02-森での出会い
12月22日 誤字など修正
『ドフッ!!』
背中に衝撃を感じて、俺は意識を取り戻した。
「……どこだ、ここ?」
なんだか前にも言ったことがあるようなセリフだが。
俺が目を覚ますと、目の前には森が広がっていた。真上には所々折れてしまい、ぽっかりと空いている樹の枝が見える。
あ、俺落ちてきたのか。ということはさっきの背中に感じた衝撃は地面に衝突した時のか。俺の身体……無事だよね?
「よいし……、よっと」
若々しい掛け声とともに身体を起こす。顔は老けてても心は若者! コレ、テストにでるよ?
立ち上がり、体に異常がないか触って確かめる。ふむ……どこか折れてるとかもないようだ。どうやら身体を頑丈にという願いが効いたのだろう。
その場で軽くジャンプしてみる。……うん、3Mくらい余裕で飛んだけど。棒高跳びって何?
これだとどの程度まで身体が強化されたのかわからない。なので近場の木を殴ってみることにした。12~3M位ありそうな大木だ、樹齢何年だろうか。
大木を前にして腰を落とす。学生の頃にやっていた空手が役に立つ時が来た。息を吐き正拳を大木におもいっきり打ち込む。
『ドグシャ!』
「ギャウン!!」
木にしては生暖かい感触と、殴った瞬間に聞こえる犬のような鳴き声がする。
前を見ると殴ったはずの木は姿形もなく、ズタボロの犬のような顔をした人型の生き物が倒れている。俗にいうワーウルフか?
「正直スマンかった」
聞こえているかは分からないが、殴り飛ばしてしまった犬に謝っておく。ってか変身する魔物がいるの!? 何この世界、高性能!
「にしても、随分と強化されたんだなぁ」
本当ならあんな大木(魔物だったが)をおもいっきり殴っていれば、骨折までいかないまでも拳に傷ができているはずだが。俺の拳には傷ひとつできていない。どんだけ強化されたんだ?
疑問に感じた俺は、自分の能力を確認するため『診断』の魔法を使うことにした。
名前:佐伯龍一
職業:?
レベル:255
ステータス異常:無し
固有能力:身体強化
精神強化
EX『診断』
魔力の元
成長の証
スキル:無し
「8ビット!? ファミコンかよ!?」
思わぬ突っ込みどころに叫んでしまった。
ていうか255!? いくつまであるのかわからないが、中途半端なところで止められてるってことはないだろう。始めっからクライマックスかよ?
職業は……まぁ俺本人にもわかんないしいいか。固有能力の3つはわかるんだけど4つ目と5つ目はなんだ?どちらもなんだかグッと来る響きだが……。
〚楽しんでおるかの?〛
「うぉっとぉぉ! びっくりしたぁぁぁ」
突然頭のなかに声が響いてきた。ちょっと前に聞いたことがあるこの声は……。
「なんだよジジィ」
〚お主は……。神様とわかってもその態度を崩さないのじゃな〛
そう、さっき会った神様だ。まぁ俺にしてみたら謝罪してきたジジィだし、神の御業をこの目で見てるわけでもないし、このままでいいだろう。
〚さきほど言い忘れて追ったことがあっての、それを伝えに来たんじゃが……〛
「忘れてたこと? それより今の俺の状況だが」
ジジィが話し始める前に俺の疑問を解消しておくことにした。
さっきの疑問点を聞いてみたところ、レベルはサービスの一つだそうだ。『弱いより強いほうがいいじゃろ?』とのこと。まぁそれはそうなんだけど。
そして4つ目と5つ目もサービスらしい。
使いたい魔法を1つだけ生み出せる能力 と スキルを覚えやすくする能力 らしい。新しいスキルって覚えられるのか?
