表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
16/48

16-宴会をしよう!

 下級魔族を倒した後、俺は覗き見をしていた少年を連れて南門へ向かっていた。

 本当なら少年をどこかに預けて行きたかったが、少年は俺から離れる気がないらしい。どっかで怯えているよりかは、俺のそばにいたほうが精神的に良いだろうし、しかたない。

 南門に到着した時には、魔物はほとんどいなかった。どうやら殲滅し終えたらしい。


「ディグさん!」


「ん? おぉ、リュウイチか。無事だったの……。そ、その御方は!」


 門の前で他の冒険者に指示をしていたディグさんに話しかける。なんだか驚いている。……やっぱりお偉いさんの?


「あぁ、メイル伯爵の第一子。マウト男爵だ。」


 あぁ、なんだか最悪の展開だ。……ってか俺の考えそんなに漏れてるか!? もしかして神様のジジィに読まれてたのって勘違いじゃないのか!?


「ディグ! 白脚の戦いを見たぞ! この間は知らないなんて言っていたが、知っているんじゃないか。」


「いやぁ。白脚とは、この者の事でしたか。」


 子供が偉そうにディグさんに話しかけた。苦笑いでディグさんが対応している。途中途中で恨めしそうな視線が飛んでくる。俺のせいじゃないぞ。

 他の冒険者は、街に入り込んだ魔物の捜索と、被害にあった場所のリストアップ。それに避難した人たちの怪我の確認にむかったようだ。ディグさんがちびっ子(ハウト男爵)を伯爵邸まで送り届けることになった。

 男爵を連れてしまった原因の俺は、宿に向かっていた。アリサとココアが南門にいなかったからだ。あの二人のことだ、無事だろうとは思うが万が一のことがある。

 魔物の襲撃を受けていなかった『ドゥーシェ』の門を、ゆっくりと開けた。


「!! リュウイチ!」


「わー! リュー様なの~!」


 開けた途端、ココアが飛び上がって抱きついてきた。アリサも駆け寄って来ている。ココアを抱きとめ、頭を撫でてあげる。気持ちよさそうに頭を擦り付けてくる。そんなに心配させたかな?


「ただいま、ココア。アリサも、ただいま」


「おかえり! おかえりなさいなの!!」


「よかった……。あ、あんたのことだから、勝って戻ってくるとは思ってたけど!」


 アリサがなんか強がっている。お、ツンデレ? ツンデレなのか?

 ココアとアリサを促して、食堂の椅子に座る。奥から出てきたツィツィちゃんにハーブティーを貰う。

 因みにツィツィちゃんからは、「お帰りなさい」なんてはにかみながら言ってもらえた。なんだこれ、ご褒美か?

 落ち着いた所で、魔族との戦闘について話す。情報としてだけでも知っておいたほうが、戦いに幅が持てるだろう。


「全くあんたは……。信じられないことをするわね」


 気力を魔力で覆った辺りで、アリサがそんなことを言ってくる。何を言うか、俺のこの素晴らしい発想を褒め讃えてもおかしくはないのに。


「しかたないだろ? 魔力が効かないって言うんだから」


「……はぁ~。そのことじゃないわよ」


 俺の言葉に『始まったよ』と言いたげにため息をつかれた。ん? またなんか変なコト言ったか?


「あのねぇ、あんたのあの魔力剣一本出すのに、どれくらいの魔力が必要だと思ってるの?」


 魔力量? どれくらいだろう。普通じゃありえないと言われたし……。


「魔術師二人が死にそうになるくらい?」


「バカ言うんじゃないわよ」


 ちょっと多めに言ってみた。即行否定される。デスヨネー


「ここの街の魔法兵が、皆全魔力を使い果たしてやっとできるかできないかよ」


 え……。え? そんなに多いの? あれ。


「一つの大きな街がやっとできる魔法と同じくらいの物を、使い捨ての囮に使ってるの。この意味分かってる?」


 うん、今やっとわかった。つまり俺一人で


「あんた一人で国を相手にしても、余裕で勝てるくらいの魔力があるってこと。それを言ってんのよ。」


 おぉ、考えが被った。対国兵器になれるんじゃないかと思ったのは、間違いじゃないらしい。シンパシーかね?

