閑話SS-ライラとディグ
「こ……この色!?」
ギルド職員をしている女性。ライラは驚いていた。
今日冒険者登録に来たレベル5の新人が、何の気なしに、30台のレベルの出す色の魔石を持ってきたのだ。無理もない。
ライラ本人も元は冒険者。しかもAクラスの冒険者として活動していたのだ、これくらいのサイズの魔石は何度も見たことがある。
しかし、魔物もバカではない。レベル30ともなれば知恵は付いているし、Bクラスといえども簡単には倒すことはできないはずだった。
「あの、これはなんの魔物の魔石ですか?」
ライラは、扉をくぐりかけていた新人に声をかけてしまっていた。
「ヴェンウルフとかいう奴のです」
「えっ!?」
魔物の名前を聞いて絶句する。
「Bクラスでも相当倒すのが難しいのに……」
思わず呟いてしまう。詳細を聞こうと顔を上げた時には、新人は立ち去った後だった。
ヴェンウルフという魔物だが、擬態のスキルを使う。一見ではまず見抜けないほど精巧なものだ。
そして気づかないうちに接近し、その爪と、障壁を張る尻尾で、攻撃を加えてきては消える。そのヒット&アウェイのいやらしい攻撃で、こちらをいたぶってくる。
たまに出る討伐依頼では、その危険性のためAクラス用として出るものまである。それを登録したての新人が……? 絶句するのも当然である。
「リュウイチ……。どういう人物なの」
ライラは、その呟きとともにギルド長への報告書を作成していた……。
□
「ライラはいるかな? 」
夕方になり、帰還する冒険者が増えてきた冒険者ギルドに、男の声が響いた。
鈍く光る鎧を着た男。ザンドウの街のギルドマスター、ディグである。
「はい。何でしょう、ギルド長」
受付から事務仕事へ交代したライラは、何で自分が呼ばれたかわかっていて、そう返す。
「ちょっと奥まで来てくれ」
ディグもそう答えるのがわかっていて、いつもの調子で奥のギルド長室までライラを呼ぶ。
ギルト長室。ライラが腰を落としたのを見て、待ちわびたようにディグが話し始める。
「報告書を見た。……なかなか面白そうなのが来たみたいだな」
ニヤリと口角を上げてディグが笑う。それを見たライラは『やれやれ』と言いたげに口を開く
「面白くなんてありません。ちょっとした頭痛の種です」
「『レベル5でヴェンウルフの魔石を持ってきた男』か。武器は?」
「報告書の通り、無手だそうです。ディグさん、もしこれが盗難にあったものだとすれば……」
「今この街で、ヴェンウルフ討伐に手を回せるクラスの冒険者はいない。わかっているだろ?」
混乱し、いつもなら『ギルド長』と呼んでいる相手を、昔ながらの呼び方『ディグさん』と呼んでしまった彼女。
ライラの言葉を遮るように、ディグは告げる。
ディグの言うとおり、この街は現在高レベルの冒険者が不足していた。いや、正確には出払っている。
近くの村で発見されたという、『はぐれゴブリン』。そのゴブリン探索隊の指揮。その他にも遠隔地へのオーク討伐に、リザードマンへの牽制支援、と最近高クラスの冒険者への依頼が頻発していたためだ。
それを知っていたはずのライラは、混乱し、冷静に判断を下せなかった自分を恥じた。
「それで、どう見た? 」
そんなライラに、ディグが続けて問う。内容は言うまでもない。『謎の新人』についてだ
「分かりません。ギルド職員に対しても丁寧に接し、私が話すことを真剣に聞いていました。初心者なのは間違いないでしょうが……」
「ほぉ」
珍しく言葉を濁すライラに、ディグは驚いた。ライラは、自分も冒険者をしていたこともあり、新人を見る目は確かだ。
それが通用しないとなると。『上級者であるライラに、力を隠せるレベル』か、それこそ『規格外の境地にいる』かである。
「リュウイチ……か。直接会ってみたいな。その『規格外の新人』に」
ディグは、浮かんでくる笑みを消せないままそう呟く。
