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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
14/48

14-街でのバトル

 街に魔物が出た……。 そういえば門番はいたけど、魔物が攻めてきたらどうしてたんだろう。そんな疑問が先に出てくる。


「本当なの!?」


「本当だよ! 南門と東門にたくさん出てきて、街にも入ってきてるらしいんだ!!」


「そんな、結界呪が破られるなんて……」


 レーアさんが空を見上げている。結界呪というのは、街に魔物が出てこないよう、魔法ギルドによって張り巡らされている結界らしい。

 魔物を寄り付かせない結界らしいが、門には張られていない。魔物使いが入る時のためらしいが。それなら門から入ってきたんじゃないか?


「レーア、僕怖いよ。この街も僕らの村みたいに壊されちゃうのかな」


「……大丈夫、大丈夫よ。この街には冒険者ギルドがあるの。Sクラスの強~い人たちが、きっと倒してくれるに違いないわ」


 怯える子供たちに、レーアさんが必死になって笑顔を作ってそう答えている。自分も恐ろしいだろうに。強い人だ。


「よっと、それじゃ行ってくるよ」


 必死な空気をぶち壊すように、斧を下ろし軽く言い放つ。レーアさんと少年が驚いた表情でこっちを見る。


「戦いに行くのですか……?」


「えぇ、俺もほら。冒険者ですから」


 気遣うような視線に、笑顔で冒険者証を見せ、孤児院を出る。出たと同時に、見たことある魔物がいた。『黒狼ダーク・ファング』だ。迷宮にいたやつよりもだいぶ小さいな。

 後ろで悲鳴を上げるレーアさんと、腰を抜かしている少年。その悲鳴を切り裂くように、魔力剣で黒狼を一閃する。

 首を無くした黒狼は、咆哮も上げることができず、後ろに倒れこんでいく。

 付近を見回し、近くに魔物がいないことを確かめた後南門へ向かって走りだす。後ろで少年たちが「すごい……」「リュー兄ぃ! やっちゃえ!」と応援してくれている。手で返答して、走る速度を上げた。

 それにしても魔物め。あんなに幸せな空間をぶち壊すなんて。只じゃ置かねぇ!



 街中にポツリポツリ湧いている魔物を蹴散らしながら南門へ向かっている途中、広場で俺は止まった。そこには、不自然な光景が広がっていた。


「う……ぐぅぅ。」


「あ……ぐ……」


 応戦していたであろう兵士達が、倒れていたのである。所々怪我をしており、重傷者が多い。‘他に何もいない場所’で。


「兵士が倒れている! 救援を!! シリア!」


「わかったわ!」


 近くにいた人たちが救護に向かっていた。恐らく冒険者のパーティーだろう、4人で手分けをして、倒れている兵士に回復魔法を使ったり、水を飲ませたりしている。


「ダメージが酷い……。何の魔物にやられたんだ!」


 先ほど指示を出していた男(恐らくリーダー)が、兵士にやられた魔物について聞いている。


「う……ま、まぞ」


「ギャーッギャッギャッギャ!!」


 兵士が話そうとしたところに、嫌悪感のする笑い声が聞こえてきた。皆声のした方を向く。


「来たゾ、来たゾ! 怪我人に釣られて獲物が来たゾ! オイラ様頭いいゾ!」


 そこには、変な語尾で笑っている、黒尽くめで人型の魔物が現れていた。特徴的なのは、肌の黒色と目の金色だ。金の目が爛々と輝いている。


「まさか……魔族だと?」


 リーダが驚きのあまり呆然としている。魔族 (?)がリーダーを向く。……! 危ない!!

 咄嗟に魔力剣を2本ほど出し、魔族 (?)へ打ち込んだ。魔力が暴走したのか、爆発している。結果を見ずリーダーの元へ駆け寄る。


「大丈夫か」


「あ、あぁ。助かった」


「あいつは何だ?」


 息を吐くリーダーに確認する。リーダー曰く、あいつは下級魔族らしい。なんと、初めて見る魔族だったか。きちんと確認すればよかったな。

 兵士を回復させていたパーティーメンバーが駆け寄ってくる。皆口々に「何だ今の!?」「あの剣は何?」と聞いてくる。おや、一人がこっちを見ていないな。目線は……さっき魔族 (?)がいた場所?

