24-父親との対面とお勉強
「おぉ、着いたか。ささ、とりあえず座ってくれ」
アリサの実家にたどり着いて、ビクビクしながら家の中に入ったわけだが。そこに居たのは、拍子抜けするほど気楽なおっさんだった。
え、子爵邸宅でのあの厳つい感じは何だったの?
「え、このたびはお招きいただきまして……」
「ん、別に丁寧に喋らなくていいぞ。俺は平民の冒険者上がりだし、そういうのは気にしない。公式の場なら別だがな」
そうか、アリサのおじさんは冒険者から貴族になったのか。とはいえ、丁寧語くらいは勘弁してもらおう。なんたってアリサの親父さんだしな。
椅子に座ると、目の端に木の板を首から提げて正座しているアリサが見えた。板には『反省中』と書いてある。昭和か!?
見られたくないらしく、俺と目が合うとあさっての方向に顔を向ける。そりゃ嫌だよな。
「改めて紹介と礼を言おう。俺はライド・サーウェル。そこで反省してる馬鹿娘の父親だ。今回はこの馬鹿を連れてきてくれてありがとう」
「い、いえ。帰って来たのは本人の意志ですから」
ニマニマしてアリスを見ていると、ライド男爵からお礼を言われた。なんというか、すごく緊張する。
それに今回アリサが帰って来たのは、本人が決定したからだ。どうしても嫌だったなら、俺は一緒に来たりしなかっただろう。
「まぁそれにしても、旅の間一緒に戦ったのだろう。コレは冒険者と騎士に謎の憧れを持っているからな。大変だったと思うが」
知っていたなら止めればよかったのに。まぁこの人も親バカだということか。
それからは、雑談に花が開いた。街でのこと、アリサと初めて一緒に依頼を受けたこと。ディグさんのこと。
何でもライド男爵は、冒険者時代にディグさんの剣の師匠をしていたらしい。ギルマスの事を話したら「あのへっぽこがなぁ」と驚いていた。あの人の剣の師匠って、この人どんだけ強いんだろう。
途中から反省を解かれたアリサも一緒に話に入ってきた。迷宮に入った時の、アリサが仕掛けを作動させた話をすると、ライド男爵は笑っていたが、アリサはものすごい気まずそうだった。
「そういえばリュウイチ。話は変わるが、大会に出る気は本当に無いんだな?」
ライド男爵が、突然話を変えてきた。大会……? あぁ、さっきの子爵が言ってたやつか。
「えぇ、特に理由もありませんので」
子爵が自分の右腕と言うくらいだ、おそらくここで話したことは子爵に伝わるだろう。変な期待をもたせるのも悪いし、スッパリと断っておく。
「そうか……。ところでアーレス、そういえば今回の件についての沙汰を言ってなかったな」
男爵の視線がアリサに向かう。突然話の矛先が向けられたアリサはビックリしている。
「……はい」
「婚約会談は5日後となっている。準備をしておけ」
「……! お父様、それは!」
「相手は前回と同じ方だ。あれだけ恥をかかせたにも関わらず、未だにお前と婚約したいとおっしゃっている」
「そんな……」
「俺も驚いたがな。ただこれは前回逃げたお前にも責任がある。受け入れろ」
「…………」
男爵とアリサの親子の会話。それに俺は口を挟めない。関係者じゃないし、アリサから助けも求められていない。
本当は口を挟みたいところだが、赤の他人が口出しすることじゃない。その地球での常識が、俺の動きを止めていた。
アリサが顔を伏せ、次に隣に座っている俺を見る。何かを決意したのか、顔を上げて男爵に言い返す。
「婚約を断ることは出来ませんか」
「……。お前、意味が分かって言ってるか? 俺は下っ端とは言え貴族だ。それが格上の貴族からの婚約を断る。その意味が分かってなお、断りたいと言うのか?」
「……はい」
男爵から品定めをするような視線がアリサに突き刺さる。弱い意志でなら、それだけで折れてしまいそうな視線。それにアリサは耐えている。
「本気のようだな。……なら俺に結果を見せろ」
「け……結果?」
「そうだ。お前が冒険者として活動して得たものを見せろ。……そうだな、今回の武闘大会で優勝しろ」
「!!」
男爵の口からとんでもない言葉が出る。武闘大会で優勝……? それって結構難しいんじゃないのか。
子爵も言っていた、この大会は王都の学術祭ほどで無いにしろ、理由があってそれに出場できない猛者もだいぶ集まるらしい。それにアリサが出場……。
「それが出来ぬならば、決定に従ってもらう。……どうだ?」
「……」
男爵の言葉にアリサは黙りこんでしまう。それはそうだろう、いくらレベルが上ったとはいえ、猛者が集まる大会で優勝なんて、並大抵のことじゃない。
ましてやアリサは女で、元々から剣士として修行を積んでいる訳でもない。これでアリサが婚約を断れる可能性は無くなった……。
……だけど。
「すいませんが、口を挟みます」
それに俺が待ったをかける。
「……何だ」
アリサに向かっていた視線。それは俺に移ったことで、品定めから威圧に変わっている。
でも、だからといて引くつもりは全く無い。
アリサが自分の意志で断ろうとした。それを手伝う為に俺は動く。
「出場するのは代わりの者でも良いんですか?」
「ほぅ……」
男爵の表情が面白いものを見るものに変わった。男爵は“冒険者として得たもの”と“大会で優勝しろ”と言った。“アリサが大会に出場して優勝しろ”とは一言も言っていない。
「勿論、俺はかまわんが。それで、誰が出る」
「俺が出場します」
「!!」
俺の言葉にアリサが驚いてこっちを見る。「なんで……」と呟いている。意識してアリサを見ないように話の先を聞く。
「さっきまで断っていた男とは思えん言葉だな。……何故だ?」
「さっきまでは出場する理由がありませんでしたから。だけど今は (旅の)パートナーであるアリサが嫌がっています。それを叶えることに理由がありますか?」
「パートナーの願いを叶える、か。つくづく面白い男だよ、お前は」
俺の言葉を聞いた男爵が、笑いを噛み殺しながら言っている。それに当のありさは顔を赤くして下を向いているし。俺、そんなに変なこと言ったかな?
