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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
31/48

28-大会への乱入者

 会場内に響き渡る爆発音に、俺とライド男爵は動きを止める。……なんだ?


「楽しそうナ事をしてるじゃネぇか。俺様も仲間に入れてクれよ。クカカカカ!」


 声のした方向を見る。爆発で空いた穴から黒色で人型の何かが立っていた。

 頭から爪先まで真っ黒。特徴的な赤い目と角が生えている。・・・魔族か?

 あれが魔族だとしたら、結界があるはずの街になんで入ってこれたのだろうか。


「貴様は……中級魔族! 皆、逃げろ!!」


 アーネス男爵がそう叫ぶ。やはり魔族で正解だったか。というか・・・中級? ザンドウで出てきた奴より上なのか。

 一応『診断』で確認してみる。

 名前:ネスト。職業:中級魔族。レベル:81。

 81……今まで倒してきた奴の中で一番強いな。


「くっ、俺が結界内に居るときに……! 誰か! 結界の解除を行え!!」


 ライド男爵が指示する。言われた審判の男は登場した魔族に怯えていたが、立ち上がり控室の方へ走って行った。

 結界の外では観戦していた人たちが逃げ惑っている。魔族は特に動く素振りも見せない。……何しに来たんだ?


「カカカッ、逃げ惑ってるぜ。……こんなトコに居るとは、探したゼぇ、王女」


 魔族が第2王女を睨む。回りにいたはずの衛兵は、飛んできた瓦礫が当たったのか、昏倒している。

 王女と魔族の間に3人の女性が立ち塞がる。アリサとココアとリリだ。俺は慌てて声をかける。


「皆、王女を連れて逃げろ! 危険だ!!」


 だがしかし、3人は逃げようとしない。俺の声が聞こえていないのか、魔族を睨みつけて戦闘態勢から動かない。


「ここは何とかします! 王女は子爵様と逃げて下さい!」


「グルルルル」


「王女様……守り……ます!」


 王女を背中に庇い、魔族と対抗しようとしている。ダメだ! 今の皆じゃ敵わない!

 焦りが俺を包む。結界の解除はどうなっているんだ。早く、早く解除しろよ!


「クカカカカ! 女同士の友情カぁ? くだらねぇ。俺の目的は王女だけだ、さっさとどっかにいけ!」


 魔族の腕から赤い魔力が放たれる。火の魔法か!?

 飛んできた魔法に、リリの放った闇魔法がぶつかり、威力を弱める。アリサが火弾を撃ち、その火弾を魔力を纏ったココアが蹴り飛ばして威力を加速させる。

 二つがぶつかって、相殺される。


「アーレス! くっ、まだか! まだ結界は解除されんのか!?」


 焦ったライド男爵の声が聞こえる。かくいう俺も焦っている。早く、早く駆けつけないと!


「ほぅ、あれを消すか。……面倒くセぇ。魔力は使うが、全員纏めて消し炭にしてやル!」


 魔族の口が大きく開く。そこに魔力が集まっている。上級魔法を使えるほどの魔力が。

 咄嗟に魔力盾を出し、皆の所へ向かって飛ばす。

 が、バチン! という音がして、結界に弾かれる。盾もダメだとっ!

 焦っている俺達を尻目に、魔族のためている魔力が膨れ上がっていく。あれはマズイ!


「消し飛べぇ!!」


 魔族の口から膨大な魔力を含んだ火球が撃たれる。一直線にアリサ達へ向かっていく。


「くそぉぉぉぉぉ!!」


 皆を助けないと! どうやって? 簡単だ、結界を撃ち抜けばいい!

 左手に火球を防げるくらいの魔力を持った盾を作る。それと同時に、気力と魔力を混ぜた剣を作る。何の反応なのか、剣は白銀色に光り輝いている。


「お前、それはっ!」


 俺の作り出したものにライド男爵が驚きの表情をしている。だが今はそんなことに構ってる暇はない。


「いっけぇぇぇぇ!!」


 剣を打ち出し、後ろから盾を追従させる。

 剣が結界に接触し、大量のガラスを一気に割ったような音が聞こえる。同時に結界内は白い光に包まれる。

 光りだして一拍ほど置いて、爆発音が聞こえる。……間に合ったのか!?

 光が収まり、土煙が収まって、俺が目にしたものは。


「あ……あああ…………」


 盾の後ろにはいるものの、着ていた服が破けている王女。同じく服がボロボロになって倒れているココア。服が破れて倒れているリリ。その近くには、折れてしまった杖が転がっている。そして


「ああああああああああ!!」


 着ていた鎧や服がボロボロになり、肩から血を流して膝を付いている、アリサの姿だった。


「クカッ。まさかあれを防ぐなんてナぁ。まぁ、もう一発やればお陀仏ダ」


 火球を放った魔族の声が聴こえる。コイツが……コイツのせいで……!


