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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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35-夜の闖入者

 今、この娘はなんて言った? 俺の聞き間違いでなければ、その……。しょ、しょ、しょ


「初夜よ。初めてだから、可愛がってね。ご・主・人・様。」


 艶のある声で囁きながら、近づいてくる。

 言った! 言いましたよこの娘!! 恥ずかしげもなく初夜と言い切りましたよ奥さん!!

 アリサとは違うセクシーダイナマイツな身体とその妖艶な仕草が俺の心を惹きつけてやまな……って、違う違う!


「ちょちょちょ、ちょっと待った、止まって、ウェイト、ストップ、フェアボート!」


 慌てて静止の言葉を掛けた。それと一緒に布団の端に逃げる。立ち止まって「あらあら」なんて言ってるが、驚いた感じが欠片も無い。むしろ笑っている。人生初の婚約者が出来たと思ったら、2人目に突入とかそれなんてギャルゲ?


「んもぅ、据え膳食わぬはって言うじゃないの。土壇場で逃げるとか、男らしくないわよ」


 ニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってくる。いや、確かに据え膳なんだけどそうじゃなくて。


「とりあえず、何でこうなってるのか教えてくれないか?」


「何でって、トウコンの儀に貴男が勝ったからじゃない。儀式に従って、私は貴男と婚約したってわけ」


 取り乱して尋ねる俺に、そんな答えが返ってきた。トウコン? ……とうこん。……闘婚!?

 A.猪○氏的な奴じゃなかったのか!? でも、長達に説明した後に言ってたのは、『俺がエルミアの持つ知識全てを手に入れる』って……。全て(・・)

 もしかして全ての言葉の前に(、その他)って付いたりしてたのか? なんという安心の騙され率だよ……。


「騙され……てはいないのか? でもなぁ……」


「はぁ、やっぱり受け入れられない? 元の常識が邪魔をするのかしら」


 煮え切らない俺の態度に、エルミアがそう呟いている。ふと、エルミアのセリフに違和感を覚える。

 元の常識? 何を、言っているんだ?

 不思議そうに見つめている俺の視線に気づいたのか、目を合わせたエルミアの口元が歪む。


「あら、ここまで言ってもわからない? 知識もっていう話だしね。いいわ、教えてあげる」


 とても楽しい物を見るような視線。妖艶な色気を醸しているが、それとは違った意味で背筋がゾクゾクする。


「私も、日本から転生してきたのよ。貴男と同じでね」




 エルミアの言葉に、俺は頭が真っ白になり呆然とする。エルミアが、日本人?


「探りながらだけど、ヒントはあげていたわよ? 『最初っからクライマックス』なんて言葉、この世界の人が使う訳無いじゃない」


 カラカラと楽しそうに笑うエルミア。言われてみればそうだけど、そんな小さな事わからないよなぁ。


「でも君はその、ダークエルフだろ?」


「えぇ、そうね。正確に言えば、こちらへ生まれ変わるときに地球の記憶があって、少しの能力と種族を選べたっていうくらいかしら。能力については後で教えるけど、全員じゃないみたいね。生まれ変わるときに女神様が言っていたから間違いないわ」


 次々に爆弾発言が投下されていく。生まれ変わったってことは、赤さんから始めたのか。いや、そんな事よりも今エルミアは何て言った? 女神・・って言った!? あのジジィ、ココには儂しかおらんとか嘘っぱちじゃねーか!


「それにしてもリュウイチは、転生者にしてはまんま日本人ね。もしかして召喚者かしら?」


「あぁ、俺は日本で居た時のままこっちに来たんだ。神様とかいうジジィが言ってたから、間違いない」


「ジジィ? そんなラノベみたいなことあるのね。まぁ女神様に出会って生まれ変わった私が言うのもなんだけれどね」


 そう言いながら苦笑する。エルミアをもう一度見つめてみる。うん、紛うこと無いファンタジーだ。エルフ耳も、豊満な身体も。


「クスッ、やっぱり男ね。この身体も、前と違ってスレンダーになりたかったからエルフを選んだのに、まさか同じようになるなんて思ってもなかったわ。向こうでもこっちでも苦労させられるわ。肩が凝ってたまらないしね」


 そう言って、苦笑しながら布団を体に巻き付ける。ご丁寧に上半身は強調しながらだが。


「う、あぁ、ゴメン。それにしても、なんで俺だったんだ?」


 頬を掻きながら、話を変えるためにも疑問を投げかけてみた。

 エルミアの立場であればいい男なんて自由に選べるだろうし、こっちの世界にはイケメンが量産されている。俺を選んだ理由がない。


「そうねぇ。私も日本人だったってことかしら。ここの世界って基本洋風じゃない? なんというか、洋風のイケメンって合わないのよ。そこに純和風の貴男が、ひと目で分かる強さを持って現れたの。一目惚れってやつね」


