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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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36-集合しようよ

 ダークエルフの村があった森は、ウーデンから近かった為、昼には帰ることが出来た。

 勝手に飛び出した事で怒られるかもと思っていたが、1時間の正座とヴァルさんからの説教だけで済んだ。

 エルミアについても聞かれたが、突然丁寧に喋りだしたエルミアが言った「村の恩人に報いるために同行する」という説明で納得してくれたようだ。そんな丁寧に話すこともできたんだな。

 エルミア達を部屋から出して、部屋に残った俺とライド男爵とヴァルさんで話をした。儀式の事については詳しく話さなかったが、オーガが出たこと等報告しておく。

 ヴァルさんの話によると、俺が逃げ出した前日で教えることは終わっていたらしい。その終了の報告をしようとしたが、朝にはもぬけの殻。既に逃げ出していたというわけだ。

 そしてこれからは4人、エルミアも入れて5人で宿に泊まり、冒険者として活動する事にも許可が降りた。

 ウーデンにいる間は男爵の屋敷を使ってもいいらしいが、ここでメイドさんが付いてくれる生活に慣れてしまうと、旅がしづらいだろうと気を使ってくれたみたいだ。

 話も纏まったので、別の部屋に行っていた4人を呼び戻す。戻ってきた4人は何か空気が違っていた。

 ジト目で俺を見てくるアリサとリリ。そして「カキーンなの」と言いながらはしゃいでいるココア。素知らぬ顔をしているエルミア。……話したな?

 ライド男爵とヴァルさんにお礼を言って、俺達は街へ出た。酒場と併設されている宿を取って、荷物を置く。そして今


「クンクン……いい匂いなの~。あ! あれも美味しそうなの!」


「エヘヘ……。ハッ。……エヘ」


 ココアとリリと手をつないでお買い物に来ている。

 嬉しそうにキョロキョロ見回しているお馴染みのココアと、嬉しいのか顔が笑顔のリリ。時折自分の顔に気づいて引き締めているのだが、またすぐ笑顔になっている。見ているだけでも癒やされるの。

 勿論アリサとエルミアも一緒だ。後ろで何かを話しながら付いて来ている。時折聞こえる「だから夜は……」とか「絶対にダメ!」とかは気のせいだろう。うん、そう思おう。

 皆のレベルの底上げのために討伐依頼を請けようかとも思ったのだが、それよりも有効な場所をエルミアから聞いた。

 なんでも黒森には、『隠された迷宮』があるらしい。森で見回りをしている内に入り口を発見したんだとか。魔物のレベルも大体50前後で、皆の底上げには丁度いい。

 それに迷宮の魔物から手に入る素材等は高く売れる。ザンドウの街で稼いだ金貨だけでも、街に着く度にハーメルンをしても全く問題ないくらいの稼ぎは出てるしな。

 方針が決まったので、今日はお買い物をして明日からに備えようというわけだ。リリの杖は折れちゃったし、皆の防具も新調したいしね。大会の時みたいなのは2度とゴメンだ。

 そう考えて買い物に来てみたのだが、うーん、視線が痛い。周りからは「おい、あれって……」とかの声が聞こえるしな。

 よく考えて見れば、視線が集まるのも無理は無い。何しろこんなに美人揃いのパーティだ。

 高そうな服を着た金髪美人。活発でイヌミミな笑顔を振りまく美幼女。ゴシックで身を固めた大人しそうな黒髪美少女。妖艶な笑みを見せるダイナマイトボディの褐色美女。

 そして一緒に居るのは黒い上着に白い道着ズボンの平凡な日本人。俺だったらリア充爆散しろ! って叫んでいるな。

 皆を連れて、男爵お薦めの武具屋に向かった。スキンヘッドの親父に皆の武器と防具を見てもらう。

 アリサは鎧の強化と修復。ココアは身軽に動ける様に魔力が編み込まれた服と小楯。それに黒鋼で出来たショートソード。リリは拳大の魔核石が埋め込まれた新しい杖と、物理耐久魔法がかかったローブ。エルミアはほぼ手ぶらだったので、胸当てやスカート等の防具一式と魔力増加の指輪だ。わざわざ臍と脚を露出するデザインにしなくてもいいと思うんだが。

 かくいう俺は籠手とグリーブの修繕のみ。薙刀はライド男爵に研ぎ方を教えてもらったしなんとかなるだろう。しめて金貨35枚。大口の依頼だったのが嬉しかったのか、仲間と協力して明日の朝に間に合わせてくれるらしい。

 その後は服屋に行ったのだが、そこがまた大変だった。女三人寄れば姦しいとはいうが、これほどとはね。

 因みにだが騒いでいたのは主にアリサとエルミアだ。この二人いつの間に仲良くなったんだ? リリは嬉しそうに着替え(させられ)ているものの基本「あう……」とか「き、綺麗、です」とかしか言っていない。まぁ嬉しそうだからいいんだけどね。

 俺とココアはそそくさと避難済だ。ココアがお腹が空いたというので、広場で買い食いでもすることにした。


「おう! この間の豪勢なあんちゃんじゃねぇか! どうだい、今日も食ってくか?」


 広場に到着するなり屋台のおっちゃんに話しかけられた。この間のって……、あぁ図書館で勉強した後のやつか。


「おっちゃん、今日も海で採れたものある?」


「もちろんよ! 今日のも採れたてですぐ焼いてるからな、美味ぇぞ!」


 おっちゃんの言葉に前回食べた塩焼きを思い出す。ココアではないが涎が出そうだ。隣を見るとココアの口からは既に決壊していた。あぁ、そんなに嬉しそうに尻尾を振っちゃってまぁ。

