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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
20/48

20-出発を決めよう

 ミリル嬢からの手紙を手に、呆然とする。……どうしようかなぁ。

 ふと横を見ると、自分の手紙を見ていたアリサと目が合う。と、思ったら視線をそらされた。なんだ?


「アリ……」


「リュー様、手紙見せてなの。」


「良ければ私も知りたいです。どんな内容だったんですか?」


 アリサに声をかけようとしたが、ココアとツィツィちゃんに遮られた。いや、ココアそもそも文字読めないでしょ。

 特に隠すことでもないし、ツィツィちゃんに手紙を渡してあげる。ツィツィちゃんが声に出して読み、ココアに読み聞かせてあげているようだ。うん、微笑ましい。


「ミリル~? めいきゅうにいた女の子なの?」


「アーネス領主様からのお誘いなんて、凄いことじゃないですか!」


 いや、正確には領主じゃなくてその娘さんなんだけどね。

 ココアとツィツィちゃんの言葉を聞いて、さっきまでそっぽを向いていたアリサがものすごい速さで俺を見てきた。首痛めない?


「リュ、リュウイチもアーネス領に行くの!?」


「う~ん、どうしようかなって思ってて……。“も”?」


 言葉に引っかかりを感じてアリサに問い返す。溜息を一つついて、しぶしぶだけど話してくれる。


「うん……。お父様がね、帰って来いって。」


 アリサへの手紙は、父親からだったようだ。詳しく聞くと、アリサの家はアーネス領にあるらしい。帰ってきたミリル嬢に娘の所在を聞いた父親が、帰って来いと手紙を出した。しかも宛先は“アリサ”にだ。


「そうか……。んで、アリサはどうするの?」


「……どうしよう。でもこれを受け取っておいて帰らなかったら、それこそお父様が直々にこの街に来ちゃいそうだし。」


 迷っている。それはそうだろう。この間のミリル嬢と合った時の話では、結構なことをしでかしたみたいだしな。

 とはいえ、もう心は決まってるんだろうな。父親が来ちゃうと、折角貴族だってのを隠しているのに意味が無い。

 ふむ……。もう一押しってところか。


「アリサもアーネス領に行くなら心強いな。」


「!? リュウイチは行くことに決定したの!?」


「まぁ、貴族に招待されて無視するわけにもいかないだろうし。断ると後がめんどくさそうだしなぁ。」


「そう……。」


 俺の言葉を聞いた後、手紙を見て、俺を見て、もう一度手紙を見て、ため息をつく。交通ルールか。


「一緒に行く……よね?」


「わかったわ、私もアーネス領へ行く。確かにこのまま逃げまわるって訳にも行かないものね。」


 俺の言葉に諦めたように返してくる。


「アリサも一緒なの?」


「拠点を移す、のですか?」


「あ~あ、寂しくなっちゃいますね。」


 ココア、リリ、ツィツィちゃんが同時に声を発した。


「そういうことになるね。出発は明日にしよう。それまでに準備をしておいてくれる?」


「りょ~かいなの!」


「……わかりました。」


「はいはい、わかったわよ」


「今日はお食事も豪華にしときますね!」


 各々から返事が返ってくた。お使い用に金貨を1枚預けておく。っていうか、ツィツィちゃんも律儀に返事をしてくれたんだね。

 さて、俺はディグさんに報告に向かうか。



 冒険者ギルドに入り、受付をしているライラさんにディグさんを呼んでもらう。なんというか、お馴染の流れだ。

 待っている間、依頼が掲げられている壁を見る。今受ける訳にはいかないけど、それが癖になっていた。

 薬草採集。魔物討伐。開墾の手伝い。おや、一つアーネス領の依頼があるな。村の状況確認……?


「リュウイチ、待たせたかな」


 そうこうしてる内にディグさんが出てきた。いつもどおり鎧を着ている。重くないのかな。


「いえ、大丈夫ですよ」


「んで? 今日はどうした。まさか新しい高レベル魔石の買い取りでもあるまい。」


「まさか、今日伺ったのは……」


 茶化してくるディグさんに、街を離れることを伝える。アリサ達も一緒の事と、ミリル嬢に呼ばれたことは伝えたが、アリサの詳細は伝えなかった。バレないために行くんだしね。


「そうか、寂しくなるな」


 残念そうに言ってくれた。短い間だったけど、お世話になったからなぁ。


「それにしても、やはりアーネス領か。アリサもとうとう親父さんに見つかったかな」


「!?」


 ディグさんが呟いた言葉に驚く。え、何、知ってるの?


