33-トウコンの儀
翌日の朝、長の小屋にいた老人の一人に案内されて広場に向かう。朝食は勿論ソンソンさんが持ってきてくれた。眼福満腹。
昨日は子供達が遊んでいた広場には、立派な囲いが出来上がっていた。……あれがロープだったらA,○木氏だったんだが。
中央に仕切られた舞台があり、周りには観客席が作られている。これで屋台とか建っていたら完璧だったんだが。お祭り的にね。
そうこうする内に、村のエルフたちが集まってきた。結構多いな。大人も子供もやはり美形が多い。そして女性は総じて豊満だ。巨乳好きにはパラダイスだな、ここ。
「それでは、これより『森精霊の御子』ルン……エルミアのトウコンの儀を始める!」
昨日の小屋にいた若者が話し始める。今ルンルンって言いかけて言い直したな。向かい側のエルミアがめっちゃ睨んでるし。
ルールの説明が始まった。まぁ内容は簡単だ、結界が張ってある舞台の上で魔法を駆使して戦うというだけ。降参するか、気絶するか。俺に至っては死んだら終わり。俺が気をつけるのはエルミアが死なないようにすることだよなぁ。エルミアは殺すつもりでガンガン撃ってくるらしいが。……なにその縛りゲー。
と、ぼんやり考えている内に舞台の上に相手が登場した。……男?
舞台に上がってきたのは、ダークエルフの青年だ。弓を持ってこちらを睨みつけてくる。
「聞いてなかったのかの? 今回はお主という想定外の存在がおるからな、村からも儀式参加希望者を募ったのだ。その結果、希望者の中で一番強いあやつがお主と戦い、勝ったものがエルミアと戦えるというわけじゃ。」
「へぇー、因みに名前は?」
「ヘムヘムじゃ」
「ブッ!」
小屋から俺を連れて来てくれた老人が説明してくれた。希望者の中で一番強いって、どうやって決まったんだろう。……名前からして忍術か?
笑っててもしょうがないので、俺も舞台に上がろうか。向かい側の観客席では、エルミアが不敵に笑っている。はぁ、面倒くさい。
俺が舞台に上がると、ヘムヘム (笑)氏の視線が強くなる。ものすごい怒ってない? あの人。
「それでは……始め!!」
外にいる若者が合図をかける。ご丁寧に鐘を鳴らしてくれる。何をインスパイヤしたんだよ!?
突っ込む間もなく、魔力剣が飛んで来る。おや、詠唱が聞こえなかったな。
魔力剣を避けながら視線を移すと、ヘムヘム氏はリング内を細かく移動しながら魔法を放ってくる。おぉ、無詠唱か。
ヘムヘム氏の手から、10発程の魔力剣が打ち出される。それをひょいひょいと避けながら思案する。『魔法を駆使して』って言ってたな。つまり今回は魔法対決みたいなものか。
にしても、相手の使う魔法の威力がわからないとな。防げない威力を打ち出してしまったら死んじゃいそうだしな。うーん、どうしよう。
「貴様……! さきほどから避けてばかり、私を愚弄するか!!」
考えている仕草が挑発したように見えたらしい、ヘムヘム氏が激怒している。そんなつもりはないんだけどな。
「いいだろう、最初は様子を見てやろうと思ったが気が変わった。私の魔法ですぐさま殺してやる!」
ヘムヘム氏は沸点がずいぶんと低いらしい。なにやら喚き散らしている。そんなに怒ると寿命縮むよ?
そう考えながらヘムヘム氏を見ていると、呪文の詠唱を始めた。あれ、さっきまで無詠唱じゃなかったっけ?
詠唱を開始してから、ヘムヘム氏の周りに魔力が集まっていく。先程までの魔力剣や風刃とは比べ物にならない大きさの魔力だ。この感じ……先の魔族の火球くらいの魔力だな。ということは上級魔法?
