15-連戦の相手は魔族
「逃げてるばかりじゃオイラ様には勝てないゾ? ギャギャギャ」
魔族の言葉通り、俺は防戦に回っていた。
魔力剣は足止めにもならないし、水弾をぶつけても、魔力で作った水のために無効化される。勢いで多少衝撃はあるようだが、効果は薄い。
水魔法で氷の槍を放ってみたりもした。結果は先ほどと同じ。槍が刺さった衝撃で多少足が止まるも、ダメージは無い。
接近しようにも、ロンドの放つ魔法がそうさせてくれない。周りに火弾を設置されており、それを破壊せずに行ける先が決められてしまう。
魔力剣で火弾を潰し、又は魔力盾でガードしながら魔力剣を放つ。
「それは効かないとわかっているはずだゾ!」
ロンドは片手で受け、魔力剣を潰す。そして俺に向かって火弾を撃ってくる。
それを避けながら、思案する。う~む、これだけやってダメージは無し。今のところ効果があるとすれば。
『ベシャッ!』
「グェゥ! ……また泥水だゾ!」
泥水を顔面にぶつけて嫌がらせをするくらいだ。
戦いの間に散々泥水をぶつけているため、ロンドの身体は濡れに濡れている。見てもちっとも嬉しくない。
顔を拭って怒りをぶつけてくるロンドに、更に追い打ちを掛ける。足元を水で泥濘ませてやる。
「ンググ、動きにくいゾ。オマエ戦う気はあるんだゾ!?」
イライラした調子で睨みつけてくる。カルシウムが足りんよ、君ぃ。
「とは言うけどねぇ」
「せっかく戦ってやってるというのに、逃げるか無駄なことばかりだゾ。これ以上続くなら街を壊すゾ!!」
煮え切らない態度の俺に、イライラが頂点に達しそうなのか、火弾を打ち出しながら叫んでくる。勿論魔力盾でガードする。爆発し、粉塵が辺りに舞う。
ふむ、固有能力の効果範囲も確認した。魔力の攻撃ではダメージを与えれないことも確認した。……そろそろ潮時か。
「ほんじゃあそろそろ、本気でやりますかね」
「ギャギャ? 今までは本気じゃなかったとでも言うつもりだゾ?」
俺の言葉を聞いて、呆気に取られたように俺を見てくる。かと思えば大声で笑い始めた。情緒不安定か?
「面白いことを言うゾ! ……もういいゾ、遊びは終わりだゾ。潰してやるゾ!」
ロンドが怒りを含んだ咆哮を上げる。その咆哮にあわせて、俺は槍を1本浮かびあげる。
「またそれだゾ。意味が無いってわかりきってるゾ!」
呆れたように、そんな事を言っている。
俺は、浮かべたそれをロンドに向ける。胸を狙い、引き絞る。矢のように発射した。
「意味のない事を何度も。全くの無駄……!?」
さっきとは違うことを察知したのか、ロンドが槍が当たる寸前に躱そうとして体をひねる。
少し遅かったのか、肩に当たる。
『ッパァン!』
ロンドの肩が吹き飛んだ。緑色の血が流れ出している。
「なんだ……と…………?」
「よく気づいたな。気づかなければ楽に逝けたのにな」
ロンドが驚愕の表情で俺を見る。
俺が先ほど撃ったのは、『魔力剣』ではない。気力で作った剣だ。
魔力で攻撃しても意味が無い。そして接近戦を嫌がる。それで導き出した俺の答えが、気力などの物理的攻撃ならダメージを与えられる……である。
その結果は先程の通り。俺の読みは当っていたというわけだ。
尤も、周りをさっきと同じぐらいの質量の魔力で覆ってるため、効率は最悪だ。そうしないと感知されるかもしれないからな。
「オマエ。いつそんな事を?」
「いつ? あんたと戦い始めてからさ。」
ロンドの問に答えてやる。っていうか語尾を忘れているゾ?
「ほざくな、人間が。こんな短期間で気力と魔力を混合するなど、人間風情にできるわけがない!」
きちんと答えてやったのに否定されてしまった。いや、まぁ混合じゃなくて覆ってるだけなんだけど。
「さっきの言葉は嘘ではないということか。面白い。面白いゾ!」
ロンドが再び咆哮を上げ、火弾を浮かびあげる。お、語尾が戻った。
さぁて、第2ラウンド開始と行きますか。
□
「大した避けっぷりだな」
先ほどとは全くの正反対。俺の攻勢が続き、ロンドが防戦一方となっている。
気力剣を撃ち、時に魔力だけの剣を撃ち、時に魔力で覆った気力の剣を撃つ。それらに翻弄されるように避け、当たり、打ち返し。身体の一部を欠損させながら、必死に避けていく。
「にしても、キリがないな」
ロンドは回復も使えるらしく、先程から欠損した身体を直しながら戦っている。ふむ、回復する間もなく倒しきらないといけないか。
おそらく固有能力で放出された魔力を吸い取っているのか、ロンド魔力が底をつかない。
身体を斬られる恐怖はあるものの、戦いに焦ってはいない。多分このまま俺の魔力切れを待つつもりなんだろう。
「ドウした、人間。魔力が尽きてきたか? 尽きればオマエの勝ち目はないゾ?」
ロンドの避けっぷりに呆れている俺を、どう見たのかそんなことを言ってくる。いや、尽きないけどね?
