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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
24/48

21-出先でも起こるトラブル

 ザンドウの街を出発して、既に2日経っている。

 恥ずかしい思いをしてまで買ってきた馬車は、乗り心地を重視して、フカフカの布団を三重に敷き詰めてある。

 あそこまで白い目で見られて、あんなに恥ずかしい思いをして買ったんだ。これで尻が痛くなるなんて許せなかった。

 思いの外出費が激しく、金貨を15枚ほど使ってしまったが、仕方ないだろう。

 ただでさえこの世界は俺の尻に厳しいしね。

 それから今まで、馬車の旅が2日続いているわけだが……。


「なんで私だけが御者をしてるの!?」


 移動の際は必ず御者をしているアリサから、そんな文句が出ていた。

 だって仕方ないよね。俺は出来ない、ココアとリリはもってのほか。できるのアリサだけなんだもん。


「もう、だったらせめて覚えてよ!」


 そう言って少しズレ、自分の隣をポスポス叩いている。俺……しかいないよなぁ。

 仕方なくアリサの隣に座る。ん、ちょっと狭いな。

 そのまま手綱を渡してもらい、アリサの指示に従って操縦する。む、むずいな。


「もう、だからそっちじゃなくて……。あぁもう!」


 だらしない俺にしびれを切らしたのか、俺の手の上から手綱を握り、安々と操縦するアリサ。


「おぉ、上手いもんだな」


 教えながらでも上手な運転に驚きの声を上げた。ちょっと自慢げだ、赤い顔をしながら胸を張っている。ふむ……やっぱりC!

 そのまま運転を教えてもらっていると、後ろからココアとリリが御者台を覗きこんでいた。


「むぅ~、アリサずるいの」


「私も……教わり……たいです。」


 何やら文句を言っている。俺が覚えたらなと返しておく。

 それにしてもそんなに操縦したかったのか。……ん? なんでアリサがずるいんだ?

 そんな会話をしている内に、ココアのお腹が鳴った。ふむ、そろそろお昼か。

 後ろを向いてご飯にすると告げる。さすがに恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらも喜んでいるココアと、気合を入れてるリリ。効果音はワーイとムンッかな。

 馬車を止め、アリサに火を着けて貰い、俺は桶に水を張る。

 リリと一緒にごはんの準備をする。途中途中で獣を撃退しているので、材料には事欠かない。今日は野菜スープとステーキだな。

 料理が完成するくらいで二人を呼ぶ。桶で手と顔を洗い、食事の開始となる。


「んっ、今日の御飯も美味しい。お昼はリリなのね」


「ん~! 美味しいの~」


 味で俺が作ったかリリが作ったか判断できるくらいになっている。なんだ、神の舌か?

 リリも最近は食事を作るのが上手になってきた。ココアとアリサは食べるの専門だけどな。

 食事を堪能していると、どこからか羽の生えた小人がフラフラと飛んで来た。何だ、これ。


「あら、妖精族じゃないの。珍しい」


 アリサがそう呟く。

 なんでも、妖精族というのは亜人の一種。イタズラをすることもあるが、基本的には温厚な種族で、また魔力操作に長けるらしい。

 フラフラと飛んできた妖精族がチラチラとこっちを見ている。……スープを食べたいのかな?

 ふくろから器を出して、スープを盛る。そして妖精族に手招きしてあげる。

 食べてもいいと判断できたのか、勢い良く飛んできてスープを食べ始める。キャイキャイ鳴いてるぞ。なんか、和むな。

 食べ始めた妖精族を一瞥してから、俺達も自分の食事へと戻る。うん、今日もいい出来。

 食べ終わってから、キャイキャイ言っていた妖精族を見る。

 妖精族もお腹いっぱいになったのか、2人でお腹を擦っている。……増えてね?


「あ~、食べた食べた。ご馳走様」


「ね~、美味しかったね~。」


 こちらに話しかけたつもりがないのか、二人で向い合って話をしている。


「お口に合って良かった。可愛い妖精さん」


「「!!」」


 声をかけると、驚いたのかこっちをすごい速度で見上げてくる。おっ、何かまずいこと言ったか?