「……。喰らえ! 『激怒の水流』!」
詠唱が終わると、ヘムヘム氏の腕から大量の水が生み出される。見ただけで分かる、あの水は結構ヤバイ。多分だけど、圧力が物凄い事になっているはずだ。触るか、飲み込まれた瞬間にその部位は潰されるだろう。
火魔法で蒸発させてもいいんだが、もし万が一他に火が回ってしまうと、この森は全焼してしまうだろう。ほかにいい手は……。そうだ!
作戦を思いつき、早速行動に移す。詠唱してると間に合わないので、無詠唱で発動させる。魔力量が分からないが、昨日出した炎くらいの魔力でいいだろう。
「な、なに!?」
俺の魔法が水流に当たり、ヘムヘム氏の腕ごと凍りつかせる。
俺の選んだ魔法は上級魔法『凍結の猛威』。放出された魔力に触れるものを凍らせる、水の上級魔法だ。
驚いているヘムヘム氏を尻目に、魔力弾で氷を破壊してやる。
「くっ!」
自分の腕が一緒に凍っていることに気づいたのか、手前で氷を叩き壊して飛び上がる。
そこに『闇沈』で追い打ちをかけた。俺の影が伸び、飛んだヘムヘム氏の下で姿を表す。影に捕まったヘムヘム氏は膝をつき、立てない様子だ。
シメに土魔法で拘束し、上から岩を持ってニッコリと笑顔を作る。
「何か、言うことは?」
「……くっ。降参……だ。」
呆然としていたヘムヘム氏だが、俺の言葉に負けを悟ったのか、降参した。そのまま何人かに支えられてヘムヘム氏は退場していった。
「勝者、リュウイチ!」
若者がそう宣言する。周りはザワついている。「まさかヘムヘムが負けるとは」「今属性をいくつ使った?」「無詠唱か」などなど声が聞こえてくる。
それにしても、魔法だけの戦いっていうのは何だか辛いな。地形やらも考えないといけないし。まぁ今回が縛りプレイだからそう考えるのかもしれないが。
俺の魔法は今のところ火魔法を使えない。威力が大きすぎるのだ。魔物の討伐に関しても、全て灰になってしまうため部位を採取できないし。森で使うと、それこそ自然破壊になってしまう。
「あらあら、本命を目の前にして考え事なんて、私悲しくなっちゃう」
そんな事を考えていると、今回の騒動の発端者であるエルミアが舞台に上がってきた。不敵な笑みを崩さずそう言ってくる。いや、絶対思ってないだろ。
周りからはエルミアを応援する言葉が飛び交う。「やってしまえ」「負けるな」「御子の力を見せろルンルン」等など聞こえてくる。あ、最後のやつが怯え出した。舞台から睨んでやるなよ……。
「まぁ、お手柔らかにな」
「ウフフッ、そんなもったいないことしないわよ。最初っからクライマックスで行くわ。」
軽口を叩いてみるが、華麗に返される。やれやれ、人気者は辛いねぇ。
「それでは、始め!!」
若者の号令が響く。俺とエルミアの戦いが、始まった。
「『震動』!」
号令と同時に、エルミアから魔法が放たれる。俺の立っている地面が揺れている。当然のように無詠唱か。
地面に魔力を流して、効果を切るため魔力を拳に貯める。
「『棘鞭』!」
放とうとする所に、別の魔法が放たれる。近くにある木の枝がしなり、鞭のように俺に襲い掛かってくる。何本だ……ひーふーみ……5本か。
身体を沈めてソレを躱す。膝を折り、ついでとばかりに地面に拳を打ち付ける。魔力を流すと、地面の震動は収まった。
「『岩盤隆起!』」
「チッ!」
待ってましたと言わんばかりに次の魔法が放たれる。周りの地面が陥没し、隆起する。変動が激しくて立ってられなくなってしまう。
さっきの樹の枝が残っているが、仕方ない。腕に魔力を込め、飛び上がる。鞭を受け止めるために、両サイドに腕を持ち上げた。
「『突刺風』! 『深緑顎』!」
更に連続で魔法が放たれた。俺に向かい強風が吹いてくる。時折肌に何かが当たり、血が滲む。空中にいた俺は踏ん張ることが出来ず、後ろに飛ばされてしまう。
後ろにあった筈の木が、形が変わっている。中央部が割れ、凶暴な動物の口みたいになっている。喰い千切る気か!?
