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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
17/48

17-望んでいない面会

「白脚様、どうぞお入り下さい」


 とある豪華な邸宅。そしてその応接室であろう部屋のドアの前。俺はメイドさんに促され、ドアを開けざるを得ない状況にある。


「……誰か代わって」


 俺の心からのつぶやきに答えてくれるものは、誰もいなかった。











 ディグさんの演説の後、宴会はそれはもう酷いことになった。

 次々に自分のグラスを掲げて、乾杯にやってくる冒険者達。何故か始まる一気飲み対決。魔法を使ったりした一発芸大会。阿鼻叫喚という言葉が相応しかった。いや、まぁ一発芸を始めたのは俺なんだけど。

 ライラさん達、この惨状を予想していた数人の女性陣は、そそくさとギルドの仮眠室に引き上げていた。眠たそうにしているココアとぶっ倒れているアリサも連れて行ってくれた。

 騒ぎの中心にいた俺は、バタン! というドアが開かれる音に目を覚ました。身体が少し痛い。床で寝てたのか?

 特に頭は痛くない。二日酔いにはならなかったみたいだ。

 見回してみると、他にも床で寝ている者達がいた。というか、床で寝ている人達は良いほうだろう。中には椅子に絡まって寝てる者や、樽に身体を突っ込んでいるもの。壁に頭から突き刺さっているものといろいろいた。最後の奴どうなった……。

 開く音がした方向を確認する。兵士の格好をした人たちが入ってきている。ディグさんが対応しているみたいだが。……なんだ?

 何やら話が終わったのか、ディグさんはため息をついて、俺の方に向かってくる。

 俺の前まで来て、残念そうな、済まなさそうな顔で言った。


「喜べ、メイル伯爵からの御招待だ。『白脚』」


「…………え?」


 俺の間の抜けた返答が、寝ている酔っ払いたちのイビキにかき消されていった。










 それから、兵士 (近衛兵というようだ)に連れられてこの邸宅へ連行……。もとい招待されたわけだが。気が進まない。

 ぶっちゃけお偉いさんっていうのは苦手なんだよな。なんていうか、傲慢でさ。

 とはいえ、このまま門の前で立っていてもこのメイドさんに迷惑になるだけだろう。仕方がないか。

 覚悟を決めて、扉を開く。広い応接室の中、そこは異様な光景だった。

 机があり、ソファーが2脚ある。その他調度品がある。そこまではいい。そこの場には、完全武装した近衛兵が20人ほど、所狭しと並んでいた。

 空いている手前のソファー、それに中央のテーブルをはさんで向かい合うソファーに、一人の男性が座っていた。

 横には2人控えている。小さい方は、昨日出会った男爵少年だ。もう一人は見たことが無い。小太りの男で、よくいる商人といった感じだ。これが伯爵……なわけないか。立ってるし。

 恐らくこの座っている男性が、メイル伯爵だろう。


「どうぞ、お掛け下さい」


 入り口に立っているメイドさんに促され、伯爵の向かいのソファーに腰掛ける。

 ここにくるまで、俺は地球での貴族を思い出していた。それは実際の華族の事だけではなく、創作の物を含んだ貴族像で、立場や階級意識、上昇志向など、警戒すべきものは考えていた。


