出会い
主人公は世間一般では男の名前で女です。そして、時々少し言葉使いが汚い部分があるかと思いますので、嫌いな方は直ぐ戻りましょう。
ざーざー雨が降る中、ゴミ置き場に何か置いてあるのをOLで二十四才の山城涼は見つける。ゴミ出しの日じゃないのに、ゴミが置いてあるので又、大家に勘違いされ怒られそうで気分が一気に落ちる。ぶつぶつ文句をいい、通り過ぎようとした。
「うぅ・・」
「人の声?」
ゴミ置き場から人の声がするのを、雨でかき消される小さな声だったが涼には確かに聞こえた。
「何かの事件に巻き込まれるのは嫌だからね」
そう言いながらも気になって、何が置いてあるのか興味本位で覗き込む。そこには、人が余裕で入れる大きな段ボールに、中にはお決まりの拾って下さいと貼ってある張り紙に子猫ではない。大きな猫のふりをした人間が、丸まっていたのだ。
(何で人がゴミ置き場の更に段ボールの中で、丸まって雨の中いるの!?)
あまりに衝撃的だったので動けないでいると、その大きな猫のふりをした人間は涼に気付き目が合うと、ニャーニャー言い始める。流石にやばい人かもと思い、その場から離れ時計を見れば遅刻決定の時間になっていた。電車に乗り遅れ間に合わないと気付き、高いがタクシーならギリギリ間に合うと会社までタクシーに乗った。
しかしお金かけてタクシーで行ったが、ベテランどころか土地勘無しの新人に振り回され遅刻では無く大大、だーい遅刻。道を何回も間違え、お金は通常の三倍取られ上司には言い訳も通じず、たっぷり叱られ仕事を沢山貰う事になった。絶対タクシー会社に苦情言ってお金返してもらうと意気込み、必死に怒りに任せ仕事をこなす。
「あの馬鹿上司、遅刻した事を良い事に自分の仕事まで押し付けて」
山積みに仕事を押し付けられ、上司には難しく感じる内容でも涼には簡単に終わった。遅刻した事は反省だが、調子に乗って自分の仕事まで押し付けてるのは見ればわかる。上司の分だけ終わらない振りをし、ギリギリ提出な意地悪な考えをする。そして今日は散々な目にあったと、家に帰って一人寂しくビールを飲もうと帰る。
***
「あっ、やっと帰ってきたわね。山城さん困るのよ指定日以外のゴミ出しは」
朝みた段ボールでは無く、誰かがその後捨てた生ゴミを持って涼に怒ってるのは、涼が借りているアパートの大家さん。何がそんなに気に知らないのか、何でもかんでも涼のせいにする。
「大家さん、何回も言いますけど私じゃないです」
「あなた意外誰がいるの!」
「沢山いますけど・・・」
涼が借りているアパートの大家は、若い男性が大好き。そして、此処のアパートに住んでいる住人全員は絶対に若い男しかいない。涼は他の住人より家賃が高めだと知っていても、会社からこれ以上条件の合う物件が無い為我慢している。不満に思っている大家だが元々、涼の名前を間違えて男と勘違いして契約をしてしまう。後から無理でしたと、勝手な契約破棄が出来ないと知り、色々嫌がらせをしてくる。
「とにかく、早く片付けてちょうだい」
「だから私じゃないです」
「言い訳はいらない。ほら、早く持って帰って」
どうして他人の生ゴミを自分が持ち帰らないといけないのか、あまりに腹が立って大家の前に捨ててやろうと思った。言い訳に追い出されても困るので、持ち帰るのも嫌なため渋々コンビニで捨てる事にした。店員に嫌な目で見られながら、必要のないお菓子を買って帰る。
「まったく、雨の中待ち伏せする根性あるなら捨てた犯人捜せよ」
ずっと雨の中歩いていた為に、足はびしょびしょ。必要のないお菓子を買って、無駄な出費をしてしまう苛立ちに涼は本気で引越しを考える。ムカムカしながらやっとの思いで家の前まで辿り着くと、ガサガサ段ボールを持ってゴミ置き場の所にいる男を見つける。
(なにあれ不審者?)
