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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
12/48

12-奴隷と買い物と出会いと

 俺達が早馬で到着した頃には、門は閉まっていた。もう一泊野営かと思っていたが、従者さんが門番に何か紋章を見せたら、門を急いで開けてくれた。貴族って凄いね。

 時間も遅いので、今日は宿で休む事になった。夜遅くにギルドに報告に行っても仕方ないし、先に帰ったミリルちゃん達が何らかの報告をしてくれているだろう。

 宿のツィツィちゃんに、ココアが泊まる事を告げる。ツィツィちゃんが申し訳なさそうにしている。どうしたんだろう?


「亜人の奴隷は、宿代が銀貨1枚と銅貨25枚必要なんです……」


 なんでも、街の取り決めで決まっているらしい。昔の領主に亜人嫌いがいたようだ。「リュウイチさんのお連れさんなら、普通通りの値段にしたいんですが」と肩を落としている。

 気にしてないよ、と肩を叩き俺の宿泊費と一緒に10日分払う。「お食事は、最高の物を準備します! 」と気合を入れてくれている。なんというか、えぇ子や。

 気合の入った遅い夕食を食べ、ココアと一緒に部屋に入った。アリサが「私の部屋で一緒に寝よ! 」と駄々をこねたが、ココアが俺の道着を放さなかった。残念そうだが、次回を期待してもらおう。

 久しぶりの風呂に入る。ココアが風呂の入り方を知らなかったので、一緒に入った。

 身体と頭を洗ってあげて、湯船に浸かる。「暖かくて気持ちいいの!」と気に入ったようだ。リフレッシュは大事だね。

 身体を拭いてあげて、ココアがベッドに飛び込む。そのまま眠ってしまったようだ。魔物との戦いで疲れていたのだろう。俺も後を追うように、久しぶりの布団でゆっくり寝た。



 翌日の朝。宿に泊まった時の日課である稽古をして、ツィツィちゃんに濡れたタオルをもらい、風呂に入る。

 ツィツィちゃんは、最近稽古終わりにタオルを渡してくれる。素晴らしい気の利かせ方だ。アリサに少し教えてあげて欲しい。

 朝食を食べた後、3人でギルドへ向かった。受付に座っていたライラさんに声をかける。


「こんにちは。ディグさんいます?」


「リュウイチさん、お帰りなさい。こちらへどうぞ」


 ライラさんに先導され、ギルド長室に入る。書類を読んでいたディグさんが、俺達を見て書類を置き、ソファーに座る。促されて俺達も座った。


「依頼を達成してくれたようだな。しかも貴族の子供まで連れて帰ってくれるとは、感謝をしてもしきれない」


「ありがとうございます。消えた子供が女の子だって教えてもらえれば、別の準備もしていったんですけどね」


 御礼の言葉がこっ恥ずかしく、ちょっと皮肉めいたことを返してしまった。ディグさんが苦笑する。


「すまんな。一応機密情報扱いだから、教えることができなかった」


 こちらの冗談にきちんと返してくれる。真面目だなぁ。横のアリサは俺の腹をつねっているが。君ももうちょっとまじめにだねぇ……って痛い痛い!

 昨日帰ってきていたミリルちゃんから、ある程度の情報は入ってきたようだが、洞窟について報告する。

 洞窟で踏んだ魔法陣起動の仕掛け。迷宮に出てきた魔物の種類、レベル。最後に出てきた奴まで、覚えている限り詳細に報告する。

 洞窟は魔法ギルドの人が調査するまで立入禁止。迷宮は、挑戦するなら自己責任でどうぞ。といったことになるらしい。レベル帯も報告したし、大丈夫だよね?