「貴様が『白脚』か。此度の防衛戦で活躍したそうだな。」


 それらの考えが、全て吹っ飛ばされた気分だ。


「近衛の事は気にするな。私はいらぬと言ったのだが、部下の勧めでな。一応貴様を制圧できる程度の者を配置した。」


 その傲慢な物言い。人でなく、獣に言い聞かせるような態度。


「いえ、お褒めの言葉。嬉しく思います」


「……フン。やはり卑しい平民か。多少の礼儀作法も知らんと見える」


 そしてなにより、その眼。

 尊大や傲慢が透けて見え、しかもこちらを見下すように見ている。嫌悪を隠そうともしない、俺に向けられる眼。

 ……これが貴族なのか。


「……」


「恐怖で何も言えぬか。あの冷静なミリル嬢が絶賛していたから会ってみたが、もういい、時間の無駄であった。」


 想像と全く違った伯爵の態度に呆然としていると、それを怯えていると勘違いしたのだろう、そんな事を言ってくる。

 そして伯爵は、おもむろに立ち上がり俺に向かって告げた。


「褒美はそこのサザーンから受け取るが良い。奴隷の一人でも付けてやれば満足か。終わったなら帰れ。精々街で励むがいい。」


 言い終わり、部屋を出ようとドアへ歩いて行く。サザーンと呼ばれた小太りの男が軽く頷いている。

 小太りの男を気にせず、俺は後ろを向いたまま伯爵に話しかけていた。


「貴方は、市井の臣をどう考えている。」


 立ち止まる事もなく、振り返ることもなく、返答が返ってくる。


「市井? 平民など馬と同じだ。街を豊かにするための道具にすぎん」


 そうしてそのまま立ち去っていった。



 立ち去った後俺は握りしめていた拳を解いていた。血が滲んでいる。立ち上がらなくてよかった。もし立っていたら、アイツを殴り倒していたかもしれない。


「あの……『白脚』様」


 俺の怒気が薄れてきたのを見計らってか、男爵少年が話しかけてきた。


「白脚で構いません、男爵様。どうしました?」


「では、白脚。不躾な願いになってしまうが。どうか父を……いや、この領地を嫌いにならないで欲しい」


 男爵が目を伏せ、辛そうにそれだけ言う。


「えぇ、もちろん。領主に思うところはあれ、街に住む皆に関係はありませんからね。」


「そうか、それを聞けただけでもありがたい。本当なら話を聞かせてもらいたいのだが……そんな空気でもないようだ」


 ホッとした男爵がそう戯けて話してくる。子供だと思っていたが、こういった立ち振舞もできるのか。教育されているのだろうな。


「では、サザーン。後を頼む」


「ハイ」


 男爵に指示された小太り氏(サザーンって呼ばれてたか)に促され、一緒に屋敷を出る。屋敷から離れる前、一度振り返って見上げる。ここへは二度と来ないだろうな。

 そのままサザーン氏に付いて、街を歩く。

 俺は、貴族というものを勘違いしていたのかもしれない。

 多少の上昇志向や、階級意識はありこそすれ、領民を守って皆のために働いている。上昇志向などは、それこそ階級の低い者が強く持っているくらいのものだろう。そう考えていた。

 だが、今日会った伯爵は全く違った。領民の命を、自分の暮らしがより豊かになるための物としか考えていない。

 それこそ貴族以外は人ではないと言わんばかりの態度だった。

 あれが領主とは……。よく街が周っている。

 そんな事を考えている内に、サザーン氏の奴隷商館へ到着していた。

 道すがら、あんなやつからの褒美なんて受けとりたくない旨を、若干暈して伝えたのだが、サザーンの言葉で考えを改めた。

 曰く、恩賞を蹴れば領主の名に泥を塗る。恥をかかされた伯爵は、所属しているギルドや宿になんらかの妨害工作を仕掛けてくる。悪ければ、近衛兵が出てくる事になりかねないそうだ。

 俺に被害があるだけならまだしも、ギルドや宿に迷惑をかける訳にはいかない。しかたがないので適当に選んで、他の商人に契約を解除してもらおう。


「では白脚殿、奴隷を連れてきますのでここでお待ちください」


 サザーン氏の商館で、ひとつの部屋に通された。大きな広間で、20人は軽く入りそうだ。


「その前に、お手洗いを借りたいのですが」


「はい。そこのドアを出て、まっすぐ右に行ってもらった突き当りにございます。用意はしておきますので、ごゆっくり」


 朝起きてから、今までトイレに行けてなかった。ふぅ、リラックスする。

 用を済ませて元の部屋に向かって歩く。その途中、通路の端に信じられないものを見た。


「そ、そん……な…………」


 ここにいるはずがない。でも、見間違えるはずがない。

 セミロングのウェーブ掛かった茶髪に、身長は165くらい。ちょっとキツめの眼に赤色の細いメガネ。断崖絶壁のプロポーション。

 見慣れていた。出かける時の目的だった。


「さ……里美」


 地球にいた時の俺の彼女。新山里美がそこにいた。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回更新は、3日予定です。

よろしくお願いします

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