 誘惑に勝てずに注文をする。おっちゃんから受け取ってはココアに渡す。それを5回ほど繰り返した所で周りの状況に気づいた。子供たちが集まっているのだ。

 受け取ったココアがバケツリレーみたいに面白がって、近くに居た子供に一つ渡したのがきっかけなんだろう。周りには前回を超える人数が集まっていた。ま、またなのか。

 しかたがないので、おっちゃんに頼んで貸し切りにしてもらう。人数が多いので今回は3つの屋台を貸し切りにしてもらった。

 子供たちにおっちゃんにお礼を言って食べ物を受け取ることと、騒いで周りに迷惑を掛けないよう言い含めて、食べ始める。皆「はーい!」と元気に返してくれた。

 数人は前回の俺達を覚えていたのだろう、「リュー様ありがとー」と言っていた。中には「黒いお姉ちゃんはー?」などと聞いてくる子供も居た。人気あるみたいだぞ、リリ。

 俺はお腹が膨れたので、ベンチに座って周りを見ていた。ココアが数人の子供たちと楽しそうに遊んでいる。中にはこの間喧嘩していた子もいた。たしか、アーデだったかな。仲直り出来たなら良かった。


「あ、こんなとこにい……何やってんの!?」


 微笑ましく眺めている俺に、後ろからそんな言葉が投げかけられた。後ろを見るとアリサが呆れた表情で立っている。両手に大量に買った服を持って。……そんなにどうするんだろう。


「あらあら、美味しそうなもの食べてるわねぇ。」


「子供、いっぱい……です」


 後ろからエルミアとリリも付いて来ている。勿論両手には大量の服がある。だからそんなにどうす……あぁ、俺のふくろに入れるのか。一応分り易いように個人用に名前をつけて分けてあるからいいんだけどね。


「あー! 黒い殻取りお姉ちゃんだー!!」


「お姉ちゃん蟹の殻取ってー!」


「わぅ! リリはココアのお姉さんなの!」


 ココアを含めた数人の子供達がリリに駆け寄ってきた。殻取りお姉ちゃんって何。

 その光景を見て、アリサも諦めたのかおっちゃんに「私焼き鳥!」と注文する。エルミアは「美味しいものなら何でもいいわ」と適当に摘んでいる。

 リリに至っては真剣な表情で殻から身を取り出している。恐るべき速さで。

 暫くして笑顔のおっちゃんから声がかかった。なんでも材料がなくなったらしい。ちょうどいいのでお開きにすることにした。

 子供たちに解散! と告げると「ありがとー」と口々に言ってみんなバラバラに帰っていった。アリサからは「ほどほどにしてよね」と言われたが、楽しかったから良しとしてもらおう。

 その後も俺達は街を散策して、日が沈みかけてきたので宿に帰った。

 宿に帰ってからは酒場で小さいながらも宴会を行った。ダークエルフの村でも宴会をしたばっかりだったが、今回のは俺達が5人で旅をする為の結束を深めるための宴会だ。

 皆にグラス(ココアとリリはジュースが入った物)が行き渡ったのを見て、声を上げる。


「新しい仲間エルミアも入れて、これから5人で頑張っていこう。乾杯!」


「「「「乾杯 (なの)(……です)!」」」」


 5人でグラスを合わせる。タイミングよく吟遊詩人がいたらしく、心地いい音が流れている。そんな酒場で皆揃って食べる食事は、豪華なものではないがとても美味しく感じられた。



 始まってからしばらく経ち、皆出来上がっている。アリサとリリは何かを話しながら飲んでいる。時折こっちを見てくるんだが、眼が据わっていてちょっと怖い。

 ココアはハイなのか他の酔っぱらいと騒いでいる、エルミアも一緒だ。……あれ、ココアとリリには酒を渡した覚えはないんだけどな?

 呆れながら見ていると、エルミアが舞台に上がり吟遊詩人の演奏に合わせて歌い出した。エルミアの妖艶なイメージと合わさって、とても綺麗に見える。

 曲が終った、俺は大きな拍手でエルミアを迎えた。も満足そうに席に戻ってグラスを傾けだす。


「上手いもんだなぁ。なぁ、もう1曲だけ歌ってくないか。1杯奢るからよ」


 既に席に戻っているエルミアに、他の客が依頼している。吟遊詩人は既に了解しているらしく持っている楽器 (アコースティックギターのようなもの)を軽く弾いている。


「連れの皆にご馳走してもらえるなら、喜んで」


「ちゃっかりした姉ちゃんだぜ。マスター、連れの奴らにも1杯やってくれ!」


 妖しい笑みを浮かべたエルミアの口車に乗せられて、依頼してきた男が店主に言い放つ。それを聞いた店主から酒を貰い、エルミアがまた歌い出した。落ち着いた、どこか懐かしい気持ちになってくる。

 歌が終わり、皆の大拍手に包まれたエルミアが席に戻ってくる。


「おつかれ。いい歌だったよ」


「あらあら、そんなに真っ直ぐに褒められると照れちゃうわ」


 声をかけるとそんな答えが帰ってきた。……ちょっともそうは見えないけどな。

 そろそろ帰ろうと皆を見ると、リリとココアが眠っていた。あの演奏の中で心地よくなったのだろう。俺はリリをおぶり、ココアはエルミアに抱えてもらう。主人に食事代を渡して、他の飲み客の喧騒の中、俺達は部屋へ戻っていった。

 明日からは迷宮でレベル上げに勤しむことになる。連携の練習もしないといけないし、大変かもしれないけど頑張ろう。

読んでいただき、有難うございます

次回更新は21日予定です

よろしくおねがいします

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