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神官は神に舞を捧げる  作者: 但馬ほずみ
ラウ神官編
72/77

6.6年目

最終話です。

 ラウでの神官生活も6年目が半分過ぎた頃、大神殿から一通の立派な書状が届いた。

 配達員から渡されたカサネは、手の中の封筒をじっくりと見る。表の流麗な宛書に裏の神官長のサインも見事だ。封蝋には大神殿の印がくっきり押されている。


 これは見たことがある。大神殿から、大事な通達が来るときの封筒だ。前回見た時は、兄が大神殿の神官になると言う知らせだった。

 今回の知らせは、父にかそれとも自分にか。カサネは、不安を覚えながら、書状を父にと手渡すのだった。


 父が封を開き、中を読む間、カサネは息をひそめていた。父は、読み終わるとカサネに振り返った。


「カサネ、辞令だ。神官学校の教師として呼ばれた。代わりにセナとササラさんが来る」


 思ってもいなかった辞令に、カサネは言葉が出ない。父は、辞令を黙ってカサネに渡すと、「母さんに知らせてくる」と部屋を出ていった。

 渡された辞令が手から滑り落ちて、カサリと音を立てた。


 また、兄の都合で私の運命が変わった…。


 カサネは衝撃から立ち直るのに、3日かかった。仕事だけは、なんとかこなしていたが、それ以外では口もきかない。3日目の夜に、時折涙を浮かべながらスオウ宛の分厚い手紙を書いて、ようやく自分の気持ちに折り合いをつけたのだった。


 スオウの返事は早かった。往復で10日かかるはずなのに、6日目の朝起きたら、机に手紙が置いてあった。こんなことに王族の力使っちゃってと思いながらも、カサネの頬はゆるむ。


「お兄さんが帰って来るからカサネが動かされたんじゃない。カサネが必用だから教師として呼ばれたんだ」というスオウの返事に、モヤモヤしたものがなくなって、カサネの心は久しぶりにスッキリしたのだった


 それからは、神官学校の教師となるために、準備し始めた。ラウの神官になるササラと、お互いに仕事を教えあう手紙をやり取りする。カルラやアカネにも教えを乞うた。奉納舞には自信があるが、はっきり言って座学にはない。学年首位のササラの後任になるには、準備が必用なのだ。


 スオウとハーンへの手紙で愚痴を吐き出すことで、カサネは忙しい日々を乗りきった。二人からは、色々あった見習い時代を乗りきったカサネだから大丈夫だよ、という他人事なんだか信頼されてるんだかわからない太鼓判を押され、カサネもちょっと気分が軽くなったのは内緒だ。


 これが最後かもといつもより感傷的に年末年始を過ごした。神官として生きていく限り、ラウに戻ってこれるとは、思えない。

 兄は、この地域の統括官として戻ってきた。大出世に両親も大喜びだ。ササラと夫婦で一緒に任命されたから、もう異動はない。

 カサネが戻って来る場所は無いのだ。


 等と、浸ってみたが、長くは続かない。やっぱり私に悲劇のヒロインは似合わないわ、とカサネは自分に笑った。泣きたいときは僕を呼んでとスオウが手紙に書いてきたけど、当分呼ぶことは無さそうだ。


 やがて、カサネが旅立つ日がやって来た。王都まで5日かかるので、新神官任命式の2日後に着く予定だ。

 定期馬車に荷物を積み込む。いつもの御者のおじさんは、カサネが教師になることに、感激していた。


「この若さで教師に選ばれるなんて、カサネちゃん、すごいねぇ」


「たまたまよ、おじさん」


「いやぁ、やっぱり琥珀の舞姫は違うよ」


「きゃあ、それ言わないで~、恥ずかしい」


「はは、それじゃ、そろそろ…」


「はい、お父さんお母さん、行ってきます!」


「あぁ、頑張ってな」


「体に気を付けるのよ」


「お父さんとお母さんもね!」


 ガタンと馬車が動き始める。カサネは両親に手を振った。

 神殿が見えなくなると、カサネはまっすぐ前を向く。


 カサネは未来に向かって進みだした。



Fin











カサネのラウの神官時代のお話は、これにて完結です。お付き合いいただきましてありがとうございました。

セナとササラのお話は、またいつか書きたいなと思っています。


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