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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
11/48

11-迷宮を抜けよう

 朝、朝だろう。洞窟内なので時間の進みがわからないが、腹の空き用様から朝だと思う。

 あたりを見回してみる。寝る前と何の変わりもない。気配察知にも引っかからなかったしな。

 膝の上ではワン娘が穏やかな寝息を立てている。このモフモフ感が……可愛いなぁ。

 横には毛布をかぶって寝ているアリサがいる。こいつも穏やかに寝ているな。

 起こさないように朝食の準備をする。薪を焚き、ふくろから出した狼を捌く。今日は鍋にしよう。

 そろそろ出来上がる時、匂いに釣られてか、ワン娘が起きてきた。


「わぅ……? おあおうなの」


 寝ぼけてるのか、あくびをしながら挨拶をしてくる。


「うん、おはよう。そこの桶で手と顔を洗ってきな。タオルも出してるからね」


 出しておいた桶を指して言ってやる。ふわ~いと言いながら、尻尾をふりふり向かっていく。うん、効果音はテコテコだな。

 最後の味見をしていると、アリサが起き上がってくる。


「ん……。あれ!? あの娘は!?」


 お、今日は寝ぼけてないようだ。姿の見えないワン娘を気にしている。


「おはよう。ワン娘ならそこの桶で手と顔を洗ってるよ。アリサも洗っておいで、そろそろご飯だ」


「は~い、ありがと」


 落ち着いたのか、桶に向かって歩いていく。姉妹みたいだな、あの二人。



「さて、これからだけど。今日中にはこの迷宮を抜けるよ」


 朝食が終わって、まったりしている所で予定を告げる。

 ボケっとしていたアリサの顔が引き締まっていく。ワン娘はちょっと怖がっているようだ。

 あ、因みにワン娘の名前は俺の発案したココアに決まった。本人が喜んでいたので、考えてよかった。アリサは「ロデット三世……」と残念そうだった。スーデルじゃなかったか?

 戦闘も、昨日と変わらずにやっていく予定だ。『診断』で調べたところ、ココアのレベルは1。スキルや賞罰は無く、職業が奴隷となっていた。

 戦闘時の注意の後と、投げる用の石と小型のナイフ。それにサンダルとフードを渡す。

 出発前に迷宮のマップを確認しておく。昨日は俺達を除いて7人いたのが、今日は3人になっている。ココアは俺達と合流したし、こいつの主人は昨日亡くなってしまった。他に2人やられたか。

 アリサは後ろを警戒しながら、ココアは俺の道着を掴んで付いてくる。

 気を引き締めていこう。



 区画を5つ抜けた所で、一旦休憩にした。この次の区画には3人組がいるわけだが、合流する前にアリサとココアの体力を回復するためだ。どんなヤツかわからないしね。

 休憩すると告げ、二人に水筒と干し肉を渡す。アリサは少しつかれている程度だが、ココアはだいぶ疲れているようだ。初めての戦闘だろうしな。

 ここまでに、30体以上の魔物を討伐してきた。ココアはレベルが12に、アリサはレベルが15になったらしい。ココアも凄いが、アリサのレベルの上がり具合も凄い。昨日の2倍以上だ。

 やはり高レベルの相手と戦うのは、効率がいいみたいだ。

 アリサは確認していないが、ココアはスキルに『投擲』と『解体』がついていた。投擲は石を投げさせたからだろう。解体は魔物の解体を手伝わせたからだろうな。

 一応の確認を終えて、俺も胡座をかいて座る。膝の上にココアが乗って、体重を預けてくる。頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めている。くぅっ、可愛いなぁ。

 ココアを撫でたいのか、アリサが手をワキワキさせながらこっちを見つめている。その手の動きはやめなさい。はしたない。



 ココアが元気になった所で、通路を進む。この先には3人組がいるはずだ。安全なやつだったらいいが……。

 そろそろ次の区画に入る時、気配察知に魔物が引っかかった。区画の中だ! 急いで進み、区画に入る。そこには、別の通路から出てきた魔物に襲われている3人組がいた。


「くっ……お逃げ下さい! ミリル様!!」


 骸骨の魔物と斬り合っている一人の剣士が叫ぶ。奥には少女を守っている剣士がいる。虫の魔物を倒したばかりのようだ。その影には、腰を抜かしてしまったのだろう、汚れているが高そうな服を着た少女が座っている。

 姿を確認してすぐ走りだす。『瞬動』も使って一番の速さで駆ける。


「がっ……ふ」


 到着する寸前、魔物の手が剣士を貫く。胸を、心臓を貫かれて剣士から力が抜ける。

 俺は悔しさで唇を噛み締めながら、魔物の後ろに回る。飛び上がり、かかと落としを決める。真っ二つに裂かれて、消えていく骸骨。

 ……間に合わなかった。


「リュウイチ!? どうした……。大変!」


 ようやく追いついたアリサ達が剣士を見て駆けてくる。そうか、回復か!

