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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
13/48

13-買い物と子供たち

「おはよう、ココア。……ココア?」


 朝起きて、脇にココアがいないことに気づいた。あれ? 夜に戻ってこなかったか?

 ボンヤリとしていた意識がハッキリしてきた。微かに水の音が聞こえる。あ、風呂に入ってるのか。どうやらお気に入りになったようだ。

 気を取り直して、裏庭に向かう。今日も稽古をしないとな。

 今日の稽古はいつもと違うことをする。型の復習をやった後、気力を操作していく。

 魔力がイメージで水になったり、形を与えたりできるんだ。おそらく気力もできるだろう、といった短絡的なものだ。

 結果として、気力も形を変えることができた。最初はゆっくりとだが、途中から素早く動かすことができる。最終的には、一度ジャンプをして、地面に付く前に足に気力を纏うこともできるようになった。

 因みに足に気力を纏わせたのだが、再度ジャンプした時に、あまりの高さまで上がってしまい、ちょっとビビった。高いところって怖いよね。

 日課の稽古を終わらせて、ツィツィちゃんにタオルを貰って部屋に帰る。稽古後の濡らしたタオルは最高だな。


「ココアちゃん! なんでいなくなってたのよ~!?」


「わぅ……。アリサ、くるしいの」


 部屋に入ると、涙目のアリサがココアに抱きついていた。ココアはちょっと迷惑そうだ。ナニコレ?

 アリサを落ち着かせて、一緒に朝食に向かう。ご飯が楽しみなのか、ステップを踏んで食堂へ歩いていくココア。……とアリサ。ちゃっかりココアを手を繋いでいるし。

 朝食は今日も美味しかった。いつものパンと、日替わりのスープだ。このスープがまた絶品なんだよな。


「そういえばリュウイチ、昨日ココアちゃんとで……デートしたのよね」


 スープの味を噛み締めていると、アリサがそんなことを言ってくる。急に名前を呼ばれたココアが、クリッとした目で見上げてくる。いや、デートって。


「買い物に行っただけだぞ? 服とか、必要な物を買いにね」


「一緒に焼き鳥を食べたり、公園にいったりしたってココアちゃんから聞いてるわよ」


 ココアに食べてていいよと合図をして、そう答えた。しかし、俺の返答が気に喰わないのか、ジト目でそんな事を言ってくる。小声で「ズルイ……」とか言っている。……ハハーン、そうか。


「お前も行きたかったのか? 二人で買い物」


「二人で買い物に!? え……えぅ……。」


 急に顔を赤くして小さくなる。言葉がココアと被ってるぞ、どうしたアリサ。

 あまり騒ぐから、別のお客を対応してたツィツィちゃんまでこっちを見ている。というか睨んでる。


「そうか、じゃあ今日行けばいいじゃないか。買い物」


「え……。いいいい、いいの!?」


 大げさに驚いている。何を驚いているんだ? 勿論じゃないか。っていうか、カウンターの奥でニヤニヤしている店主がなんかムカつくな。


「行ってくればいいんじゃないか? ココアと二人で買い物。」


「「「え?」」」


 アリサ、ツィツィちゃん、店主の声がハモる。どっかで練習してたろ、君たち。


「……そうね、こういう奴だったわね……。」


 ぼそっと呟くアリサ。なんだか怖いぞ? 他の客達は苦笑いだし。……なんだ?


「えぇ、勿論行ってくるわよ! あんたより可愛い服を見つけて悔しがらせてやるんだから! いこ、ココアちゃん」


「パン残ってるの~。ぇぅ……。」


 ココアの手を引いてアリサが部屋に戻っていく。食べ残しのあるココアが、恨めしそうにテーブルを見ながらも連れられていく。もったいないし、残すのも悪い。俺が食べとこう。



 部屋に帰る前に、宿の親父が話しかけてきた。


「おい、リュウイチ……。本気か?」


「? ……何がさ?」


 呆然とした顔で俺を見る。それ以上何も言ってこないので、そのまま部屋に戻ることにする。これからどうしようかな。

 後ろで「やつはもうだめだ」と店主が話していた。失敬な。











 アリサとココアが出掛けてしまったので、一人でブラブラと散歩することにした。

 とはいっても、俺が遊びにいける所なんて数少ない。歩いていると、昨日も来た焼き鳥屋の近くに着いた。

 昨日の味を思い出して、今日も買うことにしよう。美味しかったしな。


「あ! いたいた、リュー兄ぃ!」


 屋台の前に来た所、昨日出会った少年に呼びかけられた。


「昨日の……オンだっけ?」


「ホンだよ!! 昨日は普通に言ってたじゃん!?」


 わかっていたが、ボケたくなったんだ。ゴメンね。


「どうした?」


「うん、兄ぃちゃんにウチに来て欲しいんだ!」


 ……なんぞ?

 話を聞くと、昨日焼き鳥を貰った事をレーアさんに伝えた所、「お礼を伝えたいので、相手が良ければ連れてきて欲しい」と頼まれたらしい。

 お礼って言っても、残りを一緒に食べただけなんだけどなぁ。

 だからといって「お礼を」と言ってくれているのを無下にもできない。お言葉に甘えて寄らせてもらうことにした。レーアさんにも会ってみたいしね。


 お土産に焼き鳥を30本ほど買い、ホンに連れられて歩く。先に他の家よりも少し大きめの家が見える。恐らくあれが孤児院だろう。

 俺の読みは合っていたらしく、「あれがウチだよ! 先に行ってるね」と言ってホンが走って行った。え、最後まで一緒に行かないの?

