01-目覚めに見るのは美女でいいと思うじゃない?
12月21日誤字等修正
「…………どこだ、ここ?」
俺はそう一人でつぶやいてしまった。なにせ俺の周りに見えるのは白。目の前一面の白色である。上下左右どこを見ても白一色。
正にここは誰、俺は何処状態なのだ。
「んぉ~……。どうしよ」
ダメだ、考えがまとまらない。とりあえずこういう時は自己確認だな。
名前は佐伯龍一、23才男。身長180、体重72、黒髪、中肉中背。この4月に警察に就職が決まり、1ヶ月の軟禁(警察学校)生活を過ごした。地獄だったなぁ……。
そしてようやく外泊の許可が鬼教官から降り、大学時代に付き合ってた里美とのデートに向かっていた。
ふう、落ち着いてきた……。
「……って違ぇ! デートに遅れちまう!!」
思わず叫んでしまったものの、周りを見てテンションが下がる。
「…………どこだ、ここ?」
最初に戻る。一人ループ!? これほど悲しいことはない……。
ん~直前のことを思い返してみよう。目をつぶって座ってじっくり考えてみることにした。
俺は里美とのデートに向かっていて……?
「少しは落ち着いたかね?」
考え事をしている俺の頭に響く声。
なんだ? 今直接頭に響いたような…。
訝しんで目を開けた俺の目に見えたのは、畳8畳くらいの部屋にちゃぶ台が置いてあるという生活感あふれるものだった。畳のヘリには本棚まで置いてあるし…。
もう一度言おうか? どこだここ?
「何を考えておるかしらんが、話をしてる人を見るもんじゃよ」
今度は直接ではなく、ちゃぶ台が置いてあった場所の方から声が聞こえた。そちらを向いてみると、そこには白衣? を着た老人が立っていた。
「あ~……美女とチェンジで」
「残念ながらここにおるのはわし一人だけでの。無理じゃ」
やっぱりか。どうせ白衣を着るなら身長155cmくらいのスレンダーな女性をだねぇ。
「日本ではそれをロリコンというのじゃろ?」
「考えてることを読むな!!」
「ほっほっほ」
考えが読まれているとかゾッとしねぇぞ?
「落ち着いたんであればわしの話を聞いてもらえんか?」
「今北産業」
「お主……、いい度胸しておるの」
酒を飲み過ぎて、朝起きたら知らない女性とベッドにいた事がある俺にとっては怖いものなんてあんまりない! いや、鬼教官は怖いけどな。
「まぁよいわ。単刀直入に言おう、お主は死んだ」
……
………
…………
「ッハ?」
「死因は交通事故じゃ。しかも『子猫を助けに』とかいうありきたりな理由で。プークスクス」
……とりあえず目についた本を投げつける。ニヤニヤ笑いながらサッと避けるジジィ。初めて会う人をここまで馬鹿にするとか。こいつ、一辺殴ってやろうか。
「覚えておらんか?」
「まぁ、言われて思い出したよ。確かに轢かれそうな子猫を助けたな」
こいつの言う事は間違っていない。車の通行の少ない住宅街を走っていた俺は、車に轢かれそうになってる子猫を助けた。
俺の足の速さと、車のスピードを考えれば全然間に合うはず……だった。
運が悪いのは車の運転手が居眠りをしていたこと。さらに運転手がちょうど船をこいだことで、アクセルに力が入り車の速度が上がったことだろう。
俺の思惑は外れ、なんとか子猫を道路から逃したかわりに俺が轢かれてしまった……ということだ。
「それはわかったけど、なんで俺は転生してないんだ? 輪廻なんたらとかあんだろ? 」
「うむ、それなんじゃが……」
さっきまでの俺を馬鹿にした態度から一転。言いにくそうにモジモジしてる老人。気持ち悪っ。
「……のじゃ」
「は?」
「だから、……が……のじゃ」
「聞こえねえって!」
「だから、天使が間違えてお前の魂を連れてきてしまったのじゃ!!」
…………
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
間違えたって何? 俺は死んでなかったってこと? 『間違えられて君を殺しちゃったテヘッ』ってこと!?
