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タマ

 あれから何度断っても、ずっと土下座のまま此処にいさせてほしいと懇願される。結局、涼が条件付きで居候させる事に決まった。


 ―――――此処にいたいなら、私の言う事は絶対―――――

 他にも色々決めたが、多すぎて途中で涼もわからなくなってしまった。

 しかし、涼の言葉に嬉しそうに頷く猫人間が可愛く思わず、きゅんとなってしまう。そんな事も知らない猫人間は、ヘラヘラ笑う。


「名前、何?」

「私の名前・・・ありません」

「記憶喪失じゃないんでしょ?名前ぐらい教えなさいよ」


 断固名乗るのを拒否する。

 猫人間と呼ぶのは少々、どうかと思うが名前が無ければ面倒だ。絶対名乗らない為、涼は仕方なく仮の名前を付けてあげる。


「タマ」

「えっ?」

「あんたの名前は今日からタマ」


 文句は言わせないと、目の前で指を名付けたばかりのタマに向ける。ニャーニャー言っていたからタマと、安易な名前を付けてしまったが一時的な事。直ぐに出て行くと思い、涼はタマと呼ぶ事にした。


「涼さん、今日から宜しくお願いします」

「ん?私、名前教えたっけ」

「え、あ、その・・・あっ!こ、これです。郵便の名前を見て」


 タマは机にあった涼の郵便物から名前を知ったと、そう慌てた様子で答える。とっても慌てた様子に不審がる事もない涼に、タマはほっとした。涼は長時間外に居た為、足が濡れてしまいお風呂に入ると脱衣所に行ってしまった。その間に部屋の掃除をタマは任される。


「タマ、風邪引くからお風呂入って」

「ありがとうございます」


 タマは直ぐにお風呂に入る。

 涼は色々あり過ぎた今日の出来事を振り返り、今更になって馬鹿な行動を取ってしまったと反省した。お酒を飲み、待ってもタマは出て来ないのでベットに横になる。疲れのせいで酒が速く回り、うとうとし始めて来る。我慢してタマを待つが長湯だろうか、風呂から出て来る様子は感じない。涼の瞼が完全に落ち、寝息を立てぐっすりし始めた頃タマは出て来る。


「涼さん」


 雫をポタポタ垂らして涼の顔を覗きこむタマ。

 その雫が涼の顔に垂れてしまい、涼は目が覚める。


「タマ・・・髪ちゃんと乾かさないと」

「起こしてしまってすみません」

「いいから早く頭拭いて・・・」


 寝ぼけ眼でタオルを取り出し、タマの頭を拭いてあげようと腕を掴んだ瞬間。


「冷たっ!タマ、何でこんなに冷たいの?」

「勝手にタオル使っていいかわからず、体を自然乾燥したら」

「馬鹿!こっち来て」

「ちょ、涼さん待って」


 完全に体が冷たいタマをお風呂場に連行して、そのまま一気に浴槽に投げた。追い炊き機能で温度を高めにし、タマの掌を揉みほぐす。


「涼さん服着たままです」

「煩い、服なんて後で脱げばいい。今は体温める事が大事」

「はい・・・ありがとうございます」


 熱くなり始めた頃に追い炊き機能を消して、涼は風呂場から出る。


「今度はタオルで拭く事。新しい服は用意してあげるから、濡れた服着ないでよ」

「すみません」

「昼間は暑いとはいえ夜は涼しくなってきてるの、風邪を引くんだから」


 涼は文句を言うと、今度は本当にその場から居なくなる。タマは涼に揉んでもらった掌を見つめ、嬉しそうに握った。


「涼さん、お風呂出ました」


 涼に言われた通り、タオルを使い体が温まった状態でタマは出て来る。涼に話し掛けても返事がない、不思議に思ったタマは顔を覗きこむ。すると気持ち良さそうに眠っていた。テーブルを見れば、軽い食事が用意されてメモに食べる様にと書いてある。


「警戒心無さすぎ」


 おにぎりを一口食べ、涼の方をみてくすっと笑う。


 ***


 前日の雨と違い今朝は晴れていい天気、涼は何か重い感覚に目が覚める。


「うー、重い・・・苦しい」


 金縛りにでもあったかと冷や汗が一瞬したが、そうではない事に気付く。タマが丸まって涼のお腹の上に、半分乗っていたのだ。目覚ましを確認すれば、仕事で起きる時間より一時間早い。