なるべく目を合わせない様に、早々と家に入ろうとするとニャーニャー鳴き出す。朝、段ボールの中に丸まっていた男と気付く。目が合って更にニャーニャー鳴く真似をし、拾って下さいの張り紙を強調するかのように指を差す。
「どうしても拾って欲しいなら男好きの大家に言う事ね」
動物なら可哀そうねと、一時的に家に持って帰ったかもしれないが相手は人間の男だ。知らない男を拾い、家に連れてくなど出来るわけがない。完全に無視と決め込み、そのまま家に入ろうとするが離れれば、離れるほど煩く鳴く真似。一瞬心が揺らぐが、そんな事では駄目と強く自分を叱り走って家に入った。しかし、どうしても雨に濡れた男の悲しげな瞳が頭から離れなくて、迷ってしまう。
「もう、どうにでもなれ!」
直ぐに家から出て、大きな猫の元へ行く。
「そんな目したら私の良心が痛むじゃない」
「ニャー」
「ほら、早く立って大家に見られたら煩いんだから」
「ニャ?」
猫語を話してるつもりなのか、ニャーニャーしか言わない事に少々苛立ちが出る。言葉使いが少しだけ悪い涼は、早くしろと男の腕を掴み段ボールを畳ませ、いつもゴミを勝手に捨てる奴の玄関前に置く。
「ニャー・・・」
「いいの、生ゴミのお返しよ」
猫の真似をしてる男は、駄目だよと言ってるかのように涼の腕を掴む。
「何よ、生ゴミの片付けしたんだから」
「ニャニャー」
「それでも駄目って言いたいわけ?」
「ニャ」
何となく不公平すぎると思う。だが、それでも駄目だと言うように訴える大きな猫に根負けして、自分の家に持って帰る。ちゃんと片付けは自分でする事と、八つ当たり気味に言い猫のふりをする男の頭に、タオルを渡した。自分では拭けないとでも言うかのように、タオルを振り落とし涼に拭けと願ってるのか足元に置く。
「ちょっと、自分で拭きなさいよ」
「ニャー、ニャ、ニャ、ニャ」
「人間なら人間語話しな」
「ニャー」
猫語なんてわかるはずも無く、そのまま家の中をうろうろされても嫌な為、仕方なく拭いてあげる。本物の猫では無いので、ゴロゴロは言わないが気持ち良さそうに目を瞑っている。頭を拭けば、濡れてわからなかったが中々ハンサムな顔立ち。両親が引越しの時に置いていった男物の服一式を渡す。両親が男物を置いていった理由、涼が独り暮らしとして狙われないか心配だった。
洗濯物を見て女性の一人暮らしと気付き、変な男に狙われたら大変だと必ず、男の下着や服を一緒に干すよう毎月新しいのを送って来る。お陰で男物の服が増えてしまい、今では涼のパジャマ代わりになってるのもあった。
「ニャー」
嬉しそうに目の前で服を着替えようとする。上半身ぐらいなら涼も気にしないが、流石に下の方まで目の前でやるのは恥ずかしい。慌てて脱衣所まで連れて行き、そこで着替えさせる。
「はぁ・・・なんちゅう猫だ・・・って人間か」
完全に猫のふりをしてるせいで、涼の感覚までも可笑しくなり始めてきてしまい調子が狂う。落ち着くにも珈琲を淹れる事にし、大きな猫人間の分も作ってあげる。
「ニャ、ニャー」
「あんたも飲む?」
「ニャー」
猫のふりしてるわりに、臨機応変なのか珈琲を飲むようだ。涼はインスタント珈琲を渡し、自分はずずっと飲む。しかし猫人間の方は、猫だからと言いたいのか熱くて舌を火傷してしまったらしい。
「そこまで猫のふりねぇ」
「ニャー・・・ニャー」
「はいはい、今小さい氷あげるから」
口に入れてあげると、気持ち良さそうに舐める。涼も何気なく口に入れると、直ぐに溶けてしまったのか猫人間がもっと寄こせと訴える。
「ちょっと待って・・・」
氷を取ろうした時、猫のふりしている猫人間は涼の口に入ってる氷を奪うかのように口づけをして、氷を涼から取った。一瞬の事で何が起こったのかわからない涼、一つ一つ考えてやっと自分に何があったかわかると猫人間の髪を掴む。
「ニャッ!?ニャーニャー!」
「煩いこのド変態猫人間!あんたなんか、ハゲてしまえ」
「ニャー・・・シャッー!」
「何がシャーよ。威嚇してるつもり?しかも、氷を取る時に舌入れたでしょ!」
涼は猫人間の髪の毛を、本気で抜く気だ。
「ニャ、ニャニャ」
「だーかーらー、人間語話せ!」
「ニャニャ!」
ドンドン!