 ホンから遅れること数分、俺も孤児院に到着。門の前に一人男の子が待っていた。笑いながら「シ~」と言っている。何だろ?


「……! …………!」


 中から女性の大きな声が聞える。それも段々近づいてくるんだが……。なんだ?

 ドタドタと声と足音が近づいてくる中、門の前で静かに待つ。なんだこの状況。


「ちょっと待……! だからやめて~!」


『バン!』


 扉が勢い置く開き、一人の女性が出てきた。金髪碧眼の、美人さんだ。清楚な雰囲気がにじみ出ている。

 ……但し、バスタオル1枚の。しかもちょっと濡れている。俺と女性の目が合った。


「あ……」


「え……?」


 女性が驚いている。まぁ、孤児院まで人が来るとは思わないわなぁ。

 驚きすぎたのか、バスタオルがハラハラと取れてしまった。うん、恐らくEだな。


「ご、ご馳走様です」


「…………」


 まさかの出来事の連続に、絶句している女性。後ろでホン少年が蛙を持ってニヤニヤとしている。なるほど、このために先に帰ったのか。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 静かな街の一角に、女性の叫び声が鳴り響いた。











「た、大変お見苦しい物をお見せしました」


「いえ、結構な……ゲフンゲフン」


 若干赤い顔を残しながら、レーアさんがそう謝ってきた。

 俺の返答は、途中からレーアさんの目が涙目になったので咳で誤魔化しておいた。

 因みに、これを計画したであろうホン少年は庭の木に逆さで吊るされている。グッジョブだったぞ。……って昭和の漫画か?

 『ゴホン』と一つ咳払いをして、レーアさんが話しかけてきた。


「リューさん。昨日はホンとメイアにご馳走していただいただけでなく。お土産まで持たせていただき、本当に有難うございます」


「いえいえ、只の気まぐれと、うちのココアと遊んでくれたお礼でしたので。お気になさらず」


 丁寧に御礼の言葉を言われた。うん、さすが巨乳の持ち主の事だけはあ……ゲフンゲフン。

 というか、俺の名前はリューで統一されたのかな? まぁ、訂正する必要もないのでいいんだけど。

 レーアさんとは、沢山の話をした。ココアの事、孤児院の状況、街の状況、等など。

 レーアさんもこの孤児院出身で、内職をしながら、なんとか切り盛りしているとのこと。メイル伯爵からの補助金も出ているが、子供の数が多く、満足に食事を与えられるわけではないらしい。


「ね~、リュー兄ぃちゃん、遊ぼうぜ」


 そんな話をしている時、子供の一人が誘ってきた。


「いいねぇ、俺が色々な遊びを教えてやろう!」


 子供の頃は、どれだけお金をかけないで遊べるかを、試していたこともあるんだ。遊ぶ内容ならまかせとけ!

 レーアさんは、「子どもたちの相手までしてもらうわけには」と言っていたが、聞こえていない振りをした。久しぶりに童心に帰って遊ぶのも楽しいはずだしね。

 子供たちとは色んな遊びをした。影踏み、色鬼、かくれんぼ。ケイドロに達磨さんが転んだ。女の子には、毛糸を一本貰って、あやとりを教えてあげたりした。

 時間を忘れて一にて遊んでいると、レーアさんから「食事を用意しますので」と言われた。そうか、もう昼過ぎか。

 準備をしてくれているレーアさんに、野営で狩った狼を渡す。驚いて受け取れないと言っていたが、「忘れていた物だし、腐っても困るので」と言うと渋々受け取ってくれた。まぁ、ホントは腐らないけどね。

 子供たちと一緒に昼ごはんを頂く。……ん! 美味い!


「とても美味しいですよ!」


「ウフフ、お世辞でも嬉しいです。有難うございます」


「お世辞なんてとんでもない。結婚できる人が羨ましいくらいです」


 謙遜するレーアさんに、正直な気持ちを伝えた。「そんな、嬉しいです」と赤くなってモジモジしている。いや、マジで美味いって。ほんとに将来の旦那が羨ましい。


「あ~、レーア赤くなってる!」


「ケッコンしちゃえ! ケッコン!」


「もう! コラ! 食事中でしょ!!」


 子供たちの結婚コールが鳴り響く。息はバッチリだな、皆。ただトマトみたいに赤くなってるレーアさんがかわいそうだから、それくらいにしとこうな。



 食事が終わって、やることもないので薪割りを手伝っていた。なんか、やる事がないって寂しいな。

 レーアさんが見ている前で、斧を使って一本一本丁寧に割っていく。気をつけないと、地面が割れちゃうからな。

 30本ほど割り終えた所で、孤児院の少年が駆け込んでくる。焦った表情だ。……なんか嫌な予感がする。


「あら、ポーア。そんなに焦ってどうしたの?」


「レーア、リュー兄ぃ! 街に魔物が!!」


 ……嫌な予感は当たるもんなんだよなぁ。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回更新は28日を予定しています。

よろしくお願いします


12月21日 脱字修正

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