16.月夜
次の休みに、カサネはシュウを連れてミサキを訪れた。もちろん、スオウ付きで。店の者を見送りに出たところを攫われたので、ミサキが非常に心配していたのだ。
「その子が、噂の隠し子ね?」
ミサキが、会うなりそう言った。
「いくつのときの子よ?あるわけないでしょ。」
カサネは、会う人会う人に言われて、いい加減説明に疲れてきていた。
「私とスオウが、保護したの。まあ、親代わりみたいな感じ?」
「そうなの。こんにちは、シュウ君。私はミサキよ。カサネとスオウと同級生だったの。」
「こんにちは。じゃあ、ミサキさんも神官?」
「昔はね。今はこの店の奥さん。4歳の子供もいるの。一緒に遊んでくれる?」
「うん!」
ミサキはシュウを子守に任せた。
「で?親代わりって神殿にひきとったの?」
「ううん、おじいちゃんを見つけてね。今はそこで暮らしてるの。何でか懐かれちゃって、良く遊びに来るのよ。」
「ふ~ん。しかし、良く似てるわねぇ。どう見ても親子だわ。」
「もう、やめてよ~。王と女王にもからかわれたわ。ユーリ王子はシュウに敵対心持っちゃうし。」
カサネはお茶を手にため息をつく。
「ああ、カサネとスオウはユーリ王子にも気に入られてたもんねぇ。あはは、親の取り合い?」
「人事だと思って~。」
カサネがブツブツ文句を言っていると、ミサキがまじめな顔になった。
「いい機会だから、スオウと結婚してあの子養子にしちゃえば?」
「な!?」
「竜に攫われたときの話、聞いたわよ。スオウ、あなたを離さなかったんだって?」
「そ、れは、保護者として…。」
「カサネがそう思いたがってるだけでしょ?聞いた限りじゃ、スオウの行動は保護者としてじゃないわね。」
「で、でも…、スオウは王のいとこで…。」
ミサキははぁと大きく息を吐いた。
「今更、そこ?この前も言ったでしょう。琥珀の舞姫と陽光の神官なんだから、気にすることないの。大体、二人は恋人認定されてるんだから。騎士団長もスオウならって認めたって言う話よ。」
「え、ええ?!」
自分の知らないところで、そんな話になっているなんてと、すっかり混乱してしまったカサネであった。
その夜。どうにも眠れないカサネは、思い切って起き出した。こっそり塔の上へと上る。
昔、カルラ先生が良くここにいたな…。
そんなことを思いながら、腰高の壁にもたれかかる。月明かりに城が浮かび上がっていた。
「きれい…。」
カイさんやスオウの言うとおり、カサネとスオウは、ずっと大神殿にいることになるのだろう。この先スオウが王のいとこにふさわしい女性と結婚しても、カサネはその側にいなくてはならないのだ。だから、スオウは同僚で保護者で充分なのに。
なのにミサキはその一線を越えさせようとする。琥珀の舞姫と呼ばれても私はただの神官なのに。
「なんだかわかんなくなっちゃった…。」
カサネは石壁に突っ伏した。考えすぎて血の上った頭に、石の冷たさが心地いい。
どのくらいそうしていたのだろう。
「カサネ?」
スオウの声に、あわてて振り返る。
「スオウ…。どうしてここへ…。」
「ミサキの店からちょっと様子がおかしかったからね。気にしてたら、ここに上る気配がした。」
「…そう。保護者だもんね。」
その現実に胸が痛む。スオウが横に並んだ。
「もうすぐ新年ね。」
「ああ、あっという間だったな。」
「うん、これからもこうやって毎年過ぎてくのかな。」
「ああ、カサネもぼくもずっと大神殿にいるだろうし。」
「長い付き合いになりそうだよねぇ。どっちかが死ぬまで一緒になりそう。」
わざと明るく言ってカサネがくすくす笑った。スオウもふっと笑った。
「そうだね。どうせ死ぬまでいっしょなんだから、ついでに結婚しない?」
カサネはスオウを見上げた。どう?というスオウの笑顔に、なんだか全部どうでもよくなってしまった。身分も保護者も何もかも。
「そうね~、それもいいかも。」
だからついそう言ってしまったのだ。決定、とスオウが満面の笑みを浮かべた。
「風邪引くよ?」
スオウがそう言って、自分の上着の中にカサネを抱き込む。
「…やっぱり、いつもこうやって口説いてたんでしょ?」
「カサネだけだよ。」
スオウはくすくす笑う。
「ばか…。」
「うん。」
二度目の馬鹿を言おうとしたら、おりてきたスオウの唇に封じられてしまった。
月明かりが、一つに重なった二人を優しくつつんでいた。