涼の動きがピタッと止まる。
「山城さん、あなた動物飼ってるわね?開けなさい」
「もう!あんたのせいなんだから」
「ニャー」
「いい?絶対に出て来ないでよ」
早く開けろと怒る大家に、涼は文句を言いながら開ける。
「山城さん!あなた、此処は動物飼っちゃいけないのよ」
「私、動物飼ってません」
「嘘つき、さっきから猫の鳴き声がするの聞こえてるのよ」
(雨が降ってる上あんたの家、三十メートル先で聞こえるわけ無いじゃん)
家の前に居たなと、ストーカーめと心の中で悪態をつき嘘は言っていないので冷静に対応する。
「ちょっと中、確認するわ」
「ちょ!飼ってませんし、勝手に入らないで」
「あら、慌てるって事はやっぱり」
通さない様に体を張るが、大家はお相撲さん並みの体格。力というより体重任せで押しつぶされ、中に入られる。その上、猫の声がするので大家は別の意味で大興奮。
「ほーら猫がいるじゃない」
「何処に?」
「何処にって此処に・・・」
大家の後ろから涼では無い声がして、大家は反射的に返答してしまう。だが、実際に猫はいないので大家はあれ?と、あちこち部屋中を探す。大家に話し掛けたのは、あの猫人間で大家に向かってノートパソコンを渡す。
「この動画と間違えたのですね」
「え、あ、その・・・ほほほっ、お邪魔したわ。あら、貴方良い男ね山城さん羨ましいわ!」
「・・・」
涼の呆れた顔に大家は慌てて退散そして、もう一つ涼は怒っていた。
猫人間が人間の言葉を話すからだ。いや、話せて当たり前の事なのだが先程までニャーニャーしか言わなかった。なのに、大家の前では平然と話す事にムカつく。
「あんた、話せるじゃない!」
「ニャー」
「何がニャーよ!いい加減にしなさいよ、あんたのせいで大家が部屋荒らしたじゃない」
猫がいると思って、あちこち探してる内に部屋を荒らした状態で帰って行った。挙句、涼の前では猫語しか話さない男に腹が立ってしょうがない。
「やっぱり出て行って」
「ニャー・・・」
「出ていけ、猫語しか喋らないあんたなんか嫌い」
「・・・ちゃんと話したら嫌いにならないでくれますか?」
「な、なによ」
急に人の言葉を話す男に、ちょっとだけ驚く。
「行く所がないんです。どうか、此処にいさせてください」
「友達の所にいけばいいじゃない」
「私には友人と呼べる者がいません。だから、どうかお願いします」
土下座で涼に懇願する男、これでは涼が悪者にみえてしまい居心地が悪かった。
別のお話を書いていたのですが、急遽変更。
そして、話が長くなりそうで月記念短編のはずが連載にさせて頂きます。
多分、二話三話辺りで終わるかと思いますが・・・
数日の間には完結します。