 少し頬を赤くしながらそう答えてくれる。一目惚れって、照れるじゃないか。

 その後も、色々と話を聞いた。

 エルミアは、地球では27歳の地方公務員で、ある日目覚めたら女神様の前に居たらしい。そこで地球で死んでしまい、生まれ変わり先を選ばされたとの事。因みに死因は、マンションの下の階からの火事。

 基本オタクだったこともあり、ファンタジーなこの世界を選んだ。本当はエルフになりたかったが、寿命が長すぎるために諦め、それでもエルフ耳への憧れを捨てられずにダークエルフになった。

 生まれてからは、地球には無かった魔法の習得に没頭。女神の加護もあり着実に成長していった結果が今の御子という立場らしい。

 因みにだが、俺がこっちに転生した時のことを話したら、爆笑された。笑うポイントがわからないよなぁ……。わからないよね!?


「それで、ここまで聞いて貴男はどうする? このままヤっちゃう?」


 話が途切れた所で、今の状況を思い出させてくれる。くっ、忘れてくれなかったか。


「悪いけど、俺には街に婚約者が居るんだ」


「さっき言ってた、アリサっていう娘ね」


「そう、だから君とそういうことは出来ない。アリサともまだなのに、他の女の子となんて、できないよ」


「この世界は一夫多妻よ。それでも?」


「それでも、だよ」


 俺の視線とエルミアの視線が合う。しばらく見つめ合っていたが、エルミアの方から視線を外してくれた。


「わかったわよ。あ~あ、その娘が羨ましいわね」


 そう言って立ち上がり、持ってきていた外套を着て小屋から出ていこうとする。……用意いいな。


「あ、そうそう。貴男これからどうするの?」


「明日には村を出るよ。ウーデンの街で皆待ってるからね」


「そう、じゃあまた明日ね」


 その言葉を最後に、本当に小屋から出て行った。

 それにしても、俺や勇者達以外にも地球から来ている人がいたなんてな。それも召喚じゃなくて生まれ変わるなんていう方法で。

 もしかしたら他国の勇者以外にも確認されてない存在が多数存在するかもしれない。

 まぁ、細かいことを気にしてもしょうがない。明日は皆のところに帰るんだ、それを楽しみにしていこう。

 その後は、エルミアの襲撃もなく、ゆっくりと眠ることが出来た。



 そして次の日の朝。俺はテムテムさんに街へ帰ることを告げ、村の門で出発を見送られていた。


「君はこの村の英雄だ。いつでも帰ってきてくれ。その時は、村を挙げて歓待しよう」


 テムテムさんや、村の人達に別れの言葉を告げて、門から出る。


「達者でな! 気をつけるんじゃぞ!」


 老人、基老師Aも声を張り上げてくれる。心配してくれているんだろうな。


「あまり我らの評判を下げるんじゃないぞ」


「わかってるわよ、煩いわねぇ。さっさと村に戻りなさいよ」


 俺の隣を歩くエルミアをな。


「なんで君もついてくんの?」


 ジト目で見ながらそう聞いてみる。村に戻れって、俺が言いたいところなんだけど?


「あらあら、闘婚の儀に負けて、その相手が村から離れるのに残ってられると思う?」


 俺の視線を涼しい顔で流しながら、そう言ってくる。


「いや、だって昨日……」


「わかった。としか言ってないわ。それに、昨日わかったのも“まだ”私とエッチ出来ないってことだもの。先の事はわからないでしょ?」


 艶のある笑みを浮かべて俺を見つめてくる。くぅっ、分かっていた事だけどこの娘、Sっ娘やで。

 溜息を一つついて、諦める。多分俺ではこの娘を言い含める事は出来ないだろう。


「わかったよ。だけど、アリサ達に会った時は出来るだけ大人しくしてくれよ」


「善処するわ」


 さっきまで俺を見つめていたのが嘘のように、目を合わせようとしない。……絶対大人しくしないつもりだろうな。

 問い詰めても「あらあら、善処したのだけれど」とかって言ってきそうだ。

 なんだかややこしい旅の連れが増えてしまった事に肩を落としながら、俺達は街へと向かって歩き出したのだった。

読んで頂き、有難うございます。

次回更新は18日予定です。

よろしくお願いします。

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