 アリサが剣士の横に座り、詠唱を唱えた。剣士の身体が光りに包まれる。……しかし、そのまま光が消えていく。


「なんで!? もう一回!!」


 もう一度アリサが詠唱する。しかし結果は同じ。身体が光りに包まれるが、何も起こらず光が消えていく。


「ダメ……。もう事切れてる。本人の魔力が、呼び水が足りない……」


 アリサが頭を横に振る。それを沈痛な面持ちで見つめる、もう一人の剣士と少女。魔法にも、できることとできないことがある、か。



「このたびは助けていただいて、ありがとうございます」


 亡くなった剣士の遺体から遺品を取り、埋葬が終わってから、少女が話しかけてきた。


「いえ、彼が頑張っていてくれたからこそです」


「ありがとう。あいつもそう言っていただけて、浮かばれると思います」


 俺の言葉に、もう一人の剣士が答える。そうだったら、いいな。


「私の名前はミリル・アーネス。アーネス子爵の娘です」


「私は護衛のマイト。お屋敷付の冒険者です」


「俺はリュウイチと言います。ザンドウの街を拠点とする冒険者です」


 少女はやはり貴族の娘か。剣士さんはなんと冒険者だったのか。


「えっと、私は……」


「あら? 貴女はサーウェル男爵の所の、アーレスさんじゃありません?」


 話しだしたアリサを遮るように、ミリルちゃんが話しだす。ん、貴族をちゃん呼びはまずいか?


「!! はい、そうですミリル様。」


「やっぱり! 先日婚姻を蹴って出奔されたという「ミリル様! その事は!!」……そうね、失礼でした。」


 ミリルちゃんの言葉を遮るアリサ。今なんて? 婚姻を蹴った?

 それがあってから、皆黙りこくってしまった。居心地が悪い……。


「え~と、ミリル様は先日の事件に巻き込まれたということで間違いないですか?冒険者ギルドのギルド長から、ザンドウ街へ向かう途中に消えてしまわれた、と伺ったのですが」


「えぇ、ランデル市からザンドウ街へ向かっている途中に、謎の魔法陣が浮かび上がって。気づいたらここに」


 俺が場の空気を変えようと話し出したのに、乗って来てくれる。やっぱりこの子か。ただ消えた貴族の子供が女の子だとは思わなかった。


「では、そろそろここを脱出しましょう。」


「!? できるのですか?」


 俺の何の気なしに発した言葉に食いついてくる。ちょっと怖い。

 そうか、護衛で雇われた冒険者が対処できない魔物がいる迷宮。出られないかも、と思っても不思議じゃない。


「えぇ、私達が道を開きます。着いて来て下さい」


 そう言い、立ち上がる。っていうか、ぶっちゃけここから2つ先の区画が出口につながる区画なんだけど。まぁ、道がわからないと不安になるよね。

 そうして2人だったのが、5人になって道を進んでいく。ここから先は魔物もほとんどいなかったはずだし、なんとかなるだろう。











「なんであんな奴がいるんだ?」


 3人と合流したところから2つ先の区画。ここを抜ければ出口まで通路を進むだけなんだけど……。


『ガルルルルル』


 そこには一匹の『黒狼ダーク・ファング』という魔物がいた。

 そう、1匹なんだ。ただ、レベルが60というだけだ。うん、それだけ。

 朝確認した時には、こんなに高レベルの奴いなかったんだけどなぁ。どうしようか。


「な……あ……」


「…………」


 マイトさんとミリルちゃんがそれぞれ魔物を見て怯えている。まぁ、あんなに大きくて黒々とした、2足歩行の狼を見たらなぁ。


(ちょっと、どうするの? アナタの戦いを見せるの?)


 アリサが耳打ちしてくる。ここまでに出てきた魔物は、皆に見えない所で『魔力剣』を使って処分していた。う~ん、どうするかなぁ。


(なんというか、アリサの光魔法で皆の目を一瞬でも見えなくできないか?)


(私の!? う~ん、できるといえばできるけど……。その後はどうするの?)


(光に怯えて逃げたとか。適当にでっち上げるよ)


(信じるかしら……。まぁいいけど)


 話が決まった。アリサが光魔法で目隠しをしている間に俺が倒して、すかさず袋に入れる。うん、シンプルイズベストだ。

 とと、このままだと突然アリサが光魔法をぶっ放したことになる。説明しとかないと。


「ミリル様、魔物がこちらに来ないよう、アリ……アーレスに光の結界を張らせます。」


「結界!? アーレスさん、そんなことまで出来るのですか?」


「え…えぇ、まぁ」


 驚いたようにアリサを見つめるミリルちゃん。まぁ、前のアリサを知っていればなぁ


(ちょっと、結界って何よ?)