っていうかどうでもいいがサービス精神旺盛だな、こいつ。
〚ワシはコレを伝えに来ただけじゃ。それではこの世界を堪能してくれ〛
「おい、待てよ。このレベル255ってどうにか隠せないか?」
〚?? なぜ隠す必要がある〛
「高レベルってのを利用されるのは嫌なんだよ。ただでさえこの世界の事を知っているわけじゃないんだ。余計な騒動に巻き込まれたくはない」
一つの国に統一されていればまだいいが、国がいくつかある場合には何があるかわからない。
俺が自分から参加するのはまだいいが、預かり知らないところでいいようにされるのは気に食わない。
まぁ、一つに統一されていたところで『偶像』として崇拝されそうで怖いが。
〚変なところを気にするのぅ……。ホレ、これでいいか?〛
ジジィが言うと、頭のなかに『情報操作〛というスキルの使い方が流れてきた。
自分のレベル、職業、スキル、固有能力を他人が確認した時に、設定した情報で誤認させる能力のようだ。
早速適当にレベルを5に。後はスキルと固有能力を無しにしておく。まずはこれで様子を見よう。
〚あぁそうじゃ。大切なことを忘れておった〛
「なんだ?」
〚この世界には、その他のファンタジー世界。……いわゆる〚RPGゲームのような世界』とは若干違った存在が出てくる〛
「若干違った存在……?」
〚会えばわかるんじゃがな。まぁ、それはそれとして第2の人生を謳歌してくれ。ワシはおそらく2度とお主と言葉を交わすことはないだろう。達者で暮らせよ〛
「お……おい!」
最後の言葉を残して、ジジィの声は聞こえなくなった。まぁあいつの言ったとおり。まずは街を見つけて色々聞いてみるか。
「とと、その前に……と」
俺はふくろの中を確認することにした。
どうやらこのふくろは入れる場所を種類にわけて格納できるらしい。パソコンのフォルダ分けと思ってくれれば話が早い。
今はまだ『金銭』と『その他』しかないようだ。そしてごちゃごちゃに入ってるわけではなく、同じ種類のものは勝手にまとめられるらしい。『金銭』欄の中には白銀貨が2万枚と表示されている。
「って、2万枚!?」
いや、確かに使い切れないとは言ったけどさ……。でもこれが日本で言う1円硬貨とかだったらどうしよう。
中にはその他にも金貨、銀貨、銅貨、緑貨とそれぞれ5000枚ずつ入っていた。っていうかこのふくろの重量とかどうなってんだろ?
「さてと、そろそろいきますかぁ」
幾らかは分からないが金の入ったふくろをポッケに入れ、俺は街を探して歩き出した。
□
「……」
歩き始めて1日経っている。
「喉が渇いた……」
飲水を持っていない。それどころか食べ物もない。身体強化のおかげか疲れは全くないものの、喉の渇きはどうしようもない。このまま明日になっても街が見当たらなかったら……ゾッとする。
生まれ変わって初っ端に飢えでのたれ死ぬとか、笑うに笑えない。どこかに湖とかないものか……。
『グルルルルル』
見回して見当たるのはこういった獣ばかり。さっきも突然襲いかかってきた巨大な昆虫を蹴散らしたばっかりだ。
「今度は狼かよ」
さきほどの人型の獣とは違い、実に狼らしい狼だ。どっちにしろうざったい事この上ない。こういうのはさっさと始末してしまうに越したことはない。
「おら! かかってきやがれ!」
俺がそう叫ぶと、唸っていた狼は俺を目指して……。
「あれ?」
走ってこなかった。
俺がいる方向とは反対方向に唸ったまま走り去ってしまった。お腹が空いていたんじゃないのかな?