「貴方私達の言葉が分かるの?」


「人間族なのに~。博識~。」


 おや、普通の人間族はわからないのかな?


「分かるっていうか……。普通に話してるけど。ねぇ?」


 不思議に思ってアリサ達を見る。皆ポカーンとした表情でこっちを見ている。


「あなた、もしかして妖精族と話してる?」


「え、いや、まぁそうだけど」


「さすがリュー様なの」


「ご主人様……凄いです」


 三者三様に驚いてくれる。あるぇー?


「ほら、珍しいでしょ?」


「でも~、折角言葉分かるんだし~。お得な話~」


 こっちは小さいことは気にしないらしい。そういうの大事だよね!


「この近く~、盗賊出るよ~」


「まぁ4人共強そうだから、盗賊くらい大丈夫だと思うけど。後は先の森に住むダークエルフには気をつけたほうが良いわよ」


 エルフ! やっぱりいるんだエルフ! 耳長いのかなぁ。ダークでもいいから見たいなぁ。


「あの人達好戦的だし、気をつけておいて損はないわよ」


「魔法痛いし~。危険~?」


 なんで疑問形なんだ?


「まぁ、わかったよ。忠告ありがとうね」


「ご飯の~、お礼~」


「そういうことだから気にしないでいいわよ。ほんとに美味しかった。ありがとうね!」


 俺の礼にそう返した2人 (匹?)はそれだけ言い残して飛んできた方へ帰っていった。なんというか、気の良い種族だなぁ。


「ね、ねぇ。妖精族何て言ってたの?」


 手を降っていると、後ろからアリサが尋ねてきた。そうか、3人には聞こえてなかったんだよな。

 3人にさっき聞いた内容を話す。そのついでに、ダークエルフは何なのか聞いてみた。

 アリサ曰く、ダークエルフは褐色の肌と長い耳、それと綺麗な白色の髪が特徴の亜人らしい。妖精の言った通りかなり好戦的で、武器は弓、短剣、レイピア、そして魔法。

 中でも魔法はかなりの使い手が多いらしく、ダークエルフと戦争になれば王宮魔術師が出張ってこなければ勝てないくらい強いらしい。

 まぁ、関わり合いにならなければいいよね。

 話をそう締めくくって、食事を片付け、また馬車の旅を開始した。



 妖精と合ってから2日。俺達はとある村にたどり着いていた。アーネス領のサレブ村と言うらしい。

 気づかない内にアーネス領に入っていたんだな。っていうか、この世界には関所とか無いのかな? あってもおかしくなさそうだけど。

 村についた俺達は、まず村長に挨拶した。納屋でもいいので軒下を借りるためだ。1泊くらい屋根の下で眠りたいよね。

 穏やかな顔の村長さんにお願いした所、銀貨1枚で空いてる小屋に、馬を含め全員で休んでもらって構わないという言葉を貰った。馬用の草も自由に使って構わないとのこと。

 ボられるかと思っていたが、結構好条件だった。お礼を言って、貸してもらった小屋で風呂に入り、皆で眠る。当然ふくろからふかふかの布団を出してね。屋根の下で寝袋なんて考えられない。


 眠っていると、馬小屋に寝かせていた馬の鳴き声が聞こえた。なんだか荒々しい。

 不思議に思って気配察知を広範囲に広げてみる。……うん、久しぶりにゆっくり寝れると思ったけど、そうもいかないらしい。

 気配察知には、7人ほどのグループ。それも音を隠しながら村に接近している奴らが引っかかった。

 アリサたちを起こし、村人の避難を任せて部屋を出る。

 俺は一人、盗賊だろう奴らが向かってくる村の入口で迎え撃つことにする。

 10分経たないくらいの時間で、そいつらは村の入口までやってきた。いかにも盗賊ですと言わんばかりの格好をしている。


「お前なんだ? この村の人間か?」


 6人の集団の一番前にいた男が問いかけてくる。こいつがリーダーか?