 その声を聞いた瞬間。俺の理性はプチンと音を立てて


 切れた












「クカカカカッ。さぁて、コレで面倒くせぇ命令も終わり……。ん?」


 上級魔法クラスの火球を防がれた魔族ネストは、もう一発火球を出そうとして、もう一度王女達を見た。

 たしかそこに居たのは、人間族が二人と亜人が二人。闇魔法を使える魔人族には興味があったが、どれも弱そうで、その保有魔力も吹けば飛びそうな者だったはずだ。

 そのはずが、膝をついている人間族の前には、見たこともない魔力を蓄えた盾が出来上がっていた。

 たかが人間族風情に魔法を変革できる者がいるとも思えない。まさか、『勇者』か?

 ネストは疑問に思い、あたりを見回す。


「……何だ、テメェは。」


 闘技場の中央部に浮かんでいる一人の人間族を見つけた。浮いているということは『浮遊』を使ったのだろうか、魔力の形跡が見られない。

 魔法ではなく、スキルで浮いているのだが、そのようなスキルを聞いたことがないネストには、『浮くだけの雑魚』という印象だ。


「あぁ、さっき真ん中で戦ってたやつか。逃げればいいものを。そんなに俺様にヤられたいか? クカカカカッ!」


 浮いている人間族を嘲笑う。だが、そこまで言われて尚、怒りもせず顔を下にむけている。

 何かあると思い、釣られて下を向くが、そこには呆然と上を見上げているもう一人の人間族しか居ない。

 ネストは、本格的にその男を雑魚だと決めた。恐怖で顔を上げることすら出来ないのだと。

 一瞬で男に興味が失せた。ネストは、魔将ヒッツェの部隊に所属している。弱いものに興味が無いのだ。

 その主人の命令だからこそ、興味もない弱い王女を殺しに来たのだ。他の雑魚に構う気もない。

 そう思い、男から視線を外して王女がいた方向を見る。


「な……なにっ!」


 ネストは驚きの声を上げた。

 先ほどの一撃を防ぐほどの盾。それが形を変えて、王女たち一人ひとりを囲む結界となっている。

 しかも王女達だけでなく、逃げ遅れた他の人間達にまで展開されていたからだ。

 ざっと数えてその数は80人。つまり上級魔法80発分の魔力が使われたのだ。魔力の扱いに長ける、魔族に気づかれずに。一瞬で。

 もしやと思い、浮いている男を見る。左腕が上がっている。……まさかこの男が?


「……何しやがった」


 焦りの色を見せながらも、威圧的な言葉をぶつける。

 上級魔術80発分。言葉にすれば単純だが、その魔力を手に入れるのには、魔族といえども容易ではない。しかもそれを一瞬で構築、展開できるほどの術士ともなれば、上級魔族にも居るかどうかわからない。

