23-子爵と俺とアリサと
サレブ村を出て、5日経っている。
途中魔物に襲われたりはあるものの、悠々と旅は進んでいく。
ザンドウを出て8日だから、そろそろウーデン市に着くかな。おっと、その前に聞いておかないとな。
御者台から後ろに向かって声をかける。
「なぁ、シュピーツ」
「ん、なんさね?」
「街に入る時はどうするんだ? このまま一緒に入るんでいいのか?」
「あ~、そうだねぇ」
シュピーツは元々ウーデン市で活動してたってことだし、別に入った良いがいいなら手前で別れないといけないしね。
「一緒に入れればありがたいね」
「ん、分かった。街に入ったらお別れだね」
一応確認を取っておく。「よろしく~」なんつってまたゴロリと寝転んだ。……俺も寝転がりてぇ。
道にそって進んでいると、前に大きな門を構える街が見えた。ザンドウの2倍位でかいぞ。
「おっ、見えてきたかい。もうそろそろだね」
あれがウーデンで間違いないらしい。リリに、渡してある財布から銀貨を準備してもらう。ここはいくらだろうか。
門に近づくと、入場検査待ちの行列が見える。あれに並ぶのか、長そうだな。
馬車検査場の最後尾に並び、ボケーと待つ。
と、アリサが何も言わず馬車から出て行った。……トイレか?
5分ほどして、衛兵らしき人を連れて戻ってきた。
「お待たせ」
「ん、いやいいんだけど。その人は?」
「衛兵よ。先に検査してもらえるか聞きに行ったら、なんか検査に来てくれるって」
わざわざ来てくれんの!? 何そのVIP待遇!
「あ、貴方が『白脚』様でございますか!」
キビキビとした態度で言葉をかけてくる。これが直立不動か。……ん、今白脚って言った?
「そうですが」
「おぉ! やはりそうですか! ミリルお嬢様から話は伺っております。検査なんて必要ありません。こちらへどうぞ。」
衛兵さんの先導に従って街に入る。おぅ、並んでいる商人さんたちの視線が痛い。
連れられて向かった先は領主の屋敷だった。本当は宿にでも入って一息つきたかったんだが、衛兵さんに何を言っても「大丈夫です」としか返ってこなかった。
ちょっと離れた所でメイドさんと衛兵さんが話をしている。何か売られる牛みたいだな。
話がついたのか、衛兵さんが屋敷から離れ、メイドさんが近づいてくる。この人は分かる人かな?
「『白脚』様ですね、話は伺っております。こちらへどうぞ」
「えっと、領主様とお会いする前に、一度宿で荷物を置きたいんだけど」
「お預かりさせていただきますよ。子爵様にお会いして頂く前に入浴なども出来ますので、大丈夫です」
「えっと、その……」
「こちらへどうぞ」
ダメだ、この人も仕事に真っ直ぐだ。しかもきちんとした返しも付いてくる辺り、さっきの衛兵さんよりやりずらい。仕方ないか。
諦めて、メイドさん達に案内されるままに部屋に入る。来客用の部屋らしく、落ち着いた色合いの家具が並んでいる。
「準備が整いましたらお呼びします。それまでしばしお待ちくださいませ。お茶等、何かありましたらドアの前にメイドが待機しております。お申し付け下さい。」
案内してくれたメイドさんが、一礼して部屋を出て行く。どうせなので休ませてもらおう。
4脚ある椅子の一つに座りながら、そういえばココに来た時から不思議だったことを聞いてみる。
「んで、なんでお前が居るんだろうね」
「そりゃぁ私のほうが聞きたいさね」
ソファーに座っているシュピーツがそう愚痴てくる。衛兵さんに言えばよかったのに。
「私もそう思って声をかけたさ。だけど返事は「大丈夫です」の一点張り。ぜんぜん大丈夫じゃないってのに」
ブツブツ言いながら、隣に座ったココアの髪を編んでいる。ココアは動けなくて不満そうだが、ふむ、上手いもんだな。
まぁ、シュピーツには諦めてもらおう。問題はもう一人だ。
「んで、アリサは何やってんの?」
そう、不思議なことといえばアリサの方が不思議だ。屋敷に近づいた時から様子がおかしい。なんかそわそわしてるし。
「そ、そわそわなんかしてないわよ! ただ……その……」
そう言いながら辺りをキョロキョロと見回している。もう心の声が漏れているのは諦めよう。
「多分だけど、お父様もこの屋敷に来てるわ」
「なんだ、父親との再開に緊張してたのか」
「いや、緊張っていうか……。絶対怒られ「ちょ、ちょっとまった!」……」
アリサの言葉を遮って、シュピーツがビックリした声を上げる。なんだ?