 一人の視線につられて、魔力剣が刺さった筈の魔族の方向を見た。


「ギャッギャッギャ。楽しそうな奴がいるんだゾ! オイラ様、喜ぶゾ!!」


 そこには、魔力剣が刺さったのを物ともせず笑う魔族がいた。

 少し驚いたがいい機会だ、『診断』で確認する。


 名前:ロンド、職業:下級魔族、レベル:54、固有能力:魔力被害減少・極


 レベルはそうでもないな。恐らく固有能力で、さっきの魔力剣のダメージが少ないんだろう。ていうか魔族って職業なんだ。


「さ、さっきのを食らってピンピンしてるなんて……。」


「高ランクが出払っている時に……。くっ、ここにマスターがいれば」


 各自武器を構えながら、そう呟いている。そういえばディグさんはどうしたんだろう?

 確認したところ、南門が魔物の数が一番多く、ディグさんは南門で魔物の進行を食い止めているそうだ。

 リーダー達は、撃ち漏らして街に侵入した魔物を狩るために戻ってきたらしい。

 さて、ここで戦うのは別にいいんだが、出来る事ならこの人たちには退散してもらいたい。話が大きくなっても困るし、他に侵入してるかもしれない魔物を退治してもらいたいしね。


「ここは俺が何とかする。皆はディグさんに報告と、街に散らばっている魔物を退治してくれないか」


「!? あんた……。こいつは下級とはいえ魔族だぞ? わかってんのか!?」


「あぁ、分かってるさ」


 俺の言葉を聞いたリーダーが反論してくる。わかっていたことなので、魔力剣を30本程出して黙らせる。皆つばを飲んで黙ったようだ。


「さっきのはあんたが……」


「魔力量が分かるそこの娘なら分かるだろ? ここは俺が何とかする。だから早く、このことをディグさんに伝えてくれ」


「……、わかった、必ずマスターに伝えて戻ってくる。だから……、死ぬなよ」


 俺が勝てるとは思っていないんだろう、リーダーがそんな事を言ってくる。


「あぁ、わかっている。……あ、そうだ」


「……なんだ?」


 駆け出そうとしているリーダーに話しかける。


「別に倒してしまっても、いいんだろ?」


「……。ハハッ! 終わったら宴会だ! やっちまえ、バカ野郎!!」


 やってみました、一度は言いたい名セリフ。

 俺が言った言葉を聞いて、面白いことを聞いたというように笑うリーダー達。その言葉が合図となったか、パーティーは2人ずつに別れて走りだしていった。


「茶番は終わったんだゾ? オイラ様を待たせるなんて、人間のくせに生意気だゾ」


 空気を読まない。いや、空気を読んだのか? 魔族が話しかけてきた。30本全部の魔力剣を魔族に向け、笑いかける。


「待たせたかい? お詫びにこいつをごちそうするからよ。美味しく食べてくれ」


「ギャギャギャ! さっき全く効かなかったのを……」


 最後まで言わせない。話の途中で全てを魔族へブチ込んでやる。

 先ほどのでは、どうして効かなかったのかわからないので、爆発しないように魔力の流れを見ながら打ち込んでいく。

 剣が魔族の身体に触れるか触れないかのその時、魔族の周りに魔力のフィールドのようなものが生まれる。それに触れた魔力剣から、魔力が抜けている。身体に触れるときには、詠唱付きの魔力剣ほどの魔力しか残っていない。

 そうか、これが固有能力の効果か。

 30本の魔力剣を食らいながら、肌に多少傷が付いたくらいの魔族が叫ぶ。


「ギャギャギャギャ! これでわかったんだゾ? オイラ様には魔法の攻撃が効かないんだゾ!」


 偉そうに……。まぁ、でも意味が無いことがわかってよかった。

 それにしてもどうするか。街を出る気がなかったから、籠手やグリーブは宿に置いてきてるし。あ、宿の皆は大丈夫かな。そういえばアリサとココアも街に出てたんだよなぁ。大丈夫かな。