「……よかろう。リュウイチが大会に出場、優勝すればアーレスの婚約は俺が責任をもって取り消そう。それにお前と共に旅を続けられるよう便宜を図ってやる」
「お父様! そ、それじゃあ……」
「但し、優勝出来なかった時には婚約をしてもらう。それに伴い冒険者としての活動はやめてもらう。リュウイチ、お前にもこの領地の騎士として雇われてもらうぞ。俺の部下に欲しくなった」
条件が増えた……。まぁ、勝てば問題ないか。
「分かりました」
「即答か……。クックッ……ほんとに面白いなぁ、リュウイチ」
そう言ってまた笑いを噛み殺している。……いや、条件を増やしたのは貴方でしょうに。
それから細かいことを決めて、俺は男爵の屋敷を後にした。子爵へは、男爵から説明してくれるらしい。
アリサは大会当日まで屋敷に泊まるらしい。そりゃ実家がある街でわざわざ外泊しないよな。
宿に戻って、起きていたココアとリリに事のあらましを説明する。
「リュー様がズバーンでドッカーンなの!」
「応援……します……!」
それぞれ言い方は違うものの応援してくれるらしい。あぁ、癒される。
そして宿で食事を取り、いい時間となっていたので眠ることにした。
いつもの騒がしいアリサがいない食事は、味が違って感じた。
□
「わぅ~……。何も分からないの……。」
図書館にココアの悲しそうな声が響いた。仕方ない、だってココアは文字を読めないんだもの。慰めるように頭を撫でておいた。
翌日俺達3人は、許可を貰った図書館に本を読みに来ていた。目的は勿論、リリの強化と俺の知識の補填だ。
リリは迷宮で、『光魔法』と『土魔法』のスキルを得た。また、元々『闇魔法』を持っていたが、『光魔法』以外は詠唱を誰も知らないので使えなかったのだ。
しかもアリサは『光魔法』を使えるとはいえ、初級の回復などしか覚えていなかった。あの残念美乳め……。
それを知識で補うためにも、ここで勉強しておくのは必要なことだろう。
俺は俺で、歴史や地図などをまず読んでいた。最初の頃、おぼろげにアリサに教えてもらった事がハッキリと刻まれていく。
この世界には、どこにも属さない亜人の集落を除いて、人間族の国が3つ存在する。
帝王の独裁による武装国家『ラスト帝国』。
一番長い歴史を持ち、勇者を始祖とする守護の国『アリストア王国』。
その二つに属さない小国が集まった『リーンセス連邦』。
そしてもう一つ、人間族どころか亜人族、時には竜族すら恐れる魔族が集まる『魔界』。
大きく分けるとこれくらいだろう。そして俺がいるのは『アリストア王国』だ。
この国は、時の魔王を討伐した勇者『ラケル』が創った国。一番歴史が浅い国は『ラスト帝国』で、遠くの荒野で昔からいたらしいが、最近その頭角を現してきたらしい。
亜人への差別がもっとも酷いのはラスト帝国。次がアリストア王国で、一番軽いのはリーセンス連邦。とはいえ、領主や地域によって若干変わってくるらしいが。
とりあえず帝国に行くのはできるかぎり避けたほうがいいな。2人の悲しむ顔なんて見たくない。
興味深かったのは、秘蔵文書の部分だ。それには、現在も勇者が存在することが明記されていた。
『勇者』として存在するのは2人。帝国、連邦にそれぞれ一人ずつ。
そしてその勇者は“異世界から召喚された者“であることが書いてあった。
ふむ……、とても気になる。どこから召喚されたとかは分からないが、片方は『音が鳴り、場面を切り取ったような記録が残せる板』を持っていたとある。恐らく携帯のことだろう。
時代は謎だが、俺と同じ地球から、それほど遠くない時代の存在が来ているという事だと思う。ただ場所が帝国なんだよなぁ。
「むぅ~、リュー様、お腹すいたの~」
「そろそろ……お昼……です」
二人からそんな声が上がる。おぉ、もうそんな時間か。思いの外集中して読んでしまっていたらしい。
リリは向かい側からおずおずと話しかけているが、ココアは退屈が我慢できなくなったのだろう。椅子を並べて寝転がり、俺の膝の上に頭がある。まぁ、静かだしね。
「じゃあ、屋台でご飯を食べようか」
俺の言葉に、目を輝かせて飛び跳ねるココア。向かいのリリも嬉しそうだ。