 それにしても、隠してよかった……まぁあの子供にはバレちゃったんだけどね。


「はぁ……。もういいわ。そういえばさっき『宝剣』様の使いから伝言があったわ。私とココアも一緒に、夜になったら冒険者ギルドに来て欲しいそうよ」


 この話を続けても不毛だと思ったのか、アリサが話題を変えてくれた。懸命な判断だ。これ以上話すと、伯爵の子供にバレた事を話さないといけなくなるからね。

 俺達は、夜になるまで宿で休んで (ココアは俺のそばから離れなかった)、ディグさんの指定の時間に冒険者ギルドに向かうことにした。




「それでは! ザンドウの街防衛成功を祝して!!」


「「「「乾杯!!」」」」


 冒険者ギルドでは、防衛に参加した冒険者が集められ、歓喜の声が満ちていた。

 なんでもディグさんが発案したとのこと。街の復旧は残っているものの、防衛の成功。それとギルド員による大規模活動成功を祝したいということらしい。

 飲み会も酒も大好きな俺からすれば、歓迎こそすれ、避けるなんてとんでもない。ちょっと戸惑っているココアに、盛られている焼き鳥を渡して、宴会を楽しんでいた。

 一緒に席に座った筈のアリサがいなかった。見渡してみると、少し離れた所で別の冒険者達に話しかけられていた。

 アリサは、魔族から兵士を連れて逃げた後、他の冒険者と一緒に侵入してきていた魔物の排除。それと怪我人の回復をしていたらしい。

 その姿を見て、最初の頃は戦えない女冒険者だと思っていた皆も、アリサの事を見直したのだろう。レベルも15で、短期間で成長したことも効果があったみたいだ。よかったな、アリサ


「よう、アンタ無事だったんだな」


 ココアの頭を撫でながら酒を飲んでいると、魔族との戦いの時に会った4人パーティーのリーダーが近寄ってきた。


「あぁ。貴方も無事で良かった。俺はリュウイチ。貴方は?」


 返事を返し、名前を尋ねた。そういえば聞いてなかった。


「おっ、言ってなかったか。俺はゼグ。一応『単槍の旋律』っていうパーティーのリーダーをしている」


 やっぱりリーダーで間違いなかったようだ。なんだか厨二っぽい名前のはパーティー名だろうか。ふむ……俺達を言うなら『ドキッ! 龍のハーレム軍団』だろうか。ダメだな、センスが足りない。誰だ? 古いとか言ってる奴は。


「そしてメンバーがあそこにいる「お、さっきの兄ちゃんじゃん」「先程はお疲れ様でした」「……ご苦労です」。……こいつらだ」


 ゼグが仲間を紹介しようとしたが、メンバーが先に雪崩れ込んできた。サバサバしてる剣士の女性がレティ、丁寧な女性が回復役のシリア、静かな男性が魔法使いのダンらしい。皆によろしくと伝える。


「それにしても、あんたが『白脚』だったのか。そりゃぁ魔族でも余裕だった訳だ」


「魔力。圧巻」


 感嘆の声を上げるゼグに、言葉少なに魔力の凄さを伝えてくるダン。そういえば、魔族との一戦で下がらせるために魔力剣を見せたんだっけな。


「あ~、そのことなんだけど」


「あぁ、わかってるって。誰にも言やしないさ。ディグさんにも言われてるしな」


 ん、なんでディグさんの名前が出てくるんだろう。

 気になって聞いた所、彼らはあの後南門へ辿り着き、ディグさんに魔族が出たこと。そして俺が一人でその場に残ったことを伝えた。ディグさんはそれを聞いて、何かを考えた後彼らに門付近にいる魔物の掃討を指示したらしい。

 ゼグは「応援に行かなくていいのか!」と詰め寄ったらしい。その時のディグさんの答えが


「『白脚』の足手まといになりたくないならここにいろ」


 だったそうだ。『白脚』の噂は、ミリル嬢によって貴族の子供どころか冒険者達にまで広がっていたらしい。ミリル……恐ろしい娘!

 その後、俺が話を広められたくない事を、ディグさんに聞いたそうだ。手回しがいいんだか悪いんだか。


「そういえばあの後どうしたんだ?」


「あぁ、あの後……」


 話を聞きたがっている4人に、気力で作った剣で倒したことを教えてやる。因みに、魔族に魔法が効かなかったことも説明済みだ。この先彼らが、同じようなのに出会う可能性もあるしね。


「……気力で、剣? 考えもしなかったな」


「つまりつまり! 魔法を使えない私達でも、気力で遠距離の敵と戦えるってことよね!?」


 何やら考えこんでしまったゼグ。そちらとは正反対に、嬉しそうに俺の腕を引いてくるレティ。一つの情報でも反応は全く違うな。面白い。

 4人とは反対方向の隣で、ココアがなんだかキョロキョロしている。ん? 焼き鳥が無くなったのか。

 ココアに追加の肉を差し出してやる。


「リュー様、ありがとうなの!」


 目をキラキラさせて肉にかぶりつく。頭を撫でてあげる。くすぐったそうにしながらも肉を食べている。なんて可愛い……。これウチの娘なんですよ?