「もうおわりだゾ? まぁあれだけの魔力を使えば、力ももう残って無いはずだゾ。お前はオイラ様……」


「リュー様なの!」


「リュウイチ、大丈夫!?」


 魔族の言葉を遮るように、ココアとアリサの声がした。声の方向を見ると、普段よりおしゃれをしている二人が走ってきていた。


「待て!」


 二人が近寄ろうとするのを止める。戦って破れても可愛そうだしね。


「リュウイチ……なんで」


「二人には兵士の救護を頼みたいんだ。武器も持ってないだろうし、危険がない場所まで兵士をつれて行ってくれないか」


 それに魔族の注意を引かせたくない。アリサは回復ができるし、ココアはそこらのやつより力があるはずだ。お願いして退避してもらおう。

 俺の言葉を聞いて、納得はできていないだろうが、別れて倒れている2人の兵士の元へ向かってくれる。


「オイラ様の言葉を遮ったゾ。……怒るゾ!!」


 俺の言葉も虚しく、魔族はターゲットを2人に向けたようだ。チッ、変な所で頭が回る。


「戦いを邪魔されるのも楽しくないゾ。……死ね!!」


 飛びかかってやろうとしたが、俺が動き出すより早く、魔族が火の魔法弾を2人へ向けて打つ。走ってたんじゃ間に合わない!俺は無詠唱で魔法を完成させる。


『パキィン!!』


「え……。あ……?」


「盾なの~?」


 火弾が二人にぶつかる前に、俺の魔法がそれを遮った。

 迷宮にいた時に一人死なせてしまってから、走るよりも早く出すことができる、防御魔法を練習していた。

 魔力剣の応用で、護るというイメージを俺なりに表現した結果、盾となった。言うなれば『魔力盾マジック・ヴァッヘ』か。無事でよかった。


「ンム? ……ギャギャ! これもお前か! 楽しい、楽しいゾ! 来てよかったゾ!」


 魔力盾を出したのが俺だと分かってか、ターゲットが俺に戻ったようだ。俺は全然楽しくないがな。


「お褒めの言葉、光栄だな。そういえば、お前はなんで街に攻めてきたんだ?」


 軽く返しながら、疑問だったことを聞いてみる。


「ング? ……そうだゾ、わすれていたゾ。オイラ様の住処にいた魔物が狩られたんだゾ!」


 魔物が狩られた。それで攻めてきたのか? っていうか忘れんなよ。


「その魔物は、魔将様からお借りした大事な魔物だったんだゾ。レベルも高いし、そこいらの奴には狩られないと思って、住処を離れていた時にやられていたゾ。」


 レベルの高い魔物? もしかして、『黒狼』じゃあるまいな。


「!! そうだゾ! お前もしかしてオイラ様の作った迷宮に入ったゾ!?」


 やっべ、声に出てたか。


「……そうだ。そいつを倒したのも俺だ」


 平静を装って答えておく。そうか、あそこコイツの迷宮だったのか。そういえば名前が一緒だ。気付かなかった。


「グヌヌ。それだけじゃないゾ! 近くの森に放っておいた貴重な魔物、これも借り物の魔物だったんだゾ。それも倒されたんだゾ!」


 近くの森……。 (おそらく)レベルの高い魔物、貴重な魔物。……おや、嫌な予感がする。


「そいつの種族は?」


「『鎌熊』だゾ!」


 はい、的中。あれ、こいつが起こってる原因全部俺達じゃない?

 俺が内心焦っている時も、魔族はプリプリと怒っている。「折檻されるゾ」なんて言っている。

 そいつも倒したのが俺達だとバレると、もっと怒りそうだな。


「! それもお前がやったんだゾ!?」


 即バレた。えぇい、俺のバカ!


「もう許せないゾ! ここでお前を倒せば、ここに攻め込んだ理由も解決。オイラ様は楽しい。魔将様にもいいわけができるゾ!」


 俄然やる気になっている魔族。いや、魔物が既に倒されてる以上言い訳なんてできそうにないもんだが。

 コッソリ脇を見ると、話している間にアリサとココアは兵士を連れて避難したようだ。広場には俺達しかいない。よかった、やっと気にせず戦える。

 こうして、俺と魔族の本格的な戦いが始まった。

読んでいただきありがとうございます。

次回更新予定は29日です。

よろしくお願いします。


12月21日 誤字修正

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