1.1年目
お久しぶりです。カサネがラウの神官時代のお話です。中篇予定。
ガタガタと車体を揺らしながら、定期馬車は、ラウ神殿の前に停車した。
「着いた~!」
にぎやかに声を上げながら、一人の年若い女性神官が飛び出してきた。
「ほい、カサネちゃん、荷物。いや~、カサネちゃんも立派な神官だ。カサネ神官って呼ばなきゃなぁ」
御者のおじさんが、荷物を渡しながら、笑った。カサネも荷物を受け取りながら、よろしく~と笑う。
「カサネ、かばん忘れてるよ」
「あら、いけない。ありがとう、スオウ」
カサネの後から降りたスオウが、かばんを渡す。他の乗客は、町の停留所で降りたので、二人が最後の客だ。御者のおじさんは、二人を見て、にっこり笑う。
「陽光の神官と琥珀の舞姫がそろってるとこ見られるなんて、冥土のいい土産が出来たよ」
「やあねぇ、おじさん。冥土なんて、まだまだ先の話じゃない」
「まあな。さて、わしも帰るとするか」
「ありがと~、おじさん!」
カサネとスオウは、馬車を見送った。
カサネとスオウは無事に神官学校を卒業し、神官となった。カサネはラウの、スオウは日の隠れ里の神官になるので、途中まで一緒に行くこととなったのだが…。
なぜか、分かれるはずの町でスオウがカサネと同じ馬車に乗ってきたのだ。ビックリしてるカサネに、スオウは「トゥーリア様のおつかい」だと言う。最初から言ってくれればいいのにとごねるも、スオウは涼しい顔。
同乗者にほほえましく見られてるのに気付いて、口をつぐんだカサネだった。
今頃は町中に、陽光の神官と琥珀の舞姫の噂がまわってるだろうな~と思いながら、カサネはスオウと共に、ラウの神殿つまりは実家に足を踏み入れた。
「ただいま~!」
カサネの声に、奥からパタパタとカサネの母が迎えに出る。
「お帰りなさい、カサネ。スオウ君もいらっしゃい」
「あれ?スオウがいて驚かないの?」
「大神殿からお手紙いただいてたもの」
「え~、知らないの私だけじゃな~い」
「帰ってそうそう、なにむくれてるんだ」
「あ、お父さん。ただ今帰りました!」
「ああ、おかえり。よく来たね、スオウ君」
スオウと父が握手を交わしていると、カサネは母と荷物を置きに部屋へと行ってしまった。
「さて、スオウ君は女王陛下のお使いでしたね」
「はい」
こちらへと応接室に通され、腰掛けると、カサネの父が問うようにスオウを見る。スオウは、荷物から一通の手紙を取り出し、カサネの父に差し出した。
カサネの父は、黙って受け取るとその場で読みはじめた。読むにつれて、眉がひそめられていくのを、スオウは黙って見ているしかない。
手紙を読み終わると、カサネの父は大きなため息をついた。
「…この前、君とカサネの舞を見て覚悟はしてたんだけどねぇ。やっぱり女王陛下は、カサネを呼び戻すんだねぇ」
「はい、僕と一緒です」
「君の事は、セナの手紙で知ってるよ。で?他に言うことは?」
「あの、実は、両陛下にカサネと一緒に大神殿に呼び戻して欲しいとお願いしました。もっとも、その前に決まっていましたが」
スオウは、ごくりとつばを飲んだ。
「今はまだ、故郷の神殿の立ち上げでカサネに交際を申し込めません。カサネもラウの神官として動けません。でも、大神殿に戻ったら、カサネに求婚することをお許しいただけますか?」
カサネの父はじっとスオウを見つめている。スオウは、ひざの上の両手をぎゅっと握りこんだ。
「許すも許さないもなにも…。外堀埋め終わってるんじゃないの?」
「えっと、あの…」
思わぬ反応にうろたえるスオウにカサネの父が苦笑する。
「女王陛下から見合いを止められたよ。セナも町の友達に、監視を頼んでるみたいだね。ムシがつくことはないだろう。大神殿に戻ったら、がんばんなさい」
「あ、ありがとうございます!」
かくして、カサネの全く知らないうちに、スオウの長い戦いが始まったのであった。
翌日。神殿に人が詰めかけたので、舞を披露するはめになったカサネとスオウでした。