(いいからいいから、理由付けだって。)


 不満そうなアリサに魔法を打つよう伝える。納得しきれない様子だったが、詠唱を開始する。そして詠唱が完了した瞬間、辺りが眩い光りに包まれた。


「きゃっ!」


「まぶしっ!」


「きゅぅ!」


 三者三様、計画を知らない3人が、突然の眩しさに声を上げる。

 その間に、俺は『瞬動』で区画に入る。光の中から現れた俺に、魔物が動揺している。悪いけど、時間をかけてる暇はないんだよね。

 無詠唱で『魔力剣』を2本浮かべる。突然浮かび上がった剣に、目を取られた魔物の懐に入り込む。そのまま片足を払う。大きすぎて両方は払えないんだよね。

 体勢が崩れたところに膝蹴りを打ち込み、でかい図体を浮かび上がらせる。地面に倒しちゃあ音でバレるしね。

 そのまま魔物の前後に設置しておいた剣を発射する。後ろから首を、前から胴体を切る。魔物が3つに分断された。

 首を刈った剣を返し、そのまま胴体を切る。魔石が出てきた。すかさず魔石を取り、のこりを袋に急いで回収していく。空中に浮かんでる間に取るのって難しい!

 終わったら剣を消し、光が収まる前にもとの位置に戻る。戻ったと同時に光が収束してきた。あっぶね~、ギリギリじゃないですか。



 光が収まって、皆が区画を見る。そこには先ほどの魔物はいない。そりゃそうだ、頑張ったもの。


「何が……おや、魔物がいない」


 一番先に気づいたのは冒険者マイトだった。さすが冒険者、敵がどこにいるか把握に務めるとは。


「えー、俺見てたんですけど。さっきの光に驚いた魔物が、向こうの通路に逃げて行きましたよ?」


 そう言って、出口と違う方向の通路を指さす。


「あの光の中で見えたのですか!?」


 マイトさんにビックリされる。心底感心している様子だ。ちょ……罪悪感が。

 ミリルちゃんは驚いた表情をしていたが、俺と目が合うと何も言わずニッコリ笑った。出口前の障害が消えて嬉しいんだろうな。この子は可愛いというより綺麗っていう言葉が似合うな。

 おっと、こうしてる場合じゃない。出口だ出口。


「ありがとうございます。さ、向かいましょう。そろそろ出口です」


 戦闘を歩いて出口へ誘導する。

 区画から通路に入ると、先に光が見えた。出口だ!

 慎重に出口を出ると、そこは森の中だった。今度は森から脱出か……。そう思っていると、それまでおとなしかったココアが先導で歩き出した。


「コッチなの! 道があるの!!」


 そう言って先を歩いてピョンピョン跳ねている。元気っ子にクラスチェンジか!?

 ココアの後ろを歩いて行くと、森を抜け、街道へ出た。なんか見覚えがあるな?


「ここ! 私達が入った洞窟の反対側じゃない!」


 気づいたアリサが叫ぶ。あぁ、そういえばこんな景色だった。だとするとさっきの森は、俺達が野営したとこの近くか? 灯台下暗し……使い方合ってるっけ?

 街道に出たところで、マイトが持っている通信球に反応があった。

 この球は、信号がわかっている相手先と連絡が取れるものらしい。元の世界で言う携帯か? 電話しかできないタイプのね。

 迷宮にいたときはなんらかの妨害があったのか、全く使えなかったのだが、出たら使えるようになってたらしい。壊れてなくてよかったよね。

 なんでも、早馬が来てくれるらしい。しかも付近で捜索をしていた、メイル伯爵の騎士達も迎えに来てくれるとのこと。

 俺達3人は早馬を待つことにした。ミリルちゃん達は騎士に乗せてもらい、先にザンドウ街へ向かうことになった。

 2時間ほど休憩していると、騎乗した騎士たちが到着して、ミリルちゃん達を乗せていった。戻ったら伯爵邸へ来てくれ、との言葉を貰った。

 面倒くさいなぁ、どうしよう。全部アリサの功績にすればいいか。

 騎士たちが出発する前に、ミリルちゃんが近寄ってきた。なんだろう?


「最後の魔物との戦い、素晴らしかったです。私のお屋敷に来た時には、是非お話を聞かせてくださいね」


 そう、耳元で囁いていった。

 驚いてミリルちゃんの顔を見る。ニッコリと笑って騎士の後ろに乗る。見られてたじゃないですか、ヤダー。

 唖然としている俺に、もう一度笑顔を向けて、ミリルちゃんを乗せた騎士は走り去っていった。

 分かっててあの茶番に乗っかっていた? ミリルちゃん、食えないなぁ。

 してやられた感を残しつつ、俺達は日が傾く前に到着した早馬に乗って、ザンドウへ向かって走りだした。

読んでいただき、有難うございます。

ワン娘の名前大決定です。

だんだんアリサも主人公の行動に慣れてきましたね。


次回更新は23日予定です

よろしくお願いします

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