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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
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閑話SS-ツィツィの日記

宿の娘、ツィツィの日記より抜粋

 宿屋の朝は早いのです。

 宿泊している人たちの食事とか、食事だけをする人だって利用してくれます。

 その仕入れとか、仕込みとか。とにかく早起きしないといけないんです。

 今はお父さんのお手伝いだけだから、本当はそんなに早く起きなくてもいいんだけど。私は早起きです。

 いつもは今みたいに毎日じゃなかったけど、最近できた日課があるから早起きになっちゃいました。

 早朝に勝手口から顔を出して裏庭を覗きます。裏庭では、リュウイチさんがズボンだけで身体を動かしています。『稽古』というそうです。

 私の行動も褒められた事じゃないし、リュウイチさんも破廉恥な格好ですが、私はそれを見つめます。

 そしてリュウイチさんの稽古が終わる頃を見計らって、身体を拭く為の濡らしたタオルを渡します。

 これが、リュウイチさんが泊まった時の、私の日課。

 大好きなリュウイチさんの、カッコイイ姿を見れる至福の時間です。

 リュウイチさんは、この街では珍しい黒髪の冒険者さんです。

 顔もギルドマスターさんみたいにすっごくカッコイイってわけじゃない。

 最初は、宿の従業員にも優しく接してくれる冒険者さんくらいの気持ちでした。

 勿論「いい奥さんになれる」とか、「いつもかわいいね」なんて言われて嬉しかったのはありますが。

 あれは、ある日の日が沈む前でした。たしかアリサさんがウチへ泊まってくれる事になった日だったと思います。

 その時間は結構忙しいのですが、泊まっていた他の冒険者さんが依頼で出かけていたので、暇になった私はふと裏庭を見ました。

 そこで、沈みそうな日の光を浴びて、華麗に舞っているリュウイチさんを見ました。

 私はその美しさに、目を離せませんでした。

 真剣な表情。光を反射する汗。流れるように動き、突き出される腕。

 一度お父さんと有名な踊り子さんの踊りを見ましたが、それよりも感動するくらいに素敵な動きでした。

 どれくらい時間が経ったのか分かりませんが、日が沈んでリュウイチさんは稽古を終わらせて部屋へ戻って行きました。

 私は見つめていたのが恥ずかしくて、見つからないように隠れてしまいました。

 それから仕事をしていても、他のお客さんと話していても胸のドキドキが止まらなくて。

 リュウイチさんと話していると、それが跳ね上がるようになりました。でも、嫌なドキドキじゃありません。

 次の日、偶々早起きをして顔を洗っていると、裏庭から物音が聞こえました。

 なんだろう? と思って見てみると、リュウイチさんが稽古をしています。

 最初はポーと見ていたんですが、昨日稽古終わりのリュウイチさんが汗だくだったことを思い出しました。

 そこで私は拭うためのタオルを用意して、終わった時に差し出してみました。


「ありがとう」


 リュウイチさんは、私が見ていたことを知ってか、タオルを差し出したことに驚いたのか、ビックリした顔をしていました。

 けど、そう言って頭をポンポンと撫でてくれました。

 とても嬉しそうな、子供のような笑顔でそう言ってくれました。

 それから、朝の早起きとタオルの差し出しは、私の日課になりました。

 明日も早いし、今日はこれくらいにしようと思います。

 明日は今日よりもっと、リュウイチさんと話せると嬉しいな。

読んでいただき、ありがとうございます

短すぎるため、今日はもう一本更新予定です

よろしくお願いします。


12月21日 誤字修正

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