「違うけど、1泊の恩があってね。二度とこの村を襲わないって誓えるなら、見逃してあげるよ」


「ハッ、バカが。7人もいてお前なんかにやられるわけねぇだろ。たとえ勝てそうにない奴がいようが、今日は退いてまた後日襲うだけだ」


 だと思った。俺は両手でヤレヤレといったポーズを取る。あれ? そういえば6人しかいないぞ。

 それを挑発だと思ったのか、仲間の一人が襲いかかってきた。

 片手剣を持った大柄の男だ。ブンブンと剣を振り回してくる。

 こんな奴ら、魔法を使うまでもない。接近して、左手で剣を弾く。そして右手で顎に一撃をお見舞いしてやる。

 眼を回した大男がそのまま倒れこむ。


「交渉決裂、だな」


「っお、おめぇら!やっちまえ!!」


 リーダーから号令を掛けられた4人が一斉に襲い掛かってくる。

 そいつら一人一人、顎を打ち抜いて昏倒させていく。

 あっという間に5体の男が地面に横たわる。残っているのはリーダーだけだ。


「おやまぁ、部下を仕掛けて、自分は来ないのかな?」


 挑発を兼ねてニヤリと嗤ってやる。我慢の限界なのか、リーダーが叫びだした。


「ち、ちくしょう! おい、冒険者!! 何やってんだ早く出てこい!!」


「はいはいっと。こんな予定じゃなかったんだけどねぇ」


 リーダーの言葉を聞いて、一人の男が現れた。大柄でもない、けど小柄でもない。特徴といえば槍を持っている事と、長髪を後ろで括っている事くらいの男が闇から現れた。


「金は払ってるんだ、さっさと倒せ!」


「はいよ、人使いの荒い奴だねぇ。報酬分は働きますよっと」


 そう事も無げに言って、俺の前で槍を構える。こいつ、気配の隠し方を知っている。最初7人だったのが6人に減っていたのは途中で俺の気配を感じ取ったからか。

 もしかしてちょっとは出来る奴……かな。


「同じ冒険者の好で、依頼破棄して帰ってもらいたいもんだけどね」


「おや? あんたも冒険者か。でもウーデンで見かけたことがないね。別の街から来たのかな?」


 俺の言葉を聞いて、楽しそうにそう答えてくる。


「まぁなんであれ、依頼の破棄はしない。他の街にあるかはしらないが、私は闇ギルドの冒険者だ。依頼の破棄のペナルティは普通んとこよりキツくてね。まぁ運がなかったと思ってくんな」


 やっぱり帰る気は無し……か。それにしても闇ギルドなんてあるんだなぁ。


「何を喋ってやがる! さっさと始末しやがれ!!」


 俺達が戦い始めず、気軽に話しているのが気に喰わないのか、リーダーがそう叫んでいる。全く、気の小さい奴だ。


「ハッ、同感だ。だがあんなのでも依頼主だからね。悪いが戦らせてもらうよ」


 また口に出ていた俺の言葉を聞いて少し笑った。

 が、最後の言葉を発してから雰囲気が変わった。俺も左半身に構える。




 「……フッ!」


 剣を相手にしている時よりも若干広い間合い。槍の間合いから突きが飛んでくる。それも連続で。

 それを避け、弾き、ズラしていく。速度は早いが、直線的な突きのため、比較的簡単に避けれる。

 まぁ遠いので、こちらから攻撃するには踏み込むしか無いんだけどね。


「ハッ、これを全部躱すかね。……ならコイツはどうだ!」


 単調な突きに変化が出ている。突いたそこから払いへ転じている。

 只攻撃を受けていても意味が無い。こちらも攻めに転じよう。

 上半身への突きを横によけて躱す。と、避けた方向に切っ先が払われる。

 体勢を低くして、払いを避ける。それと同時に強い踏み込みで接近する。


「!! っとぉ!」


 驚いた表情も一瞬のこと。もう少しで懐に入るって所で上から石突きが襲ってくる。

 片腕を頭の上に掲げ、それを弾き返す。そして斜線をずらし、再度懐へ……!


