。
読んで頂き、有り難うございます
次回更新は22日を予定しています
よろしくお願いします