「ねね、さっき言ってた気力を剣にって、どうやるの?」


 反対からは、レティがキラキラした目でこっちをみている。ブルータス、お前もか!


「自分の中にある気力は分かるだろ? それを掌に集めて、手の上で剣の形になるイメージを持つんだ」


 簡単に説明してあげる。「気力……自分の?」と混乱していたようだが、気力操作のコツはゼグにどうにかしてもらおう。悩めよ、若者。

 それからは、色んな人に挨拶をされているディグさんと話したり、ライラさんを口説……話したりして、宴会は進んでいった。差すような視線を感じたが、気のせいだろう。



 宴会もそろそろ終盤だろう、ココアはさっきから俺の膝の上で寝ている。


「おう、飲んでるか?」


 さっきから近くで飲んでいたゼグが話しかけていた。顔が赤いが、酔っ払っているというわけではなさそうだ。


「飲んでるよ。どうかした?」


「おう。なんつーか……。『白脚』のアンタには必要ないんだろうが……。」


 そこまで言って酒のグラスに口をつける。なんだ?


「俺達のパーティに「ダメ~!!」……」


 ゼグの言葉を遮るように、女性の叫び声が聞こえた。アリサだ。

 あまりの大きな声に、周りが静まる。膝の上のココアも飛び起きて、俺の膝に爪を立てている。イタイイタイ。


「いや、嬢ちゃんちょっと……」


「リュウイチはれぇ、『白脚』はわらしとパーリーなの! ほかのになんてれったい、ずぇぇぇぇぇぇったい入らないの!!」


 ギルド内に響き渡ったんじゃないかと思うくらいの大声で叫ぶ。いや、呂律回ってないし。パーリーとか、ヒップホップか。

 周りからは「『白脚』? あいつが?」とか「美人と2人パーティとか、モゲろ」とか「やっぱり……」とかの声でざわついている。っていうか2つ目! お前だけなんか方向性違うぞ!?

 自分の状況を確認したのか、それとも酔いが回ったのか。アリサは顔を真赤にして俺に倒れかかってきた。そのまま倒れると危ないので、抱きとめて床に寝かす。


「残念ながら、ウチの姫がそう言ってるので」


 床に寝かしながら、ゼグに、皆にそう伝える。納得したのか、諦めたのか、ゼグは苦笑いをして酒を飲みだす。いいやつでよかった。


「あ~、紹介が遅れた。そこにいる白いズボンを履いた男。そいつが今回の防衛で下級魔族を討伐した、『白脚』だ」


 ディグさんが立ち上がり、皆に向かってそう伝えた。ちょっと、何言ってやがりますの?

 案の定周りからは「魔族を討伐!?」「ほぅ、今度一緒に討伐を」「美人を侍らすその力、試してやるゾ」とかの声が漏れている。だから、おかしいの一人いるって!


「だが、皆に言っておく。そいつの事は外に漏らすな。これはこのギルドからの『お願い』だ。いや、『気遣い』といってもいいだろう」


 ディグさんの発言に?マークを浮かべているものが殆どだ。指示の内容はともかく、最後の『気遣い』とはどういうことだろう。俺もわからない。


「そいつは自分のことを知られるのをひどく嫌う。バラした者をどうするかわからないくらいに、な。下級魔族と戦って、傷一つ付かずに帰ってくる男の力がどのくらいあるか。わからない奴もいるまい」


 ……そういうことか。つまり「死にたくなければ話すな」ということだ。それを聞いた殆どの人間は顔がひきつっている。ゼグやライラさん。それとディグさんをよく知る数人はブラフだとわかっているようだが。


「だが!」


 そう前置きして、グラスを持って俺に近づいてくる。一歩一歩、ゆっくりと。

 なんとなくやりたいことがわかった俺も、グラスを持って立ち上がる。俺の前まで来てディグさんが止まる。視線で『悪いな』と言っている気がした。まぁ、こうなっては仕方ないか。


「今日はそれを知るものしかいない。皆で、街を守ってくれた大恩ある『白脚』と、心いくまで祝杯を上げようじゃないか!!」


 そう叫び、グラスを上に持ち上げる。俺も持っているグラスを掲げ、2人でグラスを鳴らす。

 カランというグラスの音と、それをかき消す皆の歓声。終わったと思っていた夜が、また始まった瞬間だった。

呼んでいただき、ありがとうございます。

次回更新は12月1日を予定してます

よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