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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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22-引き続き、馬車の旅

 盗賊騒ぎがあった翌日の朝、俺達は村を出発していた。

 盗賊達はロープで簀巻きにしてあるし、連絡を受けた冒険者ギルドが早馬で翌日には到着するらしい。

 俺としては別に報酬とかいらないし、泊めてもらった恩を返しただけだ。それに騒がれても面倒くさい。

 だからさっさと村を離れたのは良かったんだが……。アリサと一緒に座っている御者台から後ろをチラ見する。


「いやぁ、この馬車はいいねぇ。寝心地なんてそこいらの宿より上じゃないか」


 シュピーツが同乗して来たのにはまいったな。


「なんでこいつが一緒に乗ってんのよ」


「だからさっきも言っただろう。縄も自分で切っちゃうし、コイツだけ自由にしても村人が怖がるだろ」


 納得の言っていないアリサに何度目かになる言葉を返す。

 あの戦いの後、シュピーツも簀巻きにして、盗賊たちと一緒にしておいた。

 だが気がついたシュピーツは、魔法で自分の縄を切って俺達の小屋で風呂に入っていた。

 朝起きて風呂に入ろうとしたら先にいたので、ものすごく驚いた。……まぁ驚いたのは別の件なんだが。

 暗闇なのでわからなかったが、シュピーツは赤髪で、そして、女性だった。

 冒険者らしく引き締まった身体、解いた長髪。そしてまさかのペッタンコ。これで体格が小柄だったらど真ん中に豪速球だ。

 思わず親指を立てて「B!!」と叫んでしまったからな。怒るでもなく大爆笑していたシュピーツが印象的だった。

 その後は、俺の声で起きてきたアリサに、何故か俺が殴られた。見ちゃったし、しょうがない。それにリリのあの悲しそうな羨ましそうな視線の方が痛かった。

 風呂から上がった後シュピーツに話をした。手は出さないが簀巻きで居るのは嫌だったらしい。村長にそのことを話したが、安心ができないから連れて行ってくれないかと懇願されてしまった。

 しょうがないので連れて行っているんだが……。はぁ。


「何々、喧嘩? 仲間と喧嘩しても良い事ないよ」


「「あんたのせいだよ!」」


 悪びれずに言ってくるシュピーツへのツッコミがかぶる。


「っていうか、あんた依頼失敗したんだろ? ウーデンに戻って大丈夫なのか? 制裁がキツイんじゃなかったっけ」


「ん? あぁ、依頼主があぁなっちゃあ依頼も何もないさね。それに依頼内容の齟齬もあったし。それを話せば問題ないさ」


 なんでも依頼内容は『移動時の魔物及び同業や騎士等障害の排除』だったらしく、依頼書にも『盗賊行為への一切の関与は無し』と書かれてあったらしい。

 普通の依頼でいえば護衛依頼みたいなものだな。

 盗賊行為中の護衛はやりたくもないし、それに関しては約束をさせていたらしい。あれ、じゃあ俺と戦う必要も無かったんじゃね?

 不思議に思って聞いてみると、あっさりとした答えが帰ってきた。


「強いやつと戦いたく無いわけ無いさね」


 バトルジャンキー系の方でしたか……。扱いづらいっ!



 夜になった、今日も今日とて野宿の開始。

 今日の見張りは俺だが、シュピーツを只でいさせる訳にはいかない。今夜は二人で見張り番だ。


「シュピーツ、一緒に見張り番をしてくれるか」


「私かい? んでも武器もあんたに折られちまったしねぇ。獣が来ても起こすしか無いけどいいかい?」


 見張り番をすることには同意してくれているらしい。よかった、これで嫌だなんて言われたらどうしようかと思った。

 それにしても、そうだった。こいつの武器の槍は俺が折っちゃったんだった。

 仕方ないのでふくろから短刀を出して渡してやる。


「んじゃま、これ使ってくれよ」


「あんたねぇ……」


 短刀を受け取ったシュピーツが呆れている。得意な獲物じゃないから嫌なのかな?