「まぁ、そのとおりじゃ。本来ならばお主が助けた猫は、お主が通りかかる前に車に轢かれて、助けようとするお主の応急処置も間に合わずに息を引き取っていたはずなのじゃ」
……それもそれで物哀しいな。つーか普通に考えを読むな。
「そしてお主はデートに遅れて彼女に散々怒られていたはずだったのじゃ」
……よかった、その未来は当たらなくて。怒こったら怖いからな、里美。
「八犬伝かの?」
「おいばか! それが一番怒られるんだ、やめろ!」
ほんとに怖いんだって。なにせ俺はそれでホテルの15階から落とされかけたからな。
「つまり何? 間違えで俺は殺されて、間違えた奴の上司であるあんたが謝りに来たってこと?」
「そのとおりじゃ。飲み込みが早くて助かるのう」
「つうか今更だけど。あんた誰?」
「ここまで言ってわからんかの? お主の世界で言うところの神様じゃ」
ふーん、神様ってやっぱりジジィなんだなぁ。
「いや、謝るとかいいから。戻せよ」
「それは無理じゃ」
「即答!?」
あまりの返答の速さにイラッときたので、そこら辺の本をもう一度投げつけてみる。
『パァン!』
本がジジィの体に当たる瞬間に光と少量の音を放って消えた。バリヤーとか……高性能じゃねぇか。しかもまたニヤニヤとこっちを見ている……。このジジィムカつく……。
「じゃがしかしワ『パァン!』ない。元のせ『パァン!』いに戻すことはで『パァン!』が、代わりにちが『パァン!』くってやることは『パァン!』えぇい、いい加減にせんか!!」
あまりの俺のしつこさに怒髪天のジジィ。ざまあみろ。
「まぁいいや、んで何だって?」
「お主のぉ……」
ジジィの話を要約すると、元には戻れないが別の世界へ転生させてくれるらしい。しかもいくらかのサービス付きで。
「ふむ・・・。なんていうテンプレ?」
「何を言っておるかわからんが、それで良ければ希望を言うがいい。嫌なら100年の地獄での生活後元の世界に生まれ変わるがいい」
間違いで殺されてなんで地獄に行くの……? 俺
「理由はどうあれ、親より先に死ぬという最大の罪じゃろうが。わしはどっちでも良い。早く決めるのじゃ」
ふむ……、一理ある……。
「いや、納得行かなくね!?」
思わず叫んでしまった。
さて、どうしたものか。100年も地獄で生活するというのはあまりにもきつそうだ。だけど別の世界というのもどういう世界なのか全くわからない。
「因みにお主が行く予定の世界は、一言で言うと『剣と魔法のファンタジー』「行く!!」お……おう」
ゲームとかの世界に俺が入れるなんて凄いじゃないか!
俺のあまりの食い付きっぷりにジジィが引いてるが、そんなことはどうでもいい。俺、in・The・ファンタジー!!
「まぁよい。それで? その世界に行くにあたって欲しいものを言うが良い。できる限り保証しよう」
なんだかんだ言っても下手に出てくるジジィ。やっぱり間違いで死んでしまったのを気にしてるのか? この際だ、欲しいものをかたっぱしから言っておこう。
「そうだなぁ……まずはドラゴンの攻撃を受けまくっても余裕の頑丈な身体」
「ほれ」
ジジィがどこからか取り出した杖をかざすと、なんだか身体の中から沸き上がってくる力を感じた。お手軽ぅ。
「そんで……。あ、魔法とかあんの?」
「モチロンじゃ。魔法そのものは多すぎてめんどくさ……無理じゃが、魔力を上げておいてやろう」
更に杖をもう一振り。氷のような冷たさを身体の中に感じる。魔力とやらが上がったのだろう。つうか今こいつ面倒臭がらなかったか?
「次は……物が無限に入る袋!」
「まぁ、RPGにはつきものじゃの」
俺の目の前に白色のふくろが現れる。
「後は……金かな。使えきれないくらいの」
「ほう、お主も抜け目ないのう」
そういってニヤリと口を歪ませるジジィ。こいつ、無一文で異世界に放り出そうとしてたな。
「その『ふくろ』の中に入れておいたぞい」
「んで、次はなんでも鑑定できる魔法」
「ほう……。なんでもとな?」
「人、物、モンスター、なんでもすぐに解る魔法が欲しい」
危険なものから身を守るためにもな。毒をもってる草とか食べたらどうすんだ。
「ほれ、これでいいか」
頭のなかに『診断』という言葉が響いた。早速目の前のジジィに使ってみる。
名前:不明
職業:神様
レベル:不明
ステータス異常:脳
固有能力:ナイショ♪
あっ……、脳が……。ってか何もわかんねぇ!! 神様だから詳細は不明ってか。
つーかなんで最後だけ♪ 付きだよ? お茶目みせてんじゃねぇぞ!!
「後は……。まぁ、これくらいでいいかなぁ」
「ほう、意外と少ないのう」
「必要になったら覚えていくだろうしな」
「ふむ」
診断の魔法もあるからわからないことも確認しやすいし。郷に入っては郷に従えの精神でいけばいいかな。
「それでは、新しい世界に送るぞい」
「あぁ、一思いにやってくれ」
「……龍一よ。此度の部下の失態、本当に申し訳ない。お主の家族や友人、恋人に別れの一言も言わせてやれぬわしを恨んでも良い」
いきなり殊勝な態度になったなこいつ……。まぁこんなちゃらんぽらんといえども神様なんだ、そういう分別はついててあたりまえか。
「願わくば、次の世界での生活を謳歌してくれ」
「いいよ、そんなの。仕方のないことだろう。っていうかイキナリそんな態度をされると気持ち悪くて気持ちわ「さらばじゃ~」って、てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
台詞の途中で足元の畳が抜け、真っ逆さまに落ちていく俺。
あのやろう、これを狙ってたな!! 最後の最後までいけすかねぇ奴だ!
「最後に2つだけサービスじゃ。スキルをおb・・・」
なんか言っていたが、声が小さくて聞こえないまま俺の意識もブラックアウトしていった。
読んでいただきありがとうございます