ただ一たびの1
リュウ神官の若かりし頃のお話。シリアス寄りです。
前後編予定。
この世界には、3つの大陸がある。その一つアカトゥキ大陸の側に、ホマシという大きな島があった。火の神の寝所とされる火の山が島の3分の1を占め、そこから流れる川により、東西に二分されている。
その左右に分断された土地に、二つの国があった。武の国エルホと智の国ホオト。
息子達の争いが止まないので、火の神が火の山の川を作り島を二つに分けたのだという伝説がある。息子達がそれぞれ国を作った子孫が、今の二国だというのだ。
両国は干渉することなく、この世界の盟王でもある月王と神殿関係者によって、微妙な関係が保たれていた。
火の山は、島の北に位置し、片側を海に接している。その海側の中腹に島の神殿を統括する火の神殿があった。祭神はもちろん火の神ホーヌシ。
この神殿は、どちらの国にも属さない中立地帯で、両国の神官と月の国から派遣された神官とで運営されていた。
その神殿に珍しい12,3歳の少年の客がいた。
彼の名は、リュウ。月の都の豪商エドゥー商会の長男だ。今日は跡取りとして父の商談に一緒に着いてきたのだ。
担当の神官に挨拶した後、父は商談にはいってしまい、リュウは見学してくるようにと、部屋から出された。この神殿はエルホとホオトのことがあるので、いろいろと難しい決まりがあるのだった。
ぶらぶらと神殿の中を見てまわっていると、祭壇へと出た。先客がいるようなので、あわてて退出しようとすると、「誰?」といぶかしげに声をかけられた。
精霊だ、とリュウは一瞬思った。美しい少女だった。年のころは15くらい。淡い金髪に、青とも紫ともつかない不思議な瞳。飾り気の無い服は、上質なものだとリュウは商人の目で見て取る。
「あ、すみません。お邪魔でしたね」
少女がふっと緊張を解いた。
「いいえ、もう私はいいの」
少女が席を立ちリュウと代わろうとするのを、押しとどめた。
「あ、あの、祈りに来たんじゃなくて、神殿を見学してただけで…」
「…そうなの?じゃあ、私も一緒に見学していいかしら?」
少女は小首をかしげて、リュウに問いかける。
リュウが、コクコクトうなずくと、少女はうれしそうに歩き始めた。
少女はカズホという名だった。15歳だという。
リュウが「ぼくの2つ上だ」というと、「お姉さまと呼んでもいいわよ」と明るく笑う。
「リュウは海を越えてきたんでしょう?話をきかせて!」
カズホは、屋敷からほとんど出たことが無かったのだという。リュウの旅の話を、それは楽しそうに聞いている。本に書いてあることは、本当なんだとびっくりしたり、それは知らなかったと悔しがったり。
どこかの貴族の深窓の令嬢だろうと、リュウは思った。
「カズホは、巡礼に来たの?」
リュウが質問すると、カズホはちょっとさびしそうに答えた。
「…そんな感じ。この後、神官になるの」
「えっ、その年で神官なんだ。優秀なんだねぇ!」
月の国の神官しか知らないリュウは、カズホを尊敬の眼差しで見た。カズホは、ちょっとびっくりしたようだった。
「リュウの国とは、ちょっと仕組みが違うのかも…」
「ふ〜ん?」
そんな話をしているうちに、神殿の玄関へとやってきた。カズホはじっと外を見ている。
「…ねぇ、海を見てみたいわ」
「海? ああ、来るときに途中からみえたなぁ」
「連れて行って…」
そういったカズホの表情がすがるようだったので、リュウは思わず手を差し伸べていた。カズホはリュウの顔と手を見比べてから、そっとその手を重ねてきた。かすかに震えている。
「わたし、手をつないでもらったの初めてよ」
頬を染めるカズホにリュウも照れる。
「そ、そう。友達なら、あたりまえだよ。じゃ、行こうか」
「わたし…、リュウの友達?」
泣き出しそうな笑顔に、リュウはうなずくしか出来なかった。
海の見える崖までは無言だったが、つないだ手が離れることはなかった。
どのくらい二人で海を見ていたのだろう。広いね、とカズホがぽつりと言った。
「リュウの国に、行ってみたかったなぁ」
「これから、行けるよ」
「行けるかな…?」
「行けるよ。来たらさ、僕のとこにおいでよ!」
「…うん、行くね。リュウのところに」
カズホは胸に下げた、ペンダントをはずすと、リュウに渡した。
「これ、約束の印。今度会うときまで、預けるね」
細かな金細工に埋め込まれた宝石。明らかに由緒あるものだとわかる火の神のお守りに、リュウはあわてた。
「だ、だめだよ。こんな大切なもの…」
「いいの、リュウは私の友達でしょ?だから、預かって」
カズホは頑として引かなかった。
「…わかった。預かる」
カズホはにっこり笑うと、一歩さがった。
「お迎えが来ちゃったわ。行かなきゃ。今日は、ありがとう。…またね、リュウ」
そう言って、カズホは神殿へと消えていったのだった。