「うーん、でも俺槍持ってないしなぁ。多少不得意でもそれでできない?」


「そんな事じゃないわね。昨日戦った相手に武器を渡すとか、どんだけ甘いんさ」


「ん。だって手を出すつもりはないんだろ?」


「まぁ無いけどねぇ……。ちょっとは警戒したほうがいいんじゃないかい?」


「つったってなぁ、俺と一緒に見張りなんだ。自分が得意としてない武器で、俺と戦って勝てると思うか?」


「……」


「そういうこと。それに裏切りそうにないからね」


 まぁ、甘い事を否定はしないけどね。

 話が終わって、ココア、リリ、アリサはもう馬車の中で寝ている。

 風で周りの木々が揺れている。

 その中に、全く違う音が混ざる。人が近づいてくる音だ。


「どうした? シュピーツ」


「察知が早いねぇ。いやなに、あんたに言っておくことがあってね」


 なんだろう。愛の告白だろうか。

 だめっ、私にはココアとリリという二人の養わなければいけない娘が……。


「あんた、人を殺した事ないだろう」


 シュピーツの口から出たのは、ある意味当然の。だけど俺は想定もしていなかった内容だった。


「……どうして?」


 他の何を言うでもなく、疑問が俺の口から出る。本当に、どうして気づいたのか。


「簡単さね。人相手の技術は凄いけど、殺そうという動きが見えない。物凄く手加減しているように感じる。恐らくだけど、ある程度実力がある奴なら対峙すれば誰でも分かるさ」


「それは、生捕りにしようと最初から「それに」……」


 俺の言い訳の途中で、遮るようにシュピーツの話が続く。


「あんたの眼、綺麗すぎるんだ。盗賊なんていう輩を相手にしてのその眼。人を殺したことがある奴の眼じゃないさね」


 グゥの音も出なかった。戦いを経験している者から見ると、そこまで違うのか。

 確かに俺は、盗賊といえど殺そうとは思っていなかった。

 俺の身内、今で言えばアリサ、ココア、リリに手を出す奴なら容赦はしないし、獣や魔物に襲われている盗賊を、わざわざ助けようとは思わない。

 だが、自分が狙われているからといって、殺すつもりはない。

 それでは……、甘いのか……?


「俺の状態って、やっぱり「だけどね」……」


 俺の弱気を塞ぐように、シュピーツが言葉を重ねてくる。


「私はそれが悪いとは思わないよ。甘いとは思うけどね。ただ、一つだけ忠告」


「……」


「やるときには躊躇うな。……躊躇った時、失うものは、多いよ」


 シュピーツの言葉に、顔を向けた。俺と目が合い、ニッコリと笑う。

 イタズラが成功した子供のような、憎めない、可愛らしい笑顔だった。


「まぁ、私から言えるのはそれくらいさね。私を信じてくれたお人好しのあんたに、ちょっとした手向けだと思ってくれればいいさ」


 それだけ言い残して、シュピーツは最初の警戒場所へ戻っていった。去り際、ちょっと顔が赤かったのはあれか。恥ずかしがり屋さんか。

 一人になって、シュピーツの言い残した言葉を反芻する。

 躊躇うな……か。

 容赦しない事と、躊躇う事。覚悟はしているつもり、だけど実際にその場面になったら……。

 それを見越して、シュピーツは俺に一言言ってくれたのだろう。

 それにしても、最後に笑う前の顔。……あれはずるい。


「涙はずるいよなぁ」


 思わずボソリと言葉が出てしまう。

 あの言葉は、シュピーツの実体験からきたものだったんだろう。

 闇ギルドに所属する冒険者のシュピーツ。

 今に至るまでに何があったのか。……何を失ってしまったのか。俺には知る由もない。

 だけど。さっきの言葉は、本当の言葉だったと思う。


「俺、弱いよなぁ」


 俺の言葉に返してくれるのは、夜風の音と焚き火のゆらめきだけだった。









 翌朝、皆が起きだす前に朝食の準備を始める。

 昨日買っておいた野菜でサラダを作り、ふくろからパンを取り出す。ついでにスープも付けちゃおうかな。

 スープが仕上がる間近で皆が起きだしてくる。うん、いつもどおりだ。


「おぁよ~」


 まずアリサ。いつもの様に寝癖が付いている。寝癖を無くす寝方ってなかったけな。美人が大無……いや、アリだな。


「ほらほら、顔洗ってシャキッとする!」


「わかってるわよぉ~」


 のんびりと桶へ向かっていく。


「リューしゃま、おはようなの~」


 次に眼を擦りながらココアが出てくる。うん、その舌っ足らずも良いよね!


「おはよう、もうすぐご飯だから顔を洗っておいで」


「リュー様のご飯なの! すぐ行ってくるの!!」


 “ご飯”の言葉に意識を覚まして、顔を洗いに走る。いや、桶があるのすぐ近くだよ?


「ご主人様……おはよう……ございます…」


 次はリリ。眠たそうにしながらも一生懸命挨拶してくれる。いやぁ、いじらしい。


「おはよう。ご飯はもう出来るから、ゆっくり準備しておいで」


「あぅ……。ごめんなさい」


 手伝いが出来なかったことにシュンとしている。そんなつもりじゃなかったんだが。


「今日は俺が作りたかったんだよ、気にしないで。後、こういうときは“ありがとう”だよ」


「はい……。ありがとう……ございます……」


 キンギョソウの花の様な、はにかんだ笑顔でお礼を言ってくれる。

 この娘! この娘ウチの娘なんですよ!!