「・・・っつ!」


 首の裏がチリチリした。前足を踏み込んでバックステップする。

 さっきまで俺がいた位置に、槍が下から切り上げられていた。

 槍も届かない位置へ戻る。


「これも避けるか。早いもんだねぇ」


「一歩遅ければヤバかったかもな」


 ニヤリと笑いながら、そんな事を言ってくる。

 それにしても、あの間合いの広さは厄介だ。中距離、近距離共に有効な武器。

 間合いを制するものは云々って、逮捕術の先生が言っていたけどあれはこういう意味か。


「……シッ!」


 今度はこちらから仕掛ける。まずは接近を試みる。

 突きの間合いに入ると、予想通り突きを放ってくる。

 紙一重で躱し、柄を下から右手で掴む。

 予想していたのか、槍で外回しに掴んでる腕を捻られ、そのまま柄を放させられる。

 払われた勢いを利用して、左手で柄を叩き落とす。

 穂先が地面に付いた事を確認して、一気に距離を詰める。

 懐に入った! 右拳で肩を狙う。

 と、眼の端で何かを呟いているのに気がついた。男の腕に魔力が集まっている。魔法だって!?


「………焼き尽くせ!『火槍ファイアー・ランス』」


 男の腕から火の槍が飛び出てくる。俺の額に直撃して、男は吹っ飛んだ。


「ははっ、盾を張るわけでもなく、ただ魔力を集めて魔法を圧殺するかね。ありえないねぇ。しかも魔力を操作しながら私の肩を打つってんだから、末恐ろしいねぇ」


 ヨロヨロと立ち上がっり、右肩を抑えながらそう笑っている。


「そうでもない。集中を切らされて拳の威力が減った。修練が必要だ」


 男の言うとおり、俺は額に魔力を集め、火の槍を無効化した。とはいえ、あれは魔法を打ち消す為にものすごい量の魔力を必要とする。そのため集中を持って行かれ、拳が疎かになってしまった。


「何と戦うつもりなのかねぇ。面白い。私は闇ギルドのシュピーツ。“赤槍”のシュピーツだ。あんたは?」


 興が乗ったのか、次が最後だと思っているのか、名乗ってくる。


「冒険者ギルド所属、“白脚”のリュウイチだ」


 相手が名乗ったので、こちらも名乗りを上げる。っていうか二つ名って恥ずかしいのね。ディグさんの気持ちが分かった気がする。

 ヨロケながらも槍を構えてくる。俺も心を落ち着かせ、左半身に構える。


「参る!」「来い!」


 言葉を発した瞬間、素早く間合いを詰める。

 先ほどのように突きが飛んで来る。ただ、さっき程の速度がない。負傷のせいか。

 軽く弾き、さらに間合いを詰める。

 シュピーツは槍を横に薙ぎ、再び距離を取る。間を開けずに詰める。


「うぉぉぉぉ!」


 再度突きが飛んで来る。ただ速度が……なにっ!?

 突きが俺の胸に来ると同時に、もう一つの突きが俺の脚へ飛んで来る。

 連撃っていう速度じゃねぇぞ!?

 どちらが本物かわからない。どうするか、……そうだ!

 当たる前に拳を上からたたき落とす。2発の槍を射線に入れ、どちらとも地面に叩き落とすように殴りつけた。


「んぐぅっ!」


 穂先が地面に突き刺さる。間髪入れず、柄に踵を落とす。ベキッという音がして槍が2つに折れる。

 さらに瞬動で近づいて片腕を捻り、掴んだままシュピーツの後ろに滑り抜けて、投げる。


「おぉぉぉぉぉ!」


 空中に浮いたシュピーツの背中に、ナナメ下方向に方向性を付けた気力弾を掌底と共に打ち付ける。

 地面に叩きつけられ、シュピーツは動かなくなった。




「か、かてるわけねぇ!」


 俺とシュピーツの戦いを見ていたリーダーは、終わった瞬間逃げ出していた。

 ムカついたので魔力弾で後頭部を打ち抜いて気絶させておいた。

 そして俺は、盗賊たちをロープで縛り上げ、村長に終わったことを報告しておく。

 やれやれ、一件落着……かな。

読んでいただき、ありがとうございます。

ある程度で区切りがある方がわかりやすいとの事で

今回から、第2章へと入ります

次回更新予定は11日です

よろしくお願いします

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