「……何だその眼は。アリサの家の事か? こう見えてギルドマスターだからな。ここには色んな情報が入ってくるもんだ。」


 俺の視線に気づいて、してやったりと言いたげに笑う。アリサ、お前の考えはバレバレだぞ。


「そんなに気にしなくてもいい。知っているのは俺を含んだ少数だ。」


 まぁこの人が情報を漏らすとは考えにくいし、大丈夫だと言うんなら大丈夫だろう。

 ディグさんに明日の朝出発することを告げ、俺は次の場所へ向かった。



 住宅街の少し離れた場所にある孤児院。俺の目的地はそこだった。


「あ~! リュー兄ぃだ!」


 孤児院に近くなった所で、外で遊んでいた子供たちに声をかけられる。


「こんにちは、レーアさんはいるかい?」


「こんにちは! まってて、呼んでくる!!」


 子供たちは我先にと駆け出していった。皆元気だなぁ。

 ちょっとして、レーアさんがパタパタと駆けて来てくれる。


「はぁ、はぁ、おまたせ、しました」


「いえいえ、ゆっくりで大丈夫でしたのに」


 急いで来てくれたからか、息が切れている。近いのでそんなに急がなくても平気なんだけど。因みに、走ってきてくれる時に揺れていたたわわな果実の写真は、もちろん脳内フォルダに保存済みだ。

 呼吸が落ち着いたレーアさんと、孤児院に入る。お土産の焼き鳥を、恐らく年齢が一番高いだろう少女に渡した。嬉しそうにお礼を言って、別の部屋に持っていった。

 別の部屋で子供たちの歓声が上がっている。可愛いもんだ。


「いつもありがとうございます。それで、本日はどうされました?」


「あぁ、今日はですね」


 ディグさんに続いて、同じ説明をレーアさんにもする。


「そうですか……。残念ですが、リュウイチさんには喜ばしいことですものね。おめでとうございます」


 残念そうにしながらも、祝福してくれる。いやぁ、いい人だ。

 その後は、孤児院の状態や、魔族が出てきた時の被害等、軽く雑談をしてお暇することにした。


「リュー兄ぃ行っちゃうの?」


「ココアもどっか行くの?」


 帰ろうと立ち上がった所、初日に会ったホン少年とメイリ少女が、口々に聞いてくる。


「うん、ちょっと遠くにね。二人共、ココアと遊んでくれてありがとう。帰ってきた時も、また一緒に遊んでくれるかな?」


 そう言い、ちょっと泣きそうな二人の頭を撫でる。


「うん!」「友達だもん!」


「ここでは、いつでもリュウイチさんを歓迎いたします。お気をつけて」


 元気に言ってくれた二人に、ありがとうと返して孤児院を出た。

 最後のレーアさんの言葉が、なんかジーンとくる。また絶対帰ってこよう。

 帰り際に、冒険者ギルドに寄って一つ依頼をしてから、宿へ戻る。


「リュー様遅かったの。」


「……とても、豪華です。」


「やっと帰ってきたわね、早く食べましょうよ」


 先に帰ってきていた3人から、急かすような言葉を頂戴した。うぉ、なんだこれ?

 宿では、実に豪勢な食事が用意されていた。

 採算が足りるのかと親父さんとツィツィちゃんに聞いても「秘密です」としか帰ってこなかった。何ともありがたい。

 豪華な食事に舌鼓を打ちながら、夕食は和気藹々と進んでいった。



 翌朝、いつもの鍛錬を終えて、いつもどおりツィツィちゃんに濡れたタオルを貰う。これも今日で終わりなんだと思うと、なんか感慨深いな。

 朝食を4人で取った後、出発の準備を終えて食堂へ出ると、そこには見知った顔が集まっていた。


「おう、リュウイチ。気をつけてな。」


「貴方ほどの実力があれば平気でしょうが、お気をつけて。」


 ディグさん、ライラさん。


「また来てくださいね。」


「兄ぃちゃんまたね!」


「またね!」


 レーアさんにホン少年、メイリ少女。


「ディグに聞いてな。誠に残念だが、息才でな。」


「またいつでも鎧の補修に帰って来いよ。」


 男爵に武器屋のおっちゃん。


「また来いよ」


「次回の宿泊も、是非このドゥーシェで!」


 親父さんに、ツィツィちゃん。

 俺達の出発を見送りに来てくれたらしい。

 この街に来て、中でもよく知り合った人達が来てくれたみたいだ。


「うん、皆ありがとう!」


「また来るわね。」


「行ってくるなの!」


「また、です。」


 来てくれた皆にお礼を込めた言葉を告げ、俺達四人はドゥーシェから。そしてザンドウの街から出発した。

 また、絶対帰ってくるから!











「さて、行きますか」


 南門を出る前に3人に声をかける。


「歩いて次の街に出発なの!」


 ココアの言葉を聞いて、ピタリと歩くのを止める。

 ……歩いて?


「馬車で、10日くらい、だから。歩けば……30日、以上?」


 リリがボソボソと計算をしている。30日……だと………?


「まさか。当然馬車をリュウイチが準備して……」


 笑いながら俺の方を叩いたアリサの表情が、俺の顔を見て固まる。


「……」


「あなた、まさか……。」


 ば、馬車の事忘れてた……。


「あ、あ、あ」


 アリサの肩が震えている。おっ、また口に出ていたか?


「あほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 アリサの罵声が南門前に響いた。



 先ほど出て行ったドゥーシェに戻り、皆からの呆然としたような呆れたような視線を受けながら、馬車を売ってくれる店を聞き馬車を買った。

 その次の日にようやく俺達は出発できた。

 当然だが、今度は誰も (ドゥーシェの人たち以外)集まらなかった。

 実に恥ずかしい出発になった……。

読んでいただき、ありがとうございます。

ようやく次の街へ出発ですね。

次回更新予定は8日

本編では無い、ちょっとしたものを更新予定です

よろしくお願いします。

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