 いや、おそらく居ないだろう。出来るとすれば、魔族が王と崇める者くらいだ。

 ネストの威圧を物ともせず、男が右手を上げる。一瞬で、剣が現れた。


「『魔力剣』……? だが、あんな高濃度で?」


 おそらく魔力剣だろうと当たりをつける。だが、普通の人間族が使う魔力剣とは訳が違う。アレは恐らく、禁術クラスの魔力を保有しているはずだ。

 あれは、魔法の変革。

 その事に人間族が気づくのは、早くても50年ほど後だろうと高をくくっていたが、目の前で起こっているのは間違いなくソレだ。


「ハッ、どうせ見掛け倒しだろうガっ! 撃ってみろよ雑魚!!」


 バカにした顔で、ネストが挑発する。

 目の前の魔力剣が保有する魔力に気づかないわけではない。ネストは、その保有する魔力が狙いだ。

 ネストの固有スキルには『魔力還元』というモノがある。その効果は『身に触れた魔法を分解し、その魔力を吸収する』というものだ。

 ソレを使って魔力を補給し、余った分は上級魔法の連打に利用してやろう。そう考えたのだ。

 挑発に引っかかったのか、男が右手をネストに向ける。

 異常な速度で魔力剣が飛んで来る。心の中で『バカが』と思いつつも、飛来するソレを右肩で受け止める。

 右肩に当たった瞬間にその魔力は拡散、ネストは回復し、周りには大量の魔力が残る。……とは、ならなかった。


「バ……バカな」


 ネストの表情が驚愕に染まる。

 魔力剣は分解されず、その直撃を受けた右半身が吹き飛んでいる。その考えられない事実が、彼をそうさせる。

 ネストが魔力剣だと推測した物は、惜しいが違う。

 あれは、魔力と気力の混合されたもの----後に『鬼神力』と名付けられる----で作られた剣である。

 故にネストの『魔力還元』は効果がなく。切っ先が触れただけで、右半身が吹き飛んだ。


「グォォォ!」


 ネストは急いで自分に再生魔法をかける。目の前の男を、強敵と認めざるを得なかった。


「ガァァッ!!」


 口に先ほどと同じくらいの魔力を込めた火球を作る。

 1つだけでは安心できない。自分が作れるありったけの数の火球を用意する。その数20。

 それを全て。目の前の男に向けて放つ。


「死ねぇぇぇ!!」


 魔術師が見れば、それは絶望しか感じ得ない光景であろう。それを前にしても、男は動かない。

 ようやく動いたかと思えば、先ほどのように右手を動かし手の上に掌を作り上げるだけだ。

 ただ、その掌が異常であった。遊に10メートルはあろうであろう掌を、一瞬でつくり上げるのだ。

 そして、その掌に握りつぶされて、火球は全て消え去ってしまう。


「な……何なんだテメェ。」


 ネストは、ようやく事の重大さに気づいた。

 本来であれば、自分の火球を喰らってまだ残っている盾。それを形を変えて、80人分も一瞬で作り上げる。その事実だけで相手を脅威と判断しても良いのだが、辺境の街と舐めてかかっていたネストには、その判断は出来なかった。

 コイツは、俺の手に負えない。

 中級魔族と呼ばれる俺様が太刀打ちすら出来ない。その存在の出現を報告しなければ。

 そう思い、命令は遂行できていないが、この場から逃げ出そうとする。


『ジャラジャラジャラジャラ!!』


「な……何だコレは!」


 踵を返そうとしたネストの四肢に、鎖のような物が巻き付く。動こうにも身動きひとつ取れない。

 まさかと思い、鎖が繋がっている先を見た。その鎖は、やはり目の前の異常な男の左腕に巻きつけられていた。

 男が、ゆっくりとネストに近寄っていく。

 歩けるはずもない空中を、ゆっくりと、一歩一歩歩いてくる。


「リリの持っていた杖は、あの娘が初めて魔法を撃ったやつでね。野営の時も、肌身離さず持っていたんだ」


「は? ……テメェ、何を言ってやがる!」


 男は近づきながら意味の分からない事を言っている。杖? 何のことだ?


「ココアの着ていた服は、アリサと買い物に行った時に初めて買ったやつだ。なんだかんだ言って、嬉しかったのかお気に入りなんだそうだ」


「テメェ、頭イカレてんのか?」


 ブツブツと呟いている男に言葉を浴びせかける。内心は逃げようと必死なのだが、それを隠すように精一杯威勢を放っている。


「アリサは、今日の日を楽しみにしてくれていた。俺が手を振ると、呆れた顔をしながらも笑ってくれていた」


「…………」


 男がネストのすぐ近くまでやってきた。ここまで来ると、さすがにネストは何も言い返せない。

 得体の知れない力を持つナニカ。それがすぐ目の前に居る。恐怖を押し殺すのに、必死である。

 男は何も言わず、右手を上に掲げる。と、同時に『鬼神力』で作られた剣が現れる。

 1つ、2つ、4つ……。目の前でどんどん量産される剣。その光景に、ネストの表情が驚愕に変わる。

 512……1024……。数えきれないほどの数が浮かび上がる。そしてそれは、全て全く形の違う剣であることに気づく。

 ようやく出すのをやめたのか、ネストの周りが剣で埋め尽くされ、その切っ先がネストに向かう。

 その時初めて、男が顔を上げる。


「あ……あ………」


 男の顔を見て、ネストは恐怖に震える。

 いや、恐怖なんてものじゃない。絶望という言葉すら生ぬるい。本能的な察知。


 “コイツニテヲダシチャイケナイ”


 魔王様に謁見した時に受けた威圧すら、この恐怖と比べればやさしいものだ。

 その感情の抜けたような眼。魔族である自分が、脆弱な人間族に感じるはずもない筈の悪夢。

 ソレに怯え、頭の中が真っ白になる。

 そしてその元凶から、無慈悲な言葉が降りた。


「消えろ」


 男は言い終わると同時に手を振るう。

 ネストの周りの剣群が、一斉に身体に突き刺さる。

 指が弾き飛び。

 足はもげ。

 内臓を損傷し。

 眼球を潰し。

 喉を抉り。

 舌を切断し。

 頭蓋を割る。

 津波のように襲ってくる激痛を感じながら、ネストの耳には男の言葉が聞こえた。


「…………『剣群バビロン』」


 その言葉が聞こえたのを最後に、ネストの意識と身体は、跡形もなく消滅した。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回更新は18日予定です

よろしくお願いします

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