 気を取り直していると、リリの姿が見えなかった。そんなにトリップしてたか?


「ご飯もついてくるんだねぇ。まるで高級宿の様さね」


 最後はシュピーツ。また朝から思ってもいないことを。褒められても嬉しくなんか無いんだからね!


「言ってろ。飯の前に、桶に水が入っているから、それで顔と手を洗って来い」


「はいはいっと。まったく、恥ずかしがり屋だねぇ」


 恥ずかしがってなんかないっての!

 俺をからかい終わったシュピーツが、先に置いている桶の元に……


「おい、ちょっと待て」


 顔を洗おうとしたシュピーツを呼び止める。なんだい? とでも言いたげな顔でこっちを見ている。


「お前、寝てた?」


「?? 何を言ってるんさ?」


 ま、まぁそうだよな。夜番をしてるのに寝るはずが


「もちろんさっき起きたさね」


「寝てたんかい!」


 俺のツッコミが虚しく響く。夜に一緒に番をしてたのに寝てるだとぅ!


「そりゃそうさ。ホントは私も起きておくつもりだったけど、あんた何か考えこんでて、ずっと起きてそうだったからねぇ。起きててくれるってのに私まで起きておく必要もないだろう?」


 事も無げにそう返してくる。いや、そうだけどさぁ。


「それに、何やら真剣に考え込んでるあんたの表情。カッコ良かったよ」


「……さっさと顔を洗いに行っちまえ」


「さっさとって、あんたが呼び戻した癖に。……あぁ、わかったわかった。行ってくるさね」


 俺が唸ってやると、口元に笑いを浮かべて桶の元へ歩いて行く。

 くそぅ、カッコイイとか急に言うなよ。「おぉ怖い」とか言ってるし、絶対からかってるだろ……。悪い気はしない!

 皆が戻ったのを見計らって器にスープを入れる。

 

「「「「いただきます」」」」


 手を合わせてから、食事を開始する。シュピーツが一人「いただ……何?」と言っていたが、ジロリと睨んでやると小さく「イタダキマス」と言っていた。うん、郷に入っては郷に従えだな。

 いつもの様にご飯が始まる。落ち着いて食べる俺とリリとアリサ。一心不乱に食べているココア。と、なぜかシュピーツ。……お前も?


「うっふぉうふぉいしい!」


「食べながらしゃべるな。ココアが真似するだろ。」


「んぐ……ふぉえん。……っぷはー。すっごく美味しいじゃないさ!」


 スープを飲み干し、そんな感想を言ってくる。そういえば、昨日の夜もリリの作った晩飯を食べてそう言ってたな。


「あんた達、本職は料理人なんじゃないかい!?」


「なわけないだろ。どこの世界に4人中2人が料理人のパーティーがいるんだよ」


「んだけどねぇ……」


「リュー様のご飯はとってもおいしいの! リリはでしだからおいしくなってるの!」


「頑張り……ます!」


 シュピーツの言葉に元気に返してくれるココアと、両手を握って頑張るポーズをするリリ。なんてかわいいんだろうか。

 おや、そういえば話に入ってこない奴がいるな。


「……だってよ、アリサ」


 ニヤニヤしながら向かいに座っているアリサに話を振ってやる。

 話をふられるとは思っていなかったのか、ビックリした後ふてくされたようにそっぽを向く。


「二人が出来るからいいのよ。出来る人がしたほうがいいじゃない」


 やっぱり自分が作れないのが悔しいらしい。ダメだ、ニヨニヨが止まらない。


「まぁ、そうさね。かくいう私も食事を作るのは苦手だしねぇ。それでいいんじゃないかい」


 横からアリサを援護する言葉が出てきた。二人で「ねー」なんつって意気投合してやがる。おい年長者、それでいいのか。

 和気あいあいと食事は進んでいき、荷物を片して出発となった。

 今日の御者は俺とリリ。本当なら俺に教えたアリサと一緒のほうがいいんだろうが、リリからの希望もあって俺が教える事になった。いやいいんだけどね、俺も復習しながらできるし。

 御者台から後ろを覗くと、さっきの食事で打ち解けたのか、3人がキャッキャと話をしている。

 ……いや、2人がココアで遊んでるといったほうが正しいか。

 まぁ、何にせよ仲良くやっていけそうだな。

 後ろからの、今度はシュピーツが2人をからかう声を聞きながら馬車の旅は進んでいった。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回更新は12日予定です

よろしくお願いします。

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