ディグも元冒険者。それもSクラスの『鈍色の宝剣』と呼ばれた、二つ名付きの冒険者である。ディグにしてみれば、その呼び名は恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが、そうもいかなかったらしい。
剣士としての、強い者と戦いたいという本能は、抑えきれないみたいである。
「はぁ、やっぱりですか。あまり当てにしないでくださいね」
諦めたようにそう返すライラ。ディグという男がこうなるのは昔から知っている。
一応『自分を過信しすぎるな』と暗に含んでみる
「自分の力を卑下するな。それで、明日また来るのか? 」
「えぇ。ギルド証と魔石の金額を受取に、明日の昼には間違いなく来ると思います」
「来たらここへ通してくれ」
「わかりました」
ため息混じりにそう答え、ライラは部屋を後にした。
明日になれば、ディグと新人が戦うことになる。それはディグの嬉しそうな顔から間違いないだろう。
『明日は新人に回復魔法をかけないと』。そう思いながら、ギルドの受付へと戻っていった。
□
ザンドウのギルド、訓練室。そこには異常な光景が繰り広げられていた。
ギルドマスターであるディグと、先日登録したばかりの新人が戦っている
『ギルドマスターが冒険者と戦う』。その光景は、このギルドでは珍しいことではない。
冒険者側から請われて行う場合もあれば、『指導』としてルールを破る冒険者に対して行う場合もある。
異常な光景なのは、『どちらとも有効打を当てていない』ことなのだ。
そして異常な光景としてのもう一つの要因。それは
「ディグさんの本気が、当たってない……?」
ライラは一合目で気付いた。ディグは本気である。
魔物と犯罪者以外との戦闘では、久しぶりに見る本気のディグ。その剣が決まらないのだ。『登録したばかりの新人』に。
演舞のように舞う二人。しかして、その『舞い』は長く続かなかった
「……まいった、私の負けだ」
ギルド長の負けという、ライラにとって初めて見る光景によって。
戦闘が終わり、依頼を確認するという『新人』を見送ってから、ライラにディグが話しかけた。
「何処から見えた?」
おそらく最後の流れだろう。ライラは正直に答えた
「リュウイチさんが後ろに飛び退いてから。ディグさんが突いたのが見えましたが、次には倒されていました。」
「そうだろうな……。私も倒されて初めて気づいた。まるで倒されるように誘導されていた気分だ」
『柔道』を知らない二人からは、謎の技術と見えたことだろう。それも、リュウイチの異常な速度が合わさってのことであるが。
ライラからも質問が帰る。
「ディグさんはどう見ました?」
「速度は圧巻の一言だな。無手と言い張るだけあって、武器無しでも相当な強さだ。そして最後に見せたあの技。対人に特化されたような動きだ。だが……」
そこまで言って、言葉の最後が鈍る。ライラが視線で続きを催促する。
「攻撃が正直すぎるな、視線や動きがたまに鈍っていた。あれだけ高い技術を持ちながら、こちらの攻撃を受けて返すという謎の行動があるのが不思議だ」
元の世界では、柔道と空手を習っていた龍一だが、段位にして弐段ほどであり、基本は『後の先』を得意としていた。また、フェイントは得意じゃなかった。それを見抜かれたのである
「それでもアレぐらい戦えるのであれば、高レベル冒険者に仲間入りをしてもらいたかったのだがね」
先ほど龍一に断られた『Bクラスで登録するか?』というのは冗談ではなかったらしい。
「私としては、驕らないリュウイチさんに好感が持てますけど」
「そうだな、久しぶりに君の口から『ディグさん』と呼んでもらえたしな」
素直に答えるライラにディグからチャチャが入る。
「知りません」と頬を赤くして、先に訓練所を後にするライラに、苦笑して追いかけていくディグ。
この二人が驚くのは、これから先呆れ返るほど多いのだが、今の二人には知る由もなかった。
読んでいただき、ありがとうございました
3人称に挑戦してみましたが、慣れませんね
次回更新は9日予定です
次も閑話SSを更新予定です
よろしくお願いします