「こいつ何で此処で寝てるのよ」


 客用布団を敷いてあげたはずだと、敷いたであろう場所を見ると綺麗に畳まれ移動されていた。

(こいつ、人の腹の上で猫みたいに丸まって)


「ちょっと!勝手に許可なく人の上に乗らないで」

「ニャー?あ、涼さんおはよう」

「こら、寝ぼけたふりして人の胸触るな」


 髪の毛を抜いてやろうとすれば、まるで猫みたいに身軽な行動で逃げてしまう。うーんと欠伸をしながら背伸びをする様は、猫そのものだ。前世は猫だったのだろうか?

 そんな考えをしてると、タマがお腹空いたと言い始める。


「なんか、昨日と違って図々しくなってない?」

「気のせいです涼さん」


 何か騙されたような気がしてならないのは、絶対気のせいではないと思う涼。何か作って欲しいと強請るタマに、仕方なく朝早くから朝食を作る。冷蔵庫を覗いたが何もない事に気付き、面倒そうに財布を持って玄関の方に向かう。


「涼さん?」

「材料なかったからコンビニ行ってくる」

「私も一緒に行きますよ、待って下さい」

「その格好で行くつもりなの?」


 タマが着ている服は、入院患者が着ているようなパジャマ。涼はスエットだから、特別気にもならないがタマはコンビニまで行くには恥ずかしい格好だ。昨日の服は洗濯機に出したまま、まだ洗っていないから着替えられない。


「気にしないので行きましょう」

「こっちが気にする恥ずかしいじゃない」

「そうですか?じゃあ、病院抜け出した患者という設定で」

「ばっかじゃないの、タマは大人しくお留守番してなさい」


 バンッと荒々しく扉を閉めてコンビニに行ってしまった。

 その後、直ぐにドアが控えめにコンコンと叩かれ、タマは静かに開ける。


「お前か」

「申し訳ありません。社長のサインがどうしても必要だったので」


 深々に頭を下げる男性は、高そうなブランドスーツに眼鏡が良く似合う。


「社長一週間ですよ。もし、それまでに何も出来なければ」

「わかってる。約束は守る」


 それ以上は何も言わず、男性は去っていく。


「一週間か・・・」


 溜息を吐きタマはただ、目を瞑る。暫くすれば直ぐ近くにあるコンビニから、興奮して帰って来る涼がタマに報告する。


「さっきねコンビニ行く前、こーんな大きな車があったの」

「そんなに大きかったんですか?」

「うん!ドラマとかだと、社長や御曹司?お金持ちが乗るような車」

「そうですか、良かったですね見れて」


 初めて間近で見た車だったので、凄く興奮してしまったらしい。少し子供の様な涼に、タマは頭をポリポリ掻いて何か言いたそうにしている。


「タマ頭痒いの?」

「いえ涼さんはその、大きな車に乗りたいのかなって」

「そうねぇ、一度は乗ってみたいけど」

「本当ですか!?」


 急に大声を出すタマに、涼は驚く。すみませんと謝りながら、何故か喜ぶタマが不思議だった。


「じゃ、今度」

「でもさぁ、ただの憧れだけで現実は無理よね」

「そ、そうなんですか?」

「もし素敵なお金持ちが現れても、付き合ったら疲れちゃうし」


 上流階級の常識など、そんな一般人には関係のない事は面倒だと話す涼。何か言いたそうにしていたタマは、黙って聞いてるだけで何も話そうとはしなかった。落ち込んでるように見えるタマに、涼はお腹が空いて元気がないと思った。コンビニで買ってきた物を組み合わせて、少し張り切った朝食を作る。


「じゃあ、私は会社に行くから夜七時に駅前集合ね」

「何かあるのですか?」

「夜には服乾いてるから、新しい服買いに行こう。少しはある方がいいでしょ」

「わかりました。では、駅前七時に」


 涼はタマにいってきますと声を掛け、タマはいってらっしゃいと会話は終了した。

あと少しお付き合いお願いします。

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