「話はそれくらいかな。報酬は後で……。リュウイチ、その子は?」


 話を終えようとしていた時、ディグさんがココアに気づいた。いきなり見つめられて、ココアがちょっと怯えている。道着を掴んできた。


「あぁ、そのことなんですが」


 ディグさんに詳細を話す。迷宮内で発見・保護したこと。元の主人が亡くなったこと。名前をつけてそのまま保護していること。


「そうか。それならそいつはお前の奴隷ってことになる。一応再契約しとかないと、逃亡奴隷扱いになるからな。奴隷商館に連絡しておこうか?」


 そういうことになるのか。逃亡奴隷にさせるのも嫌だし再契約しよう。……ん? 道着を掴む力が強くなったな。

 ココアを見る。身体が小刻みに震えて、暗い表情をしている。……そういうことか。


「商館に向かうのではなく、契約ができる商人に来てもらうことはできませんか? その……」


 そう告げて、ココアの方を向く。ディグさんも釣られてココアを見る。


「なるほど。ランデル市はここより亜人の待遇が悪いからな。ひどく苛められていたのだろう」


 ディグさんの表情が悲しそうに歪む。よかった。この人も差別があったらどうしようと思った。


「わかった、ここに来てもらうよう手配しよう。優しそうな者のほうがいいかな」


「よろしくお願いします」


 暗い気持ちを吹き飛ばすように、ディグさんが笑う。おれもそれに便乗して、笑顔でお願いする。

 数十分ほどして、連絡を受けた商人が来てくれた。依頼通り、優しそうな顔の男だった。再契約の手続きをしてもらう。


「じゃあココア……ちゃん? おじさんにご主人様の名前を教えてくれるかな?」


「??」


 元の主人の名前を言うのか、俺の名前を言うのか、ココアが混乱して見上げてくる。笑顔で頷いてやる。


「えっと。リューチ……。違うの、リュィーチ。難しいの」


 俺の名前は子供には発音が難しいのか、一生懸命言おうとする。


「言いやすい言い方でいいよ」


 助け舟を出してやる。俺の顔を見て、嬉しそうに頷いた後勢い良く言う。


「リューなの! ご主人様は、リュー様なの!」


 ココアが名前を呼ぶと、商人が持っていた書類がぼんやりと光る。え、これも魔法なの!?

 書類から浮かび上がった光が、ココアの首輪に移動する。ぼんやりと光った首輪は、音もなく元の色へ戻っていった。


「これで再契約は終わりです。後はこの書類にサインをいただければ」


 後始末を終わらせて商人に銀貨を3枚渡し、契約は終了。商人は笑顔のまま帰っていった。

 書類を書いている間、ココアはしきりに「リュー様なの!」とはしゃぎまわっていた。なんだかメガネを掛けた海外の俳優みたいだな。マフラーとか巻かないよ?



 報告も終え、ギルドを出る前に報酬を貰った。なんと金貨10枚! 出る前に確認してなかったけど、これって結構大金なんじゃないの!?

 最後にディグさんから、貴重な情報を貰った。ミリルちゃんは実家に帰るため、今日の朝一で出発したらしい。戻ってきた話を聞いた子爵が、一刻もはやく戻るようにと伝えたそうだ。

 その護衛に、メイル伯爵の騎士が数人付いて行くらしい。よかった、伯爵に呼ばれたりしないで。

 また、街に謎の冒険者の噂が立っているらしい。なんでも『窮地に立たされた少女を救う白い脚の冒険者』だそうだ。……気のせい気のせい。

 因みに、ほぼ一言も放さなかったアリサだが、彼女は凄かった。終始ディグさんをキラキラした目で見つめていた。見られすぎたディグさんが、少しやりにくそうだった。Sクラス冒険者をたじろがせるとは……恐るべし、残念娘。











 ギルドを出てから、自由行動にした。アリサは剣を研いでもらいに武器屋へ向かった。武器を打ってもらったあの後も、何度と無く通っているらしい。

 俺は、ココアの新しい服を買いに向かった。フードがあるとはいえ、元のボロボロの服のままいさせるのも可愛そうだしね。

 服屋で、街歩き用の洋服を2着。戦う時や、街の外に出る用の服を2着買った。その場で着替えさせてやり、その他の買った物と着ていた服はふくろの中に入れる。

 時間が余っているので、二人で街をブラブラすることにした。逸れないように手をつないで歩く。元気いっぱいで歩いて、迷子になったら困るからね。

 と、ある屋台の前でココアの足が止まる。なんだ? と思って視線の方向を見る。焼き鳥の屋台だ。尻尾が軽く揺れている。食べたいのかな?