森のためにも火魔法は使わないつもりだったが……。しかたない。
飛ばされながら両腕を後ろに回す。腕が木に食われる瞬間に魔法を放つ!
「『炎牙爆』!」
腕から炎の牙が木の中に飛び立つ。木の中で爆発が起こる。巻き込まれた木は粉々だ。爆風に飛ばされ、地面に着地する。そのままエルミアに向けて構えた。
「あら、火属性も使えるのね。いくつ属性を持ってるのか、興味が尽きないわ。」
妖艶な笑みを浮かべてこちらを見ている。……こっちは結構大変なんだがな。
「当たり前の無詠唱に連続と並行魔法。それに最後の魔法はなんだ? 聞いたこともない魔法だな。」
「あらあら、それくらい貴男も出来るでしょう? 最後のについてはナ・イ・ショ。イイ女には謎があるのよ。」
俺の疑問に、軽口で返される。まったく、やりづらい。
魔法について、他の魔法は魔法書で見た。俺が撃ったのは火属性の中級魔法だし、エルミアの1発目と3発目は土魔法で、4発目は風魔法だ。だが、2発目と最後の魔法は、魔法書に載ってなかったはずだ。
効果が分からない魔法には、見てからの対処しか出来ない。まだ詠唱がアレば文言から予測できるんだけどなぁ。
「なるほどなぁ。だけど、謎が多すぎる女は、嫌われるぜ。」
「それくらいの謎も包み込めない男が悪いのよ。……行くわよ!」
軽口も終わりか、エルミアの手に魔力が集まりだす。悪いけど、今度は俺が先手を取らせてもらう。
周囲に魔力の弾を作り出す。魔力剣の応用で、魔力を圧縮して弾の形にする。それをとりあえず100個ほど用意した。エミリアの表情が驚きに変わる。
「そんな、一瞬で……。なんなの……それは」
「何って、初級の魔法さ。頑張って防いでくれ・・・よ!」
腕をエルミアに向ける。魔力弾が一斉に飛んで行く。
「くっ……! 『深緑の守護』! ……『押し潰せ』!!」
魔力弾が当たる前に、エルミアの魔法が放たれる。地面から巨大な人型の木が凄い速度で生えていく。何か見たことあるな……がじゅまるの木みたいだ。
空を覆うほどの大きさに成長したソレは、エルミアの号令で地面に崩れ落ちていく。
魔力弾を巻き込むように地面に倒れこみ、地面に着いたところから消えていく。
「っあう!」
土煙の向こう側からエルミアの声が聞こえた。土煙が消えた後、エルミアが左肩を抑えている姿が見える。おそらく潰しきれなかった弾が当たったのだろう。
「上級魔法の上で消してこの威力なんて……。ホント、想定外にも程が有るわ。」
痛そうにしながらも、口を歪めてそんなことを呟いてくる。上級魔法の上? 禁術の類なのか?
