19.聖家族
始祖王オグナ、琥珀の精霊タチバナートとその息子トウマを《聖家族》という。日の王家はこの3人を祖としているからだ。
王と女王が注文していた《聖家族》の絵が出来上がり、王家の礼拝堂に飾られた。これを記念して10日間一般に公開されることになった。
今日は、初日で、カサネとスオウは見習いを連れてきている。
城の中を礼拝堂まで歩いていくと、なぜか帰ってくる人達の視線がいつもより多く感じる。皆じ~っと観察していくのだ。何だろうと不思議に思いながら歩いていくと、ミサキとすれ違った。
「あら、良く描けてたわよ!」
「そうなの、エルトゥーリア様もお喜びね」
「…もしかして知らないの?」
「何を?」
「ふ~ん、なら見てのお楽しみよ!」
ミサキはウィンクして去っていった。
「変なの~。」
「なんだろう?」
カサネとスオウは首を傾げつつも、礼拝堂へとやってきた。
絵の前は人だかりである。ユーリ王子とエルトゥーリア女王が、カサネとスオウを見つけ、駆け寄ってきた。
「カサネ、スオウ、早く早く!」
「ユ、ユーリ王子!見習い達が…!?」
「皆もついてきなさい。」
女王に声を掛けられて、見習いたちは動揺しつつもついて行く。カサネとスオウはユーリに引っ張られて、絵の前まで来た。
「ほら、見て!」
ユーリに言われて見上げた絵には、聖家族が描かれていた。
金髪青い瞳のオグナ、金とも銀とも取れる髪色と琥珀の瞳のタチバナート、そして金髪緑の瞳のトウマが微笑んでいる。
でも、その顔は、どう見てもスオウとカサネとユーリだった。
呆然とする二人に、エルトゥーリア女王が声を掛ける。
「うふふ~、驚いた?二人に紹介する人がいるの。ハル!」
女王が呼ぶと、一人の老人がやってくる。
「ああ~、あの時のおじいさん!?」
「やあ、あの時はどうも!いい絵を描かせてもらいました。」
ハルは、カサネとスオウの手をとって、ぶんぶんと握手した。
「絵を描くとはおっしゃってましたが、まさかこの絵だとは…。」
スオウがため息をつく。
「スオウ、カサネ。じゃあ、やっぱりこの絵のモデルはあなた達とユーリなのね?」
エルトゥーリアの問いに、スオウとカサネは顔を見合わせてから、力なく認めた。
部屋中がわっと沸いた。
ユーリは鼻高々だ。ここにシュウがいたら、絶対喧嘩になる。いなくて良かったとカサネ心の中でほっとした。
女王は、ご機嫌で王とハルとで話していた。
見習い達は興奮気味に、絵に見入っている。頬を染めて話している女の子の見習いもいた。
そのほかの見物人達(ほとんど貴族)も、この事実に噂話の声が大きくなっていた。
「ミサキが言ってたのは、この事だったのね~。」
カサネはまだ人事のように、《聖家族》の絵を見上げた。
礼拝堂に掲げられた絵は、これから何十年も王家の人々を見守るのだろう。
ん、何十年?
カサネは、初めて、自分とスオウの姿が(多分逸話も)何十年も王家に伝えられるだろうことに気がついた。
ばっと顔を手で隠す。顔から火が出そうに恥ずかしい。
ああ、もう!普通の神官の人生はどこ行ったの?!
カサネが羞恥に悶絶していると、スオウがそっと引き寄せる。
「どうした?」
「皆に見られるのが恥ずかしい…。」
「舞い手の肖像画と同じだよ?」
「そうなんだけど…、そうなんだけど~。」
恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「婚約のいい思い出になるじゃない。」
エルトゥーリアの言葉にしぶしぶ肯くカサネであった。
その後。ハルから結婚祝いだと、カサネとスオウがモデルの《タチバナートの胸に抱かれるオグナ》が神殿に贈られて、大騒ぎになるのは別の話。




