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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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閑話SS-影の会話にて②

 魔王城の広間に続く階段。それを一人の魔族が歩いている。

 名前をヒッツェというこの魔族は別名を“獄炎”と呼ばれている魔族の将の一人だ。

 赤黒い肌に、全てを睨みつける様な険しい眼。身体から立ち上る赤黒い魔力。そして何より特徴的なのがその尻尾。ドラゴンの様な太く強靭な尻尾をしている。

 ヒッツェは『竜人族』という種族の亜人から、魔族へと昇華した変わり者である。その強さから多数の魔族から憧れられているが、本人の『強いもの以外はいらん』という考えの為に直属の部下は少ない。

 イライラした調子で、階段を登りきり広間に出る。


「おや、ヒッツェではないですか。貴方も呼ばれたのですか?」


 広間には、一人の魔族が立っていた。青いコートを羽織った魔族である。その身体からは、青黒い魔力が立ち上っている。


「ふん、“黄泉”か」


 ヒッツェは立っていた魔族を見ると、つまらなそうにそう呟いた。

 “黄泉”と呼ばれた魔族は、そのバカにしたような態度に何も言わず、只肩を竦めてみせた。

 この魔族は名前をウンターと言う、これも魔族の将の一人だ。

 コートに隠しており、身体の強靭さはわからないが、その切れ長の目は鋭く、歴戦の雄ということが分かる。


「その様子では違うようですね。破壊活動しか脳のない貴方がどうしました? 確か今は帝国の戦力を消耗させているはずでしたが」


「……ぶっ殺されたいのか? テメェなんてどうでもいい、トーンは何処だ」


 軽口を叩くウンターとそれを無視して別の話をするヒッツェ。普通の魔族であればヒッツェに睨まれただけで気絶してしまうだろうが、魔将ともなるとその胆力も相当なものである。

 その言葉が聞こえたのか、参謀トーンが広間に現れる。


「騒がしいのぅ。……おや、ヒッツェではないか。儂に何か用かの?」


 飄々とした雰囲気に、ヒッツェのイライラが募る。こののらりくらりと流すような雰囲気を、ヒッツェは好きになれないのだ。


「あぁ、こないだ俺の子飼いがヤラれただろ? 聞くところによると王国の奴がやったっていうじゃねぇか。そのお返しに部下の一人に第2王女を殺してくるよう命令したんだが、全く帰ってこねぇ。アンタ、何か知ってるんじゃねえか?」


 憮然としてそう言い放ちながら、トーンを睨みつけるその視線は『適当な事を言えば即座に殺る』と物語っている。

 その殺気を受け流しながら、「ふむ……」と考え込んだ仕草を取る。


「ウーデンという街で魔族がやられたという情報は入っているがの。『黒狼』を倒した者と同じ者だという事じゃが、詳細は判っておらん」


「チッ……。同じ奴に殺られた、か。何でもいい、そいつの情報が入ったら俺に伝えろ。子飼いを2体も殺りやがって、只じゃ置かねぇ」


「分かった分かった。それにしても帝国の方は大丈夫か?」


「あ? 誰に言ってんだ?」


「『直属の部下が簡単に殺られた』貴方に対して言っているんだと思いますが?」


「……テメェ、よほど殺されたいらしいな。」


 落ち着き掛かっていた空気が、ウンターによってまたかき乱される。一触即発の空気にトーンだけが冷や汗をかく。


「ウンターも場を乱すで無い。ヒッツェ、お主も聞きたいことが終わったのなら帝国へ戻って殲滅を続けてくれるか?」


「……チッ。いいか、必ず教えろよ」


 そう言い残して、不満そうにヒッツェが広間から離れる。ヒッツェの魔力が城を離れた所で残ったウンターとトーンが話しだす。


「やれやれ、殺されてしまうかと思ったわい。それでウンター、調査はどうだった?」


「フフフ、あの男はからかいがいがありますからね。それで調査ですが、ウーデンの街で中級魔族を倒した者は、やはり思った通りの男でした」


「……『白脚』か。」


 ウンターの言葉に、トーンの口から名前が飛び出す。前に迷宮の魔族を倒した男と同一の名前である。

 名前を言ってしまえば、ヒッツェがその者を探しに行ってしまうことに、危惧を感じたトーンは先程意図的に名前を伏せた。


「そしてもう一つ、残っていた魔力を確認して面白い事がわかりました」


「……面白い事じゃと?」


 楽しそうな笑いを抑えているウンターに、怪訝な視線を向ける。この男がこの笑いをしている時は、碌な事が起こらない。


「その男、白銀の剣を作り出したみたいです」


「!! 創世の聖剣を……じゃと?」


「えぇ、それも……。何百本も、ね」


「!?」


 ウンターの口から出た言葉に絶句するトーン。創世の勇者が使っていたとされる聖剣。その一振りでも容易く強靭な魔族を討滅したと言われる聖剣を、何本も使っていたと言われたのだ。それも無理は無い。

 トーンは、心の底から真実をヒッツェに告げなくてよかった安堵した。

 世界制圧の前準備という大事な時期に、魔将が欠けるということだけは何としてでも避けたいのだ。

 トーンがウンターに引き続き調査を指示し、2人は別れた。


「さて、調査しろとは言われましたが、『白脚』に合ってはダメだとは言われませんでしたからね。……王国へ向かいますか」


 ニヤリと笑って飛び立ったウンターの呟きは、この事をどうやって魔王に報告するか悩んでいるトーンには聞こえていなかった。

読んで頂き、有難うございます。

本日は二話更新です。

よろしくお願いします。

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