「領主の屋敷に平然と来れる父親って言うと。……もしかして?」
「ん。あぁ、言ってなかったんだな。コイツの父親、サーウェル男爵らしいよ」
俺の言葉に口を開けて驚く。そんなに驚くこと……。まぁ、同じ街に住んでれば驚きもするか。
かくいうアリサは、バレるのが嫌だったのかしかめっ面だ。いや、ディグさんにはバレてたから。
「あ、アンタ達といると驚くことが多いねぇ。でも……なるほど、この娘が噂のこんや……ちょ! 待っ……分かっ……」
何かを言おうとしたシュピーツにアリサが襲いかかった。口を抑えたり頭をガクガク揺さぶったり。ありゃ酔うわ。
暴れだした二人をほおって置いて、メイドさんにお茶を頼む。
用意していたのか、すぐ持ってきてくれたので、お茶請けをココアとリリとつまむ。
お、なんだか静かになったな。
アリサの方を見ると、シュピーツに耳元で何かを言われ、赤くなって黙って聞いている。時折俺の方を向いては下を向いているが……。何の話してんだ?
「白脚様、お連れ様、お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
小一時間ほどして、メイドさんが呼びに来てくれた。膝の上で眠っているココアを起こす。ついでにアリサ達に声を……ってリリも混ざってたの?
3人共静かに付いて来てくれるのは良いんだけど、空気が怖い。特にリリ。
歩きながらシュピーツに尋ねたけど、乙女の秘密とのことで教えてもらえなかった。
メイドさんの後を付いていると、一つの大きな部屋の前に案内された。
ドアの前で突っ立っててもしょうがない、中に子爵とアリサの父親が居るだろうドアを開ける。
応接室だろう部屋には、二人の小奇麗な服を着たおじさんとミリル嬢が座って待っていた。
メイドさんが向かいのソファーへ促してくれる。入った時に何も言われなかったし、とりあえず座って話し始める。
「お呼びいただきありがとうございます。私がリュウイチです」
「あぁ、来てくれてありがとう。私がここの領主、サルバ・アーネスだ。横にいるのは……といっても知っているか。娘のミリルと右腕のライド・サーウェルだ」
「お久しぶりです、リュウイチ様」
「ライドだ、娘を連れてきてくれてありがとう」
紹介があって、二人が話しかけてくる。うん、なんか怖そうなおじさんだなアリサの父親。
ライドさんが俺と連れ達を見る。と、シュピーツを見て首を傾げている。
「ん? そこにいるのは“赤槍”じゃないか。いつの間にこの人達とお仲間になった?」
「いやぁ、旅の途中に会ったんだけ……ですがねぇ。馬車に乗せてもらって検査を受けるときに勘違いされたみたいさ……です」
どうやらシュピーツの事を知っているらしい。まぁ、二つ名があるくらいだしな。
シュピーツも慣れない敬語を使っている。途中途中で言いよどんでいる姿がちょっとおもしろいな。ニヤニヤしてシュピーツを見てやる。……おっと、視線が怖くなってきた。くわばらくわばら。
「さて、ミリルに筆を取らせて来てもらったのは他でもない。娘を助けてくれたお礼をしておきたくてな」
「いえ、お言葉だけで十分です」
「まぁそう言わないでくれ。一人で色々行きたがるこの娘も、私にとっては可愛い一人娘だ。その生命を助けてくれた恩人に是非お礼がしたい」
これ以上断っては恥をかかせることになるか……。それで恨まれるよりは貰っておいたほうがいいかな?
「娘の話に聞くと、実力もあり人の死を悼むことができる人物だとか。それなら是非ウチの領地の貴族に……」
「すいませんが、辞退させて下さい」
びっくりしすぎて言葉を遮ってしまった。手のひら返しで申し訳ないが、貴族になるつもりはない。領地とか貰っても統治できると思えないし。
初めて合った貴族が伯爵だったのに影響されてないかと言われればゼロではないが……。本心を言えば、貴族とか権力争いじゃないですか。ヤダー。
「そうか……。それだと何がいいだろう」
考え込んでしまったサルバ子爵。う~ん、こうなったら欲しいものを俺から提示したほうがいいのかな。
そういえば邸宅に入る前に大きな図書館があったな。衛兵さんに聞いたら「図書館です。大丈夫です」って言ってたしな。あれを自由に使わせてもらえれば
「そうだ、このミリルとこんや……」
「欲しいものがあるんですがいいですか!?」
思いついたように話しだす子爵の言葉を意図して遮る。危ない危ない。今この人ミリル嬢と婚約させようとしたぞ、絶対。それに思いついた様な仕草の下手さ加減。……最初っから考えてたろ。
「この街の図書館を自由に使わせて欲しいんです」
「図書館の許可を……? それは、秘蔵文書もという解釈で良いのかね?」
「はい。表に公表されていない歴史書や、魔法書などを読みたいんです」
「ふむ……」
今度こそ本当に考えているんだろう。さっきの大根っぷりよりよっぽど領主っぽい。
苦し紛れに言った図書館の使用許可だが、意外と大きな物となって帰ってきそうだ。子爵の隣に座っているアリサの父親も困惑している。