にしても、これ以上長引かせても問題しか無い。決着を付けるか。ディグさんとか来たらどうするんだ。
剣を撃つのをやめ、胸の前で左の拳を右の掌に合わせた後、ロンドに向かって駆ける。
「バカめ! 剣を撃てなくなったか!!」
接近戦を挑む俺を見て、魔力が尽きたと勘違いをしている。欠損を回復し、火弾を撃とうと手をこちらに突き出してきた。
「バカはお前だ!」
突き出してきた手の目の前に魔力盾を出してやる。ロンドが打ち出した火弾が盾に当たり、爆発する。
「な、なんだゾ? み、見えない!!」
粉塵で前が見えなくなっている。魔力そのものでの攻撃に効果はなくても、その粉塵やぬかるみは効果があることは、確認済みだ。
『瞬動』で近寄る前に別の魔法を使う。ロンドの身体の表面が凍り、更に地面から氷柱を出して手足を貫く。
「!? 狙っていたのはこれか? だが、これに意味なんて無いゾ!」
体の状態に気づき、そう叫んでくる。一拍遅れて、氷柱がかき消える。
「意味? 意味ならあるさ。」
そう、一瞬でも動きを止められればいい。俺は『瞬動』を使い、左半身でロンドの懐に入り込む。
気力を纏う。気力をネジのように、拳の頂点から腕まで回転させて覆う。
そして、ロンドの胸を叩くように。貫くのではなく、叩くように拳を突き出した。
「ギャ! ……ギャギャギャギャギャガ!!」
拳がロンドの胸に当たる。その瞬間拳に纏っていた気力が渦を巻く。
螺旋の力により、凝縮された威力がロンドの身体全体に響き渡る。叫び声で音が聞こえないが、至る所で、螺子切り、折れ、飛び散る感触が拳から伝わってくる。
ダメージが身体を突き抜け終わった時、ロンドは膝を着きそのまま倒れ、その身体は、魔石を残してサラサラと消滅していった。そうか、魔族は倒したら消えるのか。
魔石はといえば、20センチほどはありそうな大きさだった。薄い赤の中央に濃い青が凝縮されている感じがする。これが魔族の魔石……。
そうして俺は、未だ気力を纏っている腕を一振りし、気力を払う。
俺の、勝ちだ。
そういえば、先ほど打ち込んだ攻撃だが、某圓明流の奥義を参考に考えていたのがこの技。
突き抜けるんじゃなく、全体に広がらせるのを思いついたのはついさっきだったが、ぶっつけ本番で成功してよかった。
名前を付けるなら……うん、『螺旋空波』だな。
今回のことで、魔力と気力を一緒に使えることに気づいたのは行幸だ。
そういえばさっきロンドが「魔力と気力の混合」とか言ってたな。今回のは気力の周りを魔力で覆っただけの偽物だったが、そうか、混ぜることもできるのか。
先ほどの戦闘を見なおして目標を立てた所で、落ちていた魔石を回収して一息つく。
「さて、思いの外時間を食ってしまった。門の方は大丈夫かな。」
まぁさっきから騒がしかった魔物の叫び声も聞こえないし、それになんと言ってもSクラスがいるんだ。大丈夫だろう。
そう思いながらも、南門へ足を向けたる。
『ジャリッ』
後ろで何か物音が聞こえた! 振り返り音の下方向を見る。
すると建物の影でコッチを見ている少年と目があった。……え、見られてた?
高そうな服を着ている、貴族とか商人の子供かな? 一抹の不安を抱えながら、大丈夫か声をかけることにしよう。
「大丈夫かい?しょうね」
「強くて、白脚の冒険者……。ほんとにいたんだ……」
バッチリ見られてたじゃないですか、ヤダー。
予感なんて当たらなくていいのに、見られてたよ……。しかもミリルちゃんの息がかかっている少年に。……なんだか騒がしくなりそうだ。
呼んでいただいて、ありがとうございます。
私は一番八雲が好きです。皆さんはどうでしょうか(笑
次回更新は30日を予定しています。
よろしくお願いします。