「なんだよ……。あぁ、喉乾いた」
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!』
遠くから男の声が聞こえた。何かとても焦っているような声だ。
「まぁ……。狼だろうなぁ」
さっきまで俺を狙っていた狼が、俺より倒しやすそうな男の気配を感じ取ってそちらにむかったのだろう。
「しかたない、行くか」
ここで見捨てるなんて後味の悪いことはできない。今の俺なら狼なんて10匹いても楽勝だし、人が死ぬのを黙って見てられるほど俺は人間が終わっちゃいない。
俺は声の方向に走りだした。
「く……くるな! こっち来るな!!」
多少開けた場所に出たところ、一人のおっさん(30代だろうか?)が狼達に囲まれていた。
狼が3匹と、さっき殴り倒した奴とそっくりの人型の獣が1匹の合計4匹。犬歯をむき出しにしておっさんに絡んでいる。あ、やっぱりイヌ科なんだな。
おっさんがこっちを見た。まさか人がいるとは思わなかったんだろう、驚いている様子だ。
「逃げろ! こっちは危険だ!!」
おっさんは俺に対して逃げるよう叫んだ。自分が危ない目にあっているのに……。この人、いい人だ。
『グルァウ!!』
「ひぃっ!」
狼がおっさんに飛びかかる。ヤバイ! と思うと同時に駆け出していた。
早い。
あまりに早い。
一瞬にして飛びかかった狼の直近に到着した。踏み込みが早い自覚はあったが、まさか一瞬で接近するとは……。
「ってい」
『ギャン!』
空中に浮いていた狼をチョップで叩き落す。狼が地面にめり込んだ。なんつー力だよ……。
『ギャウ!』
『グルゥ……』
『ゴァウ!』
そのまま流れで他の3匹をチョップで地面に縫い付ける。4匹ともピクリとも動かない。どうやら絶命したようだ。
呆然と成り行きを見ていたおっさんに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「た、たすかった……」
一応毒とか受けてないかの確認で『診断』を使う。折角助けたのに毒でそのまま死亡……とか切ないもんな。
名前:ダズ
職業:狩人
レベル:3
ステータス異常:無し
スキル:気配察知
よし、大丈夫だ……。ん? 固有能力の欄が無いな。誰にでもあるもんじゃないのか?
「誰かはわからんが、助けてくれてありがとうな。俺はこの先の村で狩人をしているダズというもんだ」
「無事でよかった。俺は龍一。えー……旅人です」
丁寧語がめんどくさかったので普通に話すことにした。どうやらおっさんもそっちのほうがやりやすいらしいし、これでいいや。
話を聞いてみると、ここから歩いて1時間ほどのところに村があるらしい。そこまで連れて行ってもらうついでに、おっさん……ダズの護衛をすることになった。
「おっとその前に、倒した獲物はどうする?」
「あ~、いいよ。ダズにあげる。経緯はどうアレ俺が横取りしたようなもんだし」
「助けられて横取りも無いもんだが……。ありがとうよ。さてと」
「?」
ダズは絶命した3匹の狼を纏め、そして人型をさばき始めた。
「なに? もうそいつ食うの?」
「バカ言うな、もちろん肉や毛皮は村に持って帰って売る。ただその前に魔石を取り出しておかんとな。」
……魔石ってなんぞ?
考えが顔に出ていたのかダズが説明してくれた。魔物には色や大きさの違いはあれ、どれも魔石という核を持っているらしい。普通の狼には無いものだが、その魔石は肉や毛皮とは売るルートが違いしかも高値で売れる。
ただ、石自体にも魔力があるため死骸に放置したままでは肉等の痛みが早いとのこと
便利なんだか不便なんだか……?
「ホレ」
「お、おっと」
ダズに魔石を投げ渡される。その魔石は血のように赤くて直径が5cmくらいありそうな丸い石だった。
「へぇ、随分とキレイなんだな。これ俺がもらっちゃっていいの?」
「ただのワーウルフならまだしも、さっきみたいなヴェンウルフを俺が狩れるはずもないしな。持ち込んだところで盗んだと疑われるのがオチさ」
どうやらあいつは別のやつより強かったらしい。とくにそういう感じもしなかったが……。
「さて、待たせたの。村に向かおうか」
「お、待ってました」
「それにしてもリュウイチは鍛えているんだな。素手でヴェンウルフを倒すなんざ見たこと無いぞ」
「まぁ、空手をやってたしね」
「からて? 何かの武術か?」
「そんなもんだな。俺の流派は無刀なんだ。武器を持たない。」
「ふぅむ……ムトウなぁ。」
「シャイニング・ウィ○ードとかやらないよ?」
「?? 何を言ってるんだ?」
やっぱり通じないか……。この世界、思ったよりも難しいぞ!
などと話しながら歩いていると、森を抜けて広い草原に出た
「このまま真っ直ぐ行くと村だ。もうひと踏ん張りしてさっさと村を案内しよう」
「おう! よろしくな!」
俺達二人は、そのまま村に向かって歩いて行ったのだった……。
あれ、そういえば言葉がわかるな。こっちの言葉も通じていたみたいだし。……神のサービスか?
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