「それくらいで、負けを認めないか?」
「……アハハッ、それもいいんだけどね。私、もうちょっと先を見たいの。付き合ってくれるかしら?」
肩を押さえながら、心底楽しそうに言い放つ。こっちは全く楽しくないんだがなぁ。付き合ってって言われても、強制だからなぁ。
「フフッ、わかってるじゃない。でも、大丈夫。私ができるのはコレでお終い。残りの魔力を全部使うわ。……貴男なら、軽く突破できるわよね。」
そう呟いた後、詠唱を始める。これまで無詠唱で魔法を放ってきたエルミアが、詠唱を行う……。これがどういう意味なのか、分からないわけがない。
次で、決まる。どんな魔法が来てもいいように、多くの魔力を腕に溜めて迎え撃つ。最後と言われて、全力で来られて、正面から立ち向かわないと、男がすたる。
俺の考えが伝わったのか、エルミアが詠唱をしながらもこちらを見て、にっこりと微笑む。そろそろ、詠唱が終わる。
「“森の怒りを知り、森の怒りをその身に受けよ。森の奇跡を、此処に”……貴男の力を見せて。 『無秩序なる緑群』!!」
詠唱が終わり、エルミアから魔力が放たれる。地面に吸い込まれた魔力は、地面から木々を生やす。その木々は人型に成り、表情は憤怒に塗れている。
茨が巻き付いている物、研ぎ澄まされた刃を持つ物、盾を持つ物、様々な形を持つ人型が生み出される。周囲一帯を、人型が埋め尽くす。木々の軍隊とでも言おうか、その光景は圧巻だ。
今になって、観客を確認する余裕ができていた。皆驚いた表情だが、エルミアの勝ちを確信したのか笑みが浮かんでいる。
放った本人は、膝をつき苦しそうにしている。おそらく多量の魔力を使ったせいだろう。エルミアに魔力盾の形を変えた結界を張った後、俺は腕を上げ、詠唱を始める。
「“其処は彼の国、得る物はなく、用いる全てを底へと閉ざす”」
魔導書の、それも最後の方に書いてあった魔法を紡ぐ。
詠唱に反応してか、近くに生み出された人型が動き出す。
「“全てよ止まれ、先を閉ざせ、青の世界で、青の暗黒に恐怖しろ”」
俺の体の周りから、空気が冷たくなっていく。人型の動きが鈍くなり、所々に霜が降りる。
観客達も、突然の寒さに身体を震わせている。結界から漏れた魔力が反応しているのだろう。
「“全てを圧倒せよ、心を、身体を、全てを奪え。全てを拒絶し、全てを受け入れる。世界をその中へ閉ざせ”……。見せてあげるよ、力を。」
詠唱を終わらせ、エルミアに微笑みかける。俺と目があったエルミアは、笑っていた。
「禁術、『凍界の刻』」
唱えた瞬間、結界内の景色が一変する。
俺を中心にして、地面、木々、人型、空間。全てが氷に閉ざされる。
動いていた人型は砕けて散り、その他の人型や木々は微動だにしない。結界内に舞っていた木の葉も色が失せ、全てが青に染まっている。
その幻想的な世界で、俺と、エルミアだけが目を合わせる。
「……まいったわ。私の負け。」
ポツリと呟いたエルミアが、顔を伏せる。直前に見えた表情は、やりきった笑顔が浮かんでいた。
「し…勝者、リュウイチ!」
呆然としていた若者だったが、エミリアの口にした言葉に気づいたのか、俺の勝利を告げる。
周りの観客は、目の前の光景に衝撃を受けたのか、何も口にしない。
俺が魔法を解き、凍った全てが砕け散る音だけが、村の広場に響いている。
結界も解かれ、エルミアにダークエルフが近寄る。
「いいわ、大丈夫。魔力を使いすぎただけだから。」
そう言って手助けを断っている。気丈だな。
準備があるということで、元の小屋へ老人Bに連れて行かれる。
小屋に付く前、村の入り口をふと見る。……なんだあれ。
「あの、おじいさん」
「……なんじゃ?」
「門のとこにいるアレも、ダークエルフですか?」
「門? 今日はほぼ全員中に居るはずじゃが……。!! お……緑巨人!?」
俺の指した先にいるモノを見て、老人Bが叫ぶ。そこにいたのは、緑色の巨体を持った、巨大な棍棒を持つ集団だった。
次から次へと変なことが・・・。
読んでいただき有難うございます。
沢山の皆様にお気に入り登録や、感想を頂いています。
その叱咤激励の言葉を見させて頂いて、文章を書く基礎からなっていないと痛感しています。
よって一時的ではございますが、更新を停止して、前に書いていた文章の見直し等をさせて頂きたいと思います。
また、今書き進めている場面までの見直しも合わせて行いたいと思います。
楽しんで頂いていた皆様には申し訳ありませんが、年が明けてから、また再開できるようにしたいと思います。
1月16日更新予定です
よろしくお願いします