「目的を、聞かせてもらえるかね?」
子爵の目つきが変わった。射抜くような鋭い視線だ。色々修羅場をくぐってきたのだろう、力強い。っていうか怖い。
「私は世間に疎いため、この国や世界の歴史や情勢を知りません。これからも旅をするのに、この子たちが謂れ無き非難を受ける街や国には近寄りたくないのです」
そう言って、隣に座っていたココアの頭を撫でる。話が難しくてわからないのか、クリッとした眼を向けてくれる。
「……。して、魔法書は?」
「この子達には、平凡ながらも魔法の才能があります。生き抜くためにも、きちんとした知識を教えてやりたい。後は、私自身も魔法の勉強がしたいというのもあります」
「ふむ、そうか」
俺の言葉を聞いて、子爵の目つきが戻った。ホッとしたような、にこやかな顔になっている。
「いや、試すようなことを聞いて済まなかった。秘蔵の文書を盗み出そうというものも多いものでな。勿論、図書館は自由に使ってくれて構わない。秘蔵の物でも、館内で読むのであれば許可しよう」
笑顔でそう答えてくれる。試されてたのか……。怒らせたかと思った。ホッとしたのは俺だよ。
お礼の内容が決まったのを見計らったように、メイドさんが人数分のお茶を出してくれる。
それからは、お茶を飲みながら迷宮であったこと等の雑談をした。アリサがビクビクしながら話していたのが面白かった。
「それでは、そろそろ私達は……」
お茶を飲み干した辺りでお暇しよう。ミリル嬢は少し残念そうな顔をしていたが、すぐに街を離れるつもりもないので我慢してもらおう。
「おぉ、そうか。帰る前に一つだけ頼みたいことがあるんだが」
腰を上げかけた俺を、子爵の言葉が引き止める。頼みたいこと? なんだろう。
「うむ、実は5日後にこの街で武闘大会があってな。それに出場してもらいたいのだ」
武闘大会!? 楽しそうだけどどうしよう……。っていうか貴族の前でも発動するのか!? 俺の心漏れ!?
「武闘大会ですか」
「あぁ。と、言っても近場の貴族や力自慢が来るくらいだ。王都でも学院の学術祭があるのでね。毎年誘ってはいるのだが、王族や、それに連なるものはまず来ない。安心して欲しい」
俺の心配事を汲み取ってくれたのか、子爵から説明が入る。おそらく情報を出してほしくないというのは、ミリル嬢から聞いているんだろう。
「男爵様は出ないのですか?」
「あぁ、ライドは今回別件で出場出来ないのだ。だから君のような実力者に出てもらえると助かるのだが」
ふむ、怖そうな親父さんは出場できないのか。強そうなのにな。
大会にでることによるメリットはなんだろうか。出場してみれば、俺がどのくらい規格違いなのか確認ができるかもしれないが……。
う~ん、どうしようか。……いや、やっぱりやめておこう。大っぴらにやらなくても確認はできるしね。
「申し訳ありませんが……」
「そうか、仕方がないな」
ガックリと肩を落とさせてしまった。なんか、悪いことをした気分だ。
「まぁ、開催日は4日後だ。それまでに考えが変わったら言ってくれ」
と、思ったら気を取り直してそんな事を言ってくる。あれも演技か?
さて、話も終わったことだし、宿を決めてゆっくりしようかな。
「では、リュウイチ殿。宿を決めたら一人で私の屋敷まで来てもらいたいが、構わんかね?」
そんな声が、ライド男爵から聞こえた。……なんぞ?
「え?」
「私としても娘を連れてきてくれた者に対して、そのままというわけにも行かない。なんなら食事も用意するが、長旅だったのだ。連れの子供には辛いだろう?」
そうか、考えてみれば飛び出した娘を連れて帰ってきた男。しかも連れは女性だらけで亜人の奴隷を2人も連れている男。……デ、デスヨネー。
「わ、わかりました」
「それは良かった。アーレス、先に屋敷へ戻るぞ。客人をもてなす用意をせねばならんのでな」
そう言って子爵に一礼し、アリサを連れて出て行った。用意って、決闘だ! とかじゃないよね……?
俺は先の事を思って肩を落とし、3人を連れて子爵邸を後にした。
宿を探す途中で、シュピーツとは別れた。
最後まで飄々としていたが、ポツリと「新しい槍を仕立ててもらわないとねぇ。全く、余計な出費さね」とつぶやいていた。
可愛そうだが自業自得だな。冒険者ギルドの依頼で、買えるまで稼いでもらおう。
宿は早めに決まった。というのも、帰り間際にミリル嬢からオススメの宿を聞いておいたのだ。
3人で1泊銀貨5枚したが、高いだけありベッドはフカフカだった。睡眠はきちんと取らせていたが、気を張っていたのだろうか2人はベッドですぐ眠ってしまった。お疲れ様。
そして俺は、怖そうなアリサの親父さんと対面しに、宿を出て行くのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回更新予定は13日です
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