二人の手を取り、屋台村がある中央街へ向かう。はしゃいでるココアと、顔を赤らめて一生懸命俺の手を握るリリ。いやぁ、眼福。
因みにだが、ここウーデン市は大きい。ザンドウの1,5倍はある。東街が高級住宅街、北街に図書館や教会があり、西街に宿やら門がある。そして南の端にスラムがある。方向が変わったくらいで、大体はザンドウと同じだな。
ザンドウでは屋台といえば焼き鳥などが多かったが、この街には海鮮系がある。近くに海があるみたいだ。
初めて見る貝 (っぽいもの)におっかなびっくりしていたが、殻を剥いてやると美味しそうに食べていた。
魚の塩焼きを食べて「の、のどが痛いの! 攻撃されたの~!?」と驚いていた。おそらく骨が引っかかったのだろう。
リリはリリで蟹の殻をせっせと剥いていた。緋い眼が本気だ。かっこかわいいけど……。そ、そういう細かいことが好きなのね。
中央街は、南街から近いのもあるのだろう、孤児の亜人の子供が羨ましそうに見ていた。
その娘はココアが連れてきたのだが、一緒に屋台でつまむものを買い与えてやる。
適当に買ってはココアとリリに渡していると、気づいた時には孤児の子たちが30人ほど集まっていた。何このハーメルン状態。
どうせなので屋台を2つ貸し切りにして、子供たちに自由に食べたいものを買ってこさせる。ココアもしっかり並んでいた。
嫌がられるかもと思ったが、屋台のおっちゃんは金さえ貰えれば気にしないと言ってくれた。元々子供は好きらしい。
ちょっとした祭りも終わり、子供たちが「リュー様ありがと!」とお礼を言って去っていく。なんつーか、恥ずかしい。
屋台のおっちゃんたちも「今日は早々に店じまいだぜ、ありがとうよ」と嬉しそうに店を片付けていた。
金貨が結構飛んでいったが、楽しかったしまぁいいか。
食事が終わってからは、また図書館に戻る。ココアには、帰りに屋台で買っておいた食べ物を渡しておく。キラキラした眼をしていたし、あれで大人しくしているだろう。
図書館では、今度は魔法書を読んでいた。
ザンドウの魔法ギルドでの話を思い出す。たしか俺には全属性が使えたはずだ。で、飛び抜けて水と闇が高いんだっけ?
まずは一般に公開されている魔法書を読む。中級までの魔法しか載ってなかった。
そして次は秘蔵文書の場所にある魔法書を読む。そこには上級魔法のものだけでなく、禁術の魔法書もあった。禁術を載せている魔法書を魔導書というらしいが……。どうでもいいな。
俺が魔導書を読んでいる間、リリには光の魔法書を読ませていた。午前中は闇の魔法書を読ませていたが、ある程度覚えたそうなので次は光を読ませる。ほら、光と闇が使えるとか素敵やん?
闇魔法は、元々スキルがあったからかスラスラと読んでいたが、光は苦戦しているみたいだ。頑張れ~。
2時間ほど経っただろうか。本から顔を上げてリリを見ると、頭から煙を出しそうな顔をしていた。
慌てて本を読むのをやめさせて、宿へ連れて帰って休む。そ、そんなにがんばらなくても……。
因みにだが、ココアは開始15分で食べ終えて、俺の膝の上で丸まって眠っていた。
可愛いので撫でながら本を読んでいた俺も俺だが……。せめて文字は読めるようになってほしいなぁ。
そういえば、宿に帰る途中に久しぶりに『診断』で自分を確認してみた。
名前:佐伯龍一
職業:冒険者
レベル:255
ステータス異常:無し
固有能力:身体強化
精神強化
EX『診断』
魔力の元
成長の証
食護の冴
スキル:格闘
気配察知
気力変換
無属性魔法
魔力変換
瞬動
調理
回避
水魔法
気魔流動
算術
闇魔法
魔力察知
混合
土魔法
火魔法
風魔法
光魔法
禁術
称号:『魔力宝庫』『魔導の支配者』『魔の暴虐』『粗忽者』『亜人の守護者』『食の守護神』『水流の狂者』『禁術師』『保護者』
何か色々物騒な物が……。支配したつもりはないんだけど? っていうか粗忽者ってまだあんのかい!
読んでいただきありがとうございます。
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次回更新は14日予定です
よろしくお願いします。
12月21日 誤字修正