「食べるかい?」


「えぅ! ……お、美味しそうなの」


 申し訳なさそうに答えてくる。わがままだと思ったのか、耳がペタンと倒れている。

 苦笑して、その場で待たせる。店主に言って、20本ほど買って来た。多かったらアリサへのおみやげにしよう。

 戻ってくると、目をキラキラさせてこっちを見ている。無意識か、尻尾がはち切れんばかりに振られている。ほんと、ワンちゃんだな。

 辺りを見回すと、おあつらえ向きにベンチがあった。そこまで手を引いて行き、座って一緒に食べ始める。

 焼き鳥を渡すと、喜色満面といった表情になり、教えた『いただきます』をして食べ始める。


「美味しいかい?」


「わぉん! 美味しいの~」


 嬉しそうに返事を返しながら、焼き鳥を頬張る。無邪気に喜ぶ笑顔に癒やされるわぁ。

 ココアの頭を撫でながら、俺も焼き鳥を1本出して食べ始める。……なんか見られてる?

 視線を感じて頭をあげる。先にいるヨレヨレの服を着た、少年と少女の二人組がこっちを見ていた。こっちを、というか焼き鳥をだな。

 少年と目が合う。手でコッチへおいでと合図をしてあげる。

 少年は、自分の事だと思わなかったのか、周りをキョロキョロと見渡す。誰も居ないことに気づいたのか、自分を指さしている。ニッコリ笑って手招きしてあげる。

 突然の事に驚きながらも、少女の手を引いて怖ず怖ずと寄ってきた。

 焼き鳥を2本もたせた。ココアを俺の膝に載せ、空いたベンチに座らせてやる。


「い、いいの!?」


「一緒に食べよう」


 驚いて聞いてくる少年に返してあげる。破顔した少年は、少女に1本渡し、「ありがとう!」とお礼を言った後、ハグハグと食べ始める。少女も笑顔で「ありがとう」と言って、食べ始めた。



「美味しかった! ありがとう。リュー兄ぃ!!」


 食べ終わった少年 (ホン)がお礼を言ってきた。呼び方はココアのが伝染ったのかな?

 10本を食べ終わっていたココアと少女 (メイリ)は、年が近いのかキャッキャと遊んでいる。やっぱり子供は元気なのが一番……っていうか10本食べたの!? ココア。

 話を聞くと、ホンとメイリは両親がおらず、近くの孤児院で皆と住んでいるらしい。管理をしているのは、レーアさんという女性で、同じような境遇の子供が15人ほどいるらしい。

 そろそろ帰るということなので、追加で焼き鳥を20本ほど買って渡してあげる。目を白黒しているホンに「皆で食べな」と告げて別れる。後ろから元気な声で「「リュー兄ぃありがとう」」と聞こえてくる。こっ恥ずかしいけど手を振って返しておく。

 余計なことしたかなと少し思ったが、同年代の子どもと遊んで楽しそうだったココアを見ていると、これでよかったと思える。

 その後も、ココアといろいろなお店を回って遊んだ。肉屋の前で、生肉を見て尻尾を振っているココアには苦笑したが。

 日が傾いてきたので、宿に帰ってアリサと夕食を食べる。今日の事が楽しかったのか、ツィツィとアリサに手振り身振りで話している。所々恨めしそうな視線が飛んできたが、気のせいだろう。視線が2つあったのも気のせいに違いない。……っていうか、ココアさっき焼き鳥食べてたよね? まだ食べるの!?

 そして風呂に入って、眠りにつく。今日は1日、とてものんびりしていた。明日ものんびりできればいいのにな。



 因みに、ココアはアリサに連行されていった。「今日は私がモフモフするの!」と言って聞かなかった彼女に軍配があがったようだ。

 夜中にこっそり帰ってきたココアが「グリグリされ続けて、疲れちゃったの」と言っていた。明日からは拒否されるだろうな。アリサ、ドンマイ。

読んでいただき、ありがとうございます。

亜人の立場とかも書こうとしたんですが、どうしても長くなってしまうので先延ばししました。

かわいいは正義!ですよ……ね?(笑

次回更新は25日を予定しています。

